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蹉跌集め -59- [小説]

59

ケンスキーにMNEMOからまたメールが届いた。

「ケンスキー君、ごめんね、君をまずはゲストでSUBTLYにとお招きしながら、
Henryの正式加入でその話が反古になってしまって。僕のブログで『上モノ募集』とか
『virtuoso募集』みたいなことを書いて、Henryが僕らと一緒にやりたいって
言ってくれてたんだけれど、なにしろいろいろとあって、どうなるか分からなかったんだ。
HalもStickも歓迎っていうことになって、一応話が整ったのはつい昨日のことだったんだ。

ケンスキー君とやりたいっていうのは何も変わらないよ。そのチャンスはきっとあると
思っています。とは云え、JAPPSがメイジャーになるのは間もなくと僕は思っている。
2バンドに跨る活動はできなくなるだろうけれど、それはそれでめでたいことだね。

さて、聖古さんからメールが来て、なんとJAPPSをプロデュースするって言うでは
ないですか!なんていうsmall worldなんでしょうな。まさか光君のお母様が
探真の参与とは思わなかった。聖古さんは探真じゃ大変な<顔>だから、
いずれつながってしまう縁だったんだね。

さて、5月13日渋谷・神泉サンタンでのギグだけれど、既報通り悠奈ちゃんがソロで
真ん中でやります。JAPPSがスターターで。SUBTLYがトリですが、それは年の功で
許してください。

ギグのトータルなテーマは『Numb』とします。いろんな意味でのnumbです。
オーディエンスには痺れてほしいし、麻痺して欲しくないこともあります。
幸嗣くんなら『南無』に聞こえてしまうかも。(笑)

各バンド・アーティスト40分が演奏時間です。また詳細は連絡します。」

ケンスキーはMNEMOの配慮に感謝した。
そして「藤熊組」とも言えるSUBTLYの連帯を羨ましく思った。
彼らはそれを「克己會」と言っているそうだ。族みたいだ。

MNEMOの前のメールをケンスキーは読みたくなった。

「バンドはなによりモチーフをひとつにしなくてはならない。その前提に、無論
メンバー相互の技術的信頼がなくてはならない。その技術は日々の努力でしか絶対に
手に入らない。その努力をこそ実は尊敬するんだ、共にね。

技術とは、単にある楽器がうまいとか、歌がうまいとかだけのことではない。
そのプレイヤーのセンスそのものでもある。バンド内でそのセンスを巡る議論が
あってもいい。けれども、あくまでプレイヤーのセンスをまずは大事にする姿勢が
なければ議論ではなく、単なる非難合戦や諍いにしかならない。4人なら4人、
5人なら5人の現在のそれぞれの感覚世界の地平をまず相互にできるだけ理解して、
そして<俺たちの地平>を見る。メンバー分の奥行きが、perspectivesが、
ピタリと重なった時、他のどんなバンドも真似できないharmonyが生まれるんだと
僕は確信している。」

正に年の功だ、とケンスキーはあらためて思う。
JAPPSはいつも団結する時にルサンチマンが伴っている。
それではいけないなとケンスキーは思うのだった。



4月中旬のある日、JAPPSは聖古と横浜みなとみらいに在る高級なcaféで会った。
聖古はいかにもいわゆる「ミッション・スクール」の同窓会会長然としていたが、
とても気さくな女性だったのでメンバーたちはひと安堵していた。

「さてー」

と聖古はひとしきりの自己紹介や雑談を終えて、「Let's get down to businnes」と
いう風情で、革のカヴァーのビジネス・ダイアリーを開いた。

「まずね、JAPPSっていうバンド名、変えられないかな。」

メンバーに一瞬にして緊張が走る。

「すごい思い入れあるの、このバンド名。」

「そ、それは、それなりに。」

芳樹が答えた。

「そう。変えたらもう自分らじゃなくなっちゃうくらいバンドidentityに関わる?」

「そ、そこまで言われてしまうと・・・。」

「ね。やっぱりPが1個多くたって、『ジャップス』は『ジャップス』でしょ。
まあ、黒人の中でもわざと自分たちをニガーって言ったり、黒人同士でそう呼び
合ったりっていうのがあるのは私も知っているのよ。なにしろ私Baptistだから、
アメリカ南部のことに詳しいし、黒人の友だちもいっぱいいるの。
でもさすがにその言葉をバンド名にする黒人はいないと思うわ。」

