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折り鶴の子

しかたがないですね。
「蹉跌」の最新章を書いて、Kにメール。
彼はたった一言、「忙しだー。」
私もそれならと「ほが。」
田舎言葉で「そうかい。」

からだ壊すなよ。

*

浪江町とか、避難指示解除・・・。
事実上、「あとは勝手にやれ」でしょ。

*

核兵器禁止条約の会議場、ボイコットの日本代表の席に折り鶴。
「Wish you were here」とかと書いてあった。
2歳で被爆し、十年後白血病で亡くなった「原爆の子」佐々木禎子ちゃんが泣いている。
本当に泣いている。

禎子さん、愚かな日本の今の政権の態度を改めさせるため、力を貸してください!

しかし、「原爆の子」とはなんというネーミングだろう。
簡素に言い過ぎて、問題だと思う。
「星の子どもたち」というカール・セイガンのフレーズはよい。
子どもたちは星から生まれたことを思わせるから。
「原爆の子」はどうだろう。
パラフレーズがむずかし過ぎる。
「の」が曖昧すぎるのだ。

禎子さんが生きていらしたら、そんな名前は嫌だときっと言われたろう。

「平和の子」、「核廃絶の子」、
あるいは「(平和の)折り鶴の子」とかに直すべきだ。

*

ちなみにKは「角ハイボールの爺」だ。



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蹉跌集め -76- [小説]

76

7月下旬のある日、SUBTLYは中野区のSomogumiへ呼ばれた。
YouTubeに上げるT2aTの動画ができたのだ。
藤熊ももちろん立会い、またたっての願いで悠奈も永も、さらにケンスキーも来た。

試写の前にSomoが言う。

「HenryさんがSUBTLYに加わってから、一変しましたね、音が。
当たり前と云えば当たり前、なにしろトリオがカルテットになったのですから。
それもSUBTLY待望のkeyboard playerの加入、そして無論無敵のviolin solo。
でもシナジーっていうのがありありですね。単なる3+1ではない。
カッコでその足し算を括って、累乗記号をつけたくなります。人数分の4とか。
4の4乗、256、単なる4の64倍の音楽的、詩的解像度が上がったと。」

「いやあ、いいこと言うなあ。」

MNEMOが賛嘆する。

「元々の3+1だって、普通のバンドの3+1とはワケが違う。あくまでSUBTLY界での
数ですからね。それがシナジーで64倍のスペック向上を成し遂げた。
私にとっても、さっき『音楽的、詩的解像度』と言いましたが、その向上で映像的にも
まさに解像度が上がったのです。

お待たせしました。公開させていただきます。

ただ、私たちの時間的、制作費的制約がどうしてもあったことは付け加えます。
その制約の中でどこまでcreativeになれるかを追求しました。
MNEMOさんが俳句をやられ、ブログでも『制約の中の自由』ということばで俳句の
真髄的な精神を語っておられましたが、まさにそういうことで作りました。
最小表現で最大効果を目指したのです。・・・では。」

Somoがスペース・キーを人差し指で軽く触れるように押した。
おそらく70インチを超える大スクリーン、そして高品質なオーディオ・システムで
それは再生された。

On August 6, 1945
On August 9, 1945
As planned, hundreds of thousands could not survive
Women and children were burned alive

コーラス(サビ)部分の映像のラッシュは凄絶なのだが、歌詞の内容をズバリ
映像化するのではなく、象徴的表現が駆使され、聴覚上の切迫感、無残さを
みごとに生かしながら視覚的に緩和する。

Fade-outに入ってから、曲の減衰とまるで逆に<あるもの>の映像が徐々に大きくなり、
また鮮明になっていくー その大きさと鮮明度が最大になったとき、フッとblack outする。

試写室は静まり返っている。
そしていつまで経ってもーそんな気がしたー みな無言を貫いている。

「フーッ!」

Henryが息を吹く。
試写室が明るくなる。

MNEMOは突っ伏している。
泣いているようだった。

「意図した通りだって言ったら失礼だろうけれどー」

とHenryは言った。

「Somoちゃん、俺がこの曲に入れた音が形を持ったー 絵になったよ。」

Somoは会心の笑みをたたえる。

MNEMOが顔を上げて、

「広島、長崎の原爆犠牲者の痛ましさに泣けたんだよ」

と言った。

「まず、それがすべてなんだよ、Somoちゃん、みんな。」

MNEMOはティッシュで洟をかんだ。

「ありがとう。みんなー

これほどの残酷さ、愚劣さを人間は持ちえてしまう。
初めて広島に行った時、1995年だったかー 俺は爆心地のホテルに泊まった。
真夜中に目が覚めて、ちょうど50年前に自分が横になっている空間もあの
地獄の火球の中に在ったんだと思って空恐ろしくなって、眠れぬままになった。

その広島で、数ヶ月後、FMラジオの番組をやらせていただくことになった。
ホムラーの肝入りだった。8月が近づいて、そのホムラーの新譜を見ていたら、
アメリカ人ギタリストがズバリHiroshimaというタイトルで鎮魂のアルバムを
出していた。俺は広島のホムラーでそのことを把握しているか、あるいは
そういうアルバムが自社から出ていることを認識しているかと思った。
広島のFM局の方はそんなアルバムは知らないとおっしゃった。
ホムラーの広島支社は、まったくそのアルバムに関する働きかけをしていない
ことが分かった。

俺は怒った。そして8月分の収録でそのHiroshimaをかけていただいた。
俺の反核の歌と一緒に。」

永は悲しげな顔で聴いている。

「3月に、日本政府は核兵器禁止条約に反対した。協議には出ると前日まで言って
いた外務大臣が、それすらも出ないと言った。その外務大臣は、なんと爆心地を
抱える選挙区の代表なんだ。

『世の中に生まれる悪の四分の三は、恐怖心から起きている』とニーチェは言った。
何を恐れているんだ。首相から疎まれる?次期政権を禅譲してもらえなくなる?
何を恐れているんだ。原爆で殺された人々は泣いているよ、まだそんな段階にしか
いないのか、人類は、そして日本人はと。

ニーチェのことば、彼の算数が正しいかどうかは知らない。
けれど、『四分の三』が正しいなら、その悪の原因の大部分を占める恐怖心には、
きっと憎悪が入るだろう。

当時のアメリカ軍の最高指導部は、望外に大統領の座に就いたトルーマンを出し抜く
かたちで原爆投下計画を<きっちり>進めたんだ。神風特攻とか、民間人が竹槍で
アメリカ軍に立ち向かうとかという常軌を逸した日本人に恐怖を抱き、
そして憎悪も感じた。

そしてその恐怖や憎悪は、無知が源なんだ。」

MNEMOは水分が足らなくなって、粟田のコーヒーを分けてもらう。

「Somoちゃん、Somogumiのみなさん、本当にありがとう!
SUBTLYの仲間よ、本当にありがとう!

ロクでもない人間の俺だが、たったひとつだけこの世に、シンガーとして残したい
メッセージは、どんなに常套句で陳腐だろうが、Peace & Loveしかない。
すべての藝術はそれしかないはずなんだ。

恐怖を乗り越えて、知ろうとしよう。
そして何かを一緒につくろう。

・・・以上、感謝のことばとします。」

試写室に拍手の音が鳴り響く。

「ほんとにロクでもねぇMNEMOだけれど、俺は、シンガーとして恐怖を乗り越え
一緒につくろうと皆に呼びかける<おめ>のことを誇りに思うぞ。」

粟田が言った。

「よせやい、気持ちわりぃ。」

MNEMOが笑って言った。


<つづく>




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蹉跌集め -75- [小説]

75

7月になった。
悠奈Junoのデビューは12月1日と決まった。
RAJOYのデビューは翌年1月5日だ。

すでに両者ともデビュー・アルバムの制作に入ったが、RAJOYの方はそれほど
潤沢な制作費があるわけではなかった。それでもケンスキーの「ラボ」で重ね録りが
できるものはして、なるべく経費節減をしつつも、納得できる音作りを目指した。

RAJOYには日本語の作詞家がついた。定評のある二浦徳与(にうら・のりよ)だ。
シンコペが好きなドラマーのような名前だが、なんの関係もない。
彼女は中年で、ガキは相手にしないという感じの女性であり、バンド内に騒動は
発生しない。光とのコラボもそれなりにうまく進んでいる。

しかし、永が悠奈の担当も兼ねているから、高田がしょっちゅうRAJOYのセッションに
顔を出すのがメンバーたちは大いに不満だった。

例えば幸嗣のソロ入れのとき、本番直前に永が悠奈の方へ行ってしまったりする。
幸嗣のプレイは目に見えて散漫になり、音にキレがなくなるのだ。
聖古はそれが大いに不満で、「ロッカーってそういうもんすよ」などと高田に言われて、
かえって憤りを強くした。

ケンスキーは堅実だった。聖古の一番の慰めだ。
聖古は横浜生まれ・育ちのお嬢様で、ピアノの修練も一通りした。家にはグランピが
あるというのだから、アップライトのケンスキーも敵わない。クラッシクスには
造詣が深いが、ロックはさっぱり分からないと口癖のように言う。しかし、
「女の勘」でRAJOYはきっと売れると信じているのだ。

「あなたがたね、悠奈ちゃんとか永ちゃんとか、意識ばっかりしていてはダメじゃない。
もちろん馬の鼻の先のニンジンなのは分かっているけど、世界中の女性をファンにするん
でしょ、こんな狭い世界の女の一人や二人でギャアギャア言わない!」

光も幸嗣も一理あるとは分かっている。それでも光は、

「俺はColin Wilsonじゃない。It is not a woman I want—it is all womenなんて
とても言えないんだよ。永と悠奈に出会った男は!」

と心の中で叫ぶ。

幸嗣は6月初め、誘導員のバイトを一週間休んで、北海道日高山脈のカムイエク
ウチカウシ山へ本当に行ったのだった。絵葉書を永に送ることはしなかったが、
登山の折々で詩を書いたし、短歌にも挑戦した。
永こそ今や幸嗣の「北極星」なのだ。

ヒグマとの遭遇も覚悟して、決死の登山だったが、なぜか心安らかだった。
幸嗣は黒部出身でさすがに登山経験は有った。そのことも自分は永にふさわしい資質だ
などと勝手に思い込むところもあった。

だから永がプレイの前にいなくなると、北が分からなくなった渡り鳥のように彼は乱れた。
NSが狂ってしまった地球のように、正に頭と心が動転した。


かたや悠奈はなんとSUBTLYが協力するということでレコーディングが進んでいた。
MNEMOは何の器楽的助けにもならないから、藤熊のサブとしてプロデューサーと
なっていた。実に順調な進行だった。

SUBTLYはしかし、8月に「HNF Project」、すなわち「広島・長崎・福島のための
歌プロジェクト」の1stソング発表を控えてもいた。


7月初旬、悠奈のセッションが終わって、渋谷区幡ヶ谷の飲み屋で打ち上げをした。
音楽関係者ばかりでなく、PVやアルバムのデザイン等々も手がけるSomogumiの面々も
合流して賑やかな会となった。

そのSomogumiの粟田というMNEMOの幼馴染が、酒の勢いもあって、

「この中で一番早く死ぬのはMNEMOだな」

と言った。
一同はそんな滅多なことを言うんじゃないよというようにいなしたが、
MNEMOは真剣な表情で、

「そう思うか、セミ」

と言った。「セミ」とは粟田の渾名である。本当の名は「笑男(えみお)」なのだが、
「エミ」と言っている裡にいつぞや、高校生時代のある夏の日からだったか、
MNEMOが「セミ」と言いだした。こころは「受益ばかりで生きる」だった。(大笑い)

粟田はさすがにその真剣さに気圧されて、冗談半分だったのを冗談全部に切り替えようと
したけれども、顔が引きつった。

「いやあ、そう思わねぇこともねぇんだ、俺。」

MNEMOがそう応じたが、ほとんどの者たちはもうそれぞれのお隣同士での
ローカルな話に移っていた。しかし、悠奈と永はじっと次のMNEMOと粟田のやりとりに
耳を凝らしていた。

「だからこそ、俺はこのHNFに賭けるんだよ。」

粟田はうんと頷いた。

「俺がやれっことはなんでもやっからよ。」

粟田が會津弁で言った。

「おう。頼んだぞ。」

MNEMOがそう言って、福島銘酒「大七」を粟田の盃に注いだ。

このやりとりをもう一人、真剣に聴いていた者がいた。
Somoであった。

「いやあ、いいですねぇ、旧友同士の生涯を懸けての約束!」

MNEMOはSomoに向かってなぜかお辞儀をする。

「いやあ、MNEMOさん。HNFのヴィデオ、予算ゼロでも僕、全力を尽くします!
もちろん会社の仕事が最優先になってしまいますが、できる限りのことをしますから。」

MNEMOはこのSomoのことばを前もって感謝していたのだった。


<つづく>




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蹉跌集め -74- [小説]

