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蹉跌集め IV-1 [小説]

1

時は経ち、春となった。
悠奈の月山・象潟ロケ出発日である。
関係者全員が新宿のスバル・ビル前に朝集合し、ロケバスに乗り込む。
バスが首都高に入ると、Somoこと下山聡が監督として運転席脇に立って挨拶をした。

「えー、おはようございます。
いよいよ、日本のミュージックシーンにとって得難い歌姫、佐藤悠奈さん、
すなわちJunoさんの次期アルバムのヴィジュアル素材撮影のためのツアーがスタートです。」

自然に一同から拍手がわく。

「まずでは、悠奈さん、一言お願いします。」

悠奈は唐突さを覚えながらも、通路を挟んで運転手席左の二列目の席から
立ち上がって、お辞儀をした。

「みなさま、おはようございます。」

一同も挨拶を返す。

「天気も、山形秋田の方はまずまずらしいとのことで、安堵しています。
象潟は、芭蕉の句に因めば雨が降っていてもいいし、いいえ、むしろ降っていて
ほしいと思っていますが、晴れていたら晴れていたで、陸の小島の群れが鮮明に撮れ、
鳥海山も見えるでしょうし、それもすてきで、だからどちらでもいいという珍しい
旅です。」

皆が笑う。

「月山では逆で、絶対に晴れていてほしいのです。
なぜかー
MNEMOさんから大切な歌をお預かりしたからです。
Would You Be Mineという軽快ながらも一種の切なさ、哀切が響いてくる歌で、
MNEMOさんはずっとだれか女性のシンガーに歌って欲しかったのだそうです。
その栄誉を私がいただくことになりました。」

「構成の加賀美です。」

隣席の加賀美が立った。

「ごめんね、悠奈ちゃん、割り込んで。」

「いいえ。」

悠奈はにっこり笑って座る。

「悠奈さんとは二ヶ月半ほど、綿密に打ち合わせてきました。
スーパーヴァイザーの藤熊さん、および薗畠MUZIK社長、またホムラーの野津田
制作部長にもその構成の細部までご了解をいただきました。
そこで今悠奈さんが言われたWould You Be Mineです。
みなさん、音資料および添付書類は事前にチェックされてきたと思います。」

一同がめいめいのバッグからその紙資料を取り出す。

「悠奈さんのオリジナルは、みなさんもご存じのようにセレナーデと言うべき曲が多く、
それゆえにJunoは月の女神のようなイメージが湧くのです。
しかしローマ神話でJunoはJupiterの妻で女性最高神、結婚の神です。
Junoさんのイメージは月であってももちろんいいのだけれども、朝や昼の歌も欲しい。」

「なるほど。」

粟田が声を上げた。

「結婚を司るんだろうけれど、自身も結婚しなきゃね。」

「あ、セクハラ!」

藤熊がツッコんだ。

加賀美が咳払いする。

「Would You Be Mine、つまりプロポーズの歌ですね。
MNEMOさんによれば、なんと24年も前にこの歌が降りてきたと。
五月初旬、野川のほとりでのことだったそうです。
清々しいでしょ?そして憂愁もあるんですね、そこはかとなく。
悠奈さんは哀切と言われましたが。」

「結婚はいいことばっかじゃないからね。」

また粟田がツッコんだ。
加賀美は無視する。

「悠奈さんには月ばかりでなく、太陽と風にもなっていただきます。」

「さすが女性の最高神!なんにでもなれる!」

今度は藤熊がツッコんだ。

「きっとポップさという意味では、この曲が一番だという結論なんです。」

加賀美が大きな声で言った。

「月山では、残雪はあるでしょうが、雪が解けたところの高山植物ー
つまりはお花畑で、許される限りのイメージを撮りたいのです。
だから是が非でも月山では晴れてもらいたい!」

「大丈夫!」

粟田が言った。

「俺はすっげぇ晴れ男だからさ。」

「お腹が脹れ男だろ!」

藤熊がツッコんで、バスの中は大笑いとなった。


<つづく>



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刻一刻破滅へ向かうだけなのか

https://www.youtube.com/watch?v=pX9hL93HPMI

トランプが国連で凄まじい演説をしました。
北朝鮮の過激な物言いにとうとう同レベルで反応する米大統領を世界は戴いてしまった。
きっと三代目は苛烈な物言いと共に度胸試しをまたするでしょう。
アメリカの先制攻撃の根拠となるようなものだったらー

