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渡瀬さんのご逝去を悼んで

熱狂的なファンだったわけではないけれど、好きだったなあ、渡瀬さん。
あの声がいいんだ。
なんというか、まず顔の造作とぴったりっていうトーンで、
さらにシリアスな台詞の後でも、ふっと気が抜けるような冗談を言いそうな感じ。
お兄さん(渡哲也さん)とは違う「ふら」が恒彦さんにはあった。
そこが好きだった。

タクシードライバーとか十津川さんとか、彼の推理モノが好きだった。
別に熱心に見ていたわけではないけれど、CATVではよく彼のドラマが放送され、
チャンネル・サーフィングでたどり着くと、まずは数分間見てしまう。
筋がおもしろそうだとそのまま最後まで。

72歳・・・
そうなんだなあ。

ご冥福をお祈りします。



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蹉跌集め -49- [小説]

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光が多摩水道橋に近づいたとき、スマートフォンが鳴った。

「はい。」

「あ、もしもしぃ、藤熊です。」

「あ、藤熊さん。お世話になっております。」

「いいえ、こちらこそです。でね、光くん、いただいたデモね、いい出来だと
思ってます。」

「ありがとうございます!」

「これで僕の知り合いのディレクターたちに当たってみるけれど、一点だけ。」

「はい。」

「これがJAPPSの代表曲なのはもちろんだけれど、JAPPSのすべてを語ってる?」

「といいますと?」

「JAPPSって名前がなかなか過激でしょう?それがこのバラードで勝負っていうので
いいのかなっていうこと。バンド名はジャップスだけど、ギャップスを感じるんだ。」

「・・・。」

「だから、カップリングが欲しいんだよね、有体に言うと。」

「はい。考えてみます。」

「うん。もしみんなが急ぐんなら、早めに。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「は〜い、じゃあー」

「あ、藤熊さん!」

「うん?」

「悠奈のことなんですが。」

「うん、どうした。」

「狛江に引っ越しましたか?」

「ああ。どうだろうな、僕が言っていいのかどうか。」

「西河原公園でさっき見かけたんです。」

「あ、そう。話さなかったの?」

「・・・話せませんでした。」

「そっか。」

「実は、悠奈が好きになった男性が僕らの録音のときに来たんです。」

「え?なんでまたそんな。」

「僕らのブログで知ったらしくて。そしたら、彼も悠奈にフラれたって言うんです。」

「ありゃ。」

「今悠奈は誰に恋してるんでしょう。」

「ハハ、僕にだよ。」

「は?」

「冗談だよ。そんなの僕が分かるはずないじゃん。」

「そうですか。そうですね。」

「悠奈ちゃんてそんなに恋多き女性なの?」

「え?・・・まあ。」

「ほんとの恋をしたことがないんだな。」

「・・・。」

「まあ、僕はそういうことには立ち入らないので。」

「すいません。じゃあ、メンバーたちと話してみます。」

光は電話を切って、すぐに芳樹たちに電話をし、最後に幸嗣にかけた。

「幸嗣?藤熊さんがカップリング曲が欲しいって言うんだ。」

「そっか。任せてくれ。俺今新曲ができた。タイトルはできてる。
Scales of Desireだ。」

「欲望の尺度、あるいは天秤か?」

「いや、欲望の鱗さ。」

「ああ。」

幸嗣はトキの話をした。光は感心する。

「いい話だな。」

「だろ?いい歌詞を頼むぜ。テンポは150くらいのハードロック系だ。
データ送るよ、今日中に。みんなにも。」

「おお。で、幸嗣。」

「ん?」

「悠奈と今会ったよ。狛江の公園で。」

「・・・。」

「もちろん約束してとかじゃない。偶然だ。」

「・・・偶然の多い話だな。」

「一言も話さなかった。悠奈、狛江に住み始めたようだ。」

「え?」

「この時間、中野坂上からわざわざ狛江に来ないだろ。」

「だ、誰かと一緒か?」

「いや。一人だった。」

「・・・。」

「それほどまで木野先生や藤熊さん、MNEMOさんと一緒にいたいのかな。」

「でも、そりゃ恋愛とかではないわけで。」

「まあな。でも、突き抜けてる女だからな、悠奈。」

「ああ。」

「そうだ。ケンスキーがさっき、MNEMOさんから返事があって、ギグのジョイントの件、
前向きに考えてるって。」

「そうか。悠奈も出るかな。」

「お前もそう思った?」

「うん。3ピースのギグ。」

「悠奈が嫌がるだろ。」

「そっか。
・・・逆に嫌がられなかったら、なんか俺ら軽いよな。」

「・・・。」

光も幸嗣も黙ってしまった。


<つづく>



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蹉跌集め -48- [小説]

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光はJAPPSメンバーの誰よりも焦がれて藤熊からのデモについての感想を待っていた。
自分から藤熊に電話をかけることも考えたが、返事の期限があったわけではないので、
催促がましいことはしたくなかった。

散歩に出る。
境内の桜が満開の船島稲荷の方には行かず、川上へ、そして多摩水道橋を渡って狛江側へー
橋を渡りきって右へ曲がり、東京都側の多摩川べりを川下方向へ歩く。
自分がつい最近まで住んでいたところだ。

光はずっと自分の曲を聴いていた。
失恋による落胆、そして嫉妬ー
もちろんドス黒い部分もあるにはあるが、全体はリリカルな仕上げになっている。
そのリリカルなところを支える叙景性は、多摩川のほとりに住んでいるからこそ
育てられたものだ。光はそれをしみじみ思った。

河川敷のグラウンドへ下りて、少年野球の練習を少し見てから、
「やはり桜を見よう」と思う。川上へ数百メートル行くと、この近隣では最長の
桜並木が始まるのだ。

多くの人が花見をしている。
空は正に花曇りで、風が少しあって寒い。
1キロほど歩いて、土手道から狛江市の西河原公園へと下りていく。
この公園の桜も実に見事なのだ。

階段を下りきって左へ曲がり、桜が覆う道を行くと、右側の広場の方からギターの
音、それも聴き慣れた<あの>12弦ギターのシャリシャリした音が聞こえてきた。

「え?まさかー。」

広場へ行く径へと急いで戻って見渡すと、大きな桜の木の下で歌っている女がー
悠奈だった。

「なんで悠奈がここに?」

光は混乱する。
いろいろと推測はできた。誰か一緒にいるのか、藤熊か、MNEMOか・・・
それとも木野・・昼間に出るか?もしかして狛江に住みだした?

遠くから悠奈をしばらく見ていて、「同伴者」がいるかどうかを確かめようとした。
花見をする人々、子どもたちが、時折悠奈のそばに来ては演奏に聴き入ったりして
いるけれど、一緒にいる者はいないようだった。

光は迷う。
近づいて挨拶するべきか。

Forget it all
Forget it all
Everything I've ever said

Forget it all
Forget it all
Everything
and start again

自分の歌のサビが響く。
「君の許を去る」と現に歌っている自分なのだ。
Paul DavisのI Go Crazyの歌そのものじゃないか!

光はすぐにその歌を検索し、聴き出す。
チャートイン最長記録を持つこの80年代の名曲は、90年代生まれの光の心を打つ。
打ちすぎて、光は嗚咽してしまう。

そのとき3歳くらいの女の子が、5歳くらいのふざける兄らしい男の子に追われて
光のもとへ走ってくる。物怖じもせず、光の脚に絡みついて、兄から隠れようとする。
光は戸惑いながらイヤフォンを外す。

「キャ〜〜〜ッ!」

女の子は兄が近づくや凄まじい悲鳴を上げた。
広場にその絶叫は響き渡り、悠奈もその声の方向に視線を向けた。
悠奈が固まっている。
光がいることに明らかに気づいたようだ。

光はたまらなくなった。
女の子が光から離れて、桜並木の方へ走りだす。
独り立ち尽くす光は自分が丸裸になったような気分になった。

光は逃げ出した。

悠奈は光が階段を上りきって多摩水道橋の方へ走っていくのを見届ける。
ため息を吐いて、ギターをまた弾きだす。


<つづく>
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2017 弥生短信 2

テストづくり、飽きてしまいました。

*

イラストを2つこれまでに小説に添えておりますが、直しとか全然せず、
筆でパッと描いてそのまま。拙い絵なのは承知です。お許しを。

*

Yさんが昨日電話をくれて、私が月曜日に行くはずだった東京都心Kの天麩羅屋の
主人様が奇しくも會津出身で、それも「東會津」だと言っていたとかと仰せなので、
「會津には東西南北で、東だけないんです」と言って笑いましたが、なにしろ
私の全くの同郷である確率が33パーセントとなりました。

この方が、とある男性コーラスグループと昵懇とかで、Yさんが私のことをご主人に
大いに話し、渡りをつけようか、一緒に福島支援とかやったら、と盛り上がったとか。
因みにそのグループは全員音大卒(藝大含む)で身長180センチ以上というのが
条件で選抜された人たちとのこと。その主要メンバーがやはり福島出身だそう。
グループ名はあえて書きません。まだご縁があるかどうか分かりませんので。

そういう話もありがたかったけれど、そこで天麩羅を食していた私が担当する中1や
中2の子供たちと会いたかった!!

*

あー、気が重いけれど、back to work.



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蹉跌集め -47- [小説]

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3月も押し詰まった29日、幸嗣はトキの洋食屋にいた。

「トキちゃん、今日はちょっと話し相手になってもらえるかな。」

「まあ、コウさん、どうしたの、あらたまって。」

トキは幸嗣に向かい合って座る。

「俺、実は大失恋したんだ、最近。」

「あらッ!」

「そんでね、あまりのショックで・・・。」

「それ以上言わないでいいわよ、コウさん。」

トキはやさしく言って立ち上がり、冷蔵庫からビールを持ってくる。

「コウさん、これあたしからの快気祝い。」

「え?快気って、まだ・・・。」

「そんなことあたしに打ち明けてくれたんだから、快復よ。」

幸嗣はジーンと来る。
トキはコップにビールを注ぎながら、

「そういうこともあっての人生じゃない?」

と言った。

「あたしなんか何回叶わぬ恋をしたか分かんないのよ。恋っていうか憧れねッ。
でも分不相応だなって、いつも引いてしまうのよ。」

「でも、マスターと出会って、幸せな結婚生活してんでしょう。」

「妥協だよ!」

マスターが厨房から笑いながら叫んだ。
トキはウハハハハと笑って、遠いマスターにゲンコツを見せる。

「お互い、そう思ってんのよぉ。」

トキはビールを注ぎ足しながら言った。

「妥協ってマイナスな感じするでしょ。でも、知足っていうじゃない?
妥協と知足って同じじゃないにしても、とっても近いって思うのよ、この歳になると。」

「名言だな。」

幸嗣がポツリと言った。

「欲はね、これはもう人間には欠かせない。でも、歳をとるにつれて、欲の鱗が
剥がれていく感じなのよ、一枚一枚。その代わり、歯も、髪も、筋肉も、骨も一緒に
剥がれていくのねッ。これが嫌んなっちゃうんだけど、しかたないわね、
こればっかりは。」

「欲の鱗か。」

幸嗣は感心する。

「コウさんはまだ若いから欲の鱗で覆われてて、それはそれで自然でしょ。
その硬さに任せて何かにぶち当たっていくっていうのが青春よね。
でも、ぶち当たって剥がれる鱗もある。それも仕方がない。代償でしょ。
剥き出しになった繊細な部分の痛みが、何かを教えてくれるんじゃないの。」

「どうした、まるで哲学者だな、トキ。」

マスターがまた声を掛けた。

「・・・トキちゃん、やっぱトキちゃんと話してよかった。すげぇ良かった!」

幸嗣がたまらずという趣で叫ぶように言った。

トキは「アラッ、そーお?」という表情をしてから微笑んだ。

「ね、トキちゃん、欲の鱗っていうフレーズ、いただいていい?」

「気に入ったの、コウさん、ミュージシャンとして。」

「うんうん頷く、宇奈月温泉だよ!」

トキが大笑いする。厨房からもマスターの笑い声が聞こえた。


<つづく>




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でんでん懲りない人

首相:否だ大臣には引き続き職務に精励していただきたいと。

議員:これで罷免や更迭にならないとしたら、どんなことがその対象になるんです?

首相:あのね、Xさん。記憶違いで大臣馘にしていたらですね・・・ちょっとそちらの
   方々、ヤジはやめていただけますか、私はそうヤジを飛ばされるとですね、
   話ができなくなってしまうんですよ・・・で、いわゆるその、記憶違いですから、
   いわば、意図的な虚偽答弁ではないわけでありまして、そういう中においてですね、
   その上において、忘れてたなんてことで罷免などしていたらですね、一般の老人
   とかですね、みんな馘になってしまいますよ。(ヤジ)そうじゃないですか!
   ヤジはやめてください、委員長・・・。

一太委員長:ご静粛に願います。X君。

議員;驚くべき発言です。国民は絶句していますよ。
   では、首相、国からの特例的便宜ともいうべき大恩恵に預かった2つの学校法人の
   トップがいずれもあなたの友人だったり、熱烈支持者だったというのは偶然ですか。

首相:印象操作はやめてください!その言い方はまるで私がその恩恵を与えたかのよう
   ではありませんか。偶然ですよ、偶然。私が関与するはずがないではないですか。

議員:なんで「はずがない」んですか。そこを質疑しているんですよ。

首相:あのね、Xさん。証拠を出してください、そう言うなら。不愉快ですよ。まるで
   犯罪人扱いじゃないですか。責任とれますか、あなたが間違っていたら!

議員:首相こそ、それが便宜ではないという証拠を出すべきでしょう。

首相:ないものをないと証明するのは悪魔の証明と言って・・・ヤジはやめてください!