74

ケンスキーは自分のベッドに、幸嗣はカウチに横になった。
消灯して、ケンスキーが「おやすみ」と言いかけると、

「なあ、ケンスキー。とこちゃん、いい女だよな」

としみじみ言った。

「ああ。」

ケンスキーは、「来たな」と思いながら返事をした。

「俺、ハッキリ言って、悠奈より近しく思うよ。」

幸嗣が言った。

「あらま。ちょっと早過ぎるんじゃないか、判断。」

ケンスキーが言う。

「っていうか、とこちゃんの彼氏への親近感なんだけれど。
その彼氏が置き去りにしてしまったとこちゃんを俺はー」

「俺は?」

「引き受けたい。」

「荷物じゃないんだから。」

「くだらないこと言わんでくれ。この縁を俺は大切にしたいんだ。」

「そんなこと言ったら、RAJOYのみんなとこちゃんと縁を持ったんだぜ、
幸嗣との縁だけ特別なはずがない。」

「お前もとこちゃんに恋したのか。」

「そういうことじゃなくて。」

「恋心を持つっていうのが縁の濃さだろう。」

「そうかい?」

「・・・また光と争うのかな。」

「えぇ?」

「あいつ、RAJOY命名の由来を聞いて、雷撃に遭ったようだった。それ以降ー
いやそれ以前からとこちゃんをあいつは意識していたけど、それ以降はもう完全に
スイッチが入ったようだ。」

「お前ら、悠奈がダメってなって、今度はとこちゃんかよ。変わり身早いな。」

「俺は少なくとも違うだろ。」

「何が。」

「俺はとこちゃんの彼氏ときっと同じ心情を分かち合っている。光はそうじゃない。」

「そうだとしても、なんで置き去りにした彼氏の後をお前が継ぐんだ?
自分の罪を赦してくれと言いながら消えた男の代わりがお前?」

「愛する女のことで命すら惜しくなくなる男同士の思いだよ。」

「なに言ってんだか、よくわからん。なにしろ恋愛は自由だ。」

「自由とは必然性の洞察だ。」

「は?」

「ヘーゲルとエンゲルスのことばだ。」

「で?」

「疎外からの解放だよ。彼女は稲妻だ。そのままでは撃たれるだけだ。でもその
雷撃という必然だけを受け入れ雷=電気から疎外されるのではなく、それを洞察し、
本質をとらえて俺は今エレクトリック・ギターを弾いているじゃないか。」

「あに言ってんだー って周平風にツッコむ。」

しばらく沈黙が続く。

「お前、法華者じゃなかったっけ?」

ケンスキーが言う。

「ああ。浄土幸嗣あらため宮澤幸嗣だ。」

「その法華者がヘーゲル、エンゲルス?」

「よい思想に垣根はない。そもそも日蓮大聖人は、男女の交わりこそ煩悩即菩提、
生死即涅槃と言われてー」

「分かった、分かった。オッケ、オッケ。恋しろよ、な、しろしろ。」

「んな言い方、あるかよ。」

「止めないってことよ。応援もしないよ、でも。」

「・・・俺も北海道のナントカっていう山に行ってみたくなった。」

そう言って幸嗣はスッと眠りについた。



光も、みんなと別れて総武線各駅停車と小田急線の急行に乗っている間、
ずっと悠奈と永のことを考えていた。悠奈は恋に憧れるがゆえ、
そして甚だしい感激屋であるがゆえ、コロコロと心が転んでいく。
自分への興味も恋として錯覚された。いや、「恋候補」としてか。
おそらく悠奈は相手がかなり年上でなければきっと本当の恋をしない。

永は違う。同い年の男とこれ以上ないほどの強烈な恋愛体験を持っている。
自分が出たK大と悠奈のA学は昔から多くのカップルをつくってきたー
そんなバカなことすら頭を過る。異常だ。自分でも分かっている。

それにしても、RAJOYのエピソードはどうだ。
こんな感激、同世代の女性から今までにもたらされたことがあったか。
もちろん容姿容貌にも惹かれている。それはしかたがないことだ。
重要なのは、ある女性がpoemであるか、ということだ。
そしてさらには、そのpoemにその女性がふさわしいか、ということだ。

「登戸、登戸です。急行相模大野行きです。各駅停車本厚木行きは続いて参ります。」

駅のアナウンスに光はハッとして、そそくさと下車する。
南武線に乗り換えるのが面倒臭く、また歩いて思案を巡らせたいと思い、
そのまま駅を出た。府中街道側の出口から階段を下りていく。
目の前は音楽スタジオだ。

スタジオの入口脇に灰皿スタンドがあって、「ああ、アホなスモーカーの
ミュージシャンたちが公害を撒き散らしてやがる」と光は思った。

目を凝らすと、見たことがある面々だ。
SUBTLYじゃないか。4人とも皆喫煙者だ。なんという堕落したバンド!
するとドアが開き、若い女性が煙を手で払いながら彼らに近づく。

「悠奈だ!」

光は卒倒しそうになる。

「なにやってんだ、あいつ、あんなジジイたちと。」

高架歩道橋の支柱の陰から光は会話を聞く。

「ハロちゃん、明日は早いの?」

MNEMOが言う。

「この頃はチト楽んなったんだけどさー、いやあ・・・。」

「ありがとうございました!とっても勉強になりました!」

悠奈が明るい声で言う。

「悠奈ちゃん、一緒に帰りましょ。」

MNEMOが言う。

「このクソ・ジジイ!」

光はたまらず逆方向へ走り出し、すぐ右折して多摩川土手へ出た。
小田急の電車が鉄橋を渡ってきて、ゴロゴロと音がする。
このまま宿河原方向へ土手を歩いて行くと、「ぼろぼろ」にまた会いそうだと思った。
土手下の道を歩く。一方通行のいわゆる抜け道だ。
右側にはラブホテルが2軒、当たり前だが派手で品のないイルミネーションで客を
誘っている。

光は荒んだ気持ちになった。

<つづく>



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蹉跌集め -73- [小説]

73

「では、俺たちの新バンド名はRAJOYだぞ。いいな、みんな。」

飯田橋駅西口で別れ際芳樹が言った。
みんな頷く。

「いい名前をありがとう。」

ケンスキーが永に言う。

「うれしいわ、私も。ありがとう。」

永はそう言って一人ひとりと握手をした。

「今度聖古さんと会って、具体的に契約のこととかいろいろ話すね。」

「よろしくお願いします!」

RAJOYのみんなが深くお辞儀する。

「で、とこちゃんは家、どちら?」

周平がまた遠慮なく訊く。

「ハハ。私は牛込柳町なの。」

ケンスキーの顔が明るくなる。

「お隣ではないにしろ、僕も牛込です、矢来町。」

「そうなんだ。私はもっぱら市ヶ谷に近いからってことなんだけど。」

「電車だと大江戸線?」

「そう。飯田橋からだと、乗り場遠いのよね。なにしろ私、社に戻るわ。」

「じゃあ、ここで。」

みんなが改札に向かおうとすると、ケンスキーが、

「俺はこの神楽坂登ってくだけだから、歩くよ。五月の風も気持ちいいし」

と言った。

「ケンスキー。」

幸嗣が呼びかける。

「悪いけど、今晩泊まらせてくんないか。頼む。」

「ん、いいけど。」

「できれば、その砂土原町の坂、経由してもらえるか。」

「なんでまた。」

「本当は『こゝろ』のKや『先生』が、つまり漱石自身が登ったろう胸突坂に
行きたいけど、遠いんだろ。」

「ああ。ま、有楽町線で1駅、江戸川橋から行けるけど、俺んちからは離れちゃう。」

「『それから』は未だ読んでないんだけど、漱石が歩いた坂をぜひ俺も登ってみたい。」

光もその話に乗りたくなった。なぜなら、帰社するという永はきっと歩いていく。
そうなれば、そこまでは一緒にいられるのだから。しかし、どうしても「俺も」とは
言えないままになった。

「んじゃあ!」

みんなそれぞれの方向へ歩き出す。

「とこちゃんも途中まで同じだね。」

ケンスキーが言う。

「うん。新見附橋までね。」

土手道に出て、右下にカナル・カフェを見ながら、三人が無言で歩く。
濠風などというものはないのだろうが、濠の方、つまり北から少し寒い風が吹く。
カップルがベンチに座っているのが遠くに見え、その黒い影が蠢いている。

「とこさん、さっきの彼氏の話、俺・・・俺・・・。」

幸嗣が切り出す。
永は正直勘弁してほしいと思った。

「悠奈に対して、俺もやっていたことかもしれないって思って。俺は無様にも風邪薬と
酒の大量摂取っていう方法で生き残ったけれどね。」

「悠奈から聞いたわ。もうそんなことしちゃダメよ。」

「でも俺は、万葉集の歌なんか送れない。つくづく教養がないヤツだ。」

「・・・。」

「俺は、勝手に悠奈のステディだって自認して、彼女を縛っていた。彼女にとって
魅力ない男なのにね。」

「もういいよ。その話、よそう。」

「光と俺、悠奈のこと、乗り越えたって思っているよ、でも。RAJOYって、
すばらしい名前をつけてくれたけれど、あの『きみの真上に架かる虹』になりたいって
いう想いはね、もちろん愛情表現だけれど、清々しいものなんだ。この風のように。」

「すばらしいよ。それでいいんだよ。悠奈もうれしかったはずだよ。
あのギグでそう歌ってもらえて。」

「俺、富山県人でね、雪国の人間だから、どうにも口下手で。」

「そうなの?」

「でも、俺も光やケンスキーみたいに勉強するよ。漱石も読むし、万葉集も読む。
なにしろ万葉集の選者の大伴家持は越中国司だったんだし、郷土の誇りでね。
あとはMNEMOさん。みんな影響を受けている。さすがは日本ロック界の長老だ。」

「長老はかわいそうだろう。」

ケンスキーがツッコんで三人は笑った。

「あの人には闇があるよ、深い。」

ケンスキーがポツリと言った。

「ええ。」

永が諾った。

「でも、SUBTLYで彼もやれることをみんなしようって今積極的よね。
Henryさんが入って、いよいよ本格的なバンドになったし。」

「・・・できればね、とこさんー」

幸嗣が言いかけたところで、三人は新見附橋を渡り切っていた。

「じゃあ、ここで。今日はいろいろとありがとうございました!」

永が挨拶し、信号を渡らずそのまま濠沿いを市ヶ谷駅方向へ歩いて行ってしまう。
幸嗣は悄然として永を見送る。

信号が青になって、ケンスキーが幸嗣に「渡るぞ」と声を掛ける。
外堀通りを横断し、そのまま直進、右クランクがあって、階段に差し掛かる。
それなりの傾斜のある、やや長い階段だ。

「漱石が登ったときは、こんなパリっぽい階段はなかったろうけどな。」

ケンスキーが言う。

「代助はここを登って、砂土原町を経由して、そしておそらく払方町、北町、中町、
納戸町、箪笥町、山伏町、二十騎町、市谷加賀町、あるいは矢来町の自宅に
帰ったんだと思うよ。」

まるでラフな推測をわざと言って塞ぎこむ幸嗣を笑わせようとしたが、効果はなかった。

途中歌坂や鰻坂があって、ケンスキーは、

「この辺にMNEMOさんが住んでいたんだな」

と言った。

「あ、払方町教会だ。ということはここかあ、MNEMOさんの『鰻の寝床』は。」

幸嗣は上の空だ。

道なりに左へ曲がり、比較的大きな通りに出る。牛込中央通りだ。
そこを右へずっと行くと矢来町で、早稲田通りにT字に交わる。

牛込北町交差点ー
ここに7-11が在り、ケンスキーは「検索好きー」という異名の通り、

「MNEMOさんはこの7-11があるビルの3階にも住んでたらしい」

とMNEMOブログ・サイト内検索の成果を口にした。
幸嗣はまったく上の空だ。

「この交差点を左折すると、牛込柳町。とこちゃんの家が在るんだな。」

ここで幸嗣がピクッとする。

「行こう。」

「行こうったって、お前、どの家か分からないじゃないか。」

「そうだな。」

その交差点を真っ直ぐ突っ切り、いよいよ矢来町に入る。新潮社のビルがその通りを挟んで
2つ建っている。

「漱石の妻鏡子の実家はこの新潮社の辺りだったらしいよ。」

「そうか。」

「ちなみに早稲田南町の夏目家はあのT字路を左行って、そうだな、10分くらい。
牛込馬場下町の実家はそれからまた10分くらいかな。」

「そうか。」

「お前さ、幸嗣。Kの心境に自分を重ねたいんじゃないのか。」

「ああ。そしてとこちゃんの彼氏のと。」

「まあ、そんなに追い込むなよ、また。」

そう言ってケンスキーは新潮社別館手前の道を左へ曲がる。
能楽堂が右手に見える。
そしてまもなく彼の家に着いた。


<つづく>




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蹉跌集め -72- [小説]

