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蹉跌集め II-18 [小説]

18

12月初め、MNEMOが発見(ほつみ)と清(さやか)に連れられて帰国した。
うれしいことに、SUBTLY、藤熊、悠奈と永、Somogumiの関係者ばかりか、
RAJOYのメンバーも全員成田まで来てくれたのだ。

ニュース・ヴァリューもあるから、報道各社も取材に来た。一言と問われ、

「Peace & Loveを歌い続けます」

とだけMNEMOは言った。

帰国歓迎会は、粟田の手配で成田市内の鰻屋の離れで行われた。

「え〜、これからMNEMOの音楽への情熱、意志が鰻登りとなることを祈念して、
カンパ〜イ!」

粟田の音頭でみなが杯を上げた。

「え〜、ユナイテッド航空は避けることができ、オーヴァーブッキングもなかったようで、
無事帰国できました。」

MNEMOが戯けて一声を上げた。

「とは云え、日本に無事戻っても、アメリカより安全なのか全く分かりませんし、
正直帰ってくるのが怖かった。」

みんな飲むのをやめてしまう。

「本当に、ひとりの歌手が何を歌おうが空しいっていうのが本音です。世の<すさみ>は
もう限界点に達しています。もう、ほんのささいなきっかけで世界の終焉という局面に
至ってしまう。」

MNEMOはサングラスを取る。

「こんなんなってしまいました。」

一同が目を背けたい気持ちになる。

「こんなんなってしまいましたと言いつつ、自分ではどんなんなったのか、見えません。
嫌なもの、怖いものを、もう見なくて済みます。それはありがたいことかもしれない。
でも、見たいものが見られなくなってしまいました。絶望的です。
病院の許可を得て付き添ってくださった小梅屋清さんのお顔も当然見えません。
視覚以外の四感で彼女を認識しているのです。一番の頼りは触覚ですと言ったら、
ちょっと問題になってしまうので・・・」

みながクスッと笑って、ようやくまた飲みだす。

「では、嗅覚かっていうと、また何を嗅いだんだってなってしまうしー」

みなが爆笑になる。

「味覚だったら、もっと問題だ。」

清が真っ赤になっている。

「だから、ええ、聴覚ですね、これしかないと言っていいくらいだ。
彼女のナース・シューズの靴底と床が擦れ合って出す音や、リズム、むろん彼女の声、
鼻歌とかですね、それで彼女を認識する。きっとかわいい子でしょうね。」

一同が拍手をする。

「ナースなんていう存在がこの世にあるかぎり、人類は捨てたもんじゃないですよ。
人の命を救うため、それこそ命を賭している人が大勢いるのも確かでしょう?
そういう人々を嘲笑うかのように爆弾を落としたり、銃弾を浴びせたりする愚か者も
また大勢いるのだけれど、きっと神仏はそういう者たちを容赦しません。
神仏は沈黙しているようだけれど、必ず見てくださっていますよ。そしてどうされるか、
それが分かったら我々は神仏になってしまう。それは無理というものです。
unfathomableという英語があって、測り知れないって意味ですけど、
僕はこの間ニュースを聞いていて、いつもunfathomableと呟いてきた。
この愚かな人為の報いはどうなるのか、と問うていたからです。」

MNEMOは清からビールをグラスを手渡してもらい、少しだけ口に含んだ。

「うまいなあ!ビールは2ヶ月ぶりかな。
・・・僕は10月8日に撃たれました。John Lennonの誕生日前日で、多くの人が
『Johnおめでとう』、『今こそIMAGINEを』というプラカードを持っていました。
この映像が私の脳裏に焼きついたほぼ最後のものとなりました。
そしてこの日はまたチロという私の<恩師の猫>の命日でした。
この2者は私の人生を変えた重要な人、そして動物です。

この2者のおかげで私は命までは奪われなかったと確信しています。」

粟田が拍手をし、みなが続いた。

「奪われなかった命を、これからどう生きるのか。それは自明です。
火を見るよりも明らかです、と言いつつ見えませんが。
私は一神教の信者ではありませんがー

みんな神の子だろう、と。
神の子同士が殺し合ったら、神への背信でしょう、と。
悪魔の子だと思うような者でも、その悪魔すら神の子でしょう?
だって神はすべてを創られたのでしょう?

私は歌い続けます。
みなさん、どうかお助けください。」


<つづく>



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2017 卯月雑記 2

今朝の「深夜便」4時台は、狂言の大蔵さんという方が「日本の音」について
語っていく新コーナーでした。

曰く、「狂言では誰も傷つかない、殺されない」と。
また「和とはおおらかさ」と。
その言やよし。
そして第一回の日本の音は、鼓でした。
これもよし。

それでも「僕的には」という言い方をされて私は引いた。
そんな日本語の「音」は嫌ですね、<僕としては>。

*

「学芸員はガン、一掃すべき」と地方創生大臣サマ。
すてきな言い回し、批判の仕方にうっとり。
ほんとにすてきな大臣サマばっかり。
「妄言大臣はガン、一掃すべき」って言われたらどう思うのか。

*

Mick師に言われたのですが、コメントすんの手続き煩雑でやりにくい、と。
コメントと例の認証英文字入力だけでいいですから。よろしく。

*

今日は春の嵐とか。
夜明け前、そして黎明時、東京は穏やかでしたが、これからか。
今朝はどっきりしました。
悠奈と思しき若い女性が、ヘッドフォンをして河原の方へ下りて行ったのです。
「おお!」
これは夢や幽霊ではなくて。
もちろんあなたは悠奈ちゃんですかなんて訊かなかったけれど。
初めて見かけたので、大学一年生ですかね。

*

京浜急行の踏切で老人を助けようとして亡くなった児玉さん。
なんという尊い行為だろうか!
52歳、横浜銀行の方だそうだ。

こういう方がいらっしゃる事実に触れ、ただただ頭が下がる。

自分を含めて、勇気なき身を恥じる人多かれ、と思う。


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蹉跌集め II-17 [小説]

17

「杉尾ちゃんさぁー」

薗畠が呼びかけた。

「今世界はインディーズを求めてるでしょ。既製品・大量生産より、個性的な
コンテンツっていうことだよね。まあ、どこの業界でもあることだけれど。
前例が踏襲されて、アーティストの規格化が起こり、それが音楽的ばかりか、
歌詞の通りいっぺんさにもつながってしまう。」

「そうですね。」

藤熊も賛同して言う。

「結局圧倒的な<同類志向者たち>からどう際立つか、それは下手なギミックとかでは
なくて、本当にそのアーティストの個性をこそどのくらい打ち出せるかなんですよね。
今、広告で買ってみようなんていう時代ではなくなっています。昔のTVやラジオのCMに
よる宣伝なんて、今はもうSNSやYouTubeで対等ないしはそれ以上の効果をあげられて
しまっていますからね。だからこそ、個性的でなければならないんです、ますます。」

「今世界的にアーティストが期待されているのは、そうした個性が生かされる世界
そのものを具現し、かつ限りなく藝術的に表現することだと私も確信しています。」

永が言う。

「音楽的・詩的・藝術的良心はいつの時代でも絶対に人のこころを打ちます。
この時代、人々のこころが荒くなったのも確かだと思います。けれど、だからこそその
<すさみ>を和らげる音楽が、歌が、必要なのです。」

「月はほんとうにappeasing(こころを和らげる)な存在だね。」

薗畠がしみじみ言う。

「地球での生命開闢以来、ずっと夜を照らしてきた。もちろん新月のときには
漆黒の闇をつくってきた。それも大事だ。潮汐力でもリズムを地球に、生物に与えてきた。
月あってこその地球であり、生命なんだよね。ずっと、ずっと、そういうことできたんだ。
月の満ち欠けに人間は人生をも見てきた。望月に己のperfectionを重ねてほくそ笑む者、
欠けているからこそ風趣があると思う者、新月にこそ希望を見いだす者、三日月の、
たとえば木星や金星とのランデブーに<釣り合い>というものの美の極致を見出す者、
深夜にたとえば二十七夜の月を見て、いや、それに見られて、なんだか人生を反省したり
する者、仕事でクルマに乗っていて、渋滞なんかでイライラしている夕方に、
大きな満月が東の空にあるのを突然目にして、その超然たる美に打たれ、己のちっぽけさ、
美から遠ざかっていた自分の生活の貧しさに気づく者ー
ね、月って本当に偉大だよね。」

「いやさぁ、薗畠ちゃんー」

杉尾が言う。

「僕と野津田が言いたかったのはね、ほら、悠奈ちゃんのアルバムに結局日本語曲が
ひとつも入んなかったでしょ。それでまた、メッセージ性強すぎるってことになると、
売り出し方がむずかしくなんないかっていうアンチテーゼだったのよぉ。」

「そうなんです。」

野津田が<初めて>しゃべった。

「売り出し方がね、もう少し具体化しないと不安になりましてね。」

「だからそれは、まあ、バジェットにも依りますがね、悠奈ちゃんのヴィジュアルを
十分活かして、圧倒的に藝術的価値の高いPVを作ることにまず尽きると思うんです。」

藤熊が言った。

「どういうイメージ?」

杉尾が訊く。

「Somoちゃん、本名・祖母山(そもやま)氏率いるSomogumiに任せましょうよ。」

藤熊が言う。

「あそこにね、アートディレクターの加賀美秋光っていう<literature>な人が
いるんですよ。Somoちゃんとのコンビはきっと大反響を巻き起こすPVを創りますよ。
なにしろ素材がいいから、彼らの藝術的意欲は掻き立てられまくるでしょうね。」

「デザイナーの粟田さんはどうなんですか?」

永が訊く。

「あー、セミちゃんのこと?うん、彼がそのコンビにとっての<第3の視座>かな。」

悠奈がにっこりと笑う。

「まあ、的外れなこともよく言うんだけれどね。」

藤熊が言うと、悠奈と永が、

「それは失礼ですよ、藤熊さん」

と笑って抗議する。

「ああいう存在は貴重です、本当に。」

SUBTLYのヴィデオ試写のときに彼女らは粟田に大いに笑わされ、彼がどれほどに
ともすれば<すさむ>現場での和みとなっているかを知っていた。

「じゃあ、わかった。」

杉尾が言った。

「最高のPV作って。野津田、藤熊ちゃんと見積もり出してくれ。
薗ちゃん、その際は折半頼むよ。」

「うん。杉尾ちゃん、任せてみようよ。藤熊ちゃん、永ちゃん、そして悠奈ちゃんの
トリオに。そのトリオが全幅の信頼を置く、Somo、加賀美、そして粟田のトリオにも。」
そしてTriviaの加護あらんことを!」

薗畠がそう締めて、会議は終わった。


<つづく>



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蹉跌集め II-16 [小説]

16

悠奈は薗畠、藤熊、野津田、永の四人と会合をホムラーの会議室で持った。
そして今回はもう一人加わったー ホムラーの社長、杉尾だ。

進行役は藤熊だった。

「さて、今日Junoプロジェクトの関係者全員お集まりいただきまして、
懸案になっているJunoファースト・アルバムのコンセプト改変について結論を得たいと
思っております。