議員:裁判においてだって、状況証拠の積み重ねで有罪にできるんですよ。

首相:その発言は問題じゃないですか!なんですか、そ、そ、そういうことを言っていいん
   ですか、間違っていたらどう責任をとるんですか!

議員:そのときは、そんな発言をした記憶がないの一点張りですよ、もちろん。
   あるいは記憶違いでしたって。

首相:ふざけないでくださいよ、Xさん。そんな不正確な記憶力では国会議員辞職ですよ!

議員:あ!

一太ちゃん:あ!

首相:あ!
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否ダ氏、全テ否定〜self-defense大事

弁護士防衛大臣「否だ」さん:K氏とはここ十年来お会いしておりません。

野党議員: 氏は会っているって言ってますよ。

否だ: 会っておりません!弁護も一切やっておりません。

野党議員: えー、ここにお連れ合いと連名でのK氏裁判準備書面があります。

否だ: それは同じ法律事務所のことですから、名前だけ記載されることもあります。

野党議員: じゃあ、名前だけってこと。

否だ: 裁判に直接関わったことは一切ありません。K氏がそう言うなら虚偽です!

野党議員: えー、ここに大阪地裁の記録があって、あなた出廷してますね。

否だ: 夫が忙しくて代理で行ったかも。でも、一切K氏弁護とかしてません!

野党議員: お連れ合いの代理で出廷したら、代理でK氏弁護したってことでしょ。

否だ: それは代理弁護であって、純粋な弁護ではありません!

野党議員: それも弁護でしょうが、何を言ってんるんですか。共同受任したっていう
   書類書いといて、それで出たら立派なK氏代理人としての出廷でしょ。

否だ:大規模な武力衝突でも「戦闘」ではないように、夫の代理弁護は純粋弁護ではない!

山本一太委員長:はい、速記止めて!




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蹉跌集め -46- [小説]

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悠奈は「阿弖流為」での飲み会の後、たった一週間で多摩川べりに引っ越してきた。
父母は最初反対したが、プロのシンガーになる娘が「いい環境で創作したい」と
言う以上、認めざるを得なかった。

藤熊とMNEMOは歓迎会をすると言って再び「阿弖流為」に悠奈を呼んだ。

「マンションは玉泉寺とはこの道を挟んで逆方向、より多摩川に近い方なんです。」

悠奈は「阿弖流為」が面する商店街通りの道を指差して言った。

「ズバリどこかは訊かないよ。」

藤熊が笑って言った。

「川原だとね、本当に宿河原に対面するところが歌の練習とかにバッチリだよ。」

MNEMOが言った。

「僕は夜とかでも歌っちゃうけれど、悠奈さんはそうもいかないよね。でも昼間でも、
アコギ弾いて歌っている若者をたまに見るよ。」

「そうですか。あそこの正に対岸ですか。」

悠奈は少し不安げな表情で言った。

「大丈夫だよ、木野先生がちゃんと悠奈ちゃんにはついていらっしゃるから。」

MNEMOはきっぱり言った。

「そうですよね。」

悠奈はにっこり笑った。


「悠奈ちゃんね、ホムラーとの契約が終わったから、次はプロダクションだけど、
MUZIKっていうところに君を紹介したいと思ってるんだ。そこの薗畠社長に会いに
行きたいんだけど、いつがいい?」

「私はもういつでも。」

「薗畠社長はねー」

MNEMOが言った。

「僕も本当にお世話になったんだ。そうそう、悠奈ちゃんの大先輩さ、Wで。
世界志向でね、僕をニューヨークやロンドンに連れてってくださったし、僕が1995年に
再デビューして、そのアルバムのミックスとマスタリングもロンドンでやらせて
下さったんだ。ミックスはビートルズのプロデューサーGeorge Martin設立の
Airでやらせていただいたんだよ。」

「すばらしいですね!George Martin、私も好きです。The fifth Beatle。」

「おお、いい発音だなあ!・・・聴かせていただきました、Twelve Times a Year。」
苦しくなるぐらい切なくて、よかった。」

悠奈は黙礼した。

「よかったら、悠奈ちゃん、僕が仲間とやってるSUBTLYのギグ、一緒にやろう。」

「ええ、ぜひ!」

「僕ら8月に向けて反核・反戦・反原発の曲をYouTubeに上げるんだ。
その記念ライブをやろうと思ってね。」

「知ってます。私、ぜひジョイントさせていただきたいです!」

「ただね、悠奈ちゃんはまだアーティストとしてのディレクションが定まって
いないから、こんなもうmajorなんてどうでもいいアーティストと
一緒にやってカラーがついてしまうのはどうかっていうのもあるんだ。」

「そうなんだよ。」

藤熊が言った。

「まだちょっとカラーの強いギグとかに参加するのは早いかな。」

「でも私、反原発です。もちろん反核・反戦ですし。」

「うん、そりゃそれでいいんだけど、それをどう訴えていくかについてはstrategyが
いるっていうことさ。」

「だから、SUBTLYのギグもね、そういうズバリのタイトルは打たない。」

MNEMOが言った。

「悠奈ちゃんが出易いようにっていうのもあるけれど、花は秘してこそっていうのも
あったりするしね。もちろん、旗幟鮮明にするべき時はするけれど。」

「・・・分かりました。」

悠奈は得心したという声の響きで答えた。

「でね、藤熊さんー」

MNEMOが続けた。

「JAPPSの連中が一緒にやりませんかって。」

悠奈が顔を曇らせた。

「ああ、そうなんだ。彼らのデモ、聴いたよ。」

「そうですか。」

「いいんだよ、これが。光のヴォーカル、幸嗣のギターなんか鬼気迫って。」

「どんな楽曲なんですか?」

悠奈が恐る恐るというような感じで訊いた。

「タイトルがね、Forget It Allでね・・・ああ、聴く?俺ダウンロード
したんだ、スマホに。」

悠奈は体を強張らせた。それでも聴いてみたいという誘惑も強かった。

If you could read between the lines
You'd run back to me
But you dare not fall for me
Because you're such a fool (fool!)

大サビの、例の「fool」の連呼のところで、悠奈は「ギャッ」と言ってイヤフォンを
たまらず外した。

「聴かなきゃよかった!」

そう言って悠奈は慄いている。

MNEMOがすぐに代わって聴き出した。聴き終わってー

「ベタだな、こりゃ。悠奈さんへの、モロ悠奈さんへのメッセージだ。」

「聴かすんじゃなかったか?」

藤熊がすまなそうに言った。

「いいえ!」

悠奈がきっぱり言った。

「私が返歌するだけです。」

キリッとした目で悠奈は虚空を見つめていた。


<つづく>




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There's no time to waste

「視聴者はバカだから」ー

11.17のプロデューサー(だった)世古さんのブログにあった言葉で、
やはりプロデューサーの(TVの?)林秀彦の著作からの引用です。
この人はもう亡くなって久しく、私は冨士真奈美さんの夫で後別れた人というくらいの
ことは知っています。

詳しくは世古さんのブログで読んでいただくとして、
要するに日本人の総体的なliteracyの低下というのを世古さんは嘆いておられる。
そういう傾向はあるだろうなと私も思います。情感をつかむ力とか、行間を読める
読解力と想像力とかが昨今の日本でそう育つはずはないだろうという意味で。

私もここで「お手軽蔓延」と称して記事を2本書いたことがあります。
「分かりやすさ」、「とっつき易さ」が重視されるというのはその反面のさまざまな
意味の「literacy」を育てないことにつながるのです。

「分かりやすくて何が悪い」と言われたら、結構ですが、世の中そんなことばっかりで
成り立ってはいませんので、そのことだけは指摘しておいてよろしいですかー
と、まあ、そう私は言うしかない。

少し話がズレるのですが、私は<本当に>TVを見なくなりまして、
それはもう一言でいうと<ほとんどがお手軽な番組ばかりだから>です。
そんなのを見ている時間こそ貴重な人生の空費であり、たとえ30分でももう惜しくて
たまらない年齢に達してしまったということもあります。

ちょっとかわいい女、ちょっといい男、ちょっと間をつかむのがうまい男女などが
リアクションしたり、コメントしたりなどいうような形式の番組などを
例えば食堂で強制的に<聞かされ>たりすると、それだけで精神が掻き乱されるような
気分になって、早々に出て行くというようなことになります。

まあ、若い頃なら、同世代のかわいい子が出ているというようなことだけで私も
見ていたのかもしれません。しかし、もう無理です。

歳をとるというのは、つまりそういうことでもあるんだと思います。
時間の空費が我慢ならなくなっていくということです。
空費ではない時間の使い途とは、TVなら、入念な取材と編集をしたドキュメントや、
一流の楽団のコンサート映像くらいしか私には思い浮かびません。

<今こういうのが流行ってる>などと言われても、若い頃なら時流に遅れてはならじと
思ったであろうけれども、歳をとればそんなことは、自分の最終的な趣味の中のことで
ない限りは本当にどうでもいいのです。

TVは視聴者をバカと思って番組を作っているー
それが林さんの<内部告発>だったのでしょう。それは全部とは言わぬものの正しい
はずだと私も思います。

ポピュラー音楽界でも、CD購買層は若者(特にハイティーンを中心に)に極端に
偏向してしまっている事実から、出す楽曲もそこをターゲットにしないとどうにも
ならんとすでに90年代には言われたものです。私もそう言われた者の一人です。
そういう人々の嗜好性や音楽的literacyに合わせてしまう30歳半ばのミュージシャンは
哀れの一言です。それでもMick師や事務所のSS社長、SMEのSさんは極力その圧力
から私を守ってくださいました。

その頃は媒体にのるというのがすなわちミュージシャンの成功、ないしは成功の鍵
でした。今はその媒体が自分で自由に使える。もちろんどれほどの人に見聞きして
いただけるかは課題として残りますが、少なくとも全世界に向けて発信だけはできる。
その意味の大きさを、先日もMick師としみじみ語り合いました。

「HNFプロジェクト」ー
8月発表に向け大いに頑張りたいと思っています。
少なくとも、「空費」にはなりませんし。(笑)




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蹉跌集め -45- [小説]

45

十三はMNEMOのブログを読んでいてずっと考えていた。

「悠奈の目指すシンガーとしてのありように重なる文章が多いなあ。これは相当に彼女が
影響を受けそうだ。なにしろ悠奈の佐藤家は信夫佐藤の流れ、
信夫とは福島北部のこと、北東部もかすめる。すさまじい線量の放射能が降り注いだ
ところだ。MNEMOと一致して反原発の音楽活動をしそうだなあ。」

一方MNEMOは「阿弖流為」で、

「そうなんだ、悠奈さんのお家は信夫佐藤の流れなんだ!いやはや、それはそれはー」

と悠奈の話に感激していた・

「もちろん東北は、特に宮城と福島には佐藤姓がやたら多いし、信夫佐藤の流れを自認する
人も多いよ。まあ、なにしろ大元は藤原秀郷の流れってことだけれど。」

「わ、トーホグマン、ですね。」

「ありゃ、読んでくださってるの?そっか、恥ずかしいけど、うれしい。
じゃあもう読んだかもしれないけど、僕の父方の祖母は霊山町っていうところの
出身でね。今は伊達市となっていますけれど。まさに信夫佐藤の地域です。
ただし祖母の旧姓は橋本でしたが。

僕が小学生の時ってね、首相と云えば佐藤栄作さんだったのね。長期政権でね。
長州の政治家だって言うから、やっぱ佐藤姓って全国区なんだなあって思ったよ。
けどね、その栄作さん、佐藤家は信夫佐藤の末裔だって言ったのね。源義経の家臣のー」

「忠信ですか?」

「うわあ、すごいね、知ってた?」

「義経さんを逃がすため囮になった、狐忠信。私の先祖もそうなんですよ。」

「本当!?すごいなあ、それは。でね、安倍首相は長州出身であることをすごく
自慢に思ってるけど、おじいちゃんの岸信介さんは旧姓佐藤なんだよね。
佐藤栄作首相の兄だから。そして安倍さん。安倍家は安倍貞任の末裔だと、
自分で言ってる。奥州の安倍ですよ、ええ。『俘囚長』の家柄かもしれないんだ。
蝦夷の頭ですよ。だから昔僕は書いた。安倍さんは父方も母方もルーツは奥州
ですよ、もっと東北に目を向けてってね。」

「私の直接の先祖は、忠信の子義忠の六代裔(すえ)長信だそうです。この人は
伊達宗遠に攻められ花沢城を追われ、岩代国へ岩城氏を頼って逃げたのだそうです。」

「岩代国って僕の故郷ですよ。」

「そうですよね、會津を含む福島の西半分ですよね。そこから武蔵国まで南下した
長信の子がいたそうです。鈴木九郎さんを頼ったのでしょうか。」

「なるほど。室町中期くらいの話ですね。僕の母の父も佐藤姓なんです。
近衛兵でした。母はその父の軍服姿の写真を病床に臥す部屋に飾り、
ずっと眺めていました。相当に誇りだったんでしょうね。その佐藤家は、
やはり室町期に興っています。」