72

「音吏部さんて彼氏いるんすか。」

周平が持ち前のフランクさで遠慮なく訊いた。

「う〜ん、わずか2回しか会っていない人たちに答えるべきことか・・・。」

永は本当に困ってしまう。

「いいじゃないすか、別に。俺はいますよ。夏生(なつき)っていうんです。
デヘヘ。俺は実はインカレの軽音部にいたけど、専門学校生だったんすよ。
蒲田にあるんすがね。そこで知り合った女ドラマーで。」

「へえ、いいね。ナッキー。」

永の返事に周平は驚いてしまう。

「ナッキーって、なんで知ってんです、愛称を。」

「なつきって大概ナッキーになっちゃうんじゃない?」

「そっか。まあ、そうすけど。俺がいつも呼んでる言い方他の人に言われっと
ドッキリっす。・・・で、音吏部さんは?」

「私、みなさんと大体同い年でしょ?『とこ』って呼んでもらっていいよ。」

「とこしゑさんの<とこ>ね。じゃあ、とこちゃん、彼氏は。」

「それは訊かないでやってよ。」

「アペ」さんが鮭を焼きながら口を挟んだ。

「ま、人生いろいろで。」

「いいよ、マスター。もう別にいいのよ。」

永が笑って言う。

「私の彼氏は、山で遭難して死んじゃった、多分。」

一同がシーンとなった。

「カムイエクウチカウシ山よ。神つまり熊の転げ落ちる山っていう意味。
ただ、滑落死ではないと思う。思うっていうのは、遺体が発見されていないの。
熊に襲われたのかもしれない。・・・死んでいないかもしれないけど。」

「ごめんなさい、嫌なことを訊いちゃって。」

周平が謝る。

「いいのよ。もう五年くらい経つし。」

永はそれでも苦々しくビールを飲んだ。

「独りで行かれたんですか、その山に。」

ケンスキーが遠慮がちに訊いた。

「うん。孤独が好きな人でね。それでも私を誘ってはくれていたの。8月だったし、私、
大学は夏休みだったから。でももうその頃からホムラーでバイトをしてて、
そのときはほんとに忙しくて。彼の家に結局帰ってきてないから、遭難だろうって。
もしかすると生きているかもとも思うけれどね。」

光と幸嗣は複雑な想いで話を聴いている。

「北海道が好きな人だったわ。高校で知り合った人でね。山岳部だった。
東京人だったけれど、子どもの頃にお父さんと行った北海道、そしてそこでの体験が
彼を虜にしたの。彼が私に絵葉書を送ってくれたのね、帯広からだった。
そこに万葉集の歌が書かれていたの。

道の辺のいつ柴原のいつもいつも人の許さむ言をし待たむ

もう、暗記しちゃった。」

そう言って笑みを浮かべながらも、永は涙をポロっと零した。


ケンスキーがブルブル震えている。

「ケンスキー、なんかに激突して瀕死のヒヨドリみたいにbulbul震えてるな。」

光が言った。明らかにMNEMOのブログを読んでいる。
ケンスキーはその光のシャレですぐに分かった。

「永さん、とこちゃん。その和歌は、その和歌は・・・。」

「ケンスキーさん、分かってるわよ。」

永がやさしい口調で応えた。

「MNEMOさんのブログの記事でしょう。この和歌をヤフー検索すると、
MNEMOさんの記事が1、2位で出てくるわ。悠奈がね、その記事のことをたまたま
私に話してくれて、私絶句したのよ。」

「知ってたんですか!」

ケンスキーもその後絶句する。

「彼は許しを乞うていたのね。でも私には何のことかずっと分からないままなの。
それが苦しくてね。一緒に北海道に行っていればって・・・。行かなかったことが、
彼にとって決定的だったとしたら・・・。」

幸嗣が泣き出す。

「北の魔境」はしんみりする者、嗚咽する者、思案を巡らす者で飲み屋とは思えぬ静寂に
包まれた。


<つづく>



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蹉跌集め -71- [小説]

71

DSC02330.jpg


ホムラーでのミーティング終了前、野津田が現れて挨拶をした。建設的な話し合いに
なったと永が言うと満足そうにして出て行く。

「じゃあ、軽く飲みますか?市ヶ谷にもいい店がないことはないけど、飯田橋・神楽坂なら
いっぱいあって。知り合いの店が飯田橋にあるの。ちょっと歩くけど。」

永がJAPPSに提案する。
JAPPSにとってはうれしい話だったー みな永のことももっと知りたいと思っていたから。

ホムラー前は外堀通りで、一行は飯田橋方面へ濠端を歩く。
ケンスキーにとってはホームグラウンドへどんどん近づいていく。
新見附橋を渡って、そこから外濠と中央線を左手の眼下に、法政大学を右手に見ながら
土手道を歩いていく。

「ここ、『ノルウェーの森』の『僕』と直子が電車の中で偶然再会して、四谷で降りて、
そんでずっと濠端を歩くんだけど、その道さ。」

ケンスキーが言った。

「へー、ケンスキー、お前村上春樹読むんだ。」

周平が言った。

「う〜ん、まあ、近所のこと書いていたからね。Norwegian Woodだしね。
John Lennonのツアーでの自堕落な一夜の歌ー」

「ノルウェーでの事の歌なのに、シタールが主たる楽器でー」

周平がカマす。

「この辺りは漱石だよ、僕には。」

光が言った。

法政大学構内からは打楽器の音や、ときどき金管楽器の音が聞こえる。
ケンスキーが濠を挟んで向こうに見える高台を指差して、

「あそこは砂土原町って言って、MNEMOさんが4年暮らしたとこだよ」

と言った。

「お前、MNEMOさんのこと、詳しいな。」

芳樹が言った。

「『漱石病』に罹ったらしいよ、MNEMOさんも。」

ケンスキーが言うと、

「『も』って。俺は別に取り憑かれちゃあいないよ。」

光が少し怒気のこもった声で反発した。

「ただ、俺はー この先、飯田橋から大曲とかにかけて、『それから』の代助が親から勘当
され、高等遊民として暮らせなくなって街鉄の電車の中錯乱するだろう、
赤をそこらじゅうに見てー そのシーンが忘れられなくてな。」

「分かるよ。」

ケンスキーが頷く。

「ある意味サイケデリックとも言うべき描写だよな。先進的な描写だ。
代助は青山の出身だけど、高等遊民生活は牛込でしていた。ずばりどことは書いて
いないけど、市ヶ谷方面から外堀沿いを飯田橋方面へ歩く途中、砂土原町へ通ずる
坂道を登るのが近道だって書いているから、まさにMNEMOさんが飯田橋とか
九段下で食事して自宅『鰻の寝床』に帰るときと逆コースだけれど、最後は同じだろう。
さっきの新見附橋を一口坂から下り渡って交差点を直進するとその『坂道』なんだ。」

「お前、詳しすぎ。まるでMNEMOさんになっているかのようだぜ。」

周平が呆れたように言う。

「しかしMNEMOさんのあのギグでの歌、すさまじかったな。」

芳樹がしみじみ言った。

「5歳から洋楽、そしてビートルズ歌い出したってよ。」

幸嗣が言う。

「黒部より田舎らしいぜ、MNEMOさんの生まれ故郷。よくそんな機会に恵まれたな。」

飯田橋駅前に出た。
スクランブル交差点を渡って早稲田通りを武道館方面へ少し行って左折し、
しばらくまた歩くと、永のおすすめの飲み屋が在った。

「『北の魔境』か。スルドイ名前だなあ。」

周平が言った。
ゾロゾロと一行はそう広くない店へ入る。
マスターらしき人が、

「おう、永ちゃん、エイワンケ・ヤ」

と声を掛ける。

「マスター、どうも。イペアン・ロ!」

永が返事をする。
4人掛けのテーブルと隣り合うカウンターの2席にみんなは座った。
永はカウンターに座った。

「ごめんね、狭くて。」

マスターが謝る。

「みんな、まずはビールでいい?」

永が訊く。みんな異論はなかった。

「じゃあ、サッポロの黒生6つね、マスター。」

「はいよ!」

周平がニヤニヤして、

「音吏部さん、さっき、おもしろいこと言いましたね。」

「え?」

「『いっぺぇやろう』って。」

「ああ、イペアン・ロのこと?そうね、日本語に近いね。アイヌ語で、
飲食しましょう、食事をいただきましょうっていうような意味らしいよ。
ここでの合言葉。」

「え?アイヌ語かあ。」

「音吏部さんってアイヌの血を引くんですか。」

ケンスキーが訊く。

「ええ、半分。父がそうなんですよ。でも情けないけど、私は全然アイヌのことばも
文化も知らなくって。」

光と幸嗣は気づかれないようにしつつも、ずっと永のことを見ている。

「ウェールズ人、スコットランド人、アイルランド人のようなものですね。」

ケンスキーが言う。光は不意を突かれた。自分が言うべきことをケンスキーに奪われた。

「アングロ=サクソン優勢なBritainにおけるケルト人ですね、つまり。」

光が慌ててコメントをかぶせた。

「そうね。」

永がそう言うと、マスターがビールを運んできた。

「はい、みなさん、初めまして。私はアペヌイです、よろしく。」

ジョッキを取りながら、ケンスキーが、「アペヌイ、ですか?」と復唱して訊く。

「はい。アイヌ語で『焔(ほむら)』のことです。私は厨房で火を使いますので。」

そう言ってアペヌイは豪快に笑った。

「ほむらって、ホムラーじゃん。」

周平が言う。

「そうなの。おもしろいでしょ。市谷本村町に在るからホムラー・レコード。
そこの社員のオトリブが行きつける飲み屋の主人が<ほむら>さん。」

「いや、実際の名前は、阿部なんですよ。東北に多い。ただ、<あべ>ってアペなはず
なんですよ、私によると。ガハハ!阿弖流為はアペヌイの音写だとね。
ヨメがウタリでね。永ちゃんほどの美形じゃないけど。僕も先祖返りして、
アイヌfreakになったっていうようなわけでして。」

マスターが言う。

「東北のどちらなんですか?」

ケンスキーが訊く。

「會津なんです。北會津村っていう、桧原湖とか五色沼、裏磐梯の。」

「へーッ。」

「ほらほら、ビールが冷めちゃう・・・はずないか。泡がなくなっちゃう!」

永が急かして、全員で乾杯した。


<つづく>




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蹉跌集め -70- [小説]