東アジア情勢が非常に緊迫する中、歌舞音曲ー
って、まあ、ちょっと古い言い回しですが、音楽や芸能一般に対する風当たりが強くなり、
体制に迎合する一部芸人たちなどは重宝がられつつ、
一方ロック・フォーク系のミュージシャンたちは、元々の音楽・詩的傾向から実に肩身の
狭い想いをしている昨今です。」

「藤熊ちゃん、どうしたの、硬いね。」

薗畠が藤熊の肩の力を抜かせてくれる合いの手を入れた。
藤熊は破顔一笑して、

「というような硬い前振りは終わりにしてですね、まず、悠奈ちゃんの結論から
聞きたいと思うんですけれど、どうですか、悠奈ちゃん。」

悠奈は硬い表情のまま、口を真一文字にしてしばらく言葉を発しなかった。
一同は固唾を飲んだ。

「結論から言いますとー」

ようやく悠奈が口を開いた。

「コンセプト改変には同意できません。」

一同は「やはり」という表情をして、みな視線を少し落とした。

「『Twelve Times a Year〜12の月のフェイズ』というタイトルのこのアルバムは、
私の少なくとも12の様相を歌にしたものです。なにも12の月のそれぞれの満月ばかりを
歌っているのではなく、私は新月にも、三日月にも、上弦にも、十三夜の月にも、
十六夜の月にも、下弦にも、また二十三夜の月にも、二十七夜にもなって歌いました。
私はJunoより、SeleneやLuna、Artemis、Cynthia、Diana、あるいはMeneという
芸名にしたいとすら思いました。」

「みんなギリシア神話やローマ神話の月の女神です。最後のMeneはギリシア語で
ずばりMoonのことです。12の月を支配する女神の名でもあるのです。」

永が補足した。

「MNEMOさんが、ブログでこんな自作和歌を紹介しておられました。

立ち待ちて居待ちて臥せて更け待ちて月の出未だ見ざりけるなり

月のフェイズ(相)と東の空に出てくる時刻の変化に合わせて待っていても、
月が出て来ないという、いわば絶望的な焦がれの歌です。

私は打たれました。女として、これほどに焦がれられたら、と。

女ばかりではないでしょう、男にも様々なフェイズがあるはずです。
しかし月はどうしても女性を象徴化します。私は地球に生まれた生物の、
人間の女として生まれ生きている幸せを感じますー 月という美しく、静謐な
天体と己を同一視できる幸せを感じます。

Seleneが私にとって一番好きな月の女神の名前です。
これはselasというギリシア語の『明るい』から来ています。この場合、英語なら、
lightの訳を当てたく思います。brightでは明るすぎるのです。

このselasはラテン語のserenusときっと関係があります。
lとrの違いはあれ、serenusにも晴朗な、明らかな、という意味があるからです。

このserenusがsereneという英語に引き継がれます。serenityという名詞と共に、
私が大好きな英単語のひとつです。」

一同は、語源学の授業を受けている気分になっていた。

「私の、大きく分けて新月から満月まで、クレッシェンド的楽曲と、
十六夜から新月までのデクレッシェンド的それとを、両方活かしてください!
私の12のserenadesを。以上です。」

圧倒されて、一同は言葉を長く失っている。
しかし、この種のプレゼンが大好きな薗畠は独りニコニコとしている。

「あのねー」

杉尾が口を開いた。

「とても教養あふれる話だったんだけど、歌詞の政治性と今の月のフェイズの話と
どう関係するのかな。」

「・・・あの、私には、感銘を受けていることばがあるんです。」

悠奈が静かな口調で答える。

「God,
Grant me the Serenity to accept the things I cannot change;
Courage to change the things I can;
and Wisdom to know the difference.

神よ
私には変えられない物事を受け入れる心の静謐を
変えられることは変えてしまう勇気を
そしてその変えられるもの、変えられないものの違いを知る智慧を
与え給え
(しつこいけどMNEMO訳)

アメリカの神学者で倫理学者のラインホールド・ニーバーが1943年の夏に語った
説教の一部です。

変えられないこと、変えられること・・・この2分法があって、
変えられないことを受け入れている心の象徴が月の静謐な姿なんです。
変えられるものは変えるんだという勇気の象徴は、満月に向かっていく月、
特に上弦からの相に感じませんか。
そしてその2分法をこそ判断する知恵の象徴こそTriviaなのです。

これは私の勝手な解釈ですけれどー
Triviaはローマ神話でのアルテミスの異称とされています。
語源は『tri-(3つの)』と『via(道)』です。
なぜ『三叉路』というのが月の女神の名になったのでしょう。
Triviaの神殿が三叉路に在ったからだとかとも言われます。
では、なぜ三叉路に在ったのでしょう。

私は月は3つめの方途を示してくれるからだと思っています。
月は満ち、そして必ず欠けます。その繰り返し。
一見シーシュポスの岩運びのようです。
人間も生命体としてのピークを12歳くらいで迎え、その後必ず衰えます。
人間の場合はそれを繰り返すことはできないわけです。

月の、無限とも言える満ち欠けの繰り返しに、人間は<trivia>を見たのでは
ないでしょうか。自分たちも<生まれ成長し衰え死ぬ>で終わりではないのではないか。
満ちて欠けて終わりではない第三の道、方途、ないしはそれを感じ取る視座を
獲得するのではないでしょうか。まるで<正・反・合>です。

なお、triviaは今『つまらぬこと』という意味で英語では使われています。
三叉路は人通り多く、広場になって、ありふれたところということからそんな意味に
なっています。世界中のみんなが、二項対立を超えて、第三の立場、視座を得ることが
ありふれたことになるのを私は祈っています。その『第三の立場』あるいは『道』を
歌うことが、政治的だというなら、私は甘んじてその批判を受け入れます。
けれども私は政治的というより、倫理哲学的、もっとくだけて言えば、
こころの持ちように関わることを歌っているに過ぎないのです。」

奇しくも、ラインホールド・ニーバーのことばがここでも引用された。

しかし、こんなことを言う若い女性シンガーがかつていただろうか。
一同は本当に唖然とする思いで悠奈の「講義」を聴いていた。


<つづく>


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臨時克己會@阿弖流為

ただいま帰還。
なんとKとの待ち合わせ場所にMick師が!
まったくの偶然でした。
楽しかったっす。

久々に飲みました。
とは云え、ビール半パイント、ハイボール2、サワー2。
どこで?
もちろん「阿弖流為」で。
悠奈も来ました。(笑)

克己會桐生根本神社大会、行ける人、行きたい人、行くべき人、そろそろ心づもりを。

夜露死苦(K趣味)!


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KとBush

今日は久しぶりの會津弁トーク、Kと食事をします。
その前に多摩川でも歩いて、草むらに咲く春の野草の花を観賞しますかな。
ムラサキケマンとか、ホトケノザとか、カラスノエンドウ、オオイヌノフグリとか。
なつかしき故郷の野原を思い出しつつー

「おめもなガなガ忙しそうあな。
Seems like you been busy lately, eh?」

「そういぃ。
Damn right.」

「ま、からだこわさねでやってくろよ。
You'll stay fit, I 'ope.」

「ありがど。
Thanks, bro.」


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げんていのしゅうしょくごがちがうのね

おしえてください。
あべしゅしょうは、にほんがアメリカのせんそうにまきこまれることはぜったい
ないって、2015ねん、はっきりいいました。
もしアメリカがきたちょうせんにこうげきしたとして、
どうやってにほんがまきこまれないでいられるのでちゅか。

そっか、もしかして、しゅしょうは「アメリカのせんそう」にはまきこまれない
けれど、「にほんとアメリカのせんそう」ならまきこまれてんじゃくて、
<いっしょにやってる>ってことになるわけかあ。

あたまいいでちゅね。

ー狛江市 ゆうな(5歳)



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蹉跌集め II-15 [小説]

15

聖古の家は神奈川区の高台に在って、港が一望できる豪邸だ。

「お嬢なんだな、聖古さんて。」

合流した芳樹が感嘆して言う。
周平は来られなかったが、「一旦緩急あ」りとケンスキーが急遽駆けつけた。

応接間に通されて、一同はまず急な訪問を詫びた。
聖古は一週間のイギリス旅行から帰ってきたばかりで、ご自慢のアフタヌーン・ティー
セットで、買ってきたThe Tea HouseのEarl Grey Superiorを淹れてくれた。
カップを配りながら、

「なにか真剣な話なんでしょう?」

と少し警戒感を滲ませた声で、それでも微笑をたたえて言った。

「実は、僕らの昨日できたばかりの新曲をアルバムに急遽エントリーしたいんです。
MNEMOさんの今回の銃撃事件があって、連帯したい、その一心です。」

光が言った。
聖古は「そういうことか」と一瞬安堵した表情を見せた。
しかし、

「より政治色を帯びさせちゃうってこと?」

と言って、自分のカップに紅茶を注いだ。

「音楽にメッセージは必須だと私も思うけれどー
さらにPeace & Loveはロックやポップスの精神そのものとは思うけれどー
どうなのかしらね、メイジャー・デビューするアーティストとして最初から旗幟鮮明に
してしまうリスクってないのかしら。」

「同じことをとこちゃんも言いました。」

光が応えた。

「やっぱり?そう思っちゃうよね、プロモートする側は。時期尚早って。」

「つまり、反対ということですか?」

幸嗣が訊く。

「まず聴かせて、その曲。」

聖古のリクエストで、幸嗣がCDをかける。
芳樹もケンスキーも初めて聴く。

聴き終えて、全員がしばらく黙っていた。

「般若心経?」

聖古が言う。

「はい。木野先生というコオロギと話しまして・・・。」

幸嗣の言に聖古は首をかしげる。

「コオロギ?」

「いや、すみません、こっちの話です。木野先生という方とお話しして、
色即是空と梵我一如をー」

「ああ、聞いているわ。多摩川に神出鬼没する仏教の先生ね。
・・・私、クリスチャンなんだよね。」

聖古が言った。

「探眞からM学っていう、筋金入りなのよ。むしろ私は聖書からとかのことばに
ヒントを得たことで歌ってほしいわよ、プロデューサーとしてはね。
まあ、あなた方の自由だけれど。」

「色即是空と似たような思想はキリスト教にはないですか。」

幸嗣が尋ねる。
聖古は少し呆れた顔をして、紅茶を口に含んだ。

「これが反戦・反核の歌なの?」

「ギターソロのところをサビにして、そこにそういう歌詞を入れます。
もちろん直接的なことばは使いませんが。」

光が答えた。

「例えば?」

「So what's this fuss about?
So what's this fighting for?
Empty us doing empty things?
The square of empty is empty still
We must add something positive to it
As long as we live

だからこの騒ぎは何?
だからこのケンカは何のため?
空っぽの僕らが虚しいことをしてさ
空の自乗は空のまま
なにか正のものを空に足すんだよ
生きている限りはね」

光は即興で歌詞を作った。

「韻が踏まれてないね。」

聖古は冷静に言った。

「アイディアはいいよ。すごくいいと思う。
でも、どうしてこれで政治色が強いの?」

「僕が妥協したからです。ハハ、嘘です。とこちゃんと話してからずっと考えては
いたんですよ、どんなサビの詩にするかは。問題は、おっしゃる通り、押韻されて
いないことです。さすが聖古さんです。」

「ねえ、こういう言葉聞いたことがある?

