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蹉跌集め -55- [小説]

55

「そうやって強引かもしれない縁故の解釈、それによって自分を動かす動機に
することって、たとえ解釈が間違っていてもすてきなことだと思います。」

悠奈が言った。

「考えてみれば、七十億を超える人類のひとりひとりも元を辿ればみな親戚に
なってしまうんですものね。もちろんその血縁は常識的には薄いー
血縁と呼べるほどの濃さはほとんどないのでしょうけれど、
宇宙の歴史が138億年、人類の誕生は700万年前というのが最新の学説だと言います。
13,800,000,000 : 7,000,000、13,800 : 7、つまり大体2,000 : 1ですよね。
これを大変な差ととるか、そうとはとらないかは個々の勝手ですけれど、
宇宙の2,000分の1の歴史の中で人類はここまで来た。私にはたった7百万年です。
現生人類、つまりホモ・サピエンスに限れば、たかだかその歴史は25万年です。
70億人相互の縁は、それぐらいの歴史しかないのなら、濃厚と言っても過言では
ないのではないかって思います。」

「そうだね。そしてこの日本列島に限ってしまえば、さらに濃厚だ。」

「ええ。先日『阿弖流為』でもお話しましたけど、私の遠い祖先は、源義経に従った
信夫佐藤の忠信なんだそうです。たかだか800年くらい前の話です。生々しいです。」

「うん、安倍ぴょんと同じだったね。」

「驚きました、それをお聞きして。」

「ブログにも書いたし、この前も言ったけれど、彼の母方の祖父、その弟は長州の
佐藤家の出なんだ。家伝として忠信の末裔だと言うよ。それぞれ岸信介、
佐藤栄作という総理大臣さ。父方の安倍家は安倍貞任の子孫だって。
蝦夷の族長の家柄さ。祖父の安倍寛はリベラルな保守政治家だった。」

「じゃあ、首相は両親の遠祖がいずれも東北なんですか。」

「そういうことなんだ。ご自分はそれより維新の志士につながる者と思いたんだろう
けれどもね。」

「震災と原発事故被災者への住宅支援は先月打ち切られましたね。」

「ひどいもんだよね。みんな安倍ぴょんの歴史観と同じです、尊敬してます、
名前を冠した小学校を建てますって言えば、官僚に便宜を図ってもらえるかもね。」

悠奈は笑えなかった。

「悠奈ちゃん、実は僕の母方の祖父も佐藤姓なんだ。石川家に婿入りしたんだ。」

「それもお話しになりました。」

「あれ?それも話した?やばいなあ、なんとか防衛大臣、あるいはなんとか元東京都知事
みたいだな・・・面目無い。

「やはり信夫佐藤の血筋ですか。」

「そうみたいだよ。庄屋の次男坊で、近衛兵になった。母の自慢でね。
根本っていうのも藤原秀郷に遡れるらしい。」

「ああ、『トーホグマン』でありましたね、霞ヶ浦が本貫だって。」

「いやあ、ほんとによく読んでくれているね。そして信夫佐藤も秀郷流だね。
だから秀郷の末裔では最も栄えた奥州藤原氏の家臣だった。」

「その縁ですね、MNEMOさんと私の出会いは。」

「うん。そう思うと得心できちゃうのがおもしろいよね。」

「そして鈴木九郎さん、木野先生という紀州人とのご縁、熊野様のご縁・・・。」

「祖先たちの縁が今に生きているなんていうのも荒唐無稽だとする向きもあるだろう
けれども、そこは僕、漱石のことばを引きたいな。『世の中には片付くなんてものは
殆んどありやしない。一遍起つた事は何時までも続くのさ。ただ色々な形に変るから
他(ひと)にも自分にも解らなくなるだけの事さ』と。」

「あたし、漱石好きです。でも、私は『虞美人草』の藤尾なのかもー 漱石に葬られて
しまった。」

「そうなの?JAPPSのみんなには<マドンナ>なのに。」

二人はクスクスと笑った。

その後二人は河原に出てぼろぼろ二人の冥福を祈り、狛江に戻って行った。


<つづく>



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