70

高田が野津田の命でJAPPSたちと市ヶ谷本村町の本社応接室で会っていた。

「ウチの部長の野津田がみなさんに興味を持ちましてね。ついてはみなさんから
話を聞け、と。」

「この機会を設けてくださり、ありがとうございます。」

芳樹が言った。

「早速どうぞ、ご質問ください。」

「はい。リーダーは・・・?」

「ああ、特に決めていませんが、スポークスマンは私です。」

芳樹が答えた。

「そうですか。みなさんはどうやって生活をしているんですか、今。」

「私は、最近まで赤堤に住んでいましたが、今は戸塚の実家にいまして、
情けないですがパラサイトしてます。」

「私は川崎の実家で、芳樹同様のありさまです。」

光が答える。

「僕は塾の講師をやりつつ、やっぱり矢来町の実家で半分十階の身の上で。」

ケンスキーが答える。

「・・・十階の身の上?」

「両親の家の<二階>に<厄介>になっていて、合わせて十階の身の上、
居候のことです。」

「ハハハハ!それはうまい!」

「これは落語に出てくるシャレです。」

「そうなんだ。さすが矢来町、落語も詳しいね。」

「僕は誘導員やってます。」

幸嗣が言った。

「ほんとは塾の講師とかやりたいんですけど、どうも人間関係が嫌で。」

「僕はコンビニでバイトしてます。」

周平が言った。

「僕は千葉なもんで、交通費が大変っす。今日は市ヶ谷で、一番来やすいし、
電車代もそうかかんなくて、よかったっす。」

みんなが笑う。

「・・・でね、JAPPSは日本語もOK?」

高田はみんなが笑ったところを狙って切り出した。

「悠奈にはどう対応されたんですか。」

芳樹が鋭く突っ込んだ。

「え?悠奈ちゃん・・・いや、あのー、そのね、彼女は頑なでねー」

「僕らも頑なカマしていいですか。」

「いや、あのー、ホムラーも、まあ、グローバルなんだけど、例えばみなさんと契約
したら、2組の新人がどっちも日本語やんないってなると、さすがにねー」

「日本語がヤダとかじゃないんですよ。」

芳樹が言った。

「ある曲には日本語がふさわしいっていうんなら、何の問題もないんです。」

「悠奈ちゃんと同じようなこと言うなあ。」

高田はこめかみの辺りをポリポリ掻いた。

「じゃあ、作詞家さんに頼んでっていうのアリですか?」

「俺たちは世界を目指してんです!もうそういう話はやめてください!」

突然光が喚く。ケンスキーが宥めるが、それでも、

「俺、そういうことになるんなら、そしてみんながそれを受け入れるんなら、
脱退します!」

と叫び続ける。

高田は呆気にとられて、言葉が出ない。

するとドアが開いて、音吏部永が入って来た。

「高田さん、私に任せてくれる?」

高田は連続の不首尾に恥じ入りつつも、先輩社員として、

「いや、永、ここは俺がノッタ部長に任されたんだからー」

「そのノッタさんが私に行けって。」

高田はしょんぼりとして筆記具やアイパッドなどを抱えて出て行った。


「さて、JAPPSのみなさん、先日のギグ、お疲れさまでした。」

永がハキハキと言う。

「とってもよかったから、ウチの野津田、通称ノッタさんが気に入ってね。
もちろん私もよ。それでこうしてわざわざ来ていただきました。」

メンバーはみな「前任」がひどかった分、永に大変な好感を持つ。
光も落ち着きを取り戻す。

「日本語の件ね、これは本当にむずかしいことなのよね。最初からグローバル展開って
いくらインターネット時代でもそう簡単なことじゃないのはみなさんもお分かりよね。
どうやってJAPPSを世界のバンドにするか。」

「その方法を探りたいんです、すばらしいスタッフを得て。」

光が言った。

「僕らはミュージシャンです。ビジネスには疎い。どうしたらいいものかー
それでももちろんアイディアは出していきます。でもそういうのに優れた方々の
お力をいただきたいんです。ホムラーはそういうところではないのですか。」

「JAPPSは固定ファンがいるわよね。サンタンでもかなりの数が来てたわ。
在日の外国人ファンの獲得は目指してこなかったの?」

永が訊く。

「まだそこまでは・・・。」

光がそう言って唇を噛んだ。

「まずその固定ファンたちを足がかりに、雪だるまにしていくのが現実的よ。」

永がラッシュをかける。

「もちろん世界への発信も怠らずにね。その国内ファン拡大も、英語の楽曲によってで
いいと思うわ。でもMNEMOさんたちがEUROYでやったように、例えば4分の1だけ
日本語を入れるとか。これはチャレンジよ、妥協とかと取らないで。」

JAPPSはみな永の説得力ある話に頷いた。

「聖古さんとは事務所契約したの?」

「いや、まだ・・・。バンド名のこともあったりして・・・。」

芳樹が言った。

「バンド名ね。で、どう結論に至りつつあるの?」

「まあ、絶対JAPPSじゃなきゃとは思っていないんです、みんな。」

ケンスキーが答える。

「ただ、そんなに長く名乗っていたわけではないけれど、愛着はあって。
それに聖古さんは頭ごなしにNGだって言うもんだから、こっちも依怙地になって。」

「そう。」

永は言った。

「実は私たちも今の名前は決して良くないと思っています。広がらない名前だと。
ね、そこで提案なんだけれど、RAJOYっていうの、どうかな。」

「RAJOY?どこの言葉ですか。」

光が訊いた。

「アクロニムよ。みなさんのScales of Desireの一節に、
Rainbow Arching Just Over Youってすてきな句があるじゃない?
その頭文字。『きみの真上に架かる虹』。」

光は戦慄を覚えた。
そして永の笑顔を見て、とうとう本格的震え出した。
自分の詩の一節から、こんなにすばらしいアイディアを提出する女性!

なんと、JAPPSの他のメンバーもみな雷撃をくらったようになっていた。


<つづく>




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唯一の戦争被爆国はかく語りき

国連核軍縮日本大使X:

「我が国は世界唯一の戦争被爆国であります。」

一同:ゴクリ。

X:ゆえに我々は核兵器禁止条約に反対します。協議にも参加しません。

一同:???聞き間違えた?え、え?

X:核兵器使用の惨禍を二度と繰り返してはなりません。広島・長崎で亡くなられた御霊に
  我々はそう誓いました。

一同:・・・。

X:ゆえに、核の抑止力は必要なのであります。

一同:??? What's he saying? Does he really mean it?

X:北朝鮮などが核使用する危険が高まっています。だからこちらも使うぞということで
  なければいけないのです。

ヤジ:使ったら、また繰り返されるぞ!

X:日本がこう主張せざるを得ない世界の核事情を憂いてください!

ヤジ:憂いているから核兵器禁止を言っているんだ!

X:核兵器を持っていていい国と悪い国があるんです!変なリーダーが決して政権につく
  ことのない民主主義国は当面の抑止力として持っていていいのです。

ヤジ:それはどこの国のことだ!

X:たとえばアメリカ、ロシア・・・。

ヤジ:おいおい。

X:フ、フランス、イギリス・・・。

ヤジ:中国、インド、パキスタン、イスラエルはどうなんだ?

X:イスラエルはまだしも、他の3国は・・・。

中国:おい、そうやって持っていい国悪い国をお前の偏見で決めるのか!

X:そういうこと言うから、我々はアメリカさんの核の傘の下にいるんだ。

中国:そういうのを中国では「走狗」と言うんだ。

X:ナロー、じゃあ、こっちも核保有したる!すぐに造れるんだぞぉ!

中国:やめてください!

X:ふふ。怖気付いたか。

中国:はい。事故を起こされたら大変ですから。



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神話は不滅だ

記者:ひどい事態になりました。琵琶湖はもう水瓶になどなりません。
   あなたの再稼動妥当の判断、どう責任とりますか。

裁判長:私に責任を押し付けるな!私は科学者の意見、国、電力会社の意見をより
   妥当性があるものと判断したにすぎない!

記者:関西圏はもうボロボロです。あなたは安全神話を追認したんですよ。

裁判長:私にどうして高度な科学的知見や政治的判断の責任をひっかぶせる!

記者:じゃあ、裁判なんかやらなきゃよかったでしょ。お得意の司法判断になじまないって
   言ってりゃよかった、まだね。

裁判長:それでは事実上の追認じゃないか!

記者:え?

裁判長:事実上の追認するぐらいなら積極的に再稼動を可とした方がいい。

記者:だからその可とした責任はって訊いているんです。

裁判長:こうやって水は飲めない、ヨウ素剤を飲んでいる、家族は九州の方へ疎開
   させたことで十分とっている!

記者:九州の方も再稼動差し止め無効判決出てますね。

裁判長:九州の方は事故は起きない!



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まるで禅宗の公案

公安:はい、奥さん、あんた、国会前で「**内閣やめろ」を叫んだグループに
  コーシー差し入れしたろ。共謀罪で逮捕状出てっから。

主婦:私、本当に普通の主婦なんですけど。昭恵さん以上に。公務員の秘書はいないし、
  公民館に避暑に行くくらいカツカツの生活をする主婦です。

公安:そうだな、そう言えば。それは内偵してた。

主婦:コーシーは差し入れていません。FBで弁明します。

公安:う。証人喚問と同じ法的効力の?でも、一応法は法だから・・・。

主婦:その法が法として機能していないんです。立法府が法を理解していないし、
   行政府の長も法のなんたるかをそもそも分かっていない。法学部出たのに。
   お引き取りください。

公安:いやあ、仕事んなんねぇや、上が**だと。


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蹉跌集め -69- [小説]

69

悠奈はダブダブのジャージーを履き、大きめのパーカーを着て、フードで頭を覆った。
努めて男のように見せるのだ。悠奈のマンションから多摩川の土手までは、
ゆっくり歩いても1分だ。マンションから素早く出て、小走りで行く。

11時58分、土手に出て川下の方へ急ぐ。
「12」時ちょうど、悠奈は鉄製の階段があるところに着く。

「木野先生、おでましください!十二社熊野の神仏さまたち!」

合掌して祈る。

「悠奈さん。」

谺のような声が天空から届く。
見上げると下弦から1日経った月が東南に見えている。
雲が少しかかっていて、その雲は、上空では疾風が吹いているのか、激しく揺らめき、
また東へと流されていく。悠奈が月を凝視するとかかる雲が人の顔を形作った。
風が止んだのか、形が崩れない。

「木野先生!」

悠奈はそれが木野の顔であるのを見てとる。

「悠奈さん、久しぶり。随分といろんなことがあれから起こったね。」

「先生、お久しぶりです!今回は空からお出ましですか?」

「ああ、どんなふうに出てもいいんですがね、今回は月の群雲になって。」

月の光が透けていて、やはり木野の顔は光り輝いている。

「お悩みかな?」

「はい、先生。あたしはいい気になっているんでしょうか。」

「ああ、あなたの才能と美貌が逆にあなたを悩ますphaseに入ったね。」

「phaseですか。」

「まるでこの下弦を過ぎた月のようにあなたの心も衰微に向かっているようだ。」

「そんな月も私は好きです。」

「あなたはそういうことが言えるから特別なんだね。人間の形をとってそっちへ
行きたくなる。」

木野は意味深長なことを言った。

「人はね、死ぬほどに誰かを愛さないと不動の心を持てないものだよ。」

「不動の心?」

「そう。その人とのこと以外は究極的にどうでもいいという心境さ。」

「そんな対象はいません。」

「知っているよ。まだ縁はないけれど、悠奈さんも結局は求めねばならない。」

「求める?」

「そうさ。あなたの愛や恋を求める歌は嘘ではない。切実に響いている。
だから多くの人を揺さぶっている。けれど、求めている歌は求めている歌であって、
それ以上の歌にはならないだろう、当たり前だけれど。」

「はい。」

「MNEMOさんのある歌にね、こんな歌詞があるんだ。
I love you no matter how you treat meってね。
それが本当なら、すさまじい愛だけれど、本物だなって思うよ。」

「そんな恋愛があたしにできるでしょうか。」

「それは私に訊かないでください。答えられても答えません。」

「もちろんそんな恋愛をしていたら、あたし、他になにも要らないです。」

「それが不動の心さ。」

「でも、今それがないから、さっき、お客様のひとりからいい気になるなって
言われてしまって、あたし動揺してしまって・・・。」

「ああ。あれは十三の連れ合いでしょう。」

「え?龜井さんの?」

「花乃里(かのり)って言って、私が名付け親になったんだよ。」

「ええッ!?」

「花乃里の両親も私の主宰する在家仏教者の会の会員だったんだ。
きっと花乃里は十三の挙動がおかしいからと問い質したかなにか、あるいは
パソコンを覗いたか何かで、悠奈さんの存在を知ったんだろう。」

「・・・。」

「花乃里はね、自分で言うのもなんだけれども、いい名前で、本当に花の里に
育ったような子でね。決して人を恨むような子ではなかった。けれど、夜叉になって
しまうんだね、嫉妬心で。」

「先生、あたし龜井さんが妻帯者であったことすら知りませんでした。」

「十三が悪いね。大莫迦者だ。十三はそのことにも悩んで、本当におかしくなって
しまったんだ。あなたを探しにここにも来たんだよ。」

「えぇ?」

「狛江高校の西隣にいらっしゃるお地蔵様に諭されて、あなたへの思いを断った。
それは実に尊いお地蔵様のお導きだった。」

「龜井さん、あたしのコンサートに来ていました。」

「そうみたいだね。あなたのファンとして。花乃里は十三に気づかれないように
変装して、オーディエンスに紛れ込んだんだ。あなたを一目見たくてね。
そして確かにどんな男も動かされてしまうあなたの魅力に妬み、連れ合いをおかしく
された恨みを言いたくなったんだね。」

悠奈はしゃがみ込んでしまう。

「悠奈さん。あなたは本物の愛を求め続けていいんだよ。
それをつかむまでは過酷な修行のような日々、年月になるかもしれない。
結局そんな者とは出会えないかもしれない。
それでも、求めるのをあきらめてはいけないんだよ。」

悠奈は俯いていたが、「先生、あたしー」と言いかけて空を見上げると、
月はすっきりとした空に浮かんでいて、木野の顔をした雲は消えていた。


<つづく>




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世相はkill

先生:はい、それでは今日は給食がないので、みんなお弁当持ってきましたね。
小学生:は〜い。
先生:あら、Xちゃん、桜餅ね。デザート?
小学生:パンがダメらしいから、ママが桜餅と柏餅持ってけって。
先生:えらい!みなさん、Xちゃんはふるさとを愛する気持ちがあふれてますね!