God,
Grant me the Serenity to accept the things I cannot change;
Courage to change the things I can;
and Wisdom to know the difference.

神よ
私には変えられない物事を受け入れる心の静謐を
変えられることは変えてしまう勇気を
そしてその変えられるもの、変えられないものの違いを知る智慧を
与え給え
(MNEMO訳)

これはね、アメリカの神学者で倫理学者ラインホールド・ニーバーが1943年の夏に
説教したときの祈りの言葉なの。」

「1943年て、アメリカ軍がヨーロッパ戦線でも太平洋戦線でも枢軸国側と死闘を
繰り広げていた頃ですね。」

光が言った。

「そうなの。」

「結局は、神のご意志、ですか。」

幸嗣が言った。

「でもserenityって言葉好きだなあ。」

ケンスキーが言った。

「形容詞はsereneだろう。『スィリーン』って感じの音だよね。美しい。」

「うん。語源はラテン語のserenusだ。平和なとか穏やかなとか、雲がない、晴朗なって
いう意味で、ギリシア語だとxerosで、乾いているっていう意味だ。」

「さすが光。」

「こういうひどい時代だからこそ、こころの静謐が欲しいのよ、必須なのよ。」

聖古が語気を強めて言った。

「人間にできること、できないこと、それをしっかりわきまえて、
変えられることは変え、変えられぬものは神のご意志に委ねる勇気と智慧が要るの。」

「このひどい事態は変えられますよ!」

光が断言する。
RAJOYのみなが頷いた。

「でも、この話し合い、共謀罪に抵触しねぇ?」

ケンスキーが言って、みな笑った。


<つづく>




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哀悼 塩山紀生さん

お会いしたことはありませんが、氏の描かれた絵が好きでした。
自分が主題歌を担当させていただいたからというお追従ではありません。
みなさんもそうでしょうが、好みの画風ってありますでしょう?
「ガリアン」も「LOST CANVAS(こちらは手代木先生)」もどちらも好きな絵で、
私はその点でも恵まれました。

塩山先生、ありがとうございました。

心からご冥福をお祈り申し上げます。

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蹉跌集め II-14

14

<熊本地震から1年。教訓を忘れず、犠牲者の皆様のご冥福をお祈りし、
また被災され、大変な目に遭っていらっしゃる皆様にお見舞い申し上げます。>


光と幸嗣は翌日ホムラーの永のところへ相談しに行った。

「まだ間に合いますよね、アルバムへの楽曲追加。」

幸嗣が言う。

「どうかな。高田さんに訊いてみないと。」

「高田さんはもう間に合わないっていうに決まってます。」

光が言う。

「私の一存じゃあ決められないわ。」

「これ、聴いてください。」

光が昨夜作った詩に幸嗣がメロディーをつけた曲のラフ・スケッチ的デモを永に聴かせる。

「確かにいいわ。詩が深い。とても二十四、五の若者のものとは思えない。」

「メロディーもいいでしょ?」

幸嗣が言った。

「ええ。なんだか高原で星空を眺めているような感じ。」

幸嗣は目を輝かせて満足し、ソファーに深く腰掛けた。
日光・二荒山で観た星空さー と心で言いながら。

「サビはどうなるの?」

永が訊く。

「ギターソロになっているところに嵌めます。」

光が言う。

「そうなんだ。詩が間に合ってないの?」

「そのものズバリではないにせよ、反戦・反核のメッセージを入れます。」

永が苦しそうな表情をした。

「どうしました、とこさん。」

永は溜息を吐いてステレオを止めた。

「あのねー  悠奈の歌もいくら直接的な歌詞はないにしても、そういう反戦・反核
ものが多くて、実は今議論になっているのよ、今更だけど。」

「え?」

「恋ものと半々くらいになっていてね。個人的に言わせてもらえば、
私はそれでいいと思ってるのよ。でも、あくまで商業音楽ってところも考え合わせ
ないと、やっぱりこういうメイジャー・レコード会社ではね・・・。」

「どうなるんですか?」

「もう完パケになっているから、今更なのよ。MUZIKさんもその比率については
改善の余地はあるかもしれないって。」

「誰が言い出したんですか。」

光が追及する。

「ホムラーの会長の杉尾さんなのよ。裏を返して言えば、それほど悠奈が有望視
されてるってことなんだけどね。」

「悠奈は何て言ってるんですか。」

「今すごく悩んでいるわ。結論を待ってくださいって。」

「そうなんですか。」

光は肩を落とす。

「この頃は本当に政治的なメッセージのある歌にはすぐにネガティヴな反応が来てね。
YouTubeになんか載せると、あっという間に<あっちの方>の人たちから凄まじい
悪口雑言が書かれて。だからコメントをdisabledにするんだけれど、折角の好意的な
コメントも封殺されてしまうし。」

「そんなもん断固立ち向かいましょうよ!」

幸嗣が強く言う。

「名声を得てからならまだしも、新人で最初からディスられまくったらマズいのよね。
それは私にも理解できることなの。」

「だから、僕らのこの歌も政治色のないようにってことですか?」

光が訊く。

「突然新しい曲を入れたい、反戦・反核の歌ですってなったら、高田レベルでアウトね。
もちろん野津田さんレベルでは話にもならないでしょうよ。聖古さんには話した?」

「いや、昨夜の今日だし・・・。」

幸嗣が唇を噛んだ。

「ほら、4月にアメリカが朝鮮半島近海にカール・ビンソンとか派遣して、
一触即発みたいになったじゃない?あのとき戦争反対って叫んだメイジャーな
ミュージシャンたちが<その筋の人たち>に叩かれまくったじゃない?
ならず者にミサイル撃ち込まれてもその歌歌ってんのか、とか、極楽トンボのたかが
ミュージシャンが夢を歌ってそれで世界が平和になると思ったら大間違いだ、とか。」

「いろいろ妨害があったんでしたっけね。」

「ええ。意気消沈してたわよ。なぜ平和を歌ってここまでのことを言われるんだって。
みんな戦争したいのかって。」

「『みんな』なはずはないじゃないですか。」

光が語気鋭く言った。

「その歌に勇気をもらう人たちと連帯すべきなんです。」

「MNEMOさんのこともあって、もう、はっきり言って萎縮してるわ、多くの人が。」

「それでいいはずないっしょ。」

幸嗣が言った。

「俺、ますますこの新曲を発表したくなったな。」

「芳樹たちにももう相談してありましてねー」

光が言った。

「お前らの信念でやってくれって。」

「そうなの。で、光くんも幸嗣くんと同じ思い?」

「はい。ますます発表しなきゃって思うようになりました。」

「そう・・・。じゃあ、私、野津田さんに言ってみるわ。
でも、ゴメンね、期待はしないで。」

光と幸嗣はホムラーを後にした。


<つづく>






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じゃあ、どうすんだ。

<前記事より> じゃあ、どうすんだ、ですね。

平和を言ってりゃそれで済むのかっていうことです。
済むはずないじゃん。
平和を平和をって言っている人が現実に殺されているわけですよ。
みんな平和が一番って言ってて、戦争はどっかで必ず起こってるんです。

だから平和を乱すヤツを叩きのめしてしまえー
この理屈でずっと戦争は起きてきたし、これからも起きるんです。
それをおりこみ済みで、つまり人間は戦争をする生き物として肯定して、
これからも人類は歩んでいくんですか?

「平和を乱すヤツ」は好んでそうしているんですか?
そうしたいからそうしてるんですか?
その人たちに一分の理もないのですか。
少しでもあるなら、そこを汲んで、愚かな暴発はやめろと諭す努力は無駄で、
嘲笑・冷笑されてしまっておしまいなのですか?
無駄だから殲滅してしまえって?

God forbid.



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I'll NEVER be ready for the worst FOREVER

みなさん、私はずっとTrumpの危険性を言ってきました。
それがどうしたですけれど、今や東アジア最悪のシナリオがそのままに実際
進行してしまうかどうかがあの「70歳のオッサン」の胸先三寸なのです。

最悪のシナリオー

「尊大坊や」がまたもや何かしらの虚仮威しをする→
トランプがキレて、とうとう先制攻撃、しかも断首作戦ではなく、反撃最小化を狙って
核を使う→それを想定していた「坊主」が隠しミサイルを一斉発射、
死なば諸共作戦を断行する→ソウルは火の海となり壊滅、他の都市も被弾、
さらに20基の原発が狙い撃ちされる→半島南東部の古里、月城からとてつもない放射性
物質が日本の特に中国地方や北九州に降り注ぎ、壊滅する→日本でも各原発が被弾し、
全国あまねく壊滅、さらに東京か横田基地に核ミサイルが打ち込まれ甚大などというような
形容ではすまない事態になる→大阪、名古屋、福岡など主要都市も被弾する→
米軍基地集中の沖縄には他の地方都市とは格段の差がある攻撃がなされ、壊滅。

*

T: Are you ready for the worst?
A: イェス。アイ・ウィル・フォロー・ユー。
T: We'll sure minimize the damages you'll suffer.
A: サンキュー。
T: The long-time pain in the neck will disappear.
A: グレイト、グレイト。マイ・ロングタイム・ドリーム。
T: Wait and see.
A: オーケー。イン・マイ・シェルター。


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蹉跌集め II-13 [小説]

13

Form is emptiness
Void is matter
We were made out of nothing
So what can it mean?

Form is emptiness
That does matter
What's your fuss about?
How have you been?

Depressed
Frustrated
Or numb
About anything going on
in front of you
or around you

But just imagine
The void in your heart
is nothing less than the cosmic vacuum
They're linked
Or they 'exist' as one

色即是空
空即是色
僕らは無からつくられた
だからそれがなんだって?

色即是空
それは実に意味があるじゃないか
君の大騒ぎはいったいなんについてのことなの?
今までどうしてたの?

