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蹉跌集め II-18 [小説]

18

12月初め、MNEMOが発見(ほつみ)と清(さやか)に連れられて帰国した。
うれしいことに、SUBTLY、藤熊、悠奈と永、Somogumiの関係者ばかりか、
RAJOYのメンバーも全員成田まで来てくれたのだ。

ニュース・ヴァリューもあるから、報道各社も取材に来た。一言と問われ、

「Peace & Loveを歌い続けます」

とだけMNEMOは言った。

帰国歓迎会は、粟田の手配で成田市内の鰻屋の離れで行われた。

「え〜、これからMNEMOの音楽への情熱、意志が鰻登りとなることを祈念して、
カンパ〜イ!」

粟田の音頭でみなが杯を上げた。

「え〜、ユナイテッド航空は避けることができ、オーヴァーブッキングもなかったようで、
無事帰国できました。」

MNEMOが戯けて一声を上げた。

「とは云え、日本に無事戻っても、アメリカより安全なのか全く分かりませんし、
正直帰ってくるのが怖かった。」

みんな飲むのをやめてしまう。

「本当に、ひとりの歌手が何を歌おうが空しいっていうのが本音です。世の<すさみ>は
もう限界点に達しています。もう、ほんのささいなきっかけで世界の終焉という局面に
至ってしまう。」

MNEMOはサングラスを取る。

「こんなんなってしまいました。」

一同が目を背けたい気持ちになる。

「こんなんなってしまいましたと言いつつ、自分ではどんなんなったのか、見えません。
嫌なもの、怖いものを、もう見なくて済みます。それはありがたいことかもしれない。
でも、見たいものが見られなくなってしまいました。絶望的です。
病院の許可を得て付き添ってくださった小梅屋清さんのお顔も当然見えません。
視覚以外の四感で彼女を認識しているのです。一番の頼りは触覚ですと言ったら、
ちょっと問題になってしまうので・・・」

みながクスッと笑って、ようやくまた飲みだす。

「では、嗅覚かっていうと、また何を嗅いだんだってなってしまうしー」

みなが爆笑になる。

「味覚だったら、もっと問題だ。」

清が真っ赤になっている。

「だから、ええ、聴覚ですね、これしかないと言っていいくらいだ。
彼女のナース・シューズの靴底と床が擦れ合って出す音や、リズム、むろん彼女の声、
鼻歌とかですね、それで彼女を認識する。きっとかわいい子でしょうね。」

一同が拍手をする。

「ナースなんていう存在がこの世にあるかぎり、人類は捨てたもんじゃないですよ。
人の命を救うため、それこそ命を賭している人が大勢いるのも確かでしょう?
そういう人々を嘲笑うかのように爆弾を落としたり、銃弾を浴びせたりする愚か者も
また大勢いるのだけれど、きっと神仏はそういう者たちを容赦しません。
神仏は沈黙しているようだけれど、必ず見てくださっていますよ。そしてどうされるか、
それが分かったら我々は神仏になってしまう。それは無理というものです。
unfathomableという英語があって、測り知れないって意味ですけど、
僕はこの間ニュースを聞いていて、いつもunfathomableと呟いてきた。
この愚かな人為の報いはどうなるのか、と問うていたからです。」

MNEMOは清からビールをグラスを手渡してもらい、少しだけ口に含んだ。

「うまいなあ!ビールは2ヶ月ぶりかな。
・・・僕は10月8日に撃たれました。John Lennonの誕生日前日で、多くの人が
『Johnおめでとう』、『今こそIMAGINEを』というプラカードを持っていました。
この映像が私の脳裏に焼きついたほぼ最後のものとなりました。
そしてこの日はまたチロという私の<恩師の猫>の命日でした。
この2者は私の人生を変えた重要な人、そして動物です。

この2者のおかげで私は命までは奪われなかったと確信しています。」

粟田が拍手をし、みなが続いた。

「奪われなかった命を、これからどう生きるのか。それは自明です。
火を見るよりも明らかです、と言いつつ見えませんが。
私は一神教の信者ではありませんがー

みんな神の子だろう、と。
神の子同士が殺し合ったら、神への背信でしょう、と。
悪魔の子だと思うような者でも、その悪魔すら神の子でしょう?
だって神はすべてを創られたのでしょう?

私は歌い続けます。
みなさん、どうかお助けください。」


<つづく>



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