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蹉跌集め II-5 [小説]

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次にケンスキーの手紙が読まれ、そこには芳樹と周平の見舞いの言葉もあった。
また聖古も「神はあなたと共におわします」との言葉を託していた。

「もう一通あります。」

小梅屋が言った。

「MNEMOさん、光です。有馬光です。
おケガの具合はいかがですか。心からお見舞い申し上げます。

ニュースで知って、血の気が引きました。多摩川へ出て、MNEMOさんのケガの回復を
多摩川に祈りました。変な話ですが、MNEMOさんなら分かってくださるでしょう。

こんな折に書くべきことではないのですが、どうか聞いてください。

僕と幸嗣は今度は音吏部さんを巡って諍いとなり、決闘もしました。
お聞き及びかもしれません。周平は僕らの戦いを『早慶戦』ならぬ『早計戦』だと揶揄
しましたが、言い得て妙で、感心しました。

僕はずっとMNEMOさんが嫌いでした(すみません)。
なにしろ嫉妬からです。大先輩のあなたに嫉妬するのもおかしなことだと知って
いましたが、どうにもなりませんでした。僕はK大でそれなり勉強もし、
自分の詩人としての力も若いなりに自負するところがありました。
けれども、rockはやっぱり第一義的に女の子にモテたいという欲求の表れであり、
実践でした。内容が深そうな詩を書いても、それすらも結局それに欺される女の子を
渇望してのことでした。

むろんMNEMOさんもそういう時期を過ごされたと思います。つい最近までそうだったかも
しれません(失礼)。だから通過点としてしかたがないことと割り切る気持ちもあります。
けれど、MNEMOさんにお会いして以来、自分は女の子にモテたいということ以外の動機を
探るようになりました。しかしそれがどうしても偽善的に思えて苦しかったのです。
僕のような若者が、リビドー以外の動機をrockに見出せないことはむしろ自然で、
それ以上のことがあるとすれば、なんというか、分および年齢不相応で、何を書いても
衒学的なことになってしまう、snobbishになってしまう、と思えたのです。

僕は悠奈さんや永さんのような女性をファンにしたいと心から思いました。
具体的な目標です。もちろんそれで恋になったらすばらしいけれど、
それは今当面諦めて、僕の歳、経験、感性・知性で精一杯歌をつくりたいと思うのです。
まずは彼女らにすばらしい歌だと認めてもらいたい、と。
彼女らは薄っぺらなことでは決して欺されない耳を持っています。

僕も、歌は究極Peace & Loveそのものであり、またそれを歌うものだと知りました。
とことん知ったつもりです、幸嗣と死闘を繰り広げて。(笑)

決闘の場、日光二荒山からの眺めは最高でした。

曰く、『萬有の眞相は唯だ一言にして悉す、曰く「不可解」。
我この恨を懐いて煩悶、<それゆゑ>終に<生>を決するに至る。
既に<山頂>に立つに及んで、胸中何等の不安あるなし。
始めて知る、大なる悲觀は大なる樂觀に一致するを。』

どうぞ、ご自愛ください。
東京でまたお会いしましょう。
どうぞずっとこれからも僕らをご指導ください。

光より」


最後の方の文語体のものは日光の華厳の滝に身を投げた一高生・藤村操の
遺書のもじりだった。

「藤村は漱石の教え子でもあったんだよ。」

MNEMOが呟いた。

「『人生不可解、ゆゑにおもしろいぢやないか』ってか。やるな、光!」

MNEMOはうれしそうに言った。
小梅屋もニコニコとMNEMOを見つめていた。


<つづく>





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