*

小学生:せんせ、国会の証人喚問での弁明とFBでの弁明、どっちが重いんですか。
先生:まあまあ、むずかしいことを。そりゃあもう証人喚問の方よ。
小学生:証人喚問での陳述内容は、反証されない限り真実ということになりますね?
先生:そうね。でも、証人があの人でしょ。FBの方は首相夫人よ。どっちがエライ?
小学生:そういう問題じゃないでしょ。
先生:あのね。大体首相っていうのは国会で多数を占める、つまり与党の長なのよ。
   その人が嫌がることを許すはずないでしょ。そういうのをエライっていうの。
小学生:つまりエラけりゃ、なんでもできるってこと?
先生:その与党の人の中に良心を持つ人がいない限りはね。
小学生:いないんですか?
先生:いないからこうなってるんでしょ。
小学生:この国は絶望だな。移住しよう。
先生:あなたは小4でそれだけのこと言えるんだから、有為な人材よ。移住はダメ。
   あなたも国会議員とかになって、変えたいところを変えるのよ。
小学生:そう志して、結局与党の議員になって良心失いそうだから、やっぱり移住します。

*

小学生:せんせ、僕の父ちゃん、現政権にはもうウンザリだって言ってます。
先生:まあ、そんなこと滅多に言っちゃいけないわよ。
小学生:父ちゃんの職場でもみんなそう言ってるって。
先生:内緒だけどね、ウチもそうだし、職員室でもね・・・。
小学生:じゃあ、なんで政権支持率がまだ5割とかあるんですか。
先生:お寿司効果でしょうね。あるいは赤坂での中華料理効果。
小学生:つまり新聞社への懐柔ってこと?
先生:推測よ、推測。
小学生:タダ飯タダ酒だけではないんでしょうね、きっと。
先生:あなた、鋭いね、小学生なのに。
小学生:新聞記者に憧れてましたけど、懐柔されそうなので、やっぱりやめます。

*

小学生:ちぇんちぇー、根本的な疑問がありましゅ。
先生:あら、Yちゃん、なあに?
小学生:道徳なんてとても語れない政治家がどうちて道徳を重視するんでちゅか。
先生:自分みたいにならないようにってことかな。
小学生:国会とかでも道徳の授業をやればいいと思いましゅ。
先生:それこそ国費のムダよ。
小学生:そうでちた。この前ちぇんちぇーがおっしゃった猫に小判でしゅね。
先生:豚に真珠よ。


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リカに冠を捧げる

Twitterは実におもしろい。
自分が書くとかというより、世界中の興味ある人々のtweetsを読め、
さらにその人々のretweetsがこれまた「こんな人がいるんだ」って教えてくれる。
BBC、NYTはもちろん、SNL(Saturday Night Live)で「Spicer」報道官に
虐待されるGlenn Thrush記者とか。

日本人では香山リカさんに本当に頭が下がる。
彼女は反ヘイト・デモにも参加し、<そのての人々>の憎悪を買っている。
しかし彼女は立教大学で教師もしているし、むろん精神科医だし、本は書くし、
また積極的無比に日本の問題解決へ関わろうとする。
いくつ体があっても足らないだろうというような人だ。

もう3年前になってしまうが、松本市で夜9時に授業を終えて夕食をとりに駅前へ行き、
必ず入る「おおぎや」で一服する。ここの味噌ラーメンが大好きで、
おととしの旅ではKと幸夫くんも連れて行ったものだ。

「疲れた、腹減った」と着席して、おもむろにラジオをつけて聴く。
今もやっているのだろうけれど、香山さんの番組が確かちょうど始まるのだった。
(今もやっている。『こころの美容液』だ。)

私は夜のラジオでのひとり語りが好きだ。これはもう中学生だった頃以来の嗜好だ。
松本の夜に響く(実際は松本にいる私の耳の中で響く)彼女の声、その話し方、
内容がとても好ましいものだった。同時間帯に女性のひとり語りは他局にはない。
だから必ず聴いた。ただし、DJ一般の標準からすれば素人でしかない。
それでもリカさんは便りをくれたリスナーに本当に親身になって、
あくまで肯定的に語りかける。その姿勢がすばらしいのだ。

「犬HK」(これもTwitterで知った)と揶揄される傾向も確かにある我らが
公共放送だけれど、リカさんの番組を続けているのは見上げたものだと思う。
むろん影響力は少ないと見ているからという穿った見方もできるけれど。

勇気ある女性だ。
「日本一勇気ある女性有名人」と名前の前に冠したい。




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A Vernal Breeze called Henri

リハより帰ってまいりました。

Henriという新風が吹いて、リハがまるで今までと違いました。
なんつーか、眠っていたわけではないが、SUBTLYの芽吹くべきものが、
Henri春風に誘われてそうなった、みたいな。
楽しかった。

もうすぐ仕上げにかけたいと思っているのは、T2aTという曲です。
副題はTerminated to a Tです。「きっちり終結」です。
最後の歌詞3行ー

I disagree
Was that true, man?
What did you foresee?

「true, man」のところがTruman大統領を示唆(?)しています。

8月発表がんばるぞ!
Simoちゃん、厳しいでしょうが、ご協力を!



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2017 弥生妄言

政権がむちゃくちゃ過ぎて恥ずかしすぎて・・・
国家公務員の「秘書」が4人もつく「普通の主婦(本人による)」に振り回され、
隠蔽と事実の糊塗に明け暮れる官僚たちが哀れすぎて・・・
忖度と付託の違いもでんでんわからない大阪府知事が痛すぎて・・・

北朝鮮のことをもっと語れ?
水道の民営化を語れ?
共謀罪のことを語れ?
沖縄のこと、福島のことを語れ?

答える方に信をおけないで、どう語りようがあるのか?

*

昨日書いた喜多方市岩月で計測されている高い線量ー
これで「風評被害」が拡大する?
そうであっても福島の産品は安全だという主張は私も信じる。
入念な出荷前の検査がされていることを。
かえって福島以外のところの産品より安全かもしれないことも。
しかし、事実は事実だ。「風評」ではない。

どうして私が故郷の産品を貶めようか!

そんな中で、首相や財務大臣や防衛大臣は、追及されてもヘラヘラ笑っている。
一番「エラそー」な財務大臣が小池議員に「エラそーに」と悪態をつく。
首相はまた外遊?
自分と自分の「普通の主婦」で「私人」の妻が関わることー
「公」のものを「私」する疑惑に誠実に答えぬまま?
福島はじめ大震災の被災者、熊本の被災者のところにも行きなさいよ。

アベぴょん支持の方々よ、
アベぴょん内閣ガタガタよ。

復古主義者が熱く説く「公」に奉仕する心は一体どこにあるんですか?

*

さて、今日はSUBTLYのリハです。
先週の今日「克己會」を催し、士気もまた高まった。

おかげさまで「蹉跌集め」も大人気、多くの方に読んでいただいております。

読まれた記事を参照していると、あるメッセージともとれる読み方をされているなあと
感じる時があります。

なにしろブログを始めて11年、私も歳をとりました。
どうあれ、右往左往する時間もそう多くはない。
なにが大事か、よくよくこれまでの確信を自分から揺るがすことなく、表現していく、
生きていくだけです。


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「アンダーコントロール」の事実

みなさん、

https://itunes.apple.com/jp/app/id1090864577

を知っていましたか。
福島の浜通り以外のところや関東ばっかりじゃないんですね、
0.05〜0.15μSv/hの地域。全国まんべんない!

そして、
https://news.whitefood.co.jp/radiationmap/?utm_source=twitter&utm_campaign=alert&utm_medium=social

おー、Kよ。
喜多方の岩月が赤ぇぞ。
空間線量が月平均の2倍だど。
こゴにきて、會津に降り注いだ核子が濃縮されつつあんだぞ。


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蹉跌集め -68- [小説]

68

「あたしねー」

悠奈が言った。

「ハリーポッターが好きじゃなかったの。」

「え?」

永が突然の話題に驚く。

「ハリーって生まれながらのエリート魔法使いでしょ。もちろん試練に遭うんだけど、
最初から特別の存在だった。貴種流離譚の一種よね。」

「貴種流離譚?」

「うん、折口信夫の用語だけれど。元々のエリートが他郷で試練を克服していって
超人的なヒーローになる物語のこと。」

「なるほど。それが嫌だったの?」

「『元々のエリート』っていうのがズルい気がして。」

「ああ、最初は普通であってほしいってことね。」

「そう。そのことをあたし意識してきたの。『元々悠奈は』って言われるのがとても
嫌で。百メートル競走で、最初から50メートル地点からスタートできていいね、
みたいなことを言われてるようで。」

「でも人間なんて平等には生まれつかないんだからね。」

「それってどうしてなんだろうね。」

「先祖、親の因果だね。」

「そうなのよ。因果律がこの世を支配しているのよね。」

「選ばれし者。」

「・・・永ちゃん、予定説って知ってる?」

「ああ、カルヴァン主義の?私ね、A学なのね、大学。藤熊さんの大後輩なの。
あそこはメソディストで、習ったわ、キリスト教学の授業で。
神が救う対象は予め決まっていて、どんなに善行を積んでも選ばれていない者は
救われないし、救われると決まっている者はどんなに悪行を積んでも救われるのよね。
救済は偏に神の恣意だって。学生はみんな引いてた。」

「資本主義はプロテスタンティズムによって興ったって。」

「Max Weberでしょう。『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』。
読まされたよ、社会学で。」

「こつこつ禁欲的に富を集め、放蕩せず、その富を資本とし、また稼ぐ。
選ばれし者は、商いで成功する者のはずだからって。」

「悠奈も恵まれた家に生まれたんだね。これも『元々』。」

「あたしは予定説を信じない。あたしはむしろなんでもご破算から始めたい。」

悠奈は自分でもバカなことを言っているのを知っていたが、そう言いたくなった。

「悠奈の生まれついての才能や美貌はどうなの?」

永は少し冷たく言った。

「ご破算の資質とか美貌って、そんなものあるの?」

悠奈は永が確かな反論をしてくれる頼もしい相棒であることをうれしく思っていた。
まもなく永は帰って行った。

悠奈は時計を見る。
随分と深夜になってしまった。
そしてもうそろそろ木野と多摩川の土手で出会った時刻になると気づいた。


<つづく>




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蹉跌集め -67- [小説]

67

トリのSUBTLYの40分間もさすがの年季に裏打ちされた演奏で充実したものだった。
出演者みな出口前に立って、オーディエンスを見送る。

男女を問わず、悠奈と握手して狂喜する者が続出する。
みんなは当然だと思っていた。

ある齢四十凸凹のサングラスをした女性が、悠奈と握手をするや、耳打ちをした。
悠奈の表情が俄然青ざめるー
その後も最後まで悠奈は客を見送ったが、その途端楽屋へ走って行ってしまった。

永がすぐにその異変に気づき、悠奈を追いかけて行った。

「どうしたの、悠奈。」

永が机に突っ伏す悠奈に声を掛けた。

「さっきの女性でしょ?何か言ったの?」

悠奈は無言だった。嗚咽しているようだ。

藤熊と薗畠も楽屋に入ってきた。

「どうしたの?」

永がボソボソと二人にこんなことがあったと話す。詳細は分からない、と。
SUBTLYもJAPPSも入ってくる。

「なに、なんかあったの?」

悠奈が何も語らぬ以上、どうにもできない。会場でそのまま打ち上げという手筈だったが、
悠奈を早く帰してあげようということになった。永が家まで付き添うことになった。
関係者はみな言葉少なになり、打ち上げは気まずいものになってしまった。

国道246号を悠奈と永が乗るタクシーが走っている。
悠奈は右側後部座席で頭を窓につけて黙りこくっている。
永は悠奈が話したくなるまでは何も言うまいと思っている。

和泉多摩川のマンションに着いた。
永は「私、帰った方がいい?」と訊くが、悠奈は首を振った。
二人は部屋に入る。
悠奈が紅茶を淹れる。
永は少し落ち着いたかと思う。