ふさぎ込んでる
失意の中にいる
あるいは麻痺している
君の眼の前で起こることに
あるいは周りで起こることに

でも想像してみて
きみのハートの中の空は
宇宙の真空に他ならないと
ふたつはつながっている
ないしはひとつとして「存在」していると


光が宿河原の家に戻って詩を書いた。
心臓(フリダヤ)の空が宇宙の真空に他ならないからどうしたというのかは、
あえて歌わない。「梵我一如、だからどうした」は。
光の家に泊まることにした幸嗣は「いいね、いいね」と賛辞を贈った。
「さすが<しら梵字>と波長が合っただけはある」と戯けながら。



光たちが木野と話している頃、十三は家に着く直前だった。
「則天去私」の四字をずっと考えていた。
「私=我」そして「天=宇宙の摂理」とすれば、アートマン(我)を去って、
ブラフマン(梵)に則るということではないか、と。
むろんこの言い方だと、天と私は二項立てになってはいるが、私を去ることが
すなわちそこからいなくなるというより、天との一体化を言っているのではないか、と。
私の位置が天というところへ移動するというより、渾然一体化することではないか、と。
漢籍に詳しい漱石が、老荘思想に影響を受けぬはずはなく、また仏教にも詳しかったの
だから、これは漱石流の「梵我一如」のことなのではないか、と。

家に着き、ドアを開け、居間に入る。
沙桜を寝かしつけて、そこで本を読んでいた花乃里がきつい表情で
十三に一瞥をくれる。

「なあ、花乃里。What's our fuss about?」

十三が言う。

花乃里は怪訝な顔をして、

「あーた、何言ってんの」

と言う。

「How have we been? もうやめよう。」

「何を。」

「こういう状態。アホくさい。」

「あなた次第でしょう。」

「うん、だから。俺は漱石先生に負けない英文学者になる。」

「はあ?」

「則天去私だよ。」

「何言ってんの。」

「おいで。」

夜は更けていった。


<つづく>






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原発性アルトステラレン症

この頃「一般の記事」を書く気がしなくなっているんですね。
「蹉跌」ばっかりで、それを期待していない方には申し訳ないのですが。

なんというか、もう、今の国内・海外状況にうんざりしてしまっているのです。
もう枚挙に暇がないほどに理不尽なことばっかりで、それも立て続けで、
今日なんかは佐賀の玄海原発再稼働容認とかのニュースもベタ記事で、
いったい本当にあの騒ぎはなんだったのか、とKOされました。
そして原発はヤバイという民意も相当あるのに、我関せずで現政権と立地自治体が
どんどんなし崩しに再稼働ラッシュです。

幸運の<げんかい>まで薄氷を踏み続けたくなる人間の<さが>ですかね。
それで氷が割れて、落ちて、「ああ、やっぱダメだったか」って。
こういうのを「原発性アルトステラレン症」っていうんですかね。
血圧上がりそうです。


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蹉跌集め II-12 [小説]

12

光と幸嗣は和泉多摩川の駅を降り、土手道へダッシュして向かう。
電車の到着が相当に遅れたのだ。相模大野駅で「人身事故」があったというのだ。
もう小田急だけでも今年何件めの「人身事故」だろうか。

「ひゃあ、あと1分もないぞ!」

幸嗣が叫ぶ。

「場所は俺が住んでたアパートの前辺りだ。あと300メートル!」

光が応える。

なんとか間に合って到着し、二人はゼイゼイ息を切らす。
気づくと、虫の音が聞こえている。
か細い声だが、気分を落ち着かせてくれる。

「なんか、呪文とか要るのか?」

幸嗣が訊く。

「どうだろうな・・・。ああ、一番いい<呪文>がある。」

「?」

「悠奈、悠奈、佐藤悠奈の友人です!木野先生、できればお出ましを!」

「お前、選挙カーのウグイス嬢じゃないんだから。」

幸嗣が笑って言うと、

「困った人たちだね」

という声が草むらから聞こえる。

「え?木野先生、どちらですか?」

光が尋ねる。

「今回はコオロギになってみたよ。」

「ええッ!今回って?」

「前回悠奈ちゃんと逢ったときは、月にかかる群雲になって出た。」

「そ、そうなんですか。」

光はタジタジとなっている。

「で、なじょした。」

「は?」

「ハハ、いやね、今サンフランシスコのMNEMO君のところに居てね。
彼、同郷のナースさんと會津弁で話していたもんだから。」

光と幸嗣は面くらっている。木野先生はこんなキャラなのか。

「というか、君らが私を訪ねた理由は知っているけれどもね。」

「・・・では、お答えくださいますか。」

「私だって世界に平和をもたらす術を知っていたら、とっくにそれを発揮していたよ。
仏はむろん滅諦ということを説いて、苦の原因の欲望こそを滅ぼせと言っているし、
それに尽きてしまうんだよ。でも、そんなこと、人類全員ができるはずもない。
私だって、欲の完全消滅になど、まったく達し得なかったよ。」

「では、仏法は無力ですか。」

幸嗣が問う。

「いいや、アヒンサー、すなわち殺生戒はどの宗教にも負けない教えだ。
さらに常不軽(じょうふきょう)、常に他を軽んじないこと。」

「おお!」

法華の幸嗣は歓声をあげる。

「しかし、最も大事なことは・・・フリリリリ。」

「?」

「す、すまん。コオロギになりきってしまった。」

「・・・。」

「最も大事なのは、やはり、色即是空をみなに知らしめることではないかな。」

「般若心経ですか。」

幸嗣が体を乗り出すようにして訊く。

「いや、般若心経は短いとは云え、むずかしい。万人に訴えるというには、ね。
だからそのエッセンスである色即是空だよ。」

「その御心は?」

「私は学徒動員で工兵将校となって中国にいた。敗戦となって中国軍と戦後処理の交渉を
していたんだが、私の上司の少佐が実にどうにもならぬ男で、兵団長の命令を無視し、
違背する命令を下したがゆえに私の部下を含む将兵たちが中国軍に殲滅されてしまう
危機に陥ったのだ。私は彼を赦せず、殺してやると日本刀を抜き身にして彼のところへ
走って行った。その途中、日本人のおばあさんが、私を怖がらず、道を塞ぐようにして、
『どこのお方か知らんが、恐ろしいことや』と言ったのだよ。
私は電撃をくらったようになって、立ち尽くし、青菜に塩のようになって兵舎へ帰った。」

「・・・。」

「私の広島の家族はもうそのときほとんど全滅していた。広島壊滅の噂はもちろん
聞いていたし、それが原子爆弾によるものだということも知っていた。
私の自暴自棄はある意味当然だった。」

光と幸嗣は何も言えないままに項垂れて聴いているのだった。

「もう、どんなことを私がしようが、どうでもいいのだよ。待っている人はいない。
そしてさらに無益な死をもたらそうとした上司を袈裟懸けに斬って、私も死のうが、
あるいは捕らえられ死刑になろうが、そんなことはもうどうでもよかったんだね。

しかしそのおばあさんの一言が天の声だった、本当にね。
アヒンサーだ、常不軽だとそれまで学んで唱えてきても、この様だ、と。

そのとき私の頭の中で、物は空であるという教えが、色即是空の四字がグワーッと
浮かび上がったんだよ。東大に戻って、原子核物理のことも囓ってね。
色即是空というのを仏教学としても、物理学としても学ぼうとした。

湯川秀樹博士が、昭和24年ノーベル物理学賞をとった。陽子と中性子を結びつける
『核力』について、彼は『中間子』の存在を予言し、それが証明されたことによる
受賞だったんだよ。しかし彼はそれで終わらなかった。素粒子の奥底を見ようとした。
『点ではない点』とか『拡がりのある点』とかということばも生み出した。

やはりノーベル物理学賞をとった南部陽一郎博士が後に色即是空のことを書いた。
物質の究極は『空』だと。湯川博士が、『素粒子の奥にあるものが、さまざまな素粒子に
分化する前の、まだ未分化な何物かであるのかもしれないと思った。それはいままでに
知った言葉でいうならば、渾沌というものであろうかと思った』と言われていたが、
それが後の実験で、<陽子を壊すと素粒子が飛び出し、クルクルとダンスをして消える>
ということの予言なんだよ。

物質の素は虚空に消えてしまうんだ。なくなってしまう。つまり、逆に言うと、
<ないもの>から物質はー私たちはーできているってことさ。
John LennonはNowhere Manと言ったが、Nothing Manなんだよ。
男ばっかりじゃないが。

そのことを湯川博士は後にこう和歌にしたそうだ、中野正剛さんによるとね。

天地は逆旅なるかも 鳥も人も いづこより来て いづこにか去る

『渾沌』こそ『空』なのだね。老荘思想が大好きだった湯川博士らしいことだ。ハハハ。」

木野に笑われても、光と幸嗣はついていけなかった。
こんな話では般若心経全体解釈に劣らず難しい。

「湯川博士もね、東京生まれだが、紀伊田辺藩の儒学者の孫だし、和歌山人だよ。
うれしいことだ。」

「実は、先生、僕ら今まで下野紀党の末裔と話していたんですよ。」

幸嗣が言う。

「紀古佐美の子孫かな。君らに紀の匂いが移っているよ。だから今回は君らの
リクエストに応えようと思ったのさ・・・というのは冗談だが。」

悠奈の名前でひっかかったんでしょ、と光は言いたかったがグッと抑えて、

「じゃあ、トキちゃんのおかげかあ。なにしろ紀伊国(きのくに)つながりですね」

と言った。

「そうだね。悠奈ちゃんも熊野様の藤白鈴木氏の血が入っているし、なにしろ鈴木
九郎さんとの縁を強く感じているだろう。彼女が私とここで<波長>が合ったのも、
そのつながりだね。なにしろ私の長く勤めた職場も中野坂上に在ったしね。
もう少し早くあの辺りで会っていればよかった。」

「は?」

「とにかく、色即是空だよ。空無から生まれた物質、宇宙、生命なんだよ。
心臓にある虚空はアートマンと言い、その虚空が外界、宇宙全体という虚空、
すなわちブラフマンにつながっている、ないしは同じものなのだ。
これを梵我一如というのだ。

いいかい、空無なる物質でできた我々は、空無だからこそ宇宙とつながっている、
あるいは一体なんだよ。そのまさに気宇壮大な事実に向き合うこと、
色即是空の四字を広めること、それが鍵だろうね。

夜露が甘い。」

そう言って木野はフリリリリと一声鳴いていなくなった。


<つづく>




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久々のコメントうれし花月夜

久々のコメントを頂戴しました。
1,500,000 hitsを勝手に祝う記事に、「みかん母」様から。

ほんとにね、全然コメントをいただかない日々、悲しいものですよ。
もちろんメールとかではいただける方々がいますけれど、
やっぱり直接ここにコメントしていただけるとありがたいんです。
励みになるんです・・・

って書いてもきっとコメントはこないだろうなあ。
慣れちゃったけれども。


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蹉跌集め II-11 [小説]

11

それから光がトキに木野の話をした。
トキは「そんな甚だしい遠縁で、しかも東大印哲を出た偉い仏教者と共通点など
ちっともない」と言いながらも、爆撃で家族を殺された共通の境遇に再び涙した。

「どれほどお辛かったことでしょうね。」

トキはB定の食器を片付けながら言った。

「たとえば高畑勲さんの『火垂るの墓』なんかとても見られやしないのよ。
・・・あ、そうそう!高畑さんの相棒なのか知らないけれど、宮崎駿さん、あの宇都宮
空襲を体験してるってどっかで聞いたわ。あたしと同じで4歳だったって。」

