So-net無料ブログ作成
検索選択

蹉跌集め -43- [小説]

43

藤熊とMNEMOがその方向に笑って視線を遣ると、品のいい老人ならぬ、
趣味のいい身形の若い女性がやって来るではないか!

「あ!悠奈ちゃん!」

藤熊が叫ぶ。

「え〜〜〜〜ッ!彼女がですか?!」

MNEMOが心底からの驚きの声を唱和させる。

「また出来過ぎの話の筋だあ!」

藤熊が半ば呆れて言う。

「僕は暗い中でしか会ってないから・・・。そうなんですか、彼女が悠奈さん。」

「キャ〜〜〜〜〜ッ!」

今度は悠奈が金切り声を上げて驚愕する。

「藤熊さん、そしてMNEMOさんですね!」

「悠奈ちゃん、なんとまあ、なんとまあ、どういう偶然!?」

藤熊が声を掛ける。

「あ!分かった、早速物件見に来たあ?」

「はい、そうなんです!藤熊さんがおっしゃった熊野山玉泉寺を見て、そこから
フラフラ歩き出して、土手の方だなあって思いながら小径に入って、
芳しい梅の香りと沈丁花の香りを辿って行ったら、『木野』っていう表札があってー
あたし、泣いちゃいました。」

藤熊もMNEMOも絶句する。

「木野先生のお家から土手へと思って階段を上ったら、藤熊さんとMNEMOさんが!」

悠奈が嗚咽し出す。

「悠奈ちゃん、泣かないでいいよ。」

藤熊がやさしく言う。

「そんな俺たちおじさん、いや、おじいさん二人の前で若い女性が泣いてる図は、
ちょっとヤバいからさ。」

悠奈は<天気雨のほほえみ>をパッと咲かせた。

「ごめんなさい、あんまり感激してしまったものですから。」

悠奈はポシェットからハンカチを出して、涙を拭った。

「MNEMOさん、明るいところでは初めましてですね。」

「あ、はい、そうですね!」

MNEMOは少し緊張した声で応えた。

「あの、物件探しって藤熊さんがおっしゃいましたがー」

「そうなんです。」

悠奈が美しい笑顔で言った。

「私にとってこの3月は、信じられないほどめまぐるしかったけれど、私の人生で
決定的な日々でした。その月の末に、こうしてさらに決定的な出会いが待っていました。
三月弥生って、私大好きなんです。『弥』の字は<いよいよ>って意味ですよね。
いよいよ生命の息吹が本格的になる月でしょう。私にとって、そのとおりでした。」

「そうだね。三月は実は僕の母が生まれた月でね。」

MNEMOが応えた。

「『弥』は<いよいよ>だし、また<あまねく>でもあるでしょう?
世が遍く生にあふれてくる月でもある。」

「『all-pervading』ですね。」

悠奈の応答にMNEMOは「さむぼろ」が出た。「さむぼろ」とは會津弁で「鳥肌」の
ことだ。MNEMOは思わず心中で「さむぼろ出る〜ッ!」と叫んでいたのだ。

「お母様は何日にお生まれになったのですか?」

悠奈が問うた。

「じ、12日です。」

今度は悠奈こそ両腕の毛穴がキュッと閉じるのを感じた。

「12日って。ほんとですか?」

「ええ。母フミは1926年、大正15年、そして12月25日から昭和元年である年の
三月十二日に生まれたんです。生きていれば、91歳でした。」

「お悔やみ申し上げます。」

「ありがとう。母は3年前に亡くなりました。」

「・・・私、今月の12日に歌が降りてきて、それで藤熊さんにシンガーとして
認めていただいたんです。」

「そうなんだよ。」

藤熊が感慨深げに言った。

「新宿南口の路上ライブで録ったのを聴かせてもらって。」

「ああ。藤熊さんがここでJAPPSのメンバーたちと遭遇されて後の。」

「うん。ケンスキー君が『トーホグマン』って言ったのを僕が偶々耳にしてね。」

MNEMOはその母の誕生日に降りてきたという悠奈の歌を無性に聴きたくなった。

「悠奈さん、藤熊さんからあなたの歌、聴かせていただいていいですか?」

「もちろんです!」

悠奈はまた泣きそうになっていた。

「MNEMOさん、MNEMOさんのPsychic Numbも、今月の12日の歌ですよね。」

「そうです。」

三人は重ね重ねながら互いの縁の深さを思い知り、さらなる衝撃を受けて、
しばらく沈黙した。


<つづく>





nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。