「おいしいね、Fauchonのキャラメル。」

永が言う。

悠奈も一口啜って、溜息を吐く。

「あの女性にねー」

悠奈がようやく言葉を発する。

「あなたこそnumbね、人の心に。いい気になるな、って言われたの。」

永は驚いて黙ってしまう。

「そうなのかな。」

悠奈がポツンと言った。

「あたし、いい気になっているかな。」

「知っている女性じゃないんでしょう?」

「知らない。」

「一見変装風だったよね、あの人。」

「・・・。」

「知らない人なら、勝手な難癖でしょ。」

「・・・でも、なんだかいろいろ知ってる風だった。そう感じた。」

「気にすることないよって言いたいけれど、そうもいかないよね、悠奈には。」

「あたし、いい気になっていたのかな・・・。」

永はキャラメルを一口飲んで、

「私は悠奈のこれまでは当然よく知らない」

と言った。

「ただ、あなたの生まれながらの資質・才能や容貌に惚れ込む人だらけだっただろう
なっていうのは容易に想像がつく。当然反発する者、嫉妬する者もいただろうね。」

悠奈はボンヤリとして聞いている。

「アーティストにとって、避けられないことかも。」

永は続ける。

「私も悠奈が羨ましいよ。藝術的に自己表現ができる人って、憧れよ、大抵のふつうの
人間にとってはね。その憧れが逸脱して、嫉妬に変わるっていうのも十分あり得る。
そういうのにも向き合っていかねばならないのがすぐれたアーティストなんだろうね。
特にミュージシャンは、山の中で焼き物一筋とかっていう仙人のような陶藝家
みたいには決してなれないからね。」

「いいなあ、陶藝家。あたしだって自然の中で歌を歌っていきたいよ。」

悠奈がほとんど涙声で言った。

「分かるよ。」

永がやさしく言う。

「私ね、東京生まれだけれど、父方はアイヌなのね。私がなんだかエキゾチックな容貌だ
なんて言われるのも、そういうことなんだと思う。別にその出自を隠したつもりは
なかったけれど、なにしろ聞きなれない名前でしょ。小学校の頃からアイヌって同級生に
言われた。きっと親御さんたちが気づくんだね。それが息子娘に伝わる。父の苦労が
結局娘に受け継がれてしまう。

こんなこと自分で言うのも嫌だけど、あの子日本人離れした容貌ね、きれいねって
言われて、アイヌらしいよって続いて、ああ、そうなんだ、なんだあ、だもんね。
そんなことばっかりよ、ずっと、高校の終わりまで。

ひどい男の子も複数いたよ。私に恋して、私が拒むと、このアイヌ女、北海道へ帰れとか、
狩猟採集しておとなしく片隅で生きてろ、イヨマンテの儀式でもやってろとか。
もう、なんていうか、なんでここまで言われなきゃいけないのかって、何度泣いたか
しれないよ。まあ、悠奈とは直接関係ない話だけれど。」

「そうだったのね。」

悠奈が涙を拭って言った。

「永(とこ)ちゃんも苦しかったね。あたしね、高3のときだったわ、特例だった
らしいけれど、福島から転校生が来てね。仲良かった子すら、放射能のことで陰で
その福島の子のことを揶揄したりしてね、本当に悲しくなったよ。あたしがそれに反発
したら、浮いちゃってね。初めてだった、大勢から浮いた存在になったの。
悠奈はいい子ぶってるってね。そして、かわいいと思って、頭いいと思って、いい気に
なるなってー」

「そうなんだ。」

永がしみじみと言った。

「それ以来なんだね、その同一の言葉を投げつけられたの。」

悠奈はまた涙を拭って頷いた。


<つづく>



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パン屋は非道徳的

教科書検定委員X:パン屋はまずいよ、え?

教科書会社社員Y:は?どういう点ですか。

X:日本人としての道徳観を教えるんだ、和菓子屋に改めなさい。

Y:おっしゃる意味が分かりませんが。

X:あったま悪いなあ!パンは日本固有の食べ物か?

Y:固有ではもちろんないですけれども。道徳と何の関係が?

X:わざわざパン屋にする意味が、こっちこそ分からん。

Y:??

X:どうとも書けるんだったら、日本固有のものを扱う店にするんだよ!

Y:それが道徳と何の関係があるんでしょうか。

X:日本固有のものを大事にしようという価値観につながるだろ!

Y:では、「Zちゃんは着物を着て、下駄で家を出て、家の近くの和菓子屋さんへ
  行きました」というようにですか?

X:いいじゃないか。分かったようだな。

Y:「パンを売っているお店、ケーキを売っているお店は非愛国的と素通りし、
  和物のたべものこそ一番だと、小遣いで母の誕生日を祝う大きなあんころ餅を買い、
  伝統の和蝋燭を母の歳の本数だけつけてもらおうとしましたが、そんな習慣は
  我が国にはないと店の人に言われたので、バースデー・ケーキとは道徳的に悪い習慣
  なのだと知りました、と、こうすればよろしいですか。」

X:合格!

Y:世界中から笑われますよ。

X:きさま、国家権力に逆らうのか!パトカー呼べ!

Y:警察車両、でしょう?



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2017 弥生短信 -3-

Under oath he says she handed him one million yen.
In her FB, she says he lied.
I trust HER?

*

今日から春期講習です。
日曜はさすがに空けて、SUBTLYのリハです。
悠奈の見学はありません。

*

シラけきった<成熟>社会、それが日本ですね。
籠池旋風、吹いていても、多くの国民は劇として楽しむだけ。
それでは選挙(アンケート)で劇の登場人物とかに駄目出しするのかと云えば、
低投票率もいいところ。国民の2割だかの支持で超安定(?)政権。
安定してるわなあ。劣化した大臣だらけで、なんだかやってく政権。
民主党政権がダメすぎたからって私も思ってきたが、いやどうして、今の政権は
同等ないしはよりヒドいんじゃないか。

小室直樹さんは所有権こそ資本主義の根幹と言っておられました。
それを蔑ろにする日本は本当の資本主義国ではないですよ。
まして日本が民主主義国家なんて言うのは、なんだかどっかの独裁国家が民主主義を
国の名にしているみたいで、ほとんどブラックジョークですね。

こんなこと書いていると共謀罪で挙げられたり、あるいは証人喚問されたり?
ま、後者は大丈夫ですな。あっしはあの偉大な籠池さんよりもずっと小物、
微生物みたいなもんだから。あっしは逆に「ShowにCome on」と呼びかける方。

*

Mooさんのキャベツ畑に舞い込んだのは、はい、まちがいなくヒヨドリです。
掌中にあるヒヨドリは、2000年小日向において以来17年ぶりに見ました。
え〜〜〜〜、17年かい。
私の手の中にいたヒヨドリは、その後すぐに息絶えたと思います。
Mooさんの掌中のは、ハルちゃんの攻撃ありつつも助かったそうでよかった。


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蹉跌集め -66- [小説]

66

「総入れ歯、MCしなかったな、MNEMOちゃん。」

藤熊が言った。

「ええ、彼女には要りません。あの現れ方、no needですよ。」

「確かに。」

藤熊が見回すと、JAPPSたちが後方の楽屋手前に立っているのが見えた。
どういう表情をしているかまでは見えない。


I'm in love with love
So I'm causing you pain
I'm in love with love
I know I'm so vain

私は恋に恋してる
だからあなたを苦しませているのね
私は恋に恋してる
うぬぼれたことだと分かっているの


悠奈が2曲めを歌い出す。
MNEMOは「おお!」と静かに唸る。

光はすぐに「返歌」だと気づいた。
幸嗣はさほど英語が達者ではないが、分かり易い歌詞に釘付けになる。


I've been waiting for so long
For the time for me to grow
Wise enough to love someone somewhere

ずっと待っているのよ
私が賢くなって
どこかのだれかを愛するときを


男どもはみなその「someone」になりたいと嘆息を吐く。
藤熊や薗畠すらも!
女たちも溜息を吐(つ)く。
嫉妬などではない、ただただ羨望しかない。
これほどに男ばかりか女も引きつける悠奈の磁力。

光も幸嗣も十三もみな項垂れていた。
めいめいが思う、「someone」は明らかに自分ではないと。
しかし、「someone」になれる可能性はないのかとも思ってしまう。
芳樹が言った「疎外」された自分には、克服の時が来るのか。
とすれば、悠奈が歌うように、自分も「wise enough」というところまで「grow」
せねばならないのだろう。どうやって?

光は思った。
悠奈を守る竜となり、空から歌を悠奈に注ぐ虹になりたいと歌ったけれど、
前者はどうあれ、後者はまさに虹であり、儚い。
竜となっても、聖ゲオルギオスが現れてしまうのかもしれない。
救いはただ悠奈が「I've been waiting」と現在完了進行形で歌っていることだけだ。

幸嗣は思った。
トキが知足を言った。自分は得心したつもりだった。
しかし、こうして凄まじいほどの魅力を持つ女性と知り合ってしまった自分は、
完全にその女性から離れない限りずっとその磁界の中にいて、惹きつけられてしまう。
黒部に帰ってもそれは磁界の外ではないだろう。「地球の裏側」のブラジルに
行っても変わるまい。だから、<違う磁界>に自分は入るしかないのではないか。
しかしその磁力を発するものが、いつまで経っても近距離に在るからという相対的な
磁力の強さで悠奈に拮抗するぐらいでしかないのではないか。シリウスは全天一の
輝星だが、8.6光年しか離れていない。悠奈は北極星ポラリスのようだ。
2等星だが、432光年も離れている。しかも年がら年中見えている。
そしていつも自分の位置を知らせてくれている!

十三は思った。
欲が行間で透け透けになった衒学的メールを送った自分の浅薄さがつくづく恨めしいが、
そうまで情けない自分になってしまうほど悠奈に焦がれてしまったことは
<どうにもしようがなかった>と。そしてあの多摩川のお地蔵様に教えていただいた
欲に駆られたドス黒い自分の心、無明。光や幸嗣は若く、悠奈を愛する<資格>が
ある。自分は妻帯者ではないか。自分はもう思いとどまっている。
ただ悠奈のファンとして、今までの自分の生活を続けていこう、そう誓ったのだ。
それにしてもー。

ーそして悠奈のステージは数曲の後、Twelve Times a Yearで終わりを告げた。


<つづく>




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蹉跌集め -65- [小説]

65

「ハハ、僕にはドアが開くときよくその前にいる習性があるんだ、ハハ。」

十三は意外にも快活に言った。

「前回ドアと激突したのは左膝辺り、今回はお尻だ。」

悠奈は黙っている。

「大丈夫だよ、悠奈ちゃん。僕はファンとして来ただけだ。ギグの成功に
少しでも貢献できればって、学生も何人か連れてきた。ただ僕は遠慮してねー
君の視界に入ったらまずいと思って奥にいたら、なんだ、ここが楽屋だったんだね。」

悠奈は十三のことば、口調、態度を猛スピードで分析していた。

「『ファン』てね、もちろんJunoのファンということだけれど、MNEMOさんのファン
でもあるんだよ。彼の他に類を見ないブログをずっと読んできたんだ、このところ。
書いていることにも共感するところ多かったし、木野先生とのエピソードも感銘を
もって読んだよ。そしてYouTubeにある音源も聴いてきた。ファンになったよ。
そして今すばらしい演奏をしたJAPPSのファンにもなったよ。彼らとはドアに左膝を
ぶつけた時に出会った。そのときから見ても、JAPPSは短期間ですさまじい
進歩をしている。尊敬する。
・・だから、僕は、このギグの出演三者全員のファンなんだ。来たくなるのは当たり前
だと思ってください。」

自分の疑心暗鬼が急速にしぼんで、悠奈は気まずそうに頭を下げた。

「ほら、次でしょ。」

十三が「もう、僕を相手にしなくていいよ」と続けるかのように言った。

「期待してます。Good luck.」

十三の促しに従って、また一礼し、悠奈は楽屋に戻る。


永が入ってきて、そろそろだと告げる。

「JAPPS、野津田部長もすごい褒めてたよ。」

永が言う。

「最後の歌、すごかったね。悠奈への曲だって、キリキリ分かっちゃった。」

「キリキリって・・・。」

悠奈がふっと微笑んだ。

「悠奈の返歌の番だね。」

永のことばに悠奈は頷く。


JAPPSは悠奈が永にまだ着替え中だと聞かされても、不平を言わず、外の空気を吸いに
出た。インターミッションは30分、悠奈は支度を急ぐ。




「こんばんは、佐藤悠奈、Junoです。」

スポットライトに照らされるや、悠奈が挨拶をする。
客席から、いや、コヤ全体、立ち見の人からもどよめきが起こる。
なんという気品とさわやかな色香が匂い立つような女性だろう、と。
白を基調としたケルト女性の民族衣装で、しかも翡翠色の勾玉のネックレイス、
耳飾りも同色の小さな勾玉ー 髪は安田靫彦が描いた額田王のように結われている。

「Numbという名のコンサートへようこそお越しくださいました。」

遠くのカウンターの方からグラスが落ちて壊れる音がする。
またボックンが指を滑らしたのだ。ボックンは会場の雰囲気から、謝罪の声も
上げられないー これ以上の無粋、粗相は許さないという。

「Numb・・・そうですね、私たち、麻痺してしまっていることを本当に多く
抱えていますね。福島のこと、また各地の地震や津波の被災者のこと、
基地に苦しむ多くの沖縄の方々のこと、広島、長崎、そして先の大戦で犠牲に
なられた人々のこと。

最近『瑞穂の国』ということばが聞かれます。<みずみずしい稲穂>のことです。
私たちのふるさと、日本の異称です。<みずみずしい>って、もちろん水という
単語の繰り返しから成った語です。その水が、瑞穂の国の水が、苦しんでいます。
福島の水は汚染されている?ええ、でもそのセシウム汚染度と同等のところが
あります。どこでしょう。東京なのです。一番ひどい汚染は、茨城、次に栃木で
確認されているんです。三番目が東京と福島。宮城県はなぜかこのデータを公表
していません。」

客席が水を打ったように静まり返っている。

「私のふるさと瑞穂の国、私の祖先のふるさと福島と東京に捧げますー」


Born in Japan
naturally, I've become a child of trees
But nowadays
I feel anxious about what it will be
My country
The islands of trees

日本に生まれ
自然に、私は木々の子になりました
でも近頃は
どうなるか不安です
私のくにが
木の島々が

Mama,
is this the way it should be?
Papa,
can we no longer swim in the sea?