「え、そうなんですか。」

光が驚く。

「『風立ちぬ』を語ってな、宮崎さんは宇都宮に在った宮崎航空興学工場長の
父のこと、いろいろ話しているよ。」

幸嗣が言った。

「欠陥品を造っても袖の下で検査官を買収し、馬力をごまかしたり、挙句、空襲で
自分らは当時は考えられないガソリン車で逃げられる身分で、しかも乗せてくれと
懇願する母子を振り切ったこととか。」

「そうなんだ。」

光は深く考え込む。

「高畑さんも宮崎さんも、幼かったとは云え、戦中派だろ。」

幸嗣が言う。

「その人たちの生々しい戦争への思いがアニメ映像化しているし、多くの人がそれを
見たことは本当に貴いことだと思う。体験した人だからこその表現があるから、
後に生まれた日本人アニメーターはそこでは匹敵しようがない。
でも、その表現の<仕方>はそこで受け継がれる。そして<思い>も。」

「そうだな。」

光が言う。

「司馬遼太郎は戦車兵で、本土決戦で道に避難民が溢れたらどうするのかと参謀将校に
訊いた。するとその将校が『轢っ殺して行け』と言ったんだそうだ。結局そういうことに
なってしまうんだ。戦争は狂気のなせることだから、その渦中ではなにもおかしなことは
なくなってしまうし、さらに、後に回顧しても<しかたがなかった>っていうことに
なってしまうんだ。」

「そうだ。そして戦後世代がほとんどになった今、平和の大切さ、戦争の愚かさを
訴えると、MNEMOさんみたいに撃たれてしまう。」

幸嗣が言う。

「なあー」

光が言う。

「これから木野先生に会いに行かないか。」

「え?多摩川へか?」

「ああ。悠奈に聞いたよ、12時に行くと会えるかもって。もちろん先生が会って下さる
つもりがあればだけれど。」

「そうか。で何を訊くんだ。」

「俺たちみたいな若い俗物が、どうすればこの世を変えられるかって。」

「青いな。でも、そういうことでしかないよな。このままでいいはずがない。
世界が暴発の危機に確実に陥っている今だもんな。」

トキは二人の会話を聴いていて、うれしそうに頷いていた。


<つづく>




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蹉跌集め II-10 [小説]

10

DSC02393.jpg


もうとっくに日は暮れていた。
英語学の教授である十三は尼寺の前で、やはりHamletのセリフを憶い出していた。

「There are more things in heaven and earth, Horatio.
Than are dreamt of in your philosophy.」

天と地には、ホレイショ、哲学などというものも夢想だにしないほど多くの物事が
あるのだよ、ということだ。
この一節が、華厳の滝に身を投げた一高生で漱石に叱咤されたという藤村操に
「ホレーショの哲學竟(つい)に何等のオーソリチィーを價するものぞ」と言わしめた。
ところがこの「ホレーショの哲學」というのが誤りで、
「your」を「お前の=ホレーショの」ととるべきものではなかった。
「かの、俗世間(お前らが)いうところの」という侮りを込めた「一般論のyour」なのだ。

「まったく、曰く不可解だ。」

十三はそう言って、<独り相撲>の悲惨をかみしめた。

「もしかすると、『K』のモデルにもなったか、藤村操は。」

『草枕』で漱石は、「(藤村は)美の一字のために、捨つべからざる命を捨てたるものと
思う」と言い、「死その物の壮烈をだに体し得ざるものが、如何にして藤村子の所業を
嗤い得べき」と言った。「美」を「道」とすれば、『こゝろ』のKのことではないか、と。

「美や道のための独り相撲をとり続け、敢えなく自死する者かー」

十三はあらためてShakespeareや漱石の深さに震撼するのだった。




日光・二荒山=男体山でめいめい独り相撲をとった光と幸嗣は、同じ頃八幡山にいた。
幸嗣がトキを光に紹介したいからと招いたのだ。

「トキちゃん、こちら有馬光、俺のバンドメートなんだ。」

幸嗣がテーブルに座るや、トキに告げた。

「あらま、そうなの。初めまして、斎藤トキです。コウさんとはもう4年くらいかな、
ずっとご贔屓にしてもらっていてね。」

「初めまして。有馬です。今日は幸嗣がどうしてもトキさんにお会いしろって。」

「なんだ、ここのおいしいB定食を食わせたいってんじゃないのかい。」

厨房からマスターが声をかけた。
一同は笑った。幸嗣が、

「ごめん、マスター。もちろんB定を勧めたし、マスターにもお会いしろって
言っていたんだから、勘弁して。で、そのB定2つ、お願いします」

と言う。

「はいよ、<ついでの>マスターが<ついでの>B定作るよ!」

マスターがさらに戯けた。

「トキちゃんは知足の人なんだよ。」

幸嗣が言う。

「知足か。大事だよな。特に俺と幸嗣には。」

「ほんとだ。」

「どうしたの、そんなこと言って!」

トキが照れながら水を持ってきた。

「あ、トキちゃん、ビールを。今日は大瓶で、グラス2つ。」

幸嗣が注文する。

「はいよ。」

トキが用意をしていると、幸嗣たちが日光の話をしているのが聞こえた。

「あらコウさんたち、日光行ったの?」

「うん。決闘しに。」

「何言ってんのよ。」

「ほんとなんだよ、トキちゃん。二人で男体山から転げて、中禅寺湖まで落ちた方が
負けっていう決闘さ。」

「まあ!それで二人とも途中でひっかかった。」

「そう、10メートルも転げず。」

トキは大笑いしながらビールとグラスを持ってきた。

「あたしね、コウさん。出身は宇都宮なのよ。」

「あ、栃木の。」

「そう。旧姓は益子っていうんだけどね。」

「え?なんか聞いたことあるな。」

光が言う。

「U字工事だろう。」

幸嗣が言う。

「違う、違う・・あ!藤熊さんに多摩川で偶然お会いしたとき、益子姓の話になったぞ。
確か、紀伊国造家の子孫で、下野紀党が益子を名乗ったって。」

「あら!よく知ってるわねぇ。征東将軍の紀古佐美の子孫だって。」

「紀古佐美って、確か、阿弖流為に散々やられた・・・。」

光が言うと、

「そうなのよぉ」

とトキが右手をヒョイと振って言った。

「それでも後に出世はしたみたいだから、そんなに咎められなかったみたいだけど。
まあ、都に戻ったんだから、きっと陸奥へ行く途中だか帰りだかの下野で土地の女に
手を出したんでしょ。それが益子の遠いご先祖ってわけよ。」

「そうなんだ。」

光と幸嗣は木野のことを当然憶い出していた。

「あたしね、歳がバレちゃうけど、昭和20年、忘れもしない7月12日、
宇都宮大空襲に遭ってるのよ、4歳のとき。」

「宇都宮でも空襲があったんだ。」

幸嗣が言う。

「何度もあって、7月12日のは最悪でね。もちろん東京大空襲とか、広島・長崎とは
比べ物にならないけれど、600人とかが殺されたわ。19年に中島製作所の工場が
できたのが大きかったわね。ほら、飛行機作る。」

「あー、中島製作所って『隼』とかの。」

「そうそう。あたしはその工場の近くの家にいてね。空襲警報が鳴って、
母と妹とで防空壕に入ろうとしたんだけれどね・・・。」

トキが嗚咽しだす。

「トキちゃん、いいんだよ、思い出さなくて。」

幸嗣がやさしく言う。光はハンカチを手渡そうとするが、トキはお辞儀しながら遠慮し、
エプロンの裾で涙を拭いた。

「防空壕に入る直前だったわ、焼夷弾が降ってきて、ヒューッていう音がしてね・・・
母が咄嗟に手をつないでいたあたしを民家と民家の間の狭い路地みたいなところへ
片手でグイッとすさまじい力を出して放り投げたのよ。」

「・・・。」

「その直後に焼夷弾が炸裂して、母とおんぶされていた妹が一瞬にして・・・。」

トキは再び嗚咽して、しばらく話せなくなった。
幸嗣はすでにもらい泣きしていた。光は下唇を噛んで、泣くのを堪えているようだった。

「トキ、ほら、B定上がったよ!」

マスターが声を掛ける。
トキはまたエプロンの裾で涙を拭って、

「は、はい!」

と返事をして厨房へ行く。

「木野先生もご親族のほとんどを広島の原爆で失ったんだよな。」

光が言う。

「いつまで経っても懲りないバカな生き物だな、人間ていうのは!」

幸嗣は怒りに震えながら、自分の無力を呪った。


<つづく>





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蹉跌集め II-9 [小説]

9

悠奈はなぜそんな歌が降りて来たのか分からなかった。
彼女はあの地蔵とその堂がどういう謂れであそこに建立されたかは知らない。
お地蔵様となった少女が悠奈に何を訴えたかったのかはそれでも自明だった。
無念の裡に命を絶たれる者の悲壮な生への執着なのだ。

この3次元世界で、肉体を持って生きることは、すなわち他の肉体や物との接触を
求めることに他ならない。空気や水、食物を体内に取り込まねばどうにもならない
のはもちろん、他の物に触れるということもなくてはならない。
この世で何にも触れずに生きている物など皆無だ。

その<触れる>ということができなくなることが死だ。
五感の中、触覚は際立っている。幽霊というものがこの世に出てくるなら、
それが求めているのは誰かに触れることに違いない。
しかし、音も出せるし姿も現せようが、誰かに触れることはできない。
肉体があれば、電子の作用で他のものとは決して<交われない>。
しかしその電子同士の反発こそが他のものとの接触、触れ合いであって、
たとえば清が言う最高の手当てはまさに<手当て>なのだ。
また愛の確認も、どんなに相手と渾然一体になりたくて強く強く抱き合っても、
その一体化に抗する電子同士の斥力こそが皮肉にも<愛の実感>を生み出すのだ。


悠奈は己の口について出てくる詩の続きに自分でも驚きながら歌うー

"Love is touch" ーSo John sang
I am the one to know what he meant
In 1980 when he got a bang
He managed to make his last lament

Feel me, love
Hold me
Let me feel you
Let me hold you
Until the very last moment of my life
Just before I become a 'point'

「愛は触れ合い」ーそうJohnは歌った
あたしには彼の意図がよくわかる
1980年彼が撃たれたときに
彼はかろうじて最後の哀歌を作った

僕に触れてくれ
抱きしめてくれ
君を感じさせてくれ
抱かせてくれ
我が人生のまさに終わりまで
僕が「点」になる間際まで


悠奈は体の火照りを抑えられなくなるようで、歌うのをやめて、
お地蔵様のところへ戻り手を合わせてから、すぐにマンションへ戻った。




十三はあの5月以来、花乃里とは険悪な関係になってしまっていた。
花乃里の疑心暗鬼は果てしなくなり、十三は心身ともに疲れ切っていた。

その日も十三が自分の部屋で音楽をかけると、花乃里がやってきて、

「あのお嬢さんの歌じゃないのね」

と蔑んだ顔で言うのだった。
十三はすでに自分の不貞を何度も詫びていたし、もう悠奈への思いは断ち切ったと
告げていたけれども、花乃里はまったく信じないのだ。
中野坂上の職場へ行っても、花乃里がいつ尾行してきているか分からない。
実際にそういうことはもう数度あった。

「ちょっと散歩に出てくる。」

十三が言うと、

「もう十月も半ば、これから夕暮れ時で寒くなる中ご苦労様ね」

と花乃里が皮肉たっぷりに応える。

「大丈夫よ、今日は追わないわ。沙桜(さおう=娘)のためにやることがあるから。」

十三は半ば絶望的な気持ちで家を出た。

伝通院のところまで来た。
『それから』の三千代が住み、また『こゝろ』の「先生」が「お嬢さん」と、
さらにKと暮らしたのがこの辺りという設定なのだ。

「漱石の小説は、概ね金とそして三角関係の話だ。」

十三は独りごちた。

「もう悠奈のことは本当に忘れたいのに、どうして花乃里は分かってくれないのだろう。
このままでは全く決着がつかない。『行人』のように、いっそ悠奈と俺に一夜を
過ごさせてくれたらいいんだ。それを『Hamlet』の国王やポローニアスのように
盗み聞きしたらいいんだ!