「・・・。」

「いや、あのね、別にあなたたちのidentityに強く関わる名前ならいいのよ。
でも、確かこの名前ってアクロニムでしょ。その主張はいいんだけれど、
もっと前向きっていうか、positiveな名前にしない?」

「考えさせてください。」

光が少し悄然として言った。

「みんなで話し合ってみます。」

「うん、そうして。もし浮かばなかったら私が考えてもいいんだけど。」

「いや、それは僕らに任せてください。」

芳樹が憤りを押し殺して言った。

「なにしろ僕らまだ聖古さんのお世話になるかも決定していませんし。」

「そうよね。」

聖古がそう言ってiced teaをストローで飲んだ。

「私ね、あなた方を売り出すイメージはしっかり掴んでいるつもり。ほんとよ。
あなた方、なかなかの高学歴じゃない。例えばケンスキー君のピアノなんて
すぐにclassicsをみっちりやってた人だわって分かる。デモも聴いたわ。
ライブでやっていた曲より断然好き。リリカルよねぇ。そういうところー
あのね、今有閑階級のおばさまたちが待望しているのに、
若い男性ミュージシャンたちが、知的さやクラシックの香りを漂わせるコンサートを
やってくれるっていうのがあるのよ。ね、あなた方ならやれるって思うの。」

幸嗣があからさまに顔を顰める。

「そういう要素もありつつね、社会貢献もしていくの。私は福島の人たちへの
支援もやっていて、それでMNEMOさんとも知り合ったんだけれど、今後も関わって
いきたいの。どうかしら、みんなもその点も賛同してくれればうれしいわ。」

「俺、ロッカーです。」

幸嗣がたまらず言った。

「社会貢献はむろん喜んでやります。でも前段はいけません。俺らロックバンドです。
あのデモの1曲はたまたまバラードになっただけです。今バリバリロックの
カップリング曲を制作中です。」

「あのね、おばさまって言ったのは悪かったけれど、そういうニーズは確実にあるのよ。
もちろん若い子たちにも照準を合わせるわよ。でもできれば老若男女ー
この際男は外すけれど、老若女に幅広く支持されるのって悪くないでしょ?
知的なロックって、きっと若い子にはウケないと思うんだけれどな、そのままじゃ。」

「そんなことはないと思います。」

光が決然と反論する。

「若者を見くびらないでください。僕ら、知的な、そして詩の深みがわかる若い子も
確実にいるって分かってます。それも日本人の子ばかりじゃなく、世界中にー。」

「そうなの。まあ、それはそれなりいるわよね。
・・・私はインターナショナルな活躍は大歓迎よ。そういう実績ももうあるの。」

「聖古さん。なにしろ考えさせて下さい。」

ケンスキーが言った。

「僕にクラシックの素養があるのは本当です。でも僕のヒーローはジョン・ロード
ですよ。ご存知ですか?」

「いいえ。」

「Deep Purpleのキーボードです。もちろん『明日にかける橋』のラリー・ネクテルの
ようなリリカルなピアノも弾きたいです。
でもこの二人、僕の中では全く相克しないんです。
どっちのようでもありたいんです、僕。もちろん猿真似したいっていうんじゃありません。
僕は僕です。どうか僕らのセンスを信じられるようになる迄、できれば僕らを追って
くださいませんか。性急に事を進めるべきではないですし。」

このケンスキーの言葉に一番驚いていたのはJAPPSのメンバーたちだった。

「すごい<見識>だ!」

周平がおどけた。

「ケンスキー君、よく分かるわ。ありがとう、思いを述べてくださって。
私もプロデューサーとしては駆け出しだから、これからいっぱい学んでいくわ。
きっとJAPPS、追っていくからね。デモのカップリング曲も、できたらすぐに
送ってちょうだいね。」

JAPPSのメンバーはみな、齟齬はあったが、いい人と巡り合えたと感じていた。


<つづく>




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