「すごい!」

「なんだよ〜、二人で<佐藤話>で盛り上がっちゃって!<甘い>感じだな〜。」

藤熊が嘴を入れる。

「僕だって藤の字が入ってるんだから、まぜてよ〜。」

「藤熊さんは蘆名氏ですからね。桓武平氏でしょ。」

MNEMOが笑って撥ねつける。

「決めつけんなよー。MNEMO説の信憑性は高いって俺も思うけど、家の口伝では、
京都の藤原なんだぞー。」

藤熊がそう言って、白州の水割りをグッと飲んだ。

「りゅうくん、お替りね。えっと、芋のお湯割りで!」

りゅうくんは「ハイ」と答えて、藤熊のためにRolling Stonesをかける。
Out Of Our Headsだ。藤熊は手と上半身だけで踊り出す。

「りゅうくん、最高!満足!Satisfactionだよ、イエイ!」

「藤熊さんは蘆名の一派だよ。」

MNEMOが悠奈に囁く。

「そうじゃなきゃ、僕との縁の説明がうまくいかない。」

悠奈が笑う。

「なんでも先祖の縁とかで説明する愚は知ってるよ。でもね、単純におもしろいじゃない。」

悠奈は頷く。

「藤熊さんはね、蘆名=佐原氏の分家なんだ。會津坂下に所領を持ち、そこの地名を
名乗ったんだ。金上氏も同じ。やっぱり伊達に、このときは政宗だけれど、
蘆名は滅ぼされるんだね。そのとき金上氏は狐戻城あるいは麒麟山城、あるいは
津川城という当時會津西端の城を追われる。関東へ逃げたのさ。そこしかないからね、
伊達の追っ手が来ないのは。日光・二荒山を経て上野・桐生の山へと逃げて、
そこで神社の神官となっていくんだな。」

「ブログで拝見したと思います、その説。」

悠奈が目を輝かして応える。

「そうなんだ。なんだか恥ずかしいなあ。まあ、自分で公開してんだし、
しかたないね、この恥ずかしさに耐えるのも。」

「それで結局藤熊さん、MNEMOさん、そして私のつながりが説明できるんですね。
みんな岩代と會津に縁を持つ。」

「そう。そして木野先生だね。木野先生&鈴木九郎さん。」

MNEMOはそう言って、藤熊の踊りを真似て腕による「自転車漕ぎ運動」をした。



十三はこうなったらMNEMOの「HNFプロジェクト」に自分も参加しようと思った。

「敵の懐に入って戦うんだ!」

十三は悠奈の関心がMNEMOに移っていることを確信していたのだ。

「ブログに書き込もう。趣旨賛成、自分の英米などの友人ネットワークや、
仏教関係の友だちのそれを駆使し、協力したいです、と。」

光も幸嗣も同じ頃同じくMNEMOのブログを読んでいた。そして二人も全く十三と
同じ論法で或ることを考えていたー JAPPSとSUBTLYのジョイントだ。

「タイバンやれば、必ず悠奈が来る!」

涙ぐましいことであった。


<つづく>



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♩忘れ易し ふーるーさーとー

ナントカ復興大臣がNHKのアベぴょん飲みトモ島田解説委員司会の「日曜討論」で、
福島原発避難者について、

「ふるさとを捨てるのは簡単だ」

と仰せになりたまふたと。

この<ヒト科の脳みそとハート実質ゼロ>暴言には文脈無視とかの逃げも何もない。
政治家がいかにアタマが悪いかはもう身に沁みて分かっているけれど
(自分のアタマはさておきますが)、「復興大臣」にしてこれだから、
もう深刻なんてレベルじゃない。政治的知性と感性はもう崩壊してます。

もうそろそろ気づいたら?
このナントカ復興大臣サマ<も>東大法学部卒でいらっしゃると。
「東大論法」とかという偽瞞論法のことが今言われているし、
官僚答弁の空恐ろしいほどの逃げ口上上手(?)に多くの国民が苛立ちを覚えているが、
こんな言語レベルが「日本一アタマのいい学生が集う文系学部」出身者のレベルなんて
恥ずかしくって言えないって。

ナントカ復興相にも「ふるさと」はあるだろう。
そこが福島北東部と同じ目に遭って「捨てるのは簡単」な土地になったらどうする?
「俺んとこはそんなことにはならんよ」と思っているから言えるんだ。
あなたは神様か。

保守政治家のくせに、美しい日本なんて言うくせに、
それこそ自分らが誇る歴史を生み出してきた<先達>が営々と守ってきた土地を
一瞬でダメにしてしまう原発を護持することのどこが保守だ?

まあ、どっかの田舎から出てきて、東京のど真ん中、皇居と面するところで活動して
いると、「ふるさとを捨てるのは簡単だ」って言いたくなんだろな。
I'm specialとかって思えるんだろうな。

ほんとうにクダラン精神だな。
精神ということばすら使いたくないな。

いったいどれくらいの同じご身分の人たちが分不相応だった事実に接してきたの?
肩書きより内実が一番大事な大臣サマ、国会議員サマなのに。
自分たちでその価値を貶めてきて、それでも肩書きの価値は落ちていないって?

断固抗議する。
みんなで抗議しよう!

「はい、共謀罪。逮捕!」



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存在の不思議を思うがゆえの人生をみなが生きる世

非常に眠いです。

さて、来週の今日、ある会合を持ちます。
楽しいものになることを今から、信じておりますが、祈っています。

今日は「蹉跌集め」の物語どおり、母の91回目の誕生日です。
さらに、やはり物語どおり師のお宅にお邪魔してしまいました。
HORIGUCHI Coffeeをいただき、しばし歓談しました。
「ソルト」ちゃんと師と悠奈ならぬ奥様と「4人」で多摩川べりを歩きました。
帰りは悠奈の転居先近くになるだろうところの花屋で母へ供えるチューリップを
買いました。

今しみじみ思います。

もうそろそろ、「自分たちの後の世」のことについて全力を尽くせるチャンスも
少なくなっていることを痛切に実感するべき頃合いです。

前世紀中に死ぬと言っていたKが今も元気でいます。
それでも、むろん今世紀中は確実です。

未来世代にとっては余計なお世話かもしれないことを私はやりたいし、
仲間たちもきっと一致して協力してくれると思います。
そのことを本当に感謝しますし、それこそ生まれ生きてきた甲斐だと思っています。

それは、夢想に過ぎなくても、他者のいのちを奪わぬ世界を目指すことです。
存在の不思議をみなが日々感じて、「それゆえに」と思って生きてゆける世界が
平和に続くことです。



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蹉跌集め -44- [小説]

44

「こうなったら、なあ、MNEMOちゃん、悠奈ちゃんをあのバールに連れて行こうよ。」

藤熊が言った。

「ああ、『阿弖流為』にですね。いいですね、悠奈さんがよければ。」

「『阿弖流為』ですか?あの蝦夷の英雄の。」

「いや、店の名前は実は違うんだけど、ほぼ同じでね。」

藤熊が楽しそうに解説する。

「僕もMNEMOっちゃんもSomoちゃんっていうアニメ監督ご推薦で数年前に
高橋克典の『火怨』を読んでさ、阿弖流為の活躍に血がたぎってねぇ。」

「高橋克典じゃなくて、高橋克彦ですね。」

悠奈が指摘した。

「あ、そっかー、言い間違えた。そっちだと只野仁かあ。」

三人は大笑いした。

「藤熊さん、驚きです、また。」

悠奈が言った。

「またあ?」

「ええ。高橋克彦さんは父の大学の同級なんです。」

「なにぃ〜〜〜。」

「岩手の人ですよね。」

MNEMOが言う。

「はい。裕福な開業医の息子だった高橋さんは、高校時代に従兄とヨーロッパを
放浪して、現状打破を試みたそうです。そこでビートルズに最初に会う日本人に
なるって決意し、いかに彼らが好きかを書いて友人に英訳してもらい、
実際にビートルズのファンクラブ事務局の人に読ませて、四人組の元へ連れて
行かれたそうです。ところが全く英語が理解できず、自分も名前しか言えず、
大落ち込みしたんだそうですよ。知る人ぞ知る逸話ですけど、父は大学時代、
直にそう聞いたそうです。」

「え、そうなんですか。」

MNEMOには初耳だった。

「そうなんだ。ますます高橋さんのこと好きになるな。彼も東北人だし、
Somoちゃんもルーツは秋田、団結して東北人魂の炎を立てたい!
『炎立つ』!」

悠奈も藤熊も笑った。

「総入れ歯・・・。」

藤熊が例のギャグを言った。

「『炎(ほむら)』と云えば、悠奈ちゃん、ホムラー・レコードがまずアーチスト
契約したいって言ってるんだ。担当がね、高田から音吏部(おとりぶ)ってぇ女の子に
変わるから、やりやすくなるとおもうよ。いい子だよ。」

「藤熊さん、じゃあ、阿弖流為に行って続きを話しましょう。」

「あ、そうだね。立ち話じゃいかんよね。はやなり、はやなりと。」

「なんすか?」

「橘氏。(橘逸勢・たちばなのはやなり)」

MNEMOも日本史をしっかり履修した悠奈もすぐにそのダジャレに気づいた。

「ぷ、お・もろえ!(橘諸兄・たちばなのもろえ)」

とMNEMOが返し、ダジャレにすっかり抵抗力がついた悠奈も、
笑いながら二人について行った。



「音吏部さんておもしろい名前ですね。」

悠奈が乾杯をしてから、開口一番に言った。

「そうなんだよ。高田が増長して、膨らんで、パンクしたでしょ。」

悠奈が苦笑する。

「音吏部はパンクしない。シュアな子でね。」

「名前がすごく音楽ディレクターっぽいですね。」

「音liveでもいいよね。」

MNEMOが言った。

「いい名前だなあ。下は?」

「それが、またすごいんだ、永って書いて、『とこしえ』ちゃんなの!音吏部って、
北海道の地名らしくって、そっから苗字にしたらしいよ。ほんとは<おとりべ>だって。
アイヌ語には<べ><べつ>って音多いよね。」

「それにしても小説の登場人物みたいな名前ですね!」

MNEMOが指摘する。

「筆者の純然たる恣意による命名ですよ。僕もやってますがね、もちろん。
音吏部だとおそらく『おたる・べっ』で分解できるんですが、<おたる>は例の小樽で、
それだけで小さな川や沢のことなんですよね、確か。<べつ>も川です。
川を重ねていうってのは、ちょっと考えにくいなあ。<Mt. Kitadake>とか、
<Mt. Yarigatake>って言うようなもんでしょう。でもまあ、あってもいいです
けれどね、本当の名前なんて言っても、人がつくったんだし。
『騎士団長殺し』の免色渉みたいに、ですね。」

「典型的な出来過ぎな名前の例としてですね?」

悠奈が一応訊く。

「ハハ。」

笑ってMNEMOは店自慢のハートランドの生を<啜った>。

「すいません、直接の大先輩です、村上氏。」

悠奈が梅酒割りを飲みつつ言う。

「そう。<めんしき>ある?」

「・・・。」

「この人もW大で、団塊の世代でしょう。」

「そうですね。」

「で、これまたビートルズ・ファン。」

MNEMOと悠奈がやりとりする。

「免色みたいに、ちょっと珍しいアイラ島のシングル・モルト、ちょうだい!」

ビートルズよりストーンズを愛する藤熊が話を遮り、阿弖流為のバーテンダー
「りゅうくん」に無体なことを言った。

「すいません。ここは一応焼き鳥BARで、そういうすごいウィスキーはないです。」

りゅうくんは律儀に応えた。

「冗談、冗談。」

「そのアイラ島の珍しいシングル・モルトって、きっとHalちゃんなら知ってますよね。」

MNEMOが言った。

「ああ、Mooさんちの猫。」

「違いますよぉ、私の相棒bassistですよぉ。実際彼は行ったんですからね、その島まで。」

「ああ、Halちゃん、ベーシストのね。はいはい。彼はプロ並みの知識だもんね。」

「でね、藤熊さん、Halちゃんと云えば、総入れ歯、Aちゃんが僕のブログに
コメントしてくれて、SUBTLYに協力してくれるっていうんですよ。」

「<えい>ちゃんが?そりゃ、すばらしいじゃないか、え、MNEMOちゃん!」

「ウス。」

「杵。ぜひに、ぜひに、やってくれよ。SUBTLY、上モノが必須だったんだし。」

「ええ。もうずっと僕はAちゃんの手を借りたいと思ってましたから。」

「いいねッ!そしてな、それを足がかりにー」

藤熊の話が続く。
悠奈は楽しく聴いていた。


<つづく>




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蹉跌集め -43- [小説]

43

藤熊とMNEMOがその方向に笑って視線を遣ると、品のいい老人ならぬ、
趣味のいい身形の若い女性がやって来るではないか!