Go thy ways to a nunnery!」

十三がそう心の中で叫ぶと驚いたー

彼は伝通院の隣の法蔵院の前に立っていたのだ。
法蔵院は尼寺だ。


<つづく>





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首相や財務大臣も真っ青な秋田県知事の出自

秋田県知事は清和源氏・佐竹の殿様の血筋なんですね。戦国武将・佐竹義宣の血を引くと。
ただしある種の方々が尊ぶ「男系」ではないようです。佐竹と蘆名は縁が深いんです。
トーホグマンでその辺り、書きました。さらに佐竹は源義光の流れですから、
甲斐源氏とも血がつながります。また、伊達家とも血縁があります。

日本の「エライ」政治家サマには元首相のなんとかという人がおられますけれど、
その出世はここ百年とかのスパンでのこと。ちょいと格が違うなあ。

福島でも昔會津の殿様の血筋の方が県知事になったことがありましたが、
松平家というのは、どう遡っても戦国時代くらいですが、佐竹は平安時代末期に興り、
さらに清和源氏の初めまで辿れるからなあ。くりかえしますが、格が違うなあ。


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蹉跌集め II-8 [小説]

8

ある日MNEMOに見舞客が訪れた。McGuinnessの息子Patだった。
母を失ったというのに、MNEMOのケガのことばかり心配し、母の招きに応じた
ばかりに酷い目に遭ったことを詫びるのだった。

全くそんなことは当たらないとMNEMOは言い、来年の8月にもし反核集会があるなら
ぜひ出たいとまで言った。しかしPatは戸惑いながら、おそらく自分たちのような
市民団体では警備も十分にできないし、不測のことがまた起こってしまう可能性は
否定できないから、企画中止の方向だと言うのだった。

事件のビデオは拡散され、世界中多くの人々がこの反核集会存続を望んでくれているが、
今のアメリカではどんなことがあってもおかしくなく、ましてや、ナチやファシスタと
共に枢軸国として民主主義国家群の連合国を倒そうとした日本への原爆による鉄槌は
正当化されるに決まっているとする者がいまだ数多い中、銃社会のアメリカではこんな
ことが再び起こるのは確実だとすら思えるとまでPatは言った。

「I wouldn't be scared if I should be shot like my motherー」

とPatは言った。

「But I wouldn't be able to stand it if the people I invited to sing or
make a speech should experience such a horrible thing as you did.」

MNEMOはPatと熱く抱擁し合った。
Patは泣きながら、「But I'll never give up」と何度も言った。


Patが帰って、MNEMOは清に言うー

「実はね、Patが企画中止だって言って、ほっとした自分がいるよ。」

「・・・それでいいんですよ。」

清が応えたー
MNEMOの肩に<手当て>しながら。



東京では悠奈が永に電話で訴えていた。

「ねえ、とこちゃん、MNEMOさん、SUBTLYに連帯しよう、ね。
あたしのデビュー・アルバムに急遽連帯の歌を入れようよ!」

「そうね。私もいい考えだと思うわ。でもシングルもアルバムはもう<完パケ>だからね。
どうしたらいいか・・・。」

永はしばらく考え込んだ。

「まずは、悠奈のYouTubeチャンネルに載せたらどう?」

「なるほど。正式リリースというかたちではなくてね。」

「そう。歌、作れる、できるだけ早く。」

「ええ。すぐにできると思うわ。」


悠奈はGaragebandを起動し、リズムを打ち込み、鍵盤を叩いた。
12弦ギターを重ね、そのデータをすぐにスマートフォンへ移し、多摩川へ出て行った。
そのカラオケを聴きながら、10月中旬とは云えまだ暖かい日差しが降り注ぐ中、
上流の方へと歩いて行く。

呼ばれているような感覚があって、狛江高校のグラウンド西端で小道へ入る。
十三が桜の散った頃に歩いた道だ。

悠奈はあのお地蔵様に出くわす。
突然ミレーの「オフェーリア」の絵が脳裏に浮かんできた。

1024px-John_Everett_Millais_-_Ophelia_-_Google_Art_Project.jpg


オフェーリアは花を摘んで、花輪をつくり、カワヤナギ(willow)の木の枝に
それを掛けようとする裡に枝が折れ小川へ落ちてしまう。それでも彼女は己の危険な
状態を感じることができず("incapable of her own distress")に、
服が<浮き>となって、人魚のように川面に漂いながら歌を歌い続けているのだ。

Her clothes spread wide,
And, mermaid-like, awhile they bore her up.

しかし、しまいには、

her garments, heavy with their drink,
Pull'd the poor wretch from her melodious lay,
to muddy death.

服は水を含み、歌を歌う哀れな人を泥塗れの死へと引き込むのだ。


ー悠奈は自分の運命かと一瞬思った。

Go thy ways to a nunnery.

愛するハムレットに「尼寺へ行け」と言われ、動転の極みに達したオフェーリア。
出生の秘密を露にも知らぬまま、ハムレットの突如の変心に喪神するような思いに
なるのだ。

悠奈はMNEMOのブログ記事を思い出す。

http://mnemosyneoforion.blog.so-net.ne.jp/2008-06-11

ヤナギの木ー
ヤナギが強風に吹かれると発する音が「ululate(狼のような悲愴な声で泣く)」という
英語の動詞が意味する音のようだという記述部分が浮かび、
また「sing the willow(失恋する)」という慣用句も口をつく。
狛江の多摩川の河川敷にも数本のカワヤナギが在って、
小田急線の電車が鉄橋を通る時に乗客の目にとても目立つ木立になっている。
その木の下、自分も初夏には涼みながら歌った。

悠奈はフラフラ川の土手へ戻って行き、石の階段を上って、反対側の階段を2、3段
下りて、腰を下ろし、多摩川に向かって歌い出した。

Ululation
That's the right word to describe
the way I'm crying now
Singing the willow
I just hope, no, I want, to survive
holding onto the broken bough

狼の遠吠え
あたしの今の泣きようを言うには
それがふさわしい
愛を失って
あたしはただ希む、いえ、欲する、生きたいと
折れた枝にしがみつきながら


<つづく>




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蹉跌集め II-7 [小説]

7

またあるとき、清とMNEMOは故郷の話をした。

「MNEMOさん、そうですね、二十年前くらいに、野沢の熊野様の辺りで写真を
撮っていらっしゃいませんでした?」

清が訊いた。

「え?随分古い話だなあ。そんなことがあっても全然不思議じゃないけど。
熊野様とかもそうだし、実は、良くないこととされているけれど、父方の祖父母の
墓の近くを撮影したりしたんだよね。熊野様の隣が墓地でしょう?
で、以前に<どっちも>写ったことがあって。」

「あらあ!」

清が少し呆れたように言った。

「それはあんまり良くない感じがしますね。なんだか直感的に。」

「うん。その後確かにロクでもないことが起こったよ。
まあ、そのせいかは知らないけど。」

「そのとき、ちっちゃな女の子と出会いませんでした?」

「えー、どうだろうね。ちょっと待って・・・。
あ!熊野様へ通じる鹿島坂の途中にチューリップが咲いてるところがあって、
すごく愛らしいもんだから撮ろうとして、そのときすぐ近くの保育所から帰るチビちゃんが
撮影するのを見てたな。」

「はい、そのチビちゃんが私です!」

「えぇ〜ッ!」

「私が植えたのよ、カワイイでしょって言いませんでした?」

「うん、言った、言った。お嬢ちゃんが植えたの?すばらしいねって僕も言って。」

「やっぱりMNEMOさんだったんですね。」

「ヒヤーッ!なんということだ。」

「私、もちろん幼かったけれど、私が母と植えたチューリップが自慢で、
でも他の人が愛でてくれているところに出くわさなくて不満だったんですね。
そしたら、長髪で口ひげのおじさん・・・おにいさんが写真を撮っているから、
とてもうれしくて。後で母に話したら、そんなことをする長髪・髭面って言ったら、
根本の息子じゃないかって。東京でミュージシャンやってるって。」

「まいったな、どうも。」

MNEMOは頭を掻いた。
すると清がしばらく気配を消したようにMNEMOは思った。
「どうした?」と思うと、

「その鹿島坂を挟んだところに、MNEMOさんのお父様のお墓が建てられましたね」

と清がそれまでの明るい口調をあらためて、一種厳かな声で言った。

「そうだね・・・。2012年の春のことだった。」

「そのお墓を兄弟で建てて、そして・・・。」

「そう。長兄が1年後にそこに入ることになってしまった。」

「ごめんなさいね、嫌な思い出だったら。」

「いいや、本当にそうだなってあらためて思うよ。」

「私の植えたチューリップは今も咲いていますよ。」

「うん、知ってる。この春お墓参りをした時、咲いてんの見て感激したよ。」

「もちろん、代は変わりましたけれどね・・・。」

清がしみじみと言って、「チューリップではないですけれど」と言って、
自分が持ってきたスイートピーを花瓶に生け始めた。

「香りがいいので。チューリップは匂いがないですものね。」

清が言った。

清らかな香りを鼻腔に吸い込みながら、MNEMOは、

「ああ、スイートピーと云えば、横寺町の民家の玄関先に咲いていたなあ」

と思った。

横寺町はMNEMOが1年だけ暮らした牛込箪笥町の北東方向の隣町だ。
ケンスキーの家が在る矢来町の東隣、むろん「漱石テリトリー」の範囲だ。
春、神楽坂の駅へ少し遠回りして行く時に数度匂いをかいだのだった。
MUZIKとの契約も解除になって、つらい時期だった。

マメ科の花の香りはとにかく懐かしい。
フジ、ハリエンジュ・・・。
後者はもう今や多摩川の「風薫る五月」を演出する植物だ。
日本のあの季節が待ち遠しいと思った。
視覚以外の感覚で、満喫したいと心から思った。