安倍さんは対話を一切捨て、「安保法制」で米軍と連動を確約しています。
北の攻撃力を一瞬で奪うようなことなどできるはずもない中、
日本に反撃する矛先が向かうことを覚悟しなければならない局面が来る可能性が
今最高度に高まっています。

なのに、「人づくり解散」だそうです。

何を言っているんでしょう。

日本は、極東は、今刻一刻破滅に向かっているのかもしれません。

3人の「リーダー」たちは、みんな親や祖父の七光りばかりです。
そのことがどれほどの意味を持つか分かりませんが、
苦労知らずが他者の命に寄り添う精神を養っているとは思えないのです。



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2017 長月野分の日雑記

今日は午後からHenriくんのところでのセッションでしたが、
台風で帰ってこられない心配があり、延期としました。

*

台風ばかりか、解散風も吹いているそうで、まったくいいご身分の人たちは
自分らの都合だけで国費を湯水のように使う。

*

Scalarという概念があって、これはvectorとは<向きがない>ことで異なり、
「大きさ」を持つことでそれと同じだと言います。これは物理や数学の用語ですから、
これから少しだけ記すことにその用語を使うのを嫌に思う方もいらっしゃるでしょう。
ご容赦を。

人は<意志ないし意思>のスカラーがこの世で肉体を持ったもの。
死ねばまたそれに戻っていく。

こういう突飛で面妖なことをなんと多くの胡散臭くない人が言っています。
証拠は?
それを証拠立てたら、なぜ宇宙は、存在は、生命は、生まれたのかの謎を解き、
それを証拠立てるのと同じくらいむずかしいー
結局不可能でしょうね。

*

この台風休み、せいぜい自分流に善用しましょう。



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蹉跌、悠奈、鈴木祥子さん

昨夜はSimogumiのみなさんと飲みました。
Simoちゃん、幸夫ちゃん、Kと主に話しました。

特に前者2人は『蹉跌集め』を本当に透徹した目で読んでくださっており、
なんだか申し訳なさを感じてしまうほどでした。

悠奈をもっと際立たせたいー
3人の一致した意見でした。

*

Twitterのフォロワー増加が止まらず、今は3200人台に入っています。
ありがたいことです。

昨日フォロワーさんのフォロワーさんによる鈴木祥子さんの記事をたまたま見つけ、
返信し、ひとしきりのコメント往還が。
鈴木祥子さんはsingerで、知る人ぞ知る歌姫です。
大昔、彼女に私が担当していたラジオ番組に来ていただいたことがあります。
一緒に歌うという構成作家の指示で、なんと鈴木さんはジョンのI'm So Tiredを
選ばれたのでした。驚き入ったのです。こんな選曲普通しません。
ガッチャンにギターを弾いてもらって、二人で歌いましたっけ。
それ以来何の交流もありませんでしたが、印象深さは決して薄れなかった。

歌姫、いいですなあ。

悠奈のことを語り合うことになる夜を迎える前に、鈴木さんのことをTwitterで
語り合ったことはなにか示唆的でありました。


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IS THIS AMERICA

多摩川は彼岸花が満開となっています。

この頃はTwitterでのやりとりがおもしろく、そっちにカマけてしまいます。
今はフォロワー3,100人となっており、最近は英語ネイティヴがフォローして
くださる方々の主流になりつつあります。

英語で書いたり、日本語で書いたり。
英語の場合、日本人やnon-nativeの方がつながってくださったり、
「いいね」をくださったりするというのは、当然英語ができる方ということになり、
こういう書き方をすると語弊が生じそうながら、みなさま並み以上の英語力の方々と
察することができます。

*

Henriくんが功くん作曲のThe Saviorのプリプロを昨日上げてくれて、
今度の日曜は治雄ちゃんのベースoverdubbingがあります。
楽しみです。また私も仮歌を入れろとのこと。

*

12.16のランタンBeatles Tribute Partyでは、RAJOYのメンバーも来てくれるとの
ことでして、私の本番組後のソロ・コーナーで2曲くらい付き合ってくれると。
1曲はオリジナルで、IS THIS AMERICAをやろうかと思っています。
青山でやった際の大好評だった1曲で、Henri君はヴァイオリンを弾きながら
涙が出たと。アンコールで彼がこの曲を「Bis!」と言ってくれたのは、
そういうことがあったからだと聞き、私も感激しました。

今度は功くんも混じって、ストリングスを弾いてくれます。
よりすごいIS THIS AMERICAになるでしょう。
そしてそれを録音し(別録音ですが)、YouTubeなどに上げて、アメリカの心ある方々に
聴いていただきたいと念願しています。