Don't keep them poisoning it
Don't leave them contaminating it
Don't let us be as we are
Now we've already gone too far

ママ、
こういうものなの?
パパ、
もう海では泳げないの?

汚すのをやめさせて
穢したままにさせないで
このままの私たちでいてはいけないわ
もうとっくに私たちはやり過ぎてしまったのよ



薗畠はただのオーディエンスのひとりになっていた。
そのオーディエンスはみな茫然自失している。
こんな歌姫がかつて日本に存在しただろうか。

MNEMOは二度目のこの歌にさらに感動して打ち震えていた。
シンガーとして、いろいろな要素から観て、悠奈には敵わないとつくづく思った。

「ありがとうございました。」

悠奈が挨拶して、聴衆は呪文が解かれたようになった。
そして割れんばかりの拍手。

「この歌は、MNEMOさんのブログを読ませていただいている裡に降りてきました。
『川は呼んでる』とか、『生きているみず』、『苦しんでいるみず』というタイトルの
記事から、そして『トーホグマン』というブログ連載小説からどれほどヒントを
得たかしれません。特に、Psychic NumbというMNEMOさんの詩を
読ませていただいて、シンガーとして決定的なinspirationsに満たされました。」

この言葉にMNEMOは泣きたくなった。
「inspirations」と複数形で悠奈が言ってくれたことも聞き逃さなかった。
藤熊がポンとMNEMOの肩を叩いて、ニッコリ微笑んだ。

「薗畠社長!」

MNEMOが声を掛けた。

「悠奈ちゃん、僕が事務所立ち上げてやりたいです!」

薗畠は苦笑する。


<つづく>




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蹉跌集め -64- [小説]

64

DSC02325.jpg


周平のドラム・ソロから始まるLove Analysisが1曲目、
9小節目から芳樹のベース・リフが入ってくる。オーディエンスはそのgrooveに
めいめい自然と体を動かし始める。17小節目にバンド・インだ。
広がりまくる音、若々しい。

Love analysis
What's my love made of?
Love analysis
What's my love all about?

光が歌い出す。

薗畠が藤熊に耳打ちする。

「なかなかいいね、この子たちね。」

「ええ。うまくやれば売れますよ。」

藤熊が応える。
聖古はファンたちと寸分変わらぬラブ光線をJAPPSたちに送っている。
曲が終わり、聖古は誇らしげに藤熊たちを見回した。

数曲あって、いよいよForget It Allが始まる。
シーケンサーでストリングスにオーボエが乗る、これまでとは打って変わっての
詩情あふれるバラードだ。8小節目、<例の>ケンスキーのピアノが入る。

「キャ〜〜〜ッツ!」

ケンスキーのファンの女の子がケンスキーの奏でるメロディーと、
その貴公子のような風情にたまらず悲鳴を上げる。

悠奈は楽屋で「とうとうあの曲ね」と緊張していた。
むろん鮮明には聞こえないが、光の歌う歌詞は聞き取れている。
いよいよ「fool」の連呼のところに来る。
幸嗣がハモる。
二人ともデモで歌ったような過度な気負いが取れているように悠奈には感じられた。
少し安堵する。

曲が終わって、オーディエンスは大喝采している。
「どうもありがとう!」
光は歌い切ったという満足感を込めて挨拶している。

「えーっと、ここで珍しくオイラがMCします。」

芳樹の声だ。
確かに芳樹はあまりギグで発言したりしない。
悠奈は耳をそばだてる。

「オレら、この間(かん)いろいろありました。ほんと、いろいろ。
・・・恋ってすてきっすよね。」

黄色い声がそこかしこで響く。

「疎外ってことば、あるじゃないすか。マルクスとかの用語っす。
なにも経済の話したいんじゃないっすよ、ええ。疎外って、こういうことっす。
オイラ、昔っすけど、すげぇ好きだった子に、あなたの思いは受け入れられないけど、
あたしのこと嫌いにならないでねって言われたことがあるんすよね。」

笑いが起こる。

「これが疎外っすよ。あるものが私とは無関係であるという場合、そのあるものに対して
私は無力なものとして疎外されていることになる・・・Wikipediaっすよ。
この疎外を克服することによって、人間はその本来の自己を取り戻し、その可能性を
自己実現できるものとされる・・・これもWikiっす。これ、オイラの話だと思ってたら、
信州読書会の宮澤って人がそっくり同じこと言ってたんすよ、YouTubeで。
笑ったっすよ。」

客席では笑いではなく、ざわめきが起こった。

「この疎外を克服するって・・・どうしたらいいんすかね。
Wikiは教えてくれないんすよ。なんでも書いてあると思ったけど。

それはその女の子に戻ってきてもらって、しかもオイラに恋してもらうしかないっしょ。
ね。でもミュージシャンはね、もうひとつ、方法あんすよ。曲にして、歌い、
奏でることっすよ。・・・ラスト・ナンバーっす。」

芳樹はそう言うや、周平に合図を送る。
歌詞が「全面改訂」された幸嗣作曲、光作詞のScales of Desireだ。
その夜のレパートリー中最速のテンポ、これぞハード・ロックというナンバーだ。

悠奈は芳樹が光と幸嗣の代弁をしたことにもちろん気づいていた。
集中して聴けば、サビにはやはりドロドロがあった。
ところがA-B-A-Bの繰り返しの構成から、曲の最終部近くでCパートがついていた。

I'm a dragon who can never be beat
I'm a rainbow arching just over you
The music's written on it, now you'll read
And soar in the sky so I can hear you
Singing in praise of my love for you
And touch me in praise of my love for you

俺は無敵の竜なんだ
俺はお前の真上に架かる虹なんだ
その虹の上にはメロディーがのっている、さあ読んでくれ
そして空へ舞い上がるんだ
僕が聞こえるように
君が僕の君への愛を讃えて歌うのを
そして僕の君への愛を讃えて僕に触れてくれ


最後の2行では幸嗣がハモった。
悠奈は熱くなった。
苦しいほど熱くなった。

たまらず外気を吸おうと楽屋を出ようとするなり、ドアが何かにぶつかった。
楽屋はオーディエンスの最後列になってスタンディングで聴いているファンに
ドアを塞がれたりするような位置にあった。悠奈は、「ごめんなさい!」と言って、
ゆっくりもう一度ドアを開ける。

「大丈夫です。」

そう言った客の顔を見るとー

十三だった。


<つづく>




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蹉跌集め -63- [小説]

63

DSC02326.jpg


「おはよう!」

とMNEMOが光と幸嗣に応え、Henryなどは「ウイーッス」などと応じた。
竹中さんやボックン以外はみな悠奈とこの二人の<曰く>を大体知っていた。
悠奈は「久しぶり」と挨拶をしたものの、そそくさと器材を片づけて永と一緒に
サンタンを出て行こうとしたが、JAPPSのさらなるメンバーたちとドアのところで
出くわす。

「お、悠奈、お久〜ッ!」

周平が努めていつものような明るさで挨拶をした。
芳樹とケンスキーと周平が「やあ」と言いながら後に続く。
殿(しんがり)は聖古だった。

「あっら〜、かわいいお嬢さんたちお二人!」

聖古は初めて見る悠奈たちの印象を素直・率直に口にした。
彼女らは自己紹介をし合って、悠奈と永は外へ出て行った。

「こんちはっす!」

周平たちはSUBTLYに挨拶をして、セッティングを始める。
ケンスキーはMNEMOのところへ行き、

「今日はよろしくお願いします」

とニコニコ笑みをたたえて言った。

「こちらこそ。」

MNEMOが笑みと言葉を返す。
そしてすぐに耳打ちをする。

「心配はしてないけど、不測の事態はないよね。」

ケンスキーは声を出して笑ってから、

「歌で想いを表すけれど、その他の言動はないそうですよ」

と耳打ちして、微笑んだ。

「それでこそミュージシャンだ。」

MNEMOが言った。
SUBTLYも「シーメ」ということで外へ出て行く。
JAPPSのリハが始まる。


店がOPENとなって、続々と客が入ってくる。
藤熊、薗畠はもちろん、懐かしくも高田も来た。彼の上司の野津田も現れた。
また薗畠の部下だった内舘もやってきて場が賑やかになった。内舘はMNEMOと
StickらがやっていたG Stringのマネージャーだった人だ。
聖古と永も加わり、「業界人テーブル」はまた賑やかになった。

一方楽屋には重苦しさがあった。
なにより光と幸嗣が押し黙ったままなのだ。
悠奈はSUBTLYのメンバーたちに話しかけられて時々話をするが、他愛ない会話と
なって、そのたび光と幸嗣は苛立つような雰囲気を撒き散らす。
ケンスキーがずっとMNEMOと話していて、光と幸嗣はそちらにも耳を傾けていた。
本当なら、MNEMOと話してみたいと二人は思う。
けれど、悠奈がいてはとてもそんな気分にはなれない。
本当はそんな態度をとりたくはないのだ。しかし、どうしていいか分からない。
本当に歌と演奏で悠奈に想いを伝えるしかないー
光と幸嗣はそう思っていたのだ。

そろそろという段になって、MNEMOは「じゃ」と言って楽屋を出て行く。
彼がこのギグのMCもやるのだった。

「え〜、世の中てぇものは、実に不思議なものでございましてなッー」

MNEMOが落語の枕のような口調でMCを始める。

「やめろ、似非噺家!」

セミと渾名されるMNEMOの友人粟田がすぐにヤジを入れた。

「うっせ、この!」

MNEMOはそう言い返して、

「みなさま、本日はどうもNumbと題したこのギグにお越しいただき、
本当にありがとうございます!見れば立錐の余地もないわけで、
偏にハンサムボーイズ集団のJAPPS、そして新宿十二社の歌姫佐藤悠奈、
芸名Junoの人気のおかげでございます!」

「SUBTLYのファンがいねぇぞ!」

セミがまた茶々を入れる。

「うっせ、この!」

オーディエンスが笑う。JAPPSがライトが消えているステージへ上り始める。
女性ファンたちがザワつく。

「Why I named this gig 'Numb' must be a mystery to you all, right?
The musicians who are gonna appear tonight are all dying to make you
feel "comfortably numb"ー That's why. But that's not the only reason.」

MNEMOがオーディエンスにどれほど通じているのか自分でも確信が持てぬまま
英語のMCをする。

「やめろ!オラには全然わガんねッ!」

またセミがツッコんだ。客がまた笑う。

「あー、この、黙ってろセミ!・・・え〜、では始めましょう。
シビれちゃった、シビれちゃった、シビれちゃったよーお、というギグのスタート。
インカレの軽音サークルが生んだ、世界を俯瞰する超有望なrock quintet、
JAPPSだあッ!」


<つづく>



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蹉跌集め -62- [小説]

62

SUBTLYの音合わせを悠奈と永はじっと聴いている。
Psychic Numbが始まった。
悠奈はブログで歌詞を見ていたが、初めて曲として聴く。

「ああ、すごい!」

そうとしか言えない。
自分が目指すべきことがいくつもあると思う。
このSUBTLYのメンバーひとりひとりのこれまでの来し方も慮る。
きっと彼らひとりひとりが自分の場におけるマグネットのような存在で、
数はどうあれ、他者を引きつけてきたのだ。
そして、その磁石は砂鉄ならぬ<蹉跌>を集めてきたに違いない。
その蹉跌が結局はこの音となって解放されているー
そう思った。

「ああ、そして今もー」


「悠奈ちゃん、お待たせしましたね。」

MNEMOが呼びかけた時、悠奈は沈思黙考の体だったから、ドキリとした。

「え、あ、はい!」

悠奈は12本の弦を再び慎重に調整して、ステージへ向かう。
永が甲斐甲斐しく悠奈の手助けをする。
SUBTLYのメンバーは「シーメ」にすぐには行かず、客席に座る。
悠奈は緊張する。
新宿南口の歩道でも、狛江の西河原公園でも、どんなに見知らぬ人ばかりの中で
あっても物怖じしない悠奈だが、たった4人に見つめられて、手が震える。

「悠奈、じゃあ、聴かせて!」

永がニッコリと笑って言う。永はもうすでに悠奈をファースト・ネームで呼んでいる。
永は悠奈の2つ上、同世代だ。悠奈の歌にもう惚れ込んでいる。

悠奈は12弦ギターではむずかしいアルペッジオでイントロを弾く。

「お、Twelve Times a Yearではない歌だ。」

SUBTLYのメンバーはみなそう思った。
竹中さんとボックンも仕事の手を止めて注目している。
相変わらずボックンは顔を紅潮させている。

Born in Japan
naturally, I've become a child of trees
But nowadays
I feel anxious about what it will be
My country
The islands of trees

日本に生まれ
自然に、私は木々の子になりました
でも近頃は
どうなるか不安です
私のくにが
木の島々が

[i:]という長母音が森に差し込む陽の光のように聞こえるー
MNEMOはそう思った。

Mama,
is this the way it should be?
Papa,
can we no longer swim in the sea?

