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2017 弥生短信 3

Mooさんがホームページのフロントに私の小説ふたつの入り口を設けて
くださいました。感謝に堪えません。

*

明日は仲間たちと「克己會」発足記念大会です。
大袈裟な言い方ですが、要するに飲み会です。
都心とは逆方向のあるところで、秋田料理をいただきます。
ここは福島県川内村の蕎麦を使って二本松の酒造会社がそれをビールにした「蕎」
というものが飲める首都圏唯一の酒場なのです。二本松は我が根本家発祥の地です。
それが何より私にはうれしくてここを選んだのです。
治雄ちゃんやKは埼玉からわざわざ来てくれます。
すばらしい会になると確信しております。


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蹉跌集め -53- [小説]

53

「平和も歌ってほしいよ、悠奈ちゃん。」

薗畠が続けた。

「僕は長崎の人間だ。終戦時僕は4歳くらいだったけれど、佐世保っていう軍港に
育ったろう、すでに軍国少年だった。戦艦ごっこをすでにやってた。
ある日母が泣いている。どうしたのって訊くと、長崎のじいちゃんばあちゃんたちが爆弾で
やられてしまった、もう長崎には行けなくなったって言うんだね。よく憶えている。
母が泣くのを見るのは初めてだったからね。

戦後、少年になってからは反動でアメリカ音楽にのめり込んでいった。ジャズだね。
そしてプレスリーだ。僕もリーゼントをキメて、W大の頃は勉強そっちのけ、
東京のジャズ喫茶やライブハウスの草創期に関わった。ビートルズが出てきた頃だ。

ポップスはね、本当に平和と一体だ。その平和が失われそうになった時、僕らや少し下の
団塊の世代たちで団結して平和の歌を歌った。僕はゲバんなかったよ、もちろん。
東京の音楽にのめり込む不良学生たちは不良なりに平和を希求したんだ。」

「MNEMOさんが言っておられました。自分は反戦・反核・反原発をそのものズバリで
歌う気はないと。詩歌はプロパガンダじゃないと。」

悠奈が言った。

「そうだね。」

薗畠が首肯した。

「Read between the linesっていうのに堪えられてこそ詩歌だ。」

悠奈は光のForget It Allを思い出した。

「その行間にあるのが、ナルシシズムや性欲や功名心とかだったら最悪ですね。」

悠奈のことばに薗畠も藤熊もドッキリする。

「それでは詩歌とは言えません。」

悠奈は虚空を凝視しながら言った。




JAPPSは幸嗣書き下ろしのScales of Desireのリハに入っていた。

Scales of desire
Come off one by one
Scales of desire
Oh, what have you done?

My inside hurts
So badly I can't stand it
My inside hurts
But you don't care a bit

光が自分でつけた詞を歌う。

「ごめん。」

曲が終わってすぐにケンスキーが言った。

「怨念がこもってていいとは思うんだけどさ、なんか失恋組曲だよね、
前のと合わせて。」

光と幸嗣が憮然とした表情になる。

「いや、それ狙うっていうんならそれはそれなんだけどさ。音楽ジャンル的な対照って
いうことなら、そうなっているんだけど、詩の世界としてもコントラストがあったら
いいんじゃねぇって思ってさ。」

「例えば?」

光が憮然としたまま訊く。

「いや、それを示すのは俺にはむずかしんだけど。失恋の歌2連発って、JAPPSとして
それでいいのかっていうのはあるよ。むろんアルバム単位とかなら大アリだと思うけど。
デモの2曲でしょ。どっちも失恋の歌っていうのは・・・。」

「そうだな、考えてみれば。」

芳樹が言った。

「俺らのバンドとしてのモチーフは恋ばかりじゃないだろう。」

「あのさー」

周平が声を上げた。

「なんか、JAPPSってEagles化してねぇ?」

「え?」

みんながキョトンとする。

「Eaglesってさ、リンダ・ロンシュタットっていう女性シンガーのバックやってたの。
んで、みんなそのリンダに恋しちまってさ。Witchy WomanだのNightingaleだのって
歌作ってさ、みんなでリンダのこと思いながら演奏したんだよね〜。」

みんなは黙ったままだ。

「どこまで彼らのひとりひとりがリンダと発展したか知らないけど、
みんなリンダに気に入られようって必死だったはずだよ。
まるで極楽鳥のオスの求愛ダンスみたいなもんさ。でもリンダは結局カリフォルニア州
選出だったかの民主党上院議員と恋するんだな、これが。」

沈黙がいっそう深くなる。

「俺もさ、悠奈のこと嫌いなはずないよ。あんな才能があってかわいくてきれいな子が
そばにいたら誰だって意識するし、恋もするよな。JAPPSでの存在感を競って、
悠奈にアピールしたいっていう気持ちは誰にもあったでしょ?あったでしょ?」