そうそう、Mooさんの従妹さまもこの歌が好きだと言ってくださった。
12.16、おいでになりませんか? (^^)/



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蹉跌集め III-34 (第3部了) [小説]

34

「悠奈ちゃん、私ね、驚いたことがあるんだよ。」

MNEMOが山上の茄子漬けをモゴモゴと噛みながら言った。

「どんなことですか?」

悠奈が訊く。

「悠奈ちゃんのWhen There's No-One Left to Hearを聴いたときね、
僕が新百合の丘で浮かんできたメロディーとヴァース部分が同じなんだよ。」

「ええ?そうなんですか!」

「うん。不思議なもんだね。吉祥寺で聴かせてもらった時、僕は卒倒する想い
だったよ。」

「MNEMOさんのサンフランシスコでの一件があって、あたし、たまらずに思い切り
泣きたくなって、多摩川の河原へ行ったんです。泣いて泣いて、涙も涸れたとき、
あのメロディーが降りてきました。」

「ああ。降りてきたんだよ、確かに。」

MNEMOは多摩自慢に口をつけた。

「よみうりランドの在る丘から、多摩川の悠奈ちゃんに降りてきたんだよ。」

悠奈は戦慄を感じた。

「もう疑いないでしょう。加賀美一党の武士がー 戦いに疲れきって、敵前逃亡した
侍がー 僕に、そして悠奈ちゃんに、歌ってくれと想いを託したんだよ。」

現代を生きる加賀美一党の幸夫が唸る。

「そんな話をお聞きして、私はどうすればいいというのですかね。」

幸夫が言う。

「歌はともあれ、幸夫ちゃんは戯曲や小説で遠い先祖の想いを描けばいい。」

MNEMOが言う。

「今こうして、下山聡氏を通じて幸夫くんは僕に知り合い、
さらに僕はトーホグマンという自作の荒唐無稽な小説からケンスキー君を通じ、
また吉田兼好、しら梵字、いろをし房を通じ、多摩川丘陵のふもとの多摩川で
悠奈ちゃんと知り合ったんですよ。この巡り合わせー
加賀美一党の厭戦武士の配慮もあったということでしょう。」

「そうですね。」

悠奈が言う。

「加賀美さん、きっと月山、象潟でのロケ、そしてできあがる舞台、ミュージック
ヴィデオはすばらしいものになりますよ!」

加賀美はジーンときて言葉を失ってしまう。
悠奈が多摩自慢を注ぎ足す。
加賀美はそれを呷って、

「ああ、ご先祖様よ、感謝します!」

と言った。


<第3部了>




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蹉跌集め III-33 [小説]

33

そのときチャイムが鳴った。
加賀美がインターフォンを取って応答する。

「おお!悠奈さん!」

加賀美が歓喜の声を上げる。

「根本さん、いいですか、悠奈さんなんですがー」

「もちろん!」

程なく悠奈が部屋に入ってきた。

「すみません、お二人のお話中に。」

「いやいや。悠奈ちゃんが入ってくれれば、もっと話が弾むよ。」

MNEMOが応えた。

「悠奈ちゃんも飲む?日本酒だけど。」

「あ、じゃ、ちょっとだけいただいていいですか。」

加賀美がコップを持ってくる。

「冷やでいいね。」

「ツマミは、何かしら冷蔵庫に入っているでしょ。勝手に持ってきて。」

MNEMOが言い、加賀美が近江の漬物を見つけ、

「これはいいや!」

とテーブルに持ってきた。

悠奈が呆気にとられた表情をしている。

「どうしました、悠奈さん。」

加賀美が訊く。

「これ、山上の漬物ですよね。」

「そう。看護師の小梅屋清(こうめや・さやか)さんのお母様の実家が和歌山で、
どういうことなのか、帰郷すると滋賀にも必ず立ち寄るとかでね。
お母様と一緒に清さんが正月に行った際に、現地から送ってくれたんだ。」