「あ!悠奈ちゃん!」

藤熊が叫ぶ。

「え〜〜〜〜ッ!彼女がですか?!」

MNEMOが心底からの驚きの声を唱和させる。

「また出来過ぎの話の筋だあ!」

藤熊が半ば呆れて言う。

「僕は暗い中でしか会ってないから・・・。そうなんですか、彼女が悠奈さん。」

「キャ〜〜〜〜〜ッ!」

今度は悠奈が金切り声を上げて驚愕する。

「藤熊さん、そしてMNEMOさんですね!」

「悠奈ちゃん、なんとまあ、なんとまあ、どういう偶然!?」

藤熊が声を掛ける。

「あ!分かった、早速物件見に来たあ?」

「はい、そうなんです!藤熊さんがおっしゃった熊野山玉泉寺を見て、そこから
フラフラ歩き出して、土手の方だなあって思いながら小径に入って、
芳しい梅の香りと沈丁花の香りを辿って行ったら、『木野』っていう表札があってー
あたし、泣いちゃいました。」

藤熊もMNEMOも絶句する。

「木野先生のお家から土手へと思って階段を上ったら、藤熊さんとMNEMOさんが!」

悠奈が嗚咽し出す。

「悠奈ちゃん、泣かないでいいよ。」

藤熊がやさしく言う。

「そんな俺たちおじさん、いや、おじいさん二人の前で若い女性が泣いてる図は、
ちょっとヤバいからさ。」

悠奈は<天気雨のほほえみ>をパッと咲かせた。

「ごめんなさい、あんまり感激してしまったものですから。」

悠奈はポシェットからハンカチを出して、涙を拭った。

「MNEMOさん、明るいところでは初めましてですね。」

「あ、はい、そうですね!」

MNEMOは少し緊張した声で応えた。

「あの、物件探しって藤熊さんがおっしゃいましたがー」

「そうなんです。」

悠奈が美しい笑顔で言った。

「私にとってこの3月は、信じられないほどめまぐるしかったけれど、私の人生で
決定的な日々でした。その月の末に、こうしてさらに決定的な出会いが待っていました。
三月弥生って、私大好きなんです。『弥』の字は<いよいよ>って意味ですよね。
いよいよ生命の息吹が本格的になる月でしょう。私にとって、そのとおりでした。」

「そうだね。三月は実は僕の母が生まれた月でね。」

MNEMOが応えた。

「『弥』は<いよいよ>だし、また<あまねく>でもあるでしょう?
世が遍く生にあふれてくる月でもある。」

「『all-pervading』ですね。」

悠奈の応答にMNEMOは「さむぼろ」が出た。「さむぼろ」とは會津弁で「鳥肌」の
ことだ。MNEMOは思わず心中で「さむぼろ出る〜ッ!」と叫んでいたのだ。

「お母様は何日にお生まれになったのですか?」

悠奈が問うた。

「じ、12日です。」

今度は悠奈こそ両腕の毛穴がキュッと閉じるのを感じた。

「12日って。ほんとですか?」

「ええ。母フミは1926年、大正15年、そして12月25日から昭和元年である年の
三月十二日に生まれたんです。生きていれば、91歳でした。」

「お悔やみ申し上げます。」

「ありがとう。母は3年前に亡くなりました。」

「・・・私、今月の12日に歌が降りてきて、それで藤熊さんにシンガーとして
認めていただいたんです。」

「そうなんだよ。」

藤熊が感慨深げに言った。

「新宿南口の路上ライブで録ったのを聴かせてもらって。」

「ああ。藤熊さんがここでJAPPSのメンバーたちと遭遇されて後の。」

「うん。ケンスキー君が『トーホグマン』って言ったのを僕が偶々耳にしてね。」

MNEMOはその母の誕生日に降りてきたという悠奈の歌を無性に聴きたくなった。

「悠奈さん、藤熊さんからあなたの歌、聴かせていただいていいですか?」

「もちろんです!」

悠奈はまた泣きそうになっていた。

「MNEMOさん、MNEMOさんのPsychic Numbも、今月の12日の歌ですよね。」

「そうです。」

三人は重ね重ねながら互いの縁の深さを思い知り、さらなる衝撃を受けて、
しばらく沈黙した。


<つづく>





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蹉跌集め -42- [小説]

42

Psychic Numb

Just next to me sits a monster
I get so afraid I can't move an inch,
say a word or breathe like I always do

The monster does nothing for hours
He's just there beside meー no need for me to cringe
So I think it's time I did what I want to

I fall in love
I dream a dream
I play a lot
I'm about to carry out a scheme

It's then that heー
the monsterー
bares his fangs

CHORUS
Psychic Numb
So they say
Psychic Numb
Oh, what a day!

Was I to blame
for forgetting about him?
If I really was
He may tear you apart limb from limb
Next time


心理的麻痺

私のすぐ隣に怪物が座る
私は恐怖で一寸も動けない
一言も言えない、いつものようには息ができない

何時間も彼は何もしない
ただ私のそばにいるだけー 恐れて身を引いていることもない
だから私はもう自分がしたいことをする頃合いだと思う

私は恋をする
夢を見る
たくさん遊ぶ
計画を実行しようとする

そのとき彼がー
あの怪物が
牙を剥く

コーラス
心理的麻痺
人はそう言う
心理的麻痺
なんという日なの!

彼のことを忘れていたことが罪だったの?
本当にそういうことだったなら
彼はあなたをズタズタにするかも
次は



悠奈はMNEMOのブログを読んでいた。
スクロールして過去記事を見ていると、3月12日付けのブログ記事で上の歌詞に
出くわした。

「この歌もHNFプロジェクトでやります!」とある。それは何のことか。
悠奈は早速ブログ内検索をする。

「広島・長崎・福島プロジェクトか。」

MNEMOと彼のSUBTLYの仲間たちが8月に向けて、YouTube上で反核・反原発を、
唯一の核兵器被爆国であり、またチェルノブイリに並ぶ原発過酷事故も経験した国の
rockersとして、世界に問うのだそうだ。
悠奈は応援したい気持ちに駆られた。

彼女は「juno12strings」名でその記事にコメントする。

「応援します。何かできることがあったら教えてください。
私は宿河原でお会いしたあのfemale singerです。」

数時間後、MNEMOがそのコメントを確認する。

「ああ、確か悠奈ちゃんだな。藤熊さんが今彼女のデビューに向けて話を進めて
いらっしゃる。」

MNEMOは返信する。

「juno12stringsさん、コメントありがとうございます!
12 strings、いいなあ。正に12弦ギターのstrumが欲しい曲があるんですよ、実は。
12弦ギター、買いたいんだけど、高くてね。^^;)
いかがですか、まずはそのplayerとしてご協力いただくというのは。」

数時間後、悠奈がそれを見て返信する。

「ぜひやらせてください!Fさんにご相談の上、ご連絡いたします。」



十三と光、幸嗣、そして芳樹もケンスキーも周平も、その日のうちに二人の
やりとりを見る。みな色々な想いの嘆息を吐いてー。

さらに同じように嘆息をついてPsychic Numbの詞を眺めている男がいた。
Aだ。
AはMNEMOやSUBTLYのバンドメートHalとしばらく会っていなかった。
久しぶりにMNEMOのブログを読んでいて、その詞に出くわしたのだ。

「MNEMOっちゃんはもうこの詞にメロディーをつけちゃってるかな。」

Aはその詞に脚韻がまさに徹頭<徹尾>踏まれているのを見て、
明らかにメロがついていると思った。
それでも、「HNFプロジェクト」に自分も関わりたいという思いは強く、
メールもいいとは思ったが、この記事へのコメントとして協力表明をしようと思うのだ。

「MNEMOちゃん、どうもです。久しぶりだね。プロジェクトの趣旨、
そしてこのPsychic Numbという歌(詩歌としての)に強く共感しました。
僕にできることがあればどうか協力させてください。12弦ギターはないけれど。笑」

Aはそう書いた。


しばらくしてMNEMOがそのコメントを確認し、在宅か否かに構わず藤熊に会いに
出て行くー 會津の蕎麦がどっさり入った袋をぶら下げて。
猪駒通りと呼ばれる<狛江市の>幹線道路を使わず、いつものように多摩川の土手道を
使ってー。

途中藤熊に電話する。
藤熊は少し疲れていて家で寝ていたと言う。

「もしよろしければお会いできますか、ちょっとだけ。」

「おー、いいよ。でもちょっと飲みたい気分ではないんだ。」

「ええ、ええ。全然構いません。いい感じの春の夕暮れになりそうですから、
土手散歩しながらで。長くお話することはないですし。ソルトちゃんのお散歩がてらで。」

「あー、そうだね。じゃあ、連れてくか。」

「ではいつものように土手道を川上へ向かってください。僕はもうそっちへ向かってます。」

「はいよー。」

MNEMOは木野の家の近くを経て、自動車教習所の脇に差し掛かるー
ずっと「マイ・ブーム」である芥川也寸志の「交響三章」の第2、3章を聴きながら。
S社から切り替えた格安スマートフォンは、3GBが基本で、余裕を持って聴ける。
その余裕が全体的な心の余裕を象徴しているように思えて愉快だった。

まもなく細身の男性が、ちっちゃな犬をつないで歩いてくるのが遠くに見えた。
MNEMOはすぐにお辞儀をした。藤熊は手を挙げる。

「すいません、お呼び出ししちゃって。」

「いいえ、いいえ。元気だった?」

「おかげさまで、順調に老化しています。」

藤熊が笑う。

「先日田舎の叔母がー と言っても叔父の連れ合いで血縁はないんですがー
その叔母が亡くなりまして。」

「ああ、ブログで読んだよ。御愁傷様。」

「ありがとうございます。ちょうど3.11だったんですよ、告別式が。」

「そうだよね。震災と原発事故の6周年の日にまさに福島の會津にいたわけだ。」

「はい。いろいろと考えました、改めて。」

「うん。読んだよ、翌日に英詞を載せてたね。もう曲もついてんの?」

「それなんですよ、藤熊さん。
なんだかあの宿河原で偶々出会ったあの若者たちが俄然僕のブログ読み出している
ようで、先日はケンスキー君からコメントもらって、アドレス交換もしたんです。
彼に拠れば、なんかいろいろあって、そのいろいろに僕が相当絡んでいるんだそうです。
よくは知りませんが。なんだかそのJAPPSのメンバー以外にも誰かが絡んできて、
その男性が僕を狂言回しだって言ったそうで。」

「狂言回し?あらら。」

「僕はむしろ悠奈ちゃんだと思うんですけれどね。」

「ハハ!そうだね、彼女こそ中心って思うよ、うん。」

「で、なにしろその悠奈ちゃんが、SUBTLYの録音に協力したいって。」

「そうなんだ!今ね、彼女との契約を進めてるとこなんだけど、まあ、今はまだ
フリーなんで、いいんじゃないか。」

「そうですか。しかしまあ、僕があの対岸の宿河原で偶然JAPPSの連中に会ってから
なんだかいろいろあったみたいですね。」

「うん。MNEMOちゃんの台詞にも多いけど、
『なんだか』、つまりsomehowが多いよな。
それでね、木野先生も絡んでいらっしゃるんだよ。」

「木野先生が・・・。少しはケンスキー君から聞いてはいますがー」

藤熊がこれまでの顛末を話す。

「へー、そうだったんですか。それは凄まじいなあ。」

MNEMOが鳥肌が立つのを感じつつ反応した。

「ケンスキー君が彼なり教えてはくれてましたが、そこまでのことが起こって
いたんですね。じゃあ、Grand Designerはむしろ木野先生ですよ。」

「そうかもな。」

藤熊が言うと、ソルトが木野の家の方に向かってキャンキャンと吠えた。

「お、おいでかも。」

藤熊が言って、MNEMOと一緒に笑った。


<つづく>




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3.11、福島で迎えます

あれから6年。

奇しくも私は福島で3.11という日を迎えます。

ズタズタになった福島県北東部の現状をTVなどで見ても(見ないのか?)、
自分のところではそんなことは起きないと思える人の気が知れない。
「アンダーコントロール」などと嘯く政治家の気が知れない。


あらためて福島の人々に罪はこれっぽちもないと思います。
官製「神話」を信じた罪?
最先端技術を持ち、手抜きない仕事をする日本人の原子力技術は世界一
安心と言われ、日本での過酷事故の前例がなかった頃に神話を信じても、
どうにも仕方がないではないか。

問題は3.11後に、それでも安心だ、目先の経済優先だと再稼動を言い、
賛成し、実行した<あなた>ですよ。

歴史や前例がどうでもいいのなら、その歴史・前例に巻き込まれた人々を
冒瀆しているのだと自覚してくださいねー あなたがどんなエライ人かは
知りませんが。


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言っておきますが(笑)

いくら小説が自己満足の世界とは云え、MNEMOの自己陶酔とかで書いては
いませんので、どうぞ誤解のなきように。


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蹉跌集め -41- [小説]

41

悠奈は次のトーホグマンの言葉にまた衝撃を受ける。

「たとえば核力とは何か、陽子と中性子を原子核にとどめておく、引きつけ合わせて
いる力は何かとなれば、もう還元主義ではお手上げとなってしまう。
大事なものは目に見えない、なのです。

そこに神を見る、でいいのです。けれども、自分たちの理解が及ぶところまでは
人間知性の勝利を言い、及ばないところでは神秘を言うのはおかしい。

どちらにしても、存在の不思議に人間はいつもwonderを感じていなければ。

有神論者も無神論者も、だれであれ、なぜなくてもいい宇宙があり、物質があり、
生命があるか、意識=こころとは何かー
その答えようがない、言語化できないことを私たちはとどのつまり歌うしかない、
踊るしかないのです!(前にも同じことを言ったけれど!)」

悠奈はたまらず踊り出す。
たまらず歌い出す。

バランスを失って、壁に頭をぶつけながらも、また立ち上がって踊り出すー
ラララーと歌いながら。

ひとしきりの舞踏と歌唱の後、悠奈はたまらなくなってきた。

「狛江に行こう、狛江に住もう!」

MNEMOさんも藤熊さんも、木野先生も、みんな狛江の人よ、と思った。
狛江の、あの多摩川の岸辺には何かがあるに違いないと結論せざるを得ないと。
いや、もちろんもう知っている。
新宿から20分足らずで着いてしまう都会でありながら、あそこは「田舎」だ。
特に夜の和泉多摩川の土手などはもう本当に田舎だ。
広い広い空。
富士も美しく見える。
鳥や昆虫たちの歌も当たり前のように楽しめる。
そしてMNEMOが言った「雑木の静謐とその内部の冥(くら)さ」がある。

MNEMOさんは會津、藤熊さんは上州、木野先生は「木の国」の人ー
みんな<東京の田舎多摩川>でしか生きられないのだ、と悟った。
もちろん多摩のもっと奥深くなどは本当の田舎だけれど、三人は都会とのつながりを
同時に持っていなければならないのだ。そこに見出すバランスが三人を捉えて
離さないのだ、と。


悠奈はすぐに手を打つ。
もともと今住んでいるマンションは父の持ち物なのだ。
卒業し、ホムラーと契約し、プロダクションも決まる今、独立して暮らそう、と。
バイトをして稼いだ蓄えもそれなりにある。
狛江のワンルームならきっとなんとかなる。