芳樹とケンスキーが素直に頷く。

「それってバンドの技量発展にはいいことだよ、確かに。でもさ、悠奈に囚われ過ぎては
いけないってことだよな、ケンスキーが言いたいのは。」

周平はそう言って、スティックをクルクルクルッと回した。

「悠奈にアピールすんのやめようよって言うんじゃないんだ。」

ケンスキーが言った。

「でも悠奈モチーフっていうの、ベタ過ぎてさ。2曲カップリングすることもないよ。
幸嗣の曲なら、それこそ宮澤賢治世界を翻案した歌詞とかさ、あるじゃん。」

「トキちゃんそのものの歌でもいいんでないかい?」

周平がおどけて言った。

「古希のトキ ときめくとき 過ぎ去りてー なんてな。」

幸嗣がムッとして、

「だからそのトキちゃんの『欲望の鱗』ってのをもらったんじゃないか!」

「でも、それってトキちゃんの老いの境地でしょ?」

ケンスキーが言った。

「知足のことなんでしょ。なにも悠奈の歌にしなくたって。」

光が下を向いてしまう。

「な。違うこと歌おうよ。世界を目指すんだろ、俺ら。恋の歌もいいよ、もちろん。
でもさ、それだけじゃないじゃん。MNEMOさんらSUBTLYとジョイントすんだろ。
別にMNEMOさんらの反戦・反核・反原発に合わせようとかじゃなくて、
俺らなりの平和のメッセージってありうるんじゃないの?」

JAPPSはその日のリハをその後早々に切り上げて、互いに2曲めをどうするか考えて
くることを「宿題」にした。


<つづく>




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蹉跌集め -52-

52

「既存の売り出し方はしないよ、悠奈ちゃん。」

薗畠が言った。

「あなたの言語フリーな姿勢をも理解してウチはあなたをやるってこと。
このインターネット時代に日本語に固執するのはかえって愚かな選択肢になりうる。
CDとかのメディアの時代ではもはやないのはとっくのとうに分かっている。
いかにネットで視聴してもらうか、ということだ。そうなれば、世界を相手にするのは、
ネットがそうなのだから当たり前、そのときmultilingualismが武器になる。」

悠奈は大学の大先輩の言に胸が躍った。

「ヴィジュアルが音楽に劣らず大事になる。まずあなたは美しい。大変なメリットだ。
ただきれいなだけでなく、感性と知性の奥深さが伴った美だ。本当の音楽を求める
層には、まずシンガーのたたずまいからそれを嗅ぎ取る。あなたは十分その芳香を
放っている。そして、声、詩の外面を裏切らない深さ、叙情性。これもあなたには
しっかりある。楽曲的なインパクトー 12弦ギター1本というシンプルさが基本というのも
大きな売りになりうる。もちろんすべての楽曲で12弦ギター1本ということではないに
せよ、悠奈=12弦ギターというのは、今までにないtrademarkになる。」

藤熊がしきりに頷いている。にこやかだ。薗畠と事前に話し合っていたのだろう。

「そして、何を歌うかだ。恋の歌は欠かせない。僕が1音楽ファンとしてなら、
偏見とか差別とかではなく、女性シンガーには恋をまずは歌ってほしい。恋は人間の
本質部分のことだ。恋は人間が声を出せるようになって以来の歌の源泉だ。
君の恋の歌にファンたちがあるときは吐息で、あるときは涙で、あるときは笑顔で
反応する。君が現にしている、あるいはしてきた恋そのものを想像するんだ。」

悠奈は唾を嚥下する。

「今の世、ヴァーチャルな女性シンガーでも同じようなことができてしまう。
ヴァーチャルな女性に恋焦がれてしまう者など今や珍しくない。
制作者側の大フィクションに喜んでノセられる。ヴァーチャルがリアルと境界を
なくしてしまうようなことだ。しかし、ヴァーチャルは絶対にリアルには敵わない。
感覚というのは視覚と聴覚だけではない。その他の嗅覚や味覚、そして触覚を
視覚聴覚で想像するしかない。その図式自体は、リアルなシンガーについても同じだ
けれど、しかし、生身のシンガーが日々どこかで暮らし、誰かと付き合い、
だれかに恋をし、笑ったり泣いたり、何かに憤ったり、心打たれたりしているという
事実は決定的だ。ヴァーチャル歌手には絶対にないことだ。そのリアルな生活の中、
そのシンガーはファンのfive sensesにリアルに訴えるんだ。」

薗畠は長広舌になったと詫びながら、焼酎のお湯割りをお代わりした。

「悠奈ちゃんの生身・・・いやらしいことを言うようだけれど、3次元の悠奈ちゃんが
ファンたちにそのres extensa(延長)を常に感じさせていくんだよ。」

「Descarte(デカルト)ですね。」

悠奈が言った。

「そう。あなたというres extensaがいつも動き、いつも<人間している>ことを。
それはまず恋だろう。恋している悠奈を感じさせる音楽とヴィジュアルが欲しいんだ。
いや、手に入れるんだ。」

「私は恋に恋している段階です。」

悠奈があっさり言った。

「まだ子どもなんです。私は恋多き女だって、ある人に言われました。でもそれはいつも
幻想なんです。恋は今までいつも幻想でした。私のTwelve Times a Yearも、想像です。
触発される出来事はありました。けれど、恋に恋する女の歌にとどまっています。」

「それはそれでいんだよ。」

藤熊が言う。

「その恋がリアルになる時をシンガーが焦がれ、歌い、男のファンは悠奈ワールドに
自分こそその恋の相手になるんだと<排他的に>没入する。女性ファンは共感する。」

「そうそう。」

薗畠が頷く。

「悠奈が本当の恋をする日を、悠奈が焦がれ、ファンたちも待望するー
いい図式だよね。」

「結局そんな恋は訪れなかったってなってもいいですね、ずっと売れる。」

藤熊がふざけて言った。

「ひどい、藤熊さん!」

悠奈が笑いながら藤熊の脇腹を押した。
三人の哄笑の声が響いた。


<つづく>






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