<つづく>




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蹉跌集め II-6 [小説]

6

MNEMOはある日病室でもう二度と何をも見ることができないことの意味を
考えていた。頭の中ではその美しさに賛嘆してきた光景が見える。
たとえば6月のザクロの花と葉のみごとなコントラスト。
朝夕の多摩川。
青い空と浮かぶ真っ白い綿雲。
九十九里の日没前、銀色に光り輝く遠くの波打ち際。
娘や友人たち、音楽の仲間たちの笑顔。

もう<リアルには>見ることができなくなったのだ。

もし自分が絵描きだったら、絶望的なことだった。
耳を撃ち抜かれていたら、それは脳を貫通するということだから、生きてはいなかった。
シンガーとして声帯と共に何より聴覚は生き残った。けれど、あとどのくらいであれ、
一生残ってくれるだろうか。不安になった。

Living is easy with eyes closed

John Lennonはそう歌った。
「目を閉じていれば、生きていることは容易い。」
いろいろなことが見えてしまうことで乱される心の平安というのは確かにあろう。
嫌なこと、都合の悪いこと、無関心なことを見ずに済めば確かに心安らかなことだ。
しかし「目を閉じている」ということは<開ける>時があるのが前提だ。
自分はもう永久に目を開けることはできなくなったのだ。

「俺にとって歌は本当に頭の中でのことになった。」

MNEMOはそう思った。
外界とつながっているという実感は第一義的に視覚を通じて得られるものだ。
むろん他の4つの感覚も重要だけれども、視覚ほど明らかなものはない。
なにより「明らか」という言葉は視覚あってこそのものではないか。
歌はつながろうとする営為だと信じてきた。
そのつながりを明らかには実感できなくなったのだ。

「歌で他者に想像力を喚起させたい自分こそ、ほぼ想像力のみで歌をつくり、
歌うのだ。」

これから生涯ずっと暗闇の中で過ごす自分は、光届かぬ深海や洞窟の奥底に生きる
ものたちと同じようでしかし違う。なぜならその生き物たちは決して光ある世界へは
出てこないのだから。自分は光ある世界で、現に光溢れるときに、暗闇にいるのだ。
そして厄介なことに、その光溢れる世界の記憶がある。それは慕わしく、しかし、
自分を絶望的な気持ちにもさせるだろう。

思いに耽り、そして塞ぎ込むようになったMNEMOを小梅屋清は懸命に励ました。
いや、無用な励ましなどかえって逆効果であることを清は十分心得ている。
絶妙なタイミングでこの歌うたいの歌への意欲をかきたてるのだ。

たとえばこんな瞬間があったー

「看護師さんはangelだね。」

MNEMOがある時言ったのだ。

「う〜ん、まあ、白衣の天使とか言われますよね。でも看護師だって生身の人間
ですから。エンジェルを演じる、なんですよ、真相は。」

MNEMOは笑う。

「うまいことを言うね、小梅屋さん。それでも人を救い世話する仕事を志しただけで
大尊敬だよ、常人には。」

「もちろん立派な看護師はいます。けれどみんながみんなそうであるわけでもないの
です。これはどんな職業でも同じでしょう。私だって、どれほどprofessionalであるか、
問われたら自信がないところがあります。」

「たとえば?」

「患者様に寄り添うということ自体にです。これは医師や看護師の当然とされる態度
ですけれど、その寄り添い方っていうのは千差万別なんです。患者様によって、
本当に違ってしまう。アプローチが適当かどうかを自己判断するのは本当に至難な
ことなんです。」

「ああ。なるほど。」

「たとえば本当の意味の絶望を感じている患者様がいらっしゃいます。
余命3ヶ月とかと宣告されてしまった方とかです。これ以上の絶望はないでしょうね。
人間は自分の将来に可変性や可塑性があると信じられるから生きていけます。
それが断たれた状態がずばり本当の意味の絶望です。」

「ええ。」

「絶望した患者様にどう接するのか。看護師はそのとき自分の人間力のすべてを
問われてしまいます。真剣に寄り添うと言っても、その方と一緒に泣けばいいという
ようなことでもないし、天国のこと、極楽のことを語ればいいというのでもない。
かと言って、適当に突き放すとかっていうのも、その程度の問題があります。
いったい看護師はどこまで患者様の絶望に立ち入っていけばいいのか。
多くの経験談はあっても、自分が目の前にする患者様は別人なのですから。」

「うん。」

「知ったようなことは言わないんです、まず。<ただ>懸命に最後までその方の
未来の可能性を信じてやれることをする。そのときその方にその思いを言うことは
ありません。その方が号泣されれば、ただ<手当て>をします。背中や肩に。
言語は要りません。むしろあってはいけないと思うくらいです。」


MNEMOはこのやりとりで、言語・ことばとは一体何なのかを考え出した。
ある者へどんな前向きな言葉、励ましの言葉もむしろ吐かれてはいけない時とはー

歌音楽を当たり前にやってきた「シンガー」のMNEMOには衝撃的な話だった。

どんな感動的な歌も、背中や肩への<手当て>に及ばないー
そのとき絶望する者にとって触覚と温熱を感じる感覚にまさるものはないという事実!


またあるとき、小梅屋は臨終のときの話もしてくれた。
よく言われることだが、聴覚が一番最後まで残る感覚だということだ。
それはMNEMOにも実際の体験があった。父方の祖母が、酸素マスクをつけて、
もう臨終直前の状態にあったとき、彼は兄と東京から駆けつけた。
付き添っていた叔母は「もう意識はない」と言ったのにもかかわらず、
彼と兄が耳元で自分たちの名を告げると、祖母は荒い呼吸を突如止めて、
目は開けぬままだったが、ニッコリと笑ったのだった。
そのときのことが思い出されて、MNEMOは嗚咽した。

「そうなんです。そういうことを何度目にしてきたかしれません。」

清は言った。

「そのとき、臨終間際の方にとっては言葉を発している人間の名だけで十分なのです。
他のことばは要らない。そしてやはり触覚です。きっとそれも起動しています。
手を握ってくれているという感覚、あたたかさ、そして名を告げるときに吐かれる
息のあたたかさ、呼気のぬくもりと湿り気ー きっとみな感じています。」

MNEMOは深く感じ入ったのだった。


<つづく>




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1,500,000アクセス達成!

みなさまのおかげをもちまして、2006年10月開設以来、

1,500,000 hits 達成となりました!

\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/

10年半の歩みでございました。
こんな無名の男のブログですが、歩み続ければなんとかここまで来るんですね。
え?ある人なら1日で達成する?

そんな人と比較しても。

K、祝杯だ・・・え、忙しい?

じゃあ、2,000,000のとき・・・このペースだと3、4年後あたりか。
生きてるかな。


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蹉跌集め II-5 [小説]

5

次にケンスキーの手紙が読まれ、そこには芳樹と周平の見舞いの言葉もあった。
また聖古も「神はあなたと共におわします」との言葉を託していた。

「もう一通あります。」

小梅屋が言った。

「MNEMOさん、光です。有馬光です。
おケガの具合はいかがですか。心からお見舞い申し上げます。

ニュースで知って、血の気が引きました。多摩川へ出て、MNEMOさんのケガの回復を
多摩川に祈りました。変な話ですが、MNEMOさんなら分かってくださるでしょう。

こんな折に書くべきことではないのですが、どうか聞いてください。

僕と幸嗣は今度は音吏部さんを巡って諍いとなり、決闘もしました。
お聞き及びかもしれません。周平は僕らの戦いを『早慶戦』ならぬ『早計戦』だと揶揄
しましたが、言い得て妙で、感心しました。

僕はずっとMNEMOさんが嫌いでした(すみません)。
なにしろ嫉妬からです。大先輩のあなたに嫉妬するのもおかしなことだと知って
いましたが、どうにもなりませんでした。僕はK大でそれなり勉強もし、
自分の詩人としての力も若いなりに自負するところがありました。
けれども、rockはやっぱり第一義的に女の子にモテたいという欲求の表れであり、
実践でした。内容が深そうな詩を書いても、それすらも結局それに欺される女の子を
渇望してのことでした。

むろんMNEMOさんもそういう時期を過ごされたと思います。つい最近までそうだったかも
しれません(失礼)。だから通過点としてしかたがないことと割り切る気持ちもあります。
けれど、MNEMOさんにお会いして以来、自分は女の子にモテたいということ以外の動機を
探るようになりました。しかしそれがどうしても偽善的に思えて苦しかったのです。
僕のような若者が、リビドー以外の動機をrockに見出せないことはむしろ自然で、
それ以上のことがあるとすれば、なんというか、分および年齢不相応で、何を書いても
衒学的なことになってしまう、snobbishになってしまう、と思えたのです。

僕は悠奈さんや永さんのような女性をファンにしたいと心から思いました。
具体的な目標です。もちろんそれで恋になったらすばらしいけれど、
それは今当面諦めて、僕の歳、経験、感性・知性で精一杯歌をつくりたいと思うのです。
まずは彼女らにすばらしい歌だと認めてもらいたい、と。
彼女らは薄っぺらなことでは決して欺されない耳を持っています。

僕も、歌は究極Peace & Loveそのものであり、またそれを歌うものだと知りました。
とことん知ったつもりです、幸嗣と死闘を繰り広げて。(笑)

決闘の場、日光二荒山からの眺めは最高でした。

曰く、『萬有の眞相は唯だ一言にして悉す、曰く「不可解」。
我この恨を懐いて煩悶、<それゆゑ>終に<生>を決するに至る。
既に<山頂>に立つに及んで、胸中何等の不安あるなし。
始めて知る、大なる悲觀は大なる樂觀に一致するを。』

どうぞ、ご自愛ください。
東京でまたお会いしましょう。
どうぞずっとこれからも僕らをご指導ください。

光より」


最後の方の文語体のものは日光の華厳の滝に身を投げた一高生・藤村操の
遺書のもじりだった。

「藤村は漱石の教え子でもあったんだよ。」

MNEMOが呟いた。

「『人生不可解、ゆゑにおもしろいぢやないか』ってか。やるな、光!」

MNEMOはうれしそうに言った。
小梅屋もニコニコとMNEMOを見つめていた。


<つづく>





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シリア滅裂

あべぴょん、トランプと数日前電話会談して、対北朝鮮へのアクションにつき、
トランプが「どんな手段も机上にある」と言ったとして、興奮の中、
「力強いお言葉をいただいた」と言いました。
私はそのインタビューを見た途端、本気でこの人は戦争やりたいんだなって思ったよ。
北東アジア・リシャッフルも辞さないってことよ。
おびただしい数の人が殺されるよ。
いいの?

いいわけないだろ!


