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蹉跌集め II-7 [小説]

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またあるとき、清とMNEMOは故郷の話をした。

「MNEMOさん、そうですね、二十年前くらいに、野沢の熊野様の辺りで写真を
撮っていらっしゃいませんでした?」

清が訊いた。

「え?随分古い話だなあ。そんなことがあっても全然不思議じゃないけど。
熊野様とかもそうだし、実は、良くないこととされているけれど、父方の祖父母の
墓の近くを撮影したりしたんだよね。熊野様の隣が墓地でしょう?
で、以前に<どっちも>写ったことがあって。」

「あらあ!」

清が少し呆れたように言った。

「それはあんまり良くない感じがしますね。なんだか直感的に。」

「うん。その後確かにロクでもないことが起こったよ。
まあ、そのせいかは知らないけど。」

「そのとき、ちっちゃな女の子と出会いませんでした?」

「えー、どうだろうね。ちょっと待って・・・。
あ!熊野様へ通じる鹿島坂の途中にチューリップが咲いてるところがあって、
すごく愛らしいもんだから撮ろうとして、そのときすぐ近くの保育所から帰るチビちゃんが
撮影するのを見てたな。」

「はい、そのチビちゃんが私です!」

「えぇ〜ッ!」

「私が植えたのよ、カワイイでしょって言いませんでした?」

「うん、言った、言った。お嬢ちゃんが植えたの?すばらしいねって僕も言って。」

「やっぱりMNEMOさんだったんですね。」

「ヒヤーッ!なんということだ。」

「私、もちろん幼かったけれど、私が母と植えたチューリップが自慢で、
でも他の人が愛でてくれているところに出くわさなくて不満だったんですね。
そしたら、長髪で口ひげのおじさん・・・おにいさんが写真を撮っているから、
とてもうれしくて。後で母に話したら、そんなことをする長髪・髭面って言ったら、
根本の息子じゃないかって。東京でミュージシャンやってるって。」

「まいったな、どうも。」

MNEMOは頭を掻いた。
すると清がしばらく気配を消したようにMNEMOは思った。
「どうした?」と思うと、

「その鹿島坂を挟んだところに、MNEMOさんのお父様のお墓が建てられましたね」

と清がそれまでの明るい口調をあらためて、一種厳かな声で言った。

「そうだね・・・。2012年の春のことだった。」

「そのお墓を兄弟で建てて、そして・・・。」

「そう。長兄が1年後にそこに入ることになってしまった。」

「ごめんなさいね、嫌な思い出だったら。」

「いいや、本当にそうだなってあらためて思うよ。」

「私の植えたチューリップは今も咲いていますよ。」

「うん、知ってる。この春お墓参りをした時、咲いてんの見て感激したよ。」

「もちろん、代は変わりましたけれどね・・・。」

清がしみじみと言って、「チューリップではないですけれど」と言って、
自分が持ってきたスイートピーを花瓶に生け始めた。

「香りがいいので。チューリップは匂いがないですものね。」

清が言った。

清らかな香りを鼻腔に吸い込みながら、MNEMOは、

「ああ、スイートピーと云えば、横寺町の民家の玄関先に咲いていたなあ」

と思った。

横寺町はMNEMOが1年だけ暮らした牛込箪笥町の北東方向の隣町だ。
ケンスキーの家が在る矢来町の東隣、むろん「漱石テリトリー」の範囲だ。
春、神楽坂の駅へ少し遠回りして行く時に数度匂いをかいだのだった。
MUZIKとの契約も解除になって、つらい時期だった。

マメ科の花の香りはとにかく懐かしい。
フジ、ハリエンジュ・・・。
後者はもう今や多摩川の「風薫る五月」を演出する植物だ。
日本のあの季節が待ち遠しいと思った。
視覚以外の感覚で、満喫したいと心から思った。


<つづく>




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