物件を検索していて、さらにさらにたまらなくなってくる。
悠奈は藤熊に電話をしてしまう。

「おー、悠奈ちゃん、どうもですぅ。お元気ですか?」

「すみません、お時間ありますか?」

「うん、大丈夫だよぉ。」

「和泉多摩川周辺の、できれば川縁に近いところに住みたいんです。」

「ええ?そりゃまた突然だね。」

「どこかいいところはありますかね。」

「う〜ん、不動産屋さんじゃないと分からんけど・・・。
悠奈ちゃん、<総入れ歯>12が好きだったよね。」

「・・・。それ、『そういえば』のダジャレですか。ハハハハハハ!」

悠奈は素直におかしくて笑った。

「なんか悠奈ちゃん、明るくなったね・・・。」

藤熊が悠奈の変化を察知した。

「12丁目はないから、何丁目かの12とかは?ハハ。
木野先生とまた会いたくなった?そのチャンスが増えるからね、こっちに住めば。」

「はい。それから藤熊さんやMNEMOさんの第二の故郷でもありますものね!」

「え?ああ、そうだけれど。僕らなんかは別に・・・。」

「藤熊さんも狛江、大好きなんですよね?」

「うん。かれこれもう二十数年住んでるから、間違いなくここが故郷より、どこより長く
住んでるね。」

「そちらに熊野様はありますか?」

「ああ。ちょっと待って・・・。あ、熊野神社はないけれど、玉泉寺っていうのが在るよ。
寺号が熊野山観音院だ。熊野様、お稲荷様、お諏訪様を寺の境内で祀っているね。
新編武蔵風土記稿っていう文化・文政期に編まれた歴史書にも載っているから、
それなり古い寺院だよ。天台宗だね。本家紀州の熊野様ともちろん同じで神仏混淆だ。」

「いいですね!ウチも天台宗です。」

「そう。じゃあ、ここに一番近い12番地は、と。お、東和泉3丁目12、ハハ、
僕とMNEMOがよく飲みに行くバールんとこだ。」

「繁華街なんですか?」

「いや、繁華街なんて和泉多摩川にはないよ。」

「わかりました。なにしろ熊野様が和泉多摩川にもいらっしゃるって聞いて安心しました。」

「そう。引越し、手伝おうか?」

「とんでもないです。」

「遠慮しないでいいよ。MNEMOも駆り出そうか。」

「あ。MNEMOさんとお会いしたいです。お礼を言いたいので。」

「・・・そう。」

「引越しの手伝いに来ていただくとかじゃなくて、多摩川ベリnewcomerの歓迎会をして
ください。」

「お、いいね。そうしよう、その熊野様近くのバールで。」

「はい!」

「でね、悠奈ちゃん。プロダクション、いいところ見つけるからね。期待してて。」

「ありがとうございます!」

悠奈は電話を切って、またラララーと歌って踊り出した。


<つづく>





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蹉跌集め -40-

40

悠奈はそのときMNEMOのブログを読んでいた。
膨大な量の書き物で、圧倒されつつ。
検索ワードを入れて読むようにした。例えば「神」とか「原発」とかだ。

惹かれることばがあったー all-pervading。
「pervade」とは「通り抜ける、通り抜けてくる」という意味だ。
まるでニュートリノのことのようだが、これが「神の偏在」を意味する。

MNEMOの記事に「寄物陳思」というタイトルの一文があった。

http://mnemosyneoforion.blog.so-net.ne.jp/2012-06-24

道の辺のいつ柴原のいつもいつも人の許さむ言をし待たむ
(萬葉集 巻11-2770)

という和歌を引き、それが、国語学者大野晋の手酷く失恋した友人が死に場所を求めて
北海道を旅している間に彼に宛てたハガキに書かれていた、というのだ。
その和歌にMNEMOは強く強く共感する。

<繁茂する雑木との対置なら、許しをいつもいつも乞う気持ちもなんだか
明朗なニュアンスを帯びるようだけれど、
私はむしろ雑木の静謐とその内部の冥(くら)さを感じたいし、
その恒常性と許しを乞う気持ちの常なることの一致を観る。
そして道の辺の景とそういうふうに対峙する詠み人にとって、
許しを乞う対象がどこからも「*pervadere(ラテン語で<通り抜ける>)」
してくる心持ちが表現されていると思えて、共感する。>

悠奈はMNEMOのこの雑木の静謐の見方にそれこそ深く共感するのだ。
悠奈は雑木ではなく、新宿中央公園や熊野神社の木立にpervedereするものを
感じてきた。幼少の頃からだ。

「自分は大野晋さんの友人のような恋ができるだろうか。」

悠奈は自問した。
もちろん死に場所を求めるようなことになる手酷い失恋をしたいとは思わないが、
それほどにある人間を愛せるというのは僥倖というべきだと思った。
そして、幸嗣が自分をそれほどに愛してくれたことを再び真剣に考えた。

幸嗣にとって自分がall-pervadingになった、また今もそうである可能性は高い。
しかし一体どれほどに幸嗣は自分を理解してそうなったというのだろう、と思った。
もちろん恋は直接的には理解の問題とかではない。
もっと下世話なところでの話だったりもする。すぐれてsensualなことでもある。
一目惚れなどという現象は、理解などからは最も遠いことだ。
自分にとっての見てくれの良さに基づくのがおそらくほぼ大半だろう。
しかし、それを超えてしまっている一目惚れもありうる。
それが「縁」ということなのか。

さらに『トーホグマン』にこんな1話があった。

http://mnemosyneoforion.blog.so-net.ne.jp/2016-03-11

まずその前の1話で、東北を「白河以北一山百文」と蔑んだ西日本人中心の明治新政府の
人々が、盛岡南部藩家老家出身の原敬を憤らせる。けれども原はそのことを逆手に
取って、「一山」と号する。薩長などに逆らった奥羽越列藩同盟の東北や新潟の諸藩
出身者として苦労しながら、長州の重鎮山県有朋などの信頼を得つつ、
初の「平民宰相」となった彼。しかし、彼のルーツは近江の浅井家と同じであって、
巡り巡って先祖が盛岡藩士になった。もっと遡れば、浅井も原も九州久留米にルーツが
あるのだ。つまり原は歴とした東北人ではないのだ。久留米藩はむろん新政府軍に
名を連ねた。

また、同じ1話でこの物語でも大野晋のことをとりあげていて、80年代週刊文春で
「珍説」として小馬鹿にされた彼の「日本語タミル語起源説」が、後の、彼が亡くなって
からの遺伝子による系統解析の結果から有力な支持を得るという話をトーホグマンが
するのだ。

悠奈は、上でのことを承けての次の1話でトーホグマンが言うことに衝撃を受け、
そして目を大きく見開かされるのだ。

「この話で知るべき大事なことはふたつ」と言った後、トーホグマンはこう続ける。

「蔑み、差別とは無明であること。もうひとつは、逆に<同じ>と見ること、
人間なら人間、イヌならイヌ、ネコならネコと、こうした普通名詞、英語ならa/an
不定冠詞やまた無冠詞複数もある名詞はつまり頭の中で<同じ>として抽象化される
けれど、もちろんその人間も、イヌも、ネコも一人ひとり、一匹一匹、同じ個体など
ひとつとしてないということを認識すること。みな実は或るつながりにおいて
theやmyなどのdeterminer、つまり決定詞がつく特定の個体なのだ、ということ。

『3.11の震災や原発事故からの犠牲者や避難民』の一人ひとりにそのかけがえのない
人生があったし、ある、ということ。十把一絡げにはまったくできない、ということ。」

「そうよ、そうなのよ!」

悠奈は政権が飯舘村の避難指示を解除したというニュースを最近見ていた。
村民の個々の事情をひとつも見ず、ただ全体だけを見て「帰っていい」と言う。
しかも除染は徹底されておらず、年間1mSv以内の被曝を他の地域の人々には
基準としつつ、避難指示解除地域の人々には20mSvとして、それでは帰れない
という人々の声を無視するのだ。そして県は住宅支援を3月で打ち切る、と。

それでいて時代錯誤甚だしいことを言う<おともだち>にはただ同然で国有地を譲り、
補助金を出す。

悠奈は怒りつつ、そのページの続きを読む。


<つづく>




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2017 弥生短信

明日未明に出ないと會津の田舎につけないので、
Y先生が今日の授業を順延するよう取り計らってくださいました。
実はそのY先生、生徒たちを連れてTDLメインの旅を今日からされるのです。
これはY先生の塾の恒例行事で、今回は総勢30人以上を引率されるとか。
私もちょっとの間でも生徒さんたちと会いたかったのですが、
叔母のことがあって無理になってしまいました。
ゆえに、こっちが必ず安曇野へ行くのでその機会に、と申し上げました。

*

さきほどまで某通信大手のテクニカルサポートの方が来てくださり、
いよいよ私のスマートフォンが契約会社ごと変わりました。
当面私へのメールはSMSでお願いします。

*

このサポーターのM氏、とてもおもしろい人で、切り替え作業が1時間半もかかったのに
その間ずっと話していました。

曰く、函館出身なので「こっちのイカは食えない」、「おじさんが漁師で、
自分も高校までイカ釣りの手伝いをした」、「九十九里の大網白里市に家を持っているが、
奥さんのお父さんが要介護で、横浜のT区に今は住んでいる」、「奥さんは五所川原の
出身で、自分は元々ルーツが津軽、自分の親戚の間では津軽弁と南部弁が行き交うが、
自分は所詮ネイティヴじゃないので、結局どっちも外国語、同じように聞こえるけれども、
奥さんは両者が全然違うという」、などなど。

*

A君と連絡をとって、今度会うことにしました。
きっとすばらしい話ができると信じています。


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蹉跌集め -39- [小説]

39

JAPPSのメンバーたちはキョトンとした。

「なんで?」

芳樹が訊いた。

「俺たち、そいつのパペットじゃないか。」

「そんなことはないよ。」

ケンスキーが反論する。

「MNEMOさんに会ったのは、光んところへ行ったとき、偶然彼が通りがかったって
いうようなことであって。そんときさらに偶然にオレが彼の小説の題名を口にして、
奇遇だねってなったんすよ。こいつね、光って。で、そのとき恋の鞘当てをしてて、
傷ついていたのがこの幸嗣。悠奈と三人で徒然草の宿河原のぼろぼろとその師匠に
憑かれちゃった。そのぼろぼろのこと、MNEMOさんは昔っから意識していたみたいでね。

そんでそのMNEMOさんは、木野先生の著作を二十数年来愛読していて、
2008年だかに偶然木野先生と宿河原の対岸の狛江で出会うんですよ。
そこを偶々通りがかったのがMNEMOさんの師匠の藤熊っていう人で、
なんとMNEMOさんは仏教の師匠と音楽の師匠に一挙に会する。その邂逅をもたらした
人物が、MNEMOさんの1985年デビュー時の歌に惚れ込んでくれたファンの方の
お知り合いで、なんとMNEMOさんをその場へ引き出したばかりか、木野先生が
よろけて土手から落ちそうになったところを助け上げたってんだから驚きだ。
それでMNEMOさんはそのお知り合いの腕に抱かれたご老人が木野先生であることに
気付くんすから。それは1986年、MNEMOさんに、死んで宇宙の深遠さを
教えてくれた猫のチロが埋葬されたところのすぐ近くの土手だったんすよねぇ。
ま、ぼろぼろが決闘した川原の対岸て言ってもいいんだけど。

で、後年、つい最近のことですけど、悠奈は光の狛江のアパートにいて、
深夜に外の空気を吸いに出たー そして木野先生にお会いするんですよ。
で、その翌日幸嗣がナニして大変なことになって、さっきの宿河原でのMNEMOさんとの
出会いがあって、そんで、木野先生の御霊にまた会えないかってみんなで対岸の
狛江へ移動して、会えないねなんて言ってて、またそんときオレがトーホグマンって
いうMNEMOさんの小説の題名を口にしたら、藤熊さんが声をかけてきた。でー」

「だからお前、気づかないか。」

十三が冷ややかな声で言う。

「へ?何を?」

「だから、MNEMOっていう人間中心で動いてるだろ、お前ら、悠奈、俺。」

「MNEMOさんが狂言回し?宿河原でほんの5分ほど会っただけだ!」

光が語気を荒げて言った。

「時間の多寡で縁なんて決まらないよ。この髪の長い男の子が長広舌して教えて
くれたそのなんとかマンっていう小説の伝で言うと、MNEMOってヤツ、
縁結びの神様の子孫じゃねぇか?出雲のこととか、大国主、タケミナカタのこと、
諏訪のこと、書いてないか?」

十三が微苦笑して言った。

「書いてます!」

ケンスキーが今度はびっくりして答えた。

「旧弥生人のオオクニヌシ率いる出雲の民が、新弥生人のアマテラス一族に国譲りして
葦原中国を追われ、各地に分散していく。オオクニヌシの次男タケミナカタ率いる
その主流は諏訪へ行き、そこの土着の民、つまり縄文系の山の民と融合していく。
衝突もあったろうけれど、縄文の神もちゃんと保存しながらタケミナカタとその子孫たち、
そして縄文系の人々は共に諏訪に上社、下社という形で弥生・縄文の融合文化を
創っていったー。」