*

そしてトランプの国際法上疑義があるシリア攻撃。
あそこはもうグッチャグッチャで、何が何だかわからない。
三つ巴に大国が関与しているからで、みな正義を言っているんだから。
そしてあべぴょん、また興奮を隠しながらも、トランプの判断を両手をあげて支持と。
ウラジミール(プーチン)は怒っているぞ。
それでいいの?
クリミア問題とかで西側に責められたプーチンと唯一「個人的親交」を温めたあべぴょん。
北方領土問題解決で歴史に名を残したくて最近がんばってほぼゼロ回答を引き出し、
自慢していたのに、それでいいの?
プーチン、北方領土に一層の軍備強化を図るぞ。
それでいいの?

あべぴょん、あなたの外交的な定見て何?
なにしろそれまでどんなことやっていても、アメリカがNoと言えばNoなのね?
それでOK?


ウラジミール ごめんね やっぱりDonが好き

Donが好き だってゴルフの 仲間だもん

外交の定見聞かれ 「その場主義」



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蹉跌集め II-4 [小説]

4

最初は永からの手紙だった。

「MNEMOさん、まずは心からお見舞い申し上げます。
日本でも小さな扱いではありましたが、『SF反核集会で発砲 主催者死亡、日本人
ミュージシャン重傷』と報道されました。第一報を偶々耳にし、私はすぐMNEMO
さんのことだと直感し、居ても立ってもいられなくなりました。

もちろん親族でもなんでもない私がSFへ向かうことなど僭越なことですから、
藤熊さんにこの手紙を託したのですが、目をケガされ、お読みになれないのですから、
音声にすべきだったかと後悔しております。身近な方にどうか代読していただきますよう。

T2aTの視聴回数が爆発的なものとなっており、メッセージもすさまじい
程の数が書き込まれています。激励、共感のことばばかりと言いたいところですが、
売名がうまくいってよかったな、などという卑劣なもの、それでも原爆投下は
正しかったというものも散見されます。

私はホムラーの社員としての可能性も探りますが、ひとりの人間として、
『日本人』として、どうSUBTLYのこれからに微力を尽くせるか、考え、行動していく
つもりです。・・・私がMNEMOさんの目になります。

どうぞくれぐれもご自愛なさいますように。
無事帰国される日を待っております。

音吏部 永」


次は悠奈からだ。

「MNEMOさん、本当にひどい仕打ちを受けられて、おいたわしくて、
私は毎日泣いております。反核を主張することで銃撃されてしまうというこの
<人類状況>に絶望したくなります。でも、ここで挫けてはならないと自分に
言い聞かせています、何度も何度もT2aTを聴きながら。

昨日は十二社へ帰って、熊野様、そして坂上へ行き成願寺にお参りしました。
今晩は木野先生、チロちゃん、そしてオリオンにもMNEMOさんへのご加護をお祈り
します。

神仏も、MNEMOさんを見守る御霊も、今回のことでは無力だったのでしょうか。
まさに『沈黙』のように、ただ黙っておられただけなのでしょうか。
人知では測り知れない意図というものが共有されているのでしょうか。
私は全く途方に暮れてしまいます。

でも、祈り続ける。
Peace & Loveが遍く達成された世界を想像し続ける。
そして歌い続ける。

私にはそれしかありません。
MNEMOさんがそうであるように。

どうぞお身体をおいたわりください。
ご帰国をお待ちしております。

悠奈」


MNEMOは唸り声を上げる。
小梅屋は目頭を押さえながら、手紙を封筒に入れる。
MNEMOの様子から小梅屋は次を読むのをしばらく控えた。

「次はー」

小梅屋が言うと、MNEMOは「まだあったの?」と意外そうに言った。

「ああ、ケンスキーくんか。」

「いいえ、次のは宮澤幸嗣という人です。」

「え?誰だっけ。」

「『RAJOY ギター』とありますが。」

「ああ、RAJOYのギタリストね。うれしいな。なんだって?」

「MNEMOさん、この度は本当にお気の毒な事態になってしまい、心からお見舞い
申し上げます。RAJOYのメンバーもみな衝撃を受けて、デビュー目前期ですが、
どんな作業も手につかない、気もそぞろというような有様です。

主義主張のためなら暴力も許されるという思想ー
これは私としては大きな大きなテーマであり続けました。少なくとも、反核、不戦を言う
人間に対して暴力を用いることの卑怯さには我慢なりません。無力な者、
無辜の民への攻撃もあってはならない。それはもう自明です。だから、僕はそういう
卑怯者を粉砕したくなる。けれど、それではそういう輩と同じになってしまうー
暴力で解決しようという点において。

僕はライフルではなくギターで彼らを粉砕する。
そう心の底から志しました。

MNEMOさんのおかげです。

どうぞご養生ください。

宮澤幸嗣 (RAJOY ギター)」

「ライフルでなく、ギターで、か。
イーグルスのGlenn Freyのようなことを言ってくれて。」

そう言ってまたMNEMOは嗚咽し始めた。


<つづく>



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蹉跌集め II-3 [小説]

3

MNEMOの退院は、追加の形成手術などがあり、傷口からの感染症の心配がなくなる
までということから一ヶ月後という見込みが示された。
そこで発見は一旦帰国するということになり、藤熊たちと一緒に帰国した。

盲目となったMNEMOはネットで「信州読書会」のコンテンツばかり聴いた。
キェルケゴール、漱石、ニーチェ、遠藤周作『沈黙』などなど、生きること、
死ぬことにまつわる思索にこれまで以上痛切に没頭した。

10月も半ばになっていた。

「Mr. Nemoto, how are you this morning?」

MNEMOは今までの看護師とは違う声を聞き取って、

「Desperate as yesterday.」

と答えつつ、

「You're new to me. And please don't be offended, but I'm detecting that
you're not a native speaker of English.」

と言った。その看護師の英語はネイティヴではないと。

「分かりましたか、やっぱり。」

看護師は、MNEMOの耳には明らかに笑いを含んだ声で言った。

「憶えていらっしゃいますか、私、小梅屋清(さやか)です。」

「え?こうめやさんて、俺の田舎、野沢のあのー」

「はい。MNEMOさんのお母様が會津若松の中竹総合病院に入院されていたときに
お世話させていただきました。実家は野沢の熊野神社近くのー」

「ええぇッ!な、なんでその小梅屋さんがここに?」

「渡部鼎医師、ご存じですよね。」

「もちろん。入院した日、Powell看護師にも言ったぐらいだよ、渡部医師はここ、
UCSFの医学部出たって。その人はこの辺にいるのかって聞くから、1932年に
亡くなっているって言ったらキョトンとしていたよ・・・見えなかったけど。
野口英世のことも知らなかったよ、Powellさん。」

小梅屋は快活に笑った。

「ごめんなさいね、まずはお見舞いのことばも言わぬままになっているのに笑ったり
して。本当にこの度はお気の毒なことでした。心からお見舞い申し上げます。」

「ありがとう。」

「それで、私がここにいる理由ですけれど、あと2ヶ月半ほどで2018年でしょう?
実は来年で渡部医師の生誕160年なんですね。」

「ああ、そうか。確か1858年だよね、生まれたの。」

「はい。それで、渡部医師の会陽医院の精神を継いでいると自負する中竹総合病院が、
記念事業としてUCSF Medical Centerに医師と看護師を派遣したんです。」

「ほう。」

「私、実は渡部医師の家とは親戚でして、そのこともあって選ばれちゃって。」

「なんとまあ・・・。熊野様のお導きだあ。」

「9月からこっちへ来ていたんですけれど、驚きましたー
MNEMOさんがケガされてここへ入院なさるなんて。」

MNEMOと小梅屋はこの後もかなりの時間話をした。

「ごめん、小梅屋さん。僕にこんなかかりきりなっちゃっちゃまずいよね。」

「いいえ、いいんです。所詮純然外様で、やることなんかほとんどないんです。
MNEMOさんへの看護、ちょうどいいじゃないかって看護部長にも言われて。
ほとんど専任で看護させていただきます。」

「そりゃ贅沢なことだなあ。」

「Powellさんの方がよろしかったなら申し訳ないんですが。」

「いやいや。目が見えないから、Powellさんがどんな容姿か知らないし。」

そう言ってMNEMOは笑った。

「なにしろ、どうぞよろしくお願いします。」

「こちらこそ。何か私ができることはありますか。」

「英語で言ってみて。」

「うわあ、意地悪ですね。えーと、Is there anything I can do for you?」

「おお、上手ですよ。Yes, there's one thing.」

「OK, what is it?」

「There're letters I haven't read yet...and I won't be able to read forever.」

小梅屋が悲しい顔をする。

「読んでくれますか?」


<つづく>




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Trump has done 'it'

みなさん、トランプがシリアの基地をミサイル攻撃しました。
アサド政権が化学兵器を使ったと断定して懲罰とのことです。
どうして断定できるのかは今のところどの記事を読んでもわかりません。

これはむろん北朝鮮へのギリギリの警告でもあります。
米中首脳会談が始まったタイミングというのも計算されたものです。

アサドの後ろ盾のプーチン、そしてイランがどうするのか全くわかりません。
北朝鮮のあの坊やもどう反応するか、まったく分かりません。

ひとつ言えることは、世界は不安定要素の度合いをもしかすると<相当深刻に>高めた、
ということです。


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あぐすぎ

今朝は(?)午前1時頃起床、「蹉跌」を書いて、腹が減って四時に「なか卯」へ。
カウンターに座っていると、湯気が出てきそうな若いカップルが対(とい)面に
腰をかける。ただし<かれし>の方はなんだか正に「草食系」な男の子で、
痩せぎすだった。

こんなことを書いてゲスな感じなのだけれどもー

そのカップルが注文をするや否や、互いに「スマホ」を取り出して、
自分の世界にいきなり入ってしまうのだ。本当にたまに「これ見て」というように
話しかけるが、料理が来るまでそんな感じなのだ。

むろんそれまでにたっぷりコミュニケーションをとっていたのではあろうけれど、
私はなんだか解せないなあと思ってチラチラと二人を見ていた。

昔、「スマホ」などというものがなかった頃、こういう時刻のこういうカップルは
どうだったかな、と考え出した。むろん自分のことを棚にあげる必要はないが、
私の青春時代なんてケータイすらなかったのだ。二段階(?)も昔日のことを遡って
考えるのもなかなか間遠すぎる感じがしたのだ。

ケータイ時代にもメールなどはあったから、やはり見入ることもあったろうけれど、
しかし、これほど熱中してしまうというのは、ゲームでもやり始めない限りは
なかったことだろう。大体<そういう折>にゲームをし出してしまうカップルって、
あまりにも悲しいではないか。

昔のカップルなら、テーブル下で手でもつないで、メニューの話をしたり、
周辺の店の話とかをしたりしたろう。中には見つめ合ってしまって、対面の客の目の
遣り場がなくなってしまうなんてこともあったろう。そういう目には遭いたくないが、
それでも<会話なし、自分の「スマホ」を見つめまくる>カップルよりは好ましい。

こういう「アフターグロウ後スマホ凝視カップル」にはついていけないなあ、
と私は思った。これを「アグスギカップル」と命名しようと思いつつ。
こういうことを平気でする人間を「あぐすぎだ」と新しい形容動詞で呼ぼうとも。



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