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蹉跌集め -44- [小説]

44

「こうなったら、なあ、MNEMOちゃん、悠奈ちゃんをあのバールに連れて行こうよ。」

藤熊が言った。

「ああ、『阿弖流為』にですね。いいですね、悠奈さんがよければ。」

「『阿弖流為』ですか?あの蝦夷の英雄の。」

「いや、店の名前は実は違うんだけど、ほぼ同じでね。」

藤熊が楽しそうに解説する。

「僕もMNEMOっちゃんもSomoちゃんっていうアニメ監督ご推薦で数年前に
高橋克典の『火怨』を読んでさ、阿弖流為の活躍に血がたぎってねぇ。」

「高橋克典じゃなくて、高橋克彦ですね。」

悠奈が指摘した。

「あ、そっかー、言い間違えた。そっちだと只野仁かあ。」

三人は大笑いした。

「藤熊さん、驚きです、また。」

悠奈が言った。

「またあ?」

「ええ。高橋克彦さんは父の大学の同級なんです。」

「なにぃ〜〜〜。」

「岩手の人ですよね。」

MNEMOが言う。

「はい。裕福な開業医の息子だった高橋さんは、高校時代に従兄とヨーロッパを
放浪して、現状打破を試みたそうです。そこでビートルズに最初に会う日本人に
なるって決意し、いかに彼らが好きかを書いて友人に英訳してもらい、
実際にビートルズのファンクラブ事務局の人に読ませて、四人組の元へ連れて
行かれたそうです。ところが全く英語が理解できず、自分も名前しか言えず、
大落ち込みしたんだそうですよ。知る人ぞ知る逸話ですけど、父は大学時代、
直にそう聞いたそうです。」

「え、そうなんですか。」

MNEMOには初耳だった。

「そうなんだ。ますます高橋さんのこと好きになるな。彼も東北人だし、
Somoちゃんもルーツは秋田、団結して東北人魂の炎を立てたい!
『炎立つ』!」

悠奈も藤熊も笑った。

「総入れ歯・・・。」

藤熊が例のギャグを言った。

「『炎(ほむら)』と云えば、悠奈ちゃん、ホムラー・レコードがまずアーチスト
契約したいって言ってるんだ。担当がね、高田から音吏部(おとりぶ)ってぇ女の子に
変わるから、やりやすくなるとおもうよ。いい子だよ。」

「藤熊さん、じゃあ、阿弖流為に行って続きを話しましょう。」

「あ、そうだね。立ち話じゃいかんよね。はやなり、はやなりと。」

「なんすか?」

「橘氏。(橘逸勢・たちばなのはやなり)」

MNEMOも日本史をしっかり履修した悠奈もすぐにそのダジャレに気づいた。

「ぷ、お・もろえ!(橘諸兄・たちばなのもろえ)」

とMNEMOが返し、ダジャレにすっかり抵抗力がついた悠奈も、
笑いながら二人について行った。



「音吏部さんておもしろい名前ですね。」

悠奈が乾杯をしてから、開口一番に言った。

「そうなんだよ。高田が増長して、膨らんで、パンクしたでしょ。」

悠奈が苦笑する。

「音吏部はパンクしない。シュアな子でね。」

「名前がすごく音楽ディレクターっぽいですね。」

「音liveでもいいよね。」

MNEMOが言った。

「いい名前だなあ。下は?」

「それが、またすごいんだ、永って書いて、『とこしえ』ちゃんなの!音吏部って、
北海道の地名らしくって、そっから苗字にしたらしいよ。ほんとは<おとりべ>だって。
アイヌ語には<べ><べつ>って音多いよね。」

「それにしても小説の登場人物みたいな名前ですね!」

MNEMOが指摘する。

「筆者の純然たる恣意による命名ですよ。僕もやってますがね、もちろん。
音吏部だとおそらく『おたる・べっ』で分解できるんですが、<おたる>は例の小樽で、
それだけで小さな川や沢のことなんですよね、確か。<べつ>も川です。
川を重ねていうってのは、ちょっと考えにくいなあ。<Mt. Kitadake>とか、
<Mt. Yarigatake>って言うようなもんでしょう。でもまあ、あってもいいです
けれどね、本当の名前なんて言っても、人がつくったんだし。
『騎士団長殺し』の免色渉みたいに、ですね。」

「典型的な出来過ぎな名前の例としてですね?」

悠奈が一応訊く。

「ハハ。」

笑ってMNEMOは店自慢のハートランドの生を<啜った>。

「すいません、直接の大先輩です、村上氏。」

悠奈が梅酒割りを飲みつつ言う。

「そう。<めんしき>ある?」

「・・・。」

「この人もW大で、団塊の世代でしょう。」

「そうですね。」

「で、これまたビートルズ・ファン。」

MNEMOと悠奈がやりとりする。

「免色みたいに、ちょっと珍しいアイラ島のシングル・モルト、ちょうだい!」

ビートルズよりストーンズを愛する藤熊が話を遮り、阿弖流為のバーテンダー
「りゅうくん」に無体なことを言った。

「すいません。ここは一応焼き鳥BARで、そういうすごいウィスキーはないです。」

りゅうくんは律儀に応えた。

「冗談、冗談。」

「そのアイラ島の珍しいシングル・モルトって、きっとHalちゃんなら知ってますよね。」

MNEMOが言った。

「ああ、Mooさんちの猫。」

「違いますよぉ、私の相棒bassistですよぉ。実際彼は行ったんですからね、その島まで。」

「ああ、Halちゃん、ベーシストのね。はいはい。彼はプロ並みの知識だもんね。」

「でね、藤熊さん、Halちゃんと云えば、総入れ歯、Aちゃんが僕のブログに
コメントしてくれて、SUBTLYに協力してくれるっていうんですよ。」

「<えい>ちゃんが?そりゃ、すばらしいじゃないか、え、MNEMOちゃん!」

「ウス。」

「杵。ぜひに、ぜひに、やってくれよ。SUBTLY、上モノが必須だったんだし。」

「ええ。もうずっと僕はAちゃんの手を借りたいと思ってましたから。」

「いいねッ!そしてな、それを足がかりにー」

藤熊の話が続く。
悠奈は楽しく聴いていた。


<つづく>




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