「そんなこと言ってんのか、そのMNEMOって。」

十三が驚いて言った。

「あんたさー、MNEMOって呼び捨てしたり、ヤツとかって呼んだり、
ちょっと不遜過ぎるぜ。もう還暦近い御大なんだからな。」

芳樹が怒って言った。
十三はバツ悪そうに首の後ろに手を回し、二三度撫でるようにして、

「すまん」

と言った。

「俺もそのMNEMOさんにお会いしないといけない気がしてきた。
少なくとも、そのトーホグマンを読まないといけないみたいだな。」

「検索なんかお手のもんでしょ。今日のレコーディングも、俺たちのHPのブログ
から知ったんだよね。それ教えたの悠奈でしょ?」

ケンスキーが言った。

「ああ。」

十三があっさり認めた。

「まさか悠奈があなたに復讐してこいなんてつもりで俺たちのことを教えたはずは
ないからー 悠奈も、衝突して、融和してこいっていうつもりなんだろうな。」

光がポツリと言った。

すると、コントロール・ルームから秋の夜のしじまを感じさせる、
なにか光が明滅するような、あるいは秋そのものの鼓動のような演奏が聞こえてくる。

「なんだ?スピーカー、直ったのか。」

「シーッ!MNEMOさんの1985年EUROY在籍時の歌だよ。椙山くんがかけたんだ。」

十三もずっと耳を傾けている。

...I have to fight
And I really fear
Tomorrow I'll be on my way

I'll be alone
Singing this song

If I were to sacrifice my life to God
I would tell Him that I'm really glad

'Cause I know
I know for sure
He and I have got the same design

So I'll always be a happy dreamer
No matter what it costs

・・・僕、戦わないといけなくてね
それは怖いよ
明日はその戦いの旅路にいるのさ

独り
この歌を歌って

たとえ神様に僕の命を捧げることになっても
僕は喜んでって言うよ
だって僕は確かに知ってるんだ
神様と僕のこの世への思いは同じだって

だから僕はいつでも幸せな夢を見るんだ
そのことの代価がなんであっても

十三も光も、幸嗣も芳樹も周平も、みんなMNEMOと話したくなった。


<つづく>




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蹉跌集め -38- [小説]

38

JAPPSはレコーディングの日を迎えた。

Forget It Allは失恋の歌、光と幸嗣の思い入れの強さに比例して、
芳樹たちの他のメンバーの1音1音にも魂が込められていく。

用賀のスタジオのエンジニア椙山(すぎやま)が驚きの声を上げる。

「いやあ、JAPPS、今回すごいっすね。なんか憑かれたかのような
パフォーマンスっすね。」

「なんだか生き霊そのもののspiritだよね。」

芳樹が噛みしめるように応えた。

光の唄入れが始まった。
コントロール・ルームで他のメンバーはまさに固唾を呑んでモニターを見る。
ヴォーカル入れのブースが映し出されているのだ。

ケンスキーのリリカル無比のイントロが始まる。
芳樹のフレットレスベースが高音域から低音域へと流れ落ちるような切ない
フレーズを絡める。

よく見ると光は涙を拭っている。

「大丈夫か。」

周平が言う。
幸嗣がそれを見て貰い泣きをする。

「せつねぇ!」

I know what it means
To be torn at the seams
Because of me
So I'm leaving you
Oh, baby, I'm sad

光が嗚咽をこらえて歌い出す。

「ギリギリだ。この哀感表現、その感情そのまんまだ。でもこらえている。
歌としての、泣き以上の技藝的コントロールがギリギリとられている。」

芳樹が冷静に判断する。

「グッときますね。」

椙山が言う。

Verse 1の最終小節2拍目から周平のドラムス・フィルインが入って、
いよいよJAPPSの全員の音が協和する。

「王道的広がり、いいっすね!」

椙山がフェイダーを微調整しながら呟くように言った。

大サビに来た。

「君が行間を読めていたなら
僕のところへ跳んで戻ってくるのに
なのに君は僕と恋に落ちようとしない
君がバカ、バカだからさ!」

ー 事件が起きた。

大サビ最終ライン、「君がバカ、バカだからさ!=Because you're such a
fool, fool!」の「fool」の連呼のところで、原因不明のノイズが凄まじい音量で
入り、スピーカー・コーンを破ってしまった。

「ウガ〜〜〜〜〜ッ!」

コントロール・ルームのメンバーたち、椙山、そしてもちろんヘッドフォンをしている
ヴォーカル録りブースの光も悶絶した。

全員の耳がキーンとなっている中、幸嗣が、

「これは器材上のエラーじゃない。俺ははっきり感じた。
ここには怨念がおんねん。」

「馬鹿野郎!」

芳樹が怒りの声を上げた。

「そんな百万年前から言われてるダジャレ言ってる場合か!」

「光、大丈夫か、耳!」

周平がトークバックする。
モニターを見ると、光が踊っている・・・。
いや、踊っているのではない、何かと格闘しているように見える。

「光!どうしたんだ!」

「生き霊だ、生き霊が!」

光もスプーキー(spooky)なことを言う。

「まあ、おかしくはないわな。」

ケンスキーが冷然と言った。

「ぼろぼろにも取り憑かれたんだしな、光も、幸嗣も・・・そして悠奈も。」

「ま、悠奈は木野老人にすんでのところで救われたけれどな。」

周平が言った。

「そんなこと言ってないで、光を救わなきゃ!」

そう言って幸嗣がコントロール・ルームのドアをバーンと開け放つと、
ドアが何かに当たって、強い反動が幸嗣を押しと止めた。

「イテ〜〜〜〜ッ!」

「あ、すんません!」

「すんませんじゃないよ、もう!」

見れば中年の男で、身形はよく、いかにも知的そうな面構えだった。

「ご用ですか?」

椙山が声を掛けた。

「いや、別に。」

その男は素っ気なく答えた。

「ちょっとどんなスタジオか覗いてただけ。」

「すいません、今日レコーディングで受付がいなくて。」

「いや、いいんだよ。うん。じゃ、また来るから。」

左肘を痛そうにしながらその男はスタジオを出ようとするー
その瞬間だった。

「あなた、悠奈の新しいボーイフレンドでしょ?」

光がブースから出ていて、声を掛けた。

「え?」

「分かるんだ、俺。あなたでしょ、きっと木野先生つながりの人だよね。」

男は黙ってしまう。

「俺ね、見えたんだ。さっき目をつぶって唄ってたら、坂が見えた。
小日向の切支丹坂だった。なんで知ってるかって?俺、両親に連れられて、
殉教者にまつわるところはほとんど行ったんだ。俺んちはね、有馬っていう姓で、
筋金入りのクリスチャンなんだよ。

俺、東大農学部に行ってた友だちがいて、そいつがいまだにあの辺住んでてね、
半年前くらいにも茗荷谷で飲んだんだ。両親との思い出の地だから、切支丹坂も
行ったばっかりさ。」

男は生唾を呑みこむ。

「何日か前、この歌リハーサルしてた時も、なぜか切支丹坂が脳裏に浮かんでね。
きっとなんかあると思って、念入れて唄ったよ。きっとね、俺の九州の先祖が
どういうわけだか俺のこの歌に反応してくれているって思ったのさ。

俺はこの幸嗣っていう男と悠奈を巡っていろいろあったんだ。それを乗り越えて、
悠奈の歌を一緒に唄ったんだ。

『行間を読めたら 君は跳んで戻ってくるのに』って歌詞がある。
おそらくそれ、あんたにとってドッキリする歌詞だよね。きっとあんたは悠奈に
手紙かなんか送って、その行間を読まれちゃったんじゃないの?
スノッブのくせに頭いいところを見せようとして、ペダンチックで嫌味な、
それでいて欲丸出しの文、書かなかった?」

男はたまらなくなった。

「お前、生き霊だな、ほんとに。驚いたよ。切支丹坂の怨霊の先祖さんと、そうか、
つながったのか、あんとき。
・・・俺は、そう、悠奈ちゃんと木野先生つながりで運命的邂逅をした。」

「ち。」

光が舌打ちした。

「お前らの怨念のせいで、アホなメールを送っちまった。俺が普段絶対書かないような
ひどい文だった。・・・そういえば、なんでこんな呪いを?」

「悠奈は知的な男が好きだからな。」

光が不敵な笑みをたたえて言った。

「でもさ、知的な男って、十中八九衒学的だろ。思い浮かぶだろ。
ああ、俺も含めてさ。例外にしないよ。悠奈はでも、ペダンチックな男にもまだまだ
ひっかかっちまう幼さがある。まだ22歳だしな。しかたがない。

あんたはもう四十過ぎてる?まあ、だったら相当知的なところも年季入っては
いるだろうけど、でもまあ、浅はかな欲が勝っちまったんじゃないの?
そういうことに行間読んで気づけよ、悠奈ー
って、まあそんな感じで歌ったんだ、俺。」

「お前なー」

十三がいよいよ本気で反論する。

「知ったような口を利くな、こら。お前らの横槍がなかったら、こんなことには
なってなかったんだぞ。俺と悠奈はいろんな縁で結びついているんだよ。」

「鈴木九郎っすか?」

ケンスキーが言った。

「え?」

「俺、MNEMOさんていう、悠奈も会ったことのある先輩ミュージシャンの荒唐無稽な
小説にハマってんですよね。それで、この手の因縁話のパターンてつかめてきて。
木野先生つながりって言いましたよね。じゃ、きっと木野先生の在家仏教会の関連じゃ?
そんで、確か木野先生は中野の学校で学長とかやってらしたから、あなた、そこに
勤めているとか。で、悠奈んちは中野坂上だし、バッタリ会っちゃった?
それも鈴木九郎ゆかりのお寺の前とか近くとかで。」

十三は口をアングリ開けてしまう。

「で、いろんな縁てさっき言いましたよね。そうすっと、木野先生と鈴木九郎さんが
繋がるとすれば・・・う〜ん、紀州ですか?そうだとすると、あなたも紀州に縁が
あって、鈴木姓だったり、あるいはMNEMOさんの小説で言えば、藤白鈴木氏の
一派の亀井さんだったり?で、悠奈は佐藤だから・・・そうそう、きっと義経さんも
絡むんだろうな。MNEMOさんの縁繋ぎの典型的パターンだ。」

十三は畏れ入ってしまった。
ヘナヘナと受付横のベンチに腰掛け、しばらく項垂れていた。

「おい、お前らー」

十三は徐にJAPPSのメンバーたちに向き合った。

「一番ヤバいのは、そのMNEMOっていうヤツだな。」


<つづく>




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<途中で>筆者は語る

あの・・・

わかってます。
小説、「蹉跌集め」、展開がほとんどビョーキですよね。
シリアスさがそれなりにあったのに、十三をそのまま悠奈の恋人にしてしまうのが
嫌になって、光と幸嗣の生き霊の祟りで狂わせてやろうと思ったのが運の尽き。

でもこんな素っ頓狂な展開の小説もないでしょう。

それが価値だと自分では思うしかありません。

またシリアスなところももちろん出てきます。
おフザケとのバランス、ストーリーとしての抑揚が全体的に落ち着けば、と思います。
まあ、失敗作であっても別にだれも傷つきません。
情けなく思うのは私だけですから。

あ、ただ、楽しみにしてくださっていた数少ない方々、
そして富山弁指導の労をとってくださったMooさん、浩美さんには
大変申し訳ないことだと思っています。

でも、浩美さんがいみじくも、「トキちゃんが好き」と言ってくださった。
トキちゃんのあたたかさ、ふつうさ、自然な滑稽さを物語全体に広げたかったって
いうのはあるんです。

私の造形したキャラクターを名を挙げて好きになってくださった浩美さんのお言葉が
とてもうれしかったのです。

へんてこ極まる話になっていますけれど、どうか、もう少しお付き合いを。


なお、田舎の叔母(父の弟の妻)が亡くなりました。
90歳に近いはずで、しかたのない別れです。
土曜日の告別式に列席します。
父、兄、母の葬儀では本当にお世話になった叔母でした。
92歳になる叔父もさぞかし力を落としていると思います。
励ましたい、そう思っています。






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蹉跌集め -37- [小説]

37

悠奈が暢子と文雄で楽しく食事をしている。
スマートフォンが震えた。
悠奈が発信者を見る。
・・グッタリする。

「どうしたの、悠奈。」

「無視、無視。」

悠奈はそう言って、これも暢子特製近江の瀬田蜆ごはんを食べ続ける。

「母さんのシジミごはん、郷愁ってやつね、その味わいにシジミするわ。」

「しみじみでしょ。何くだらないシャレを言ってるの。」

暢子が我が娘らしくない<情けなさ>に少し戸惑った。

「シジミごはん、味付けはアッサリ。I'm ハマグリ〜。うまくて目がクラムー。」

「ちょっと、悠奈!」

暢子も文雄もいよいよ深刻そうに娘の奇態を見つめ出す。
スマートフォンの振動音がまだ聞こえている。

「相当しつこいから、緊急じゃないの?」

「メーデー、メーデー、メーデーたーや、卒業アンドmajor debut。」

いたたまれなくなって、暢子がスマートフォンを取って応答する。

「は、はい。どちらさま。」

「悠奈ちゃん、龜井です。返歌を送った龜井です。今お話してカメへんか。」

「は?」

「変なメール送っちゃったの、生き霊のせいなんだ。生き魑魅(すだま)、魑魅魍魎、
チミは知っていたざんすか。シェーッ!」

暢子はあまりの気持ちの悪さに電話を切った。
悠奈がカッと目を見開いて、

「何、何、今何があった?」

と暢子に訊く。

「龜井っていう人が、もうほとんど、いや完全にイッちゃってることをペラペラとー。」

なんという展開だ。

悠奈は俄然こんなことに終止符を打ちたくなった。
スマートフォンを手に取り、元自分の部屋へと階段を上る。
ドアを閉め、すぐに龜井に電話する。

「あ、悠奈ちゃん、うれしいよ。掛けて来てくれて。
そのままウチまで駆けてこい。」

「龜井さん、あなた、どういう了見?」

「ワンワン、僕はイングリッシュ・セッター。」

「私が食べてたシジミの産地は近江の瀬田。ち、ちがうでしょ!」

「ゆ、悠奈ちゃん、ぼ、僕、ダジャレ病に罹らされたんだ、生き霊に・・・。
ア〜〜〜〜〜ッ!」

「どうしたんです、龜井さん!」

「・・・思い当たる人はいない?ウウ〜〜〜〜ッ!」

龜井はダジャレ病の発作に激しく抗う。

「生き霊って間違いないんですか?」

「間違いないッ。二人だよ、二人。最近<フったり>した?アアア〜〜〜〜ッ!」

「負けるな!」

「ハア、ハア・・・。3度のハモりで、foolって僕に悪罵を投げつけた。
切支丹坂で聞いたんだ、そのときからおかしくなった。空耳じゃない、ハモりで
ございます。流浪の番組・・・。ウウウ〜〜〜〜ッ!」

