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蹉跌集め -49- [小説]

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光が多摩水道橋に近づいたとき、スマートフォンが鳴った。

「はい。」

「あ、もしもしぃ、藤熊です。」

「あ、藤熊さん。お世話になっております。」

「いいえ、こちらこそです。でね、光くん、いただいたデモね、いい出来だと
思ってます。」

「ありがとうございます!」

「これで僕の知り合いのディレクターたちに当たってみるけれど、一点だけ。」

「はい。」

「これがJAPPSの代表曲なのはもちろんだけれど、JAPPSのすべてを語ってる?」

「といいますと?」

「JAPPSって名前がなかなか過激でしょう?それがこのバラードで勝負っていうので
いいのかなっていうこと。バンド名はジャップスだけど、ギャップスを感じるんだ。」

「・・・。」

「だから、カップリングが欲しいんだよね、有体に言うと。」

「はい。考えてみます。」

「うん。もしみんなが急ぐんなら、早めに。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「は〜い、じゃあー」

「あ、藤熊さん!」

「うん?」

「悠奈のことなんですが。」

「うん、どうした。」

「狛江に引っ越しましたか?」

「ああ。どうだろうな、僕が言っていいのかどうか。」

「西河原公園でさっき見かけたんです。」

「あ、そう。話さなかったの?」

「・・・話せませんでした。」

「そっか。」

「実は、悠奈が好きになった男性が僕らの録音のときに来たんです。」

「え?なんでまたそんな。」

「僕らのブログで知ったらしくて。そしたら、彼も悠奈にフラれたって言うんです。」

「ありゃ。」

「今悠奈は誰に恋してるんでしょう。」

「ハハ、僕にだよ。」

「は?」

「冗談だよ。そんなの僕が分かるはずないじゃん。」

「そうですか。そうですね。」

「悠奈ちゃんてそんなに恋多き女性なの?」

「え?・・・まあ。」

「ほんとの恋をしたことがないんだな。」

「・・・。」

「まあ、僕はそういうことには立ち入らないので。」

「すいません。じゃあ、メンバーたちと話してみます。」

光は電話を切って、すぐに芳樹たちに電話をし、最後に幸嗣にかけた。

「幸嗣?藤熊さんがカップリング曲が欲しいって言うんだ。」

「そっか。任せてくれ。俺今新曲ができた。タイトルはできてる。
Scales of Desireだ。」

「欲望の尺度、あるいは天秤か?」

「いや、欲望の鱗さ。」

「ああ。」

幸嗣はトキの話をした。光は感心する。

「いい話だな。」

「だろ?いい歌詞を頼むぜ。テンポは150くらいのハードロック系だ。
データ送るよ、今日中に。みんなにも。」

「おお。で、幸嗣。」

「ん?」

「悠奈と今会ったよ。狛江の公園で。」

「・・・。」

「もちろん約束してとかじゃない。偶然だ。」

「・・・偶然の多い話だな。」

「一言も話さなかった。悠奈、狛江に住み始めたようだ。」

「え?」

「この時間、中野坂上からわざわざ狛江に来ないだろ。」

「だ、誰かと一緒か?」

「いや。一人だった。」

「・・・。」

「それほどまで木野先生や藤熊さん、MNEMOさんと一緒にいたいのかな。」

「でも、そりゃ恋愛とかではないわけで。」

「まあな。でも、突き抜けてる女だからな、悠奈。」

「ああ。」

「そうだ。ケンスキーがさっき、MNEMOさんから返事があって、ギグのジョイントの件、
前向きに考えてるって。」

「そうか。悠奈も出るかな。」

「お前もそう思った?」

「うん。3ピースのギグ。」

「悠奈が嫌がるだろ。」

「そっか。
・・・逆に嫌がられなかったら、なんか俺ら軽いよな。」

「・・・。」

光も幸嗣も黙ってしまった。


<つづく>



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