Don't keep them poisoning it
Don't leave them contaminating it
Don't let us be as we are
Now we've already gone too far

ママ、
こういうものなの?
パパ、
もう海では泳げないの?

汚すのをやめさせて
穢したままにさせないで
このままの私たちでいてはいけないわ
もうとっくに私たちはやり過ぎてしまったのよ


悠奈の歌が終わって、男たちはみな「余韻よ、減衰しないでくれ」と願っていた。
悠奈は目を閉じている。
白いTシャツとブルージーンズといういでたちだが、陳腐な形容ながら、
まるで森の妖精のようだ。

「ガシャッ!」

静寂は破られた。
ボックンが聴き惚れ見蕩れて、持っていた皿を落としそうになり、慌ててつかんで
シンクの縁にぶつけたのだった。

「す、すいませんッ!」

ボックンは泣きそうな声で謝罪する。
SUBTLYのみんなは眉を顰めるどころか、一斉に笑った。
自分ももしボックンだったら同じことをしたろうと思えたからだ。

ーそのときだ、自動ドアが開いた。

「おはようございます。」

光と幸嗣が相次いで入ってきた。


<つづく>



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Daughter of Love, Princess of Love

愛子さまの愛らしいお姿に接し感無量。
皇室の、当たり前だが<気高さ>に、感動しない日本人がゐるだらうか。
愛子さまの卒業文集での一文も拝読、その知性・感性に舌を巻いてしまつた。
当たり前だ、あのご両親の子、あのご祖父母の孫でゐらつしやるのだから。
こゝでいふ「感性」とは、いつくしみの心、やさしさと同義だ。
そしてそれが感性といふものゝすべてではないか。

それに比べ、「日本のこゝろ」などと声高に言ひながら、
おぞましい言動しかしないやうな輩は、今の只々気高くやさしい天皇皇后両陛下の
麗しいお姿を拝見して恥じることはないのだらうか。

弥栄なれ、愛子さま。



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What would the imaginary number mean in the 11 dimensional world?

授業終了。ふー。
報道ステーションやってない。やってもWBCのことがトップ?
じゃあ、見ない。

ってなワケで、Mooさんの日記にあった「複素数」の話。
虚数「i」、すばらしい発想ですよね。
「iを掛けるということは、座標の原点を中心に反時計回りで90度移動すること」って。
だから「i*i= -1」なんですね。「i*i*i*i」で「元の世界(領域)」へ戻って来る!
これを平面座標でなく空間座標で応用すると・・・
いやあ、なんだかうれしくなってしまう。
「空間座標」に時間軸、そしてさらには<なくなった>7次元を足した座標があったと
して、それにこのimaginary numberを応用したら?

何を言っているんでしょうか。

寝ようかなあ。




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蹉跌集め -61- [小説]

61

5月の「Numb」コンサートの日となった。

いわゆる「逆リハ」で、SUBTLYが先に渋谷・神泉のサンタンに入る。

「サンタン」という名は、オーナーの中川三治さんが年がら年じゅう日焼けしていて、
仲間から「さんちゃん」をもじって「サンタン」と愛称されていることで付いた。
小麦色の肌の彼が笑うと白い歯がいっそう輝いて見えて、彼に会った人はみな
印象的に彼のことを記憶する。

MNEMOが店のマネージャーの竹中さんに懇ろに挨拶する。

「いやあ〜、MNEMOっちゃん、待ってましたよ〜!!」

竹中さんはいつも心底MNEMOがサンタンで歌うことを楽しみにしてくれる。

「今日はSUBTLYで?DDじゃないの?あ、 G Stringか?」

彼は悪い冗談を言う。

「EUROYですよ!」

MNEMOも悪い冗談を返す。
竹中はガハハッと笑って、

「いや、どういうバンドであっても、MNEMOっちゃんの歌が楽しみで!」

MNEMOはメンバーに気を遣って、チラッと彼らを見て、

「竹中さんはほんとに歌好きで、僕の理解者だから!」

と取り繕った。

すると自動ドアが開いて、早くも悠奈がコヤ入りする。

「おー、悠奈ちゃん!早いね、また。」

MNEMOが声を掛ける。悠奈は丁寧にみんなにお辞儀して、

「すみません。ご迷惑でないでしょうか」

と言った。

「そんなわけないじゃないですか!」

Stickがうれしそうに応える。

「あれ、お連れさん?」

MNEMOが訊く。

「初めまして。ホムラー・レコードの音吏部永(おとりぶ・とこしえ)です。」

「すごい名前だね!」

Henryがヴァイオリンの弓の毛の張りを調整するためアジャスターを回しながら言った。

「おとりぶ・とこしえ、ですか?」

「はい。みんな忘れられない名前だって言いつつ、忘れる名前です。」

一同が笑った。
笑いつつも、この「とこしえ」ちゃんが悠奈に劣らぬ美貌を持つことに密かに
賛嘆していた。

「なんかフランス語的な響きだね。特に『とこしえ』なんてトルシエみたいで。」

Henryが言った。

「僕もほんとはHenriであって、フランス表記が正しいんだ。」

「Hを読まないんだよな。で、eは長母音で[ɑː]って読む。riはいわゆる『うがい音』ー」

MNEMOが知識をひけらかす。

「で、Hを読まないって、なんか真面目な読書家みたいだけど。」

みんながまた笑う。

「もうこの歳だしな。」

Henryが言う。

「団塊の世代の村上春樹さんは衰えずすごい描写するけどな。」

Halがボソッと言う。

悠奈も永もタジタジになっている。

「それでですねー」

永が話題を変えようとする。

「私、佐藤悠奈のA&R担当になりましたので、よろしくお願いします。」

竹中さんとキッチン担当のサンタン・スタッフ最年少「ボックン」が二人の美形に
見蕩れている。

悠奈はその二人の視線に気づき、永と共にカウンターへ行って、挨拶をする。
竹中さんはデレデレになって歓迎の言葉を贈った。ボックンは赤い顔をしてお辞儀した。

Stickがドラムスのチェックを始めて、それがまるで呼び込み太鼓の如く響いて、
メンバーたちの作業を急がせた。


<つづく>



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蹉跌集め -60- [小説]

60

十三はまったく悠奈のことが忘れられないままだった。
大学が始まって、中野坂上の悠奈のマンションの前まで行ってはそそくさと帰った。
もはや悠奈は住んでいないようだと悟り始め、それほどまで自分は嫌われたか、
それとも誰かの近くへと行ったのかと思うようになった。

「そうならばきっと狛江だろう。」

十三はほとんど確信していた。

「そして狛江なら、多摩川べりの方ー きっと和泉多摩川駅周辺だ。」

妻・花乃里が娘と里帰りした四月の9日昼過ぎ、十三は和泉多摩川へクルマを走らせた。
カーナビ通りに行き、駅前のロータリーに到着した。目の前は交番で、そう長くは
停めていられない。ナビをスクロールして、川沿いの住宅地を見つけ、
適当にその辺りを目的地にセットして出発する。

右折左折を何度か繰り返して、土手下の比較的開けた道に出た。
いい道だが、路上駐車ができるほどの広さはない。近くのコインパークを探し出し、
今来た道を今度は歩き出す。悠奈に会えるはずなどないのは知っている。
しかし、彼女に近づいているということだけである程度の満足感があった。

「俺はストーカーだな、まったく。」

十三は今度は屈辱を感じた。
自分は今までに一度としてフラれたことなどなかった。順風満帆の人生ー
悠奈と出くわすまでは。

土手道に上がって、いずれの方向へ歩き出すべきかを考える。
悠奈は駅近くに住んでいるはずだと推定し、川上方向を選ぶ。
その道を自動車教習所に通う若者が何人か歩いてくる。悠奈と年恰好が同じ女性も
たまに歩いてくる。遠くでそういう女性を認めると、十三はドキドキしてしまう。
髪が比較的長く、165センチほどの背格好だったりすると心臓の高鳴りは聞こえるほどに
なった。しかし、悠奈ではなかった。

そんな風に歩いていると、多摩水道橋のたもとにまで来てしまった。そのまま行っても
狛江市内であるのは分かっている。駅からそう遠くないところまで行ってみようと思う。
右手に都立高校があって、校庭では野球部の休日練習が行われている。その校庭の
西側の端まで来て、北へ行く道へ入る。

その道は少し下り坂になっている。
まもなく十三は何か不気味な感じがして立ち止まった。
空気が違うのだ。目を瞑る。十三は何かを感じ取ろうとする。
子どもの頃からこうした空気の異なるところでは、十三は目を瞑ると幻視とは云え
何かが見えた。思えば小日向の切支丹坂での幻視もそういうことだった。

見えたのは男女のカップルが道の左手からどんどんと出てくる様だった。
幸せそうな表情の対はない。男も女も仮面をかぶったように表情を変えない。
そしてその仮面の表情は、まさに仏頂面なのだが、さもしさが滲んでいた。

「ああ、ここにはいわゆる連れ込み宿が在ったのだな。」

十三はそう思った。この空間で、夥しい数のカップルが来ては後ろめたく欲望を
満たしたのだと思うと、自分が今していることの卑しさに戦慄が走った。

十三はその場を逃げ出す。逃げ出すや否や、右手に小さな地蔵堂が在るのが
ぎりぎり視野に入った。途端に十三はグッと踏み止まって、急ブレーキをかけたクルマの
ように慣性力で前のめった。

「お地蔵様が泣いていらっしゃる!」

十三はそう思った。なぜかそう思った。
手を合わせて何十秒も祈りを捧げて、歩き出す。すると追いかけてくる老婦人がいた。

「あのぅ、ごめんなさい、突然話しかけたりしてー」

老婦人は言った。

「今あなたさまはあのお地蔵さまに懇ろに手を合わせていらっしゃったでしょう。」

十三は老婦人の表情を見て、その穏やかさにホッとしながら、

「ええ。」

と答えた。

「なぜあそこにお地蔵様がいらっしゃるかご存じ?」

「あ、いいえ。存じ上げません。」

「そうですか。あのお地蔵様は、そう、もうあれから50年に近いかしら、
ある日すぐ近くの多摩川岸に少女の水死体が上がりましてね。
身元が不明のままで・・・。
あの小さな地蔵堂を造り、供養したのですよ、あの地蔵堂がくっついているお家の方が。」

「そうなんですか。」

老婦人はお辞儀して去っていく。十三は彼女のした話を噛みしめていた。

「泣いていらっしゃるはずだ。」

十三は独りごちた。

「その少女は、無念の死を遂げ、地蔵となった。そしてそのすぐ目の前で、
夥しい数のカップルの逢瀬を見てきたのだ。そのカップルが幸せならばそれはお地蔵様も
心安かったろうが・・・。」

十三は地蔵堂に戻って、再び心からの祈りを捧げた。
ソメイヨシノの、散って土手の方から雨で流された無数の花びらが、
小さな川のようになって地蔵堂に導かれている。

十三は泣けた。
そして心に決める。もう二度と悠奈をこんな風に追ってはならない、と。


<つづく>




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