「光君と幸嗣さんだわ!」

「だ、だれ、それ?」

「JAPPSってバンドのメンバーよ。ホームページ持ってるわ。」

「JAPPSね。ひかり・こうじね。NTT東日本。」

「関係ないわよ。」

「光通信で僕に電波を・・・。許せん。」

「ダジャレ病が治ったら、また考えるわ。」

「治す、治すよ。あのメールの僕は僕じゃない。パク・クネはボクじゃない。」

「ほんと、治る?」

「治らいでか。さすらい刑事、捜査開始。ウオ〜〜〜〜ッ!」

電話が切れた。


<つづく>




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蹉跌集め -36- [小説]

36

悠奈が十二社の実家にヘトヘトになって帰って来る。

「どうしたの、そんな目に隈をつくって!」

暢子が、居間に入るなりソファーにへたり込んだ娘の顔を見て言った。

「話し合いがそんなに不調だったの?」

「デビューは確実よ。」

悠奈が力なく答えた。

「ちっともうれしそうじゃないじゃない。」

「先のことが思いやられるからよ。」

「まあ、それはそうね。デビューは門出に過ぎないものね。
お祝いの支度してあるから、ダイニングの方に来て。」

「大丈夫かい、悠奈。」

父親の文雄も顔を出した。

「なんだ、調子悪そうだな。」

なんとか悠奈が立って、三人はダイニング・ルームへ移動する。

「お腹減ってないんだよね。」

悠奈がご馳走を前に虚ろな声で言った。

「食べられるだけ食べて、じゃあ。」

暢子が言う。

三人で乾杯ー
まず悠奈は暢子特製の味噌汁を啜った。「特製」というのは、暢子は豆腐を短冊切りに
するからだ。暢子の実家藤原家の仕来りであって、悠奈はその豆腐の形状による食感が
いちばん豆腐を美味しくさせると信じている。

「久しぶり。おいしい。」

暢子は満足げだ。

「それを皮切りに、ね、できるだけ食べて。ごはん、よそおうか。おいしい福島米。」

「福島?・・・さすがね、母さん。」

悠奈は感心した。

「だって、ばかばかしいじゃない?検査済みでなんら他のところの米と違わないのに。
6年前の放射性物質の拡散だって、なにも福島の県境でその物質が越境してはならない
なんて思うはずもないんだから。福島のだとよろしくないんなら、茨城、宮城、栃木、
千葉とかの米だってそうでしょう?実際はもっと拡散していたんだしね。」

「福島のどこの米?」

「『JAいいで』っていうところのお米でね。産地は、えーと、耶麻郡西会津。」

「ちょっと待って!」

悠奈はスマートフォンをすかさず操って、MNEMOのブログ・トップページから
「耶麻郡西会津」で検索をかけ、『トーホグマン』の一話からそこがMNEMOの故郷で
あることを三十秒かからず調べ出した。

「すごい!MNEMOさんのふるさとのお米なんだ、これ!」

「だれ、ねもさんて。」

「まあ、大先輩ミュージシャンってとこかな。」

「・・・。」

「うん、おいしい。」

「2010年にな、原発事故の1年前な、会津の米が新潟の魚沼についでうまさ2位だって
あのセンテンス・スプリングがランク付けしてたんだよ。」

文雄が言った。

「お父さん、その『センテンス・スプリング』とかって、ダサいから言わないで。
父さんらしくないよ。週刊文春でいいよ。」

「・・・すまん。」

「で、皮肉にもその次の年、原発事故で福島の農業は崩壊するのね。」

「隣県新潟は、再稼働させないでがんばってるな。」

「うん。」

「鹿児島は挫けたけど。まるで禁門の変の後みたいだ。」

「うん。おもしろい。そういうのがお父さんよ!」

悠奈はうれしくなった。
文雄は学部は違うが悠奈の先輩で、複数の茶の小売店を経営している。歌舞伎町も
含めた新宿西部で手広く顧客を持っているのだった。悠奈が紅茶を好むので、
文雄は「British Teas」というコーナーを各店舗に設けて販売もするようになった。
悠奈は愛しい娘だし、頼りになるアドヴァイザーでもある。

「静岡も6年前、放射性物質が降ってきて、騒ぎになったなあ。大変だった、
ウチもね。静岡の仕入先が出荷できないってなってさ。」

「あたしね、反原発の歌、歌いたいって思ってるの。」

そう言って悠奈が母の漬けた近江の白菜重ねを食べた。

「うん、母さんのお漬物はやっぱり真似できないわ。大葉がすごく効いてる!」

「おばあちゃん秘伝だからね。」

「豆腐の短冊切りもね。」

「で、悠奈、そんなメッセージソング、いきなりやっていいの?」

「あからさまに反原発っていう歌詞ではやらないよ。艶は秘してこそ、でしょう。」

「花じゃないの・・・。反原発のメッセージが艶?」

「會津のお米のこととか、近江の白菜のこととかを例えば歌うでしょ。」

「うん。なんかお腹空きそうな歌ね。」

「例えばよ。そうすると、原発はあってはならないっていうメッセージが
秘匿されるのよ。」

「あらま、大きな飛躍ね。」

「それは詩の作り方次第なの。」

文雄が笑い出す。佐藤家はいつもこうだ。
悠奈は随分と気分が軽くなっていた。




十三は寝室で横になっていたが、はっとあることに気づき、上半身を起こした。
自分はキリシタンに恨まれる覚えは一切ない。名前だけだ。
名前だけで祟られてたまるか、と。

悠奈の歌を遮ったあの大音量の2声コーラスは怨霊のしわざだと。
そう思って、またシャレを言っている自分に気づき、落ち込んだ。
祟りは「ダシャレ病」に罹ることなのか。
それに罹患している限り、きっと悠奈は自分に近づかなくなるー
そう思えた。

死霊か生き霊か。
十三は後者であろうと推量した。悠奈のことだ、彼女の心を射止めんとするライバルが
複数いてもなんら不思議はないと。

「源氏物語か!」

十三は苦々しく吐き捨てた。
吐き捨ててシーツを見ると、薄紫色だった。

「紫敷布。」

そう口にしていた。無意識だった。

「重篤だ、重症だ、十三重病!」

シャレとは言えないまでも頭韻(alliteration)でまた言葉遊びをしている。

悠奈言う
ダジャレ言うなと
悠奈言う

なんで君は遠いんだ
次のこの句は脚韻だ
どうせ僕は客員だ
正規にしてはくれないんだ

「ああ!最後は字余りになった、クソッ!」

十三は次々言葉遊びの句が次々浮かび、収拾がつかない。
生き霊の凄まじい怨念を思い知った。
どうしたら祓えるのだろうか。

「そうだ、悠奈に心当たりを訊くしかない!
供えの花は菊しかない!」

十三は泣きながら意を決して電話をかけた。


<つづく>




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なるほど?

X: あなたの属する宗教団体、治安維持法下で弾圧されたのに、なぜ共謀罪支持?
Y: そりゃあんた、ウチはこれからもずっと永劫、久遠に体制側にいるんだから。

*

あきれた夫人: 今俄然注目されて、戸惑っているんです。
X: そりゃ注目されるに決まってるでしょ。
あきれた夫人:えー、なんで?私ウルトラ右翼学校の教育方針を賛美し、名誉校長に
  なって、その翌日だかその学園が猛スピードで認可相当になり、土地取得で優遇された
  だけじゃないですか。

*

Y: その人物はデブだから心臓発作で突然死したキム・チョルだ。暗殺なんてデマだ!
X: 息子さんが殺されたって声明を出しましたよ。
Y: 論理は一貫している。自分でキム・チョルと言ってたんだからキム・チョルだ。
 そうに決まっチョル。

*

Y: 嘘ばっかり言うから、特定のメディアは排除だ。あいつらいつもAのことを反Aと言う。
X: じゃあ、Aとだけ書いていればいいと。
Y: そうだ。俺が実際当選したのに、あいつら直前まで落選確実って言ってたろ。
X: そうですね。あなたが当選確実だって書いていたら違う結果になっていたのにね。


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蹉跌集め -35- [小説]

35

「私もMNEMOさんのトーホグマンを読むべきですね。
ケンスキーさんが相当読み込んでいるって言ってました。なんだか現実と虚構との
綯い交ぜぶりがすさまじくって、どういう小説だかっていわく形容しがたいって。」

悠奈が言った。

「プフフッ。」

藤熊が噴き出した。

「あんな小説、今までないよね、確かに。入れ子構造とかもあったり、
なんだかもう突き抜けちゃってる。」

「あー。突き抜けてるって、いい形容ですね。まだ実際に読んでませんけど。」

「うん、悠奈ちゃんなら相当理解できんじゃないかな、あいつの世界。
ちょっと高踏的な、ペダンティックなところもあるけどねー。」

「ペダンティック、ですか。それって嫌ですよね。」

「まあ、その辺り、もうあいつも歳なんで、弁えているけどね。
衒学的なことをもギャグにしちゃうっていうか。」

「なるほど。」

悠奈は注文したアール・グレイを初めて口に含んだ。

「それができない人は滑稽ですよね。」

「え?」

「藤熊さんー」

「は、はい。」

「藤熊さんとのご縁、すでに私は深いものと感じていて、その上でお聞きします。」

藤熊は脚を組み直し、悠奈を見つめて、

「はい、なんでしょうか。」

「私の恋って、どうしてこう儚いんでしょうね。」

悠奈はそう言ってまたアール・グレイを口にした。

「あらま・・・。光君とのこと?」

「それもありますけれど。」

「まだあんの?あ、えーと、風邪薬大量に飲んだっていう・・・。」

「それもありますけど。」

「ええ〜ッ!まだあんの?」

「あたし、木野先生に恋したんです。」

「おいおい、悠奈ちゃん、そりゃあちょっとー」

「木野先生、あたしと一緒にいたいのだけれど、それは無理だから、先生の魂を
受け継いだ人間が必ず現れるからって言ってくださって。」

「いや、絶句だね、そりゃ、って喋ってるけど。で、現れたの?」

「そう思ったんですけれど・・・。」

「ふーん。違っちゃったのね。」

藤熊はコーヒーのお代わりを注文する。

「ごめん、悠奈ちゃん、木野先生、その男がいつ現れるとかって言ったの?」

「それは言っていません・・・あ、そっか!」

悠奈は背筋をピンと伸ばし、目をカッと見開いた。

「いつのことかなんて一言も言ってらっしゃらなかったんだわ!
あたしが勝手に予感したりしたんだわ!

でもその人、ちゃんと因縁があったんです、木野先生とも、私の先祖とも!」

「まさに<きの>せいだった?」

「やめてください、藤熊さんまで、そんなダジャレ!」

藤熊は引いてしまう。

「悠奈ちゃん、そんな、僕からダジャレをとったら何にも残らない!」

悠奈にはまったくウケない。

「ペダンティックなダジャレほど鼻に付くことはないんです。
藤熊さんまでそんなダジャレを言われたら衒学二重奏です。」

「悠奈ちゃん、僕なんかまだまだだよ、MNEMOこそそういうのの大家だ。
ソリストですよ。いっつも独りで吹いてる。」

「ああん!もっとロマンティックでシリアスな展開になると思っていたのに!」

「それは悠奈ちゃんを動かしている者がシッチャカメッチャカなんだよ。」

「誰ですか、その人って。」

「それは言わせないでよ。」

ルミネの喫茶店の片隅・・・
すさまじい会話が展開されていた。



一方十三は春休みに入って暇にしていた。
また悠奈の歌を聴いて、聴き終わってはボンヤリし、またプレイバックし、
合間にパソコンのメール着信を確認した。

むろん、悠奈からの返事はない。
十三は自分の送ったメールを読み返す。

「やりすぎ、書きすぎだ!」

後悔の念がすさまじく湧いてくる。もう取り返しがつかない。
一体自分に何が起こったのか。こんな衒学的で、言葉遊びー それもそうとう下等なー
満載の文を普段書くような自分ではない。ペダンティックな自分は、
尊敬するジョイスと、ジョイスとジョイスティックくらいの差がある。

「こんなんじゃユリシーズならぬ<ムリ>シーズだ。」

そう独りごちて、またそのシャレのくだらなさに自家中毒になりそうになった。

「おかしい、おかしい!俺じゃないみたいだ・・・それほど悠奈にハマったと
いうことか!」

そんなことを考えている裡に、外の春爛漫の風情と暖かさで、机に突っ伏したまま
眠りについてしまった。

十三は<こんな夢をみた>。

小日向の切支丹坂を彼は悠奈の歌を聴きながら夜の散歩をしていた。
すると切支丹殉教者と思われる粗末な着物を血だらけにした男が現れ、

「13ごたっとていう不吉な名を持つ者よ、わしは有馬晴信さまの御治世で洗礼を
受けた肥前日野江の切支丹ばい。むろん転ばず殉教したっとたい。
これ、十三、十二に名を改めれ、そして「じゅうじ」と読め。
十字=ロザリオに通じ、一挙にお前は祝福を受ける身になるじゃろう。
12こそ『十二使徒』というように、耶蘇教にはふさわしか。
一番弟子のペテロさまのことなどギャグにしおってからに、このバカモンがぁ。
お前こそ石もて打たれるんじゃけんの。