「近江八幡とかに参拝されるんじゃないですか?」

悠奈が言う。

「おお。そうかもね。ということは、清さんのお母様の家は八幡信仰?」

「源氏ですね。」

加賀美が言う。

「うん。今度訊いてみよう。」

MNEMOが言う。

「でも、悠奈ちゃん、どうして山上を?」

「私の母方の実家が近江なんです。琵琶湖の東で。」

「そうなんだ。」

「山上のお漬物は家でも切らしたことがないほどなんです。」

「へ〜。」

MNEMOが驚く。

「俺んちの母方も、戦国末期に近江・蒲生から會津に来たみたいだよ。遠い話だが。
氏郷さんと一緒にね。」

「縁なんですね、これも。」

加賀美が言う。

「そうなんですよ、根本さん。」

加賀美が身を乗り出す。

「僕がお邪魔したのは、悠奈さんから例の新百合の丘でMNEMOさんが
体験されたエピソードのことを聞いたからなんです。」

「え?ああ、太平記のね。」

加賀美はRAJOYの連中の「太平記戦跡紀行」の話をし、悠奈との仕事の話も
合わせてMNEMOに話した。

「いやあ、驚いたね。」

MNEMOはしみじみと言った。

「僕が新百合の丘でその存在を感じたのが、加賀美一党のひとりだったというわけか。
んんん。トーホグマンを書いていた時に、気づかなかったなあ。加賀美遠光と、
長男秋山光朝のことも書いたんだけれどなあ。」

「MNEMOさんの、多摩丘陵との地縁はどうなんですか。」

加賀美が訊く。

「長く登戸で英語を教えていたからね。民家園や枡形城趾とかも何度も行っているし。」

「RAJOYの芳樹くんは、近くの専大に通ってたんです。」

悠奈が言う。

「あ、そう。つながるねぇ。
ん〜、でもその芭蕉の月山での句、象潟、西施・・・驚きだねぇ。
幸夫ちゃんはどう発想したの?」

「いや、実はですね。昨夜藤熊師匠と悠奈さんとで狛江で飲みましてね。
帰り、藤熊さんと別れてから悠奈さんと多摩川の土手を歩いたんです。
月がきれいでしてね。十三夜くらいだったかな。なにしろ冬の澄んだ夜空ですから、
玲瓏な月光が悠奈さんを照らしましてね。あんまりジロジロ見るわけにもいかず
困りましたが、悠奈さんがなんだか月そのものに見えてしまって。」

「うん、うん。」

「家に帰りましてね、悠奈さんのステージの構成を考えました。
そもそも悠奈さんを普通の女性に設定して、普通の生き方をしている中、
突然頭の悪い為政者たちの最悪の選択、すなわち戦争でその日常を断ち切られると
いうようなことで行こうかと思っていたんですが、どう考えても、
実際に月光の下で見た悠奈さんは、やっぱり、普通じゃないんです!」

「ハハハ!」

MNEMOが笑い、悠奈は顔を赤らめた。

「月という言葉から、そして悠奈さんが信夫佐藤の裔(すえ)だということから、
月山が浮かびましてね。」

「なるほど。」

MNEMOが大きく頷いた。

「当たるね、その企画。導かれてるよ。」

そう言って、山上の茄子漬けを所望し、悠奈が箸で口に運んでくれた。
加賀美は、「目が見えないのも悪くないな」と思うのだった。


<つづく>



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戦争前夜かもしれない今

昨日のリハ。

Henri君宅は都内某所、城北地区に在り、私は本当に久しぶりに根津や千駄木の駅を
通過しました。17年ぶりかな。漱石テリトリー探索で行って以来。

大猫がいて、しかし人懐こく、かわいかった。
大の猫好きのスティックがずっとかまっていました。

Henri君の作業は始まると怒涛のようで、その瞬発的なイメージの「音化」に
いつもながら圧倒されますが、初めてそういう姿を見る功君は当然とは云え
大興奮するのでした。

Maxi singleという感じで、4曲ほどを小アルバム化するつもり。

昨日の対象2曲はいずれも反核の歌ー
なのにその作業中に北朝鮮は水爆実験。

呆れてしまう。
本当に情けない。

そしてトランプ政権も一歩また踏み込んで軍事的対処に近づくコメントを
発表しています。

なんでこんな愚劣な二人のリーダーに多くの人々の生殺与奪の権を握られてしまうのか。
北朝鮮との対話を拒む安倍政権は戦争をしたいのか。

リアルに戦争前夜なのかもしない今を、私たちは今生きています。

こんなままにしていいはずがない!


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RAJOYの初リハの日に

今日はHenri君のところでRAJOYの実質上の初リハです。

昨夜ETV特集で放送された大林宣彦監督の「花筺」に懸ける思いに触れて、
RAJOYも同じほど真剣に作品に取り組まなければいけないと強く感じています。

大林さんの故郷は広島県尾道市。
尾道を数年前訪ねました。
映画通り、坂だらけの街でした。
猫がいたるところにいて、長閑な港町なのですが、海は狭く、
こじんまりした印象で、こういうところで監督は生まれ育ったのだな、
なんだかこの街にして監督のお人柄なのだな、と思ったものです