・・・お前が惚れた女も12にさまざま絡むのじゃろう。
龜井十二、よか名前たい。ここは<1つ引け>。」

十三はその話の内容、そして不完全なとってつけたような島原弁に戦慄し、
「うわー」っと叫びながら坂を下っていくが、そのとき悠奈の歌が突然途切れ、
違う音声が入ってくる。

「Fool, Fool!」

それはすさまじい音量の節のついた3度のハモりの2声だった。
十三は「ギャーッ!」と叫んでイヤフォンを投げ捨てる。

・・・そのとき、十三は目を覚ます。

「ああ、あのときから、俺はおかしくなったんだ!」


<つづく>




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蹉跌集め -34- [小説]

34

「ま、電話でもちょっと話したけどねー」

昼の午後1時過ぎ、新宿ルミネの喫茶店で藤熊が話を切り出した。
悠奈は結局酒飲み付きの話し合いは避けたくなったのだ。
悠奈は疲れた表情をしている。

「ホムラーに野津田っていうA&Rの部長がいるんだけど、これがまあ、俺の後輩でね、
ヒラのときから融通利かないヤツでさ。あんまり悪口は言いたくないんだけど。」

悠奈はちょっと頷いただけで黙っている。

「そいつにちゃんと言っといたからね、Twelveは英語のままやるって。分かりました、
変わらず契約したいのでよろしくって伝えてくれって言ってます。」

「藤熊さんー」

悠奈が虚ろな目をして呼び掛けた。

「うん?」

「MNEMOさんも日本語・英語問題で悩んだんですか?」

「ああー」

藤熊は座り直して、背筋をまっすぐにした。

「悩んだね。僕も何度も悩んだしね、クライアントの日本語要求に。
でも、EUROYは最初っから世界進出宣言してたし、それは僕の意向でもあったから、
できるだけ譲歩しない姿勢をとったよ。」

「そうですか。」

悠奈は虚ろな目のまま、力なく応えた。

「ロボット・アニメのOPやED聴きましたし、YouTubeにあるCold Lineとか、
The Realm of Athenaも聴きました。」

「そっか。どうだった?」

「いいですよねぇ。で、海外に広がったとは云え、アニメ・ファンと重なるんですよね。」

「まあね。それだってすごいことだけど。Cold Lineはね、サントリーのカクテルの
CMに使われたんだけど、国内でもそれなり評判になって、それで僕もあらあらって
言っているうちにイタリアで発売されててさ、2万売れたって、プロモなしで。」

「そうなんですか。」

「そこがね、あいつらが世界進出してヒットも出せたろうって僕が言う根拠なんだ。
アメリカとイギリスからもオファーがあったんだよ。」

「すごい!」

「でもね・・・。」

「MNEMOさんですか?」

「わかる?あいつが『敵前逃亡カッコby MNEMO』しちゃった。EUROY結成して半年
もたなかった。」

「悩まれたんですね。」

「うん。まあ、人間関係も少しはあったろうけど、なにしろ夢だった世界進出を
目の前にしてなんと怖気付いちゃったって。Lyricistとしての限界ッ、ってね。
千代の富士みたいなこと言って。」

「はい?」

「いや、ゴメン。世界レベルの詩が書けない、もうストックないって。」

「苦しかったでしょうね。」

「で、あいつはラッキーにも1995年、ホムラーから再デビューすんだわ。
こんときも和洋折衷だったね。僕はset you freeしてやりましょうって言いたかった
けどね。あ、こんときも僕が絡んだんだ。一緒にロンドン行って、ミックスしたり。
園畠社長っていうプロダクションの社長のすばらしいpatronageがあってね。
あいつは恵まれてた。けど、ホムラーの1レーベルにいたんだけど、そこが2年で
つぶされちゃってね。長い目でっていうことにならなくなって、終わっちゃった。
もちろんそれのせいばかりじゃないけれど。1回目は自分が逃亡、2回目は
梯子を外されちゃったんだ。不完全燃焼2連続さ。」

「じゃあ、The Realm of Athenaは?」

「これはまあ、話せば長くなるんだけど。なにしろEUROYの大ファンだったアニメ制作
会社の社長がとりなしてくれてね。HenryっていうEUROYのバイオリンやキーボードを
担当し、作曲・編曲もできる男とMNEMOでブレーンストーミングして作って、
そしてHalとCristaが渾身のプレーを重ねて完成したんだ。もうみんな壮年も
いいところになっていたけど、パワフルだったよ、うん。」

「そうだったんですか。MNEMOさんとかは、音楽でずっと糊口を凌げたわけでは
ないんですよね?」

「うん。あいつは英語教えてたね、塾で。今もか。Skypeで。」

「MNEMOさんも藤熊さんも狛江なのはー」

「偶然なんだ。示し合わせたわけじゃないの。」

「やっぱりなにかあるんですね、藤熊さんとMNEMOさん。」

「あいつが言うには、僕の実家がね、二十数代続く桐生の神社の神官家で、
その二十数代前っていうのは戦国末期に当たって、それは伊達政宗に會津の蘆名家が
滅ぼされた時と符合する、と。で、その蘆名の分家に藤熊ないしは金上という
今は新潟県の津川というところの城主がいたんだけど、その藤熊の残党が桐生の
山奥に逃れてきたのだ、って言うんだよ。會津っていうのは、MNEMOの故郷ね。
そこで私と藤熊さんはつながるんですよ、なんて。確かにね、ウチの神社の創建は
ちょうど蘆名が滅亡する年とピッタリなんだ。會津から桐生は、日光・二荒山を
経由して、それほど離れていないのね。」

「MNEMOさん説は正しいですよ、きっと。」

「そう思う?」

「ええ。」

「でね、悠奈ちゃんー MNEMOの本名は根本なんだけどね、
ウチの神社の名前が根本神社なんだ。」

悠奈は目を閉じてゆっくりと息を吐いた。


<つづく>




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浩美さんの「試訳」届く

私もとうとう花粉症にかかったのかもしれないと思う今日この頃。

うれしいメールをいただきました。
FMとやま様で2年(1996-1997)番組をもたせていただいて以来の愛聴者にして友人の
「小矢部の浩美」さんから富山弁(越中弁)のご教授をいただいたのです。

以下引用(註は私)ー

*
すみません、Mooさんの対応早かったですね(笑)
私もちょっとお母さんになってみました(笑)

(第21話の部分)

『誰にも会いたない言うとるがいちゃ』
『悠奈さんやらいう人は…』
『来んように言うといて』
『何おこっかわからんから…』
こんな感じです。

27話の部分は…

『バンドの人にちゃ会わんいうて言うたやろ。』
『あんた、やめてま、まだ寝とんがやから!』
『なん、いいちゃ、母さん、ちょっ<こ>こいつと話してくっから。』
『でも、幸嗣、この人らちに傷つけられたがやろ?』
『せやから落とし前つけてこんなんがやぜ!』
『か、なん言うとるがけ!』
または『あんた、なん言うとるがけ!』

ネイティヴの黒部訛りははっきりわかりませんがほぼこんな感じです(笑)
もしかしたら実際はもう少し浜言葉強めかも。
特に黒部で育った幸嗣くんなら、氷見訛りはあまり出ないかもしれませんね。

*

なんだか溜息が出ます。
なんて豊かなんでしょうね。
富山市の中央部ご出身のMooさんの「訳」、
西の高岡に近いところご出身の義理の息子さんによる「訳」、
そして富山最西端と言える小矢部の浩美さんの「訳」・・・
お三人がお三人とも同県ながら東過ぎる幸嗣のふるさと黒部のことを踏まえつつ、
その母親が氷見(能登半島の付け根、高岡市の北)出身であることも当然考慮されての
「訳」を考えてくださった。そして微妙に三者三様に違う!

幸嗣の母がもし私の故郷(會津の最西(および北)端)出身なら、

21話のは、

「誰にも会いたグねぇっつってんだガらシ。」
「オラ(or あだしは)幸嗣の母だげんじょも、悠奈さんつぅ人は一緒に来てんのガい。」
「その人だゲは絶対に来ねように言(ゆ)って(くなんしょ)。
何起ゴっか分ガんねガらナイ。」

27話のは、

「バンドの人には会わねっつてだべ(or び)した!」
「(ちょっと)おめ、困っつまぁ(べ<or び>した)、まだ寝でんだガらシ!」
「いーガら、母ちゃん、ちょっとこれど話してくっから。」
「んでも、幸嗣、この人だぢに傷つけらっちゃだべ(or び)した。」
「んだガら、落どし前つけでくんのえ。」
「んんな!」

富山と會津は直接につながっていません。
會津人が富山に行くなら、同県のいわきより近い新潟を経由します。
クルマなら新潟は市内、またはその手前の新津や新発田などで左折(南下)します。
會津の物産が富山に行くことは滅多にないでしょうが、その逆、
富山から會津へは入りました。薬ですね。薬売りさんが来てくれました。
チビだった頃、この薬売りさんが来てくれるのが楽しみでした。
綺麗な紙風船をくれたからです。

ただ、持ってきてくださる「ケロリン」という鎮痛剤の箱のイラストは不気味でした。
なんだか学校にある人体模型の顔と酷似していて、怖かった。(笑)

なにしろ越中富山のことばと會津のことば、これほど違うんですね。
同じ雪国どうし、距離としても驚くほどでもないのに、ことばは驚くほど違う。

神は細部に宿る。



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蹉跌集め -33- [小説]

33

悠奈が中野坂上の自室に帰ると、母親暢子が部屋の中にいた。

「母さん、なんだ、来てたの。」

「来てたのって、悠奈、あなた今日卒業式だったんでしょう。」

「うん。」

「うん、て・・・。今日ぐらいお家に帰ってきて報告したらいいのに。」

「明日行こうって思ってたの。ゆりえ達と祝杯あげるって約束してたし。」

「そうなのぉ。お父さんも期待してたのに。」

「ごめん。」

悠奈が着替えを始める。暢子はじっと我が娘を見ている。

「なーに、お母さん、そんな凝視して。」

「大人んなったわねぇ。」

「なに、いきなり。」

「あなたさ、レコード会社の件、どうなったの?」

「明日藤熊さんていうプロデューサーと会うの。」

「あたしはあなたが何をしたっていいと思ってるのよ。お父さんもね。
人生なんてままならないんだから、好きなことがあってそれでやっていけるんなら
それでいいって思ってるのは何も変わってないけれど。」

「けれど?」

「人の倫は外しちゃダメよ。」

悠奈は黙った。

「音楽の世界って、ほーんと、奔放だものねぇ。ポピュラーもクラッシックも、
ミュージシャンたちってほんとそういう風だから音楽やれるのか、音楽をやっていると
そうなっちゃうのか。」

悠奈はスウェットシャツに着替えて、ドッカと座布団の上に座って、暢子と向き合った。

「母さんだって、ピアノやってたんでしょ、かなりの腕前だったって。
もう全然弾いてくんないけど。」

「あたしは業界に属したことはないもの。ただ仄聞するいろんな噂にもう呆れちゃってね。
なんでみなさんそんなにお盛んなんだかって。」

暢子が茶を淹れる。
茶碗のひとつを悠奈の前へテーブルを滑らせスーッと差し出す。

「ねえ、悠奈。あなたはだれかいるの?」

「だれか。」

「好きな人よ。」

「好きな人?いるよッ。」

「あら、正直に言うわね。」

「別に。隠す必要はないもの、訊かれたら。」

「そ。まあ、どんな人とかって、普通の母親のように詮索はしないわ。」

「そこが母さんのいいところ。」

「なによ、そんな褒め言葉要らないよ。」

暢子が茶を啜った。上品な啜り方だった。

「ほどほどにしなさいよ、なにしろ。」

「ほどほど?なんかギャンブルとかお酒とかのことみたいね。」

暢子はハハハと笑った。

「それに近いんじゃないの?」

今度は悠奈が笑った。


暢子はお茶を飲み終わると、「じゃ、帰るわ」と言った。

「明日来てよぉ、ほんとに。」

「うん。」

「そのプロデューサーさんとの打ち合わせの前?後?」

「う〜ん。まだ決めてない。」

「いつ会うの、その方に。」

「ちょっと話が混み入るからって、夕方食事しながらだって。」

「そう。じゃあ、昼ね、家に来るの。」

「多分。」

暢子が帰って行った。


悠奈はパソコンを開けて、メールを確認する。
やはり十三から返信が来ていた。オーディオファイル送付のお礼だ。


悠奈さま

早速あなたの歌を聴かせていただき、本当にありがとう!
歌の出だしから数秒後にはもう私は石化していました。
petrifiedです、ええ。石になってペテロになってしまいました。
だからあなたの最初の弟子になります。どうか歌唱法と、
詩のつくり方もご教授ください。

でも、悠奈さん、

Domine, quo vadis?

私は<聞い>ています。
あなたの心の行方。
私に鍵を渡してくださいますか。
木野先生が私にあなたの部屋へと通じるドアの鍵をくださった。
同じ<紀伊>の出自を持つ者同士として、<気ぃ>を使ってくださった
(ここは紀伊弁で)。
そして私はあなたの部屋の前で佇んでいます。
いや、あなたは海だ。
私は船で乗り出したいが、今それはなく、<quay>で佇んでいる。
<奇異>なことでの出会いでしたが、それゆえに貴い。
どうか<貴意>を伺わせてください、近い裡に。

龜井十三


悠奈は卒倒しそうになった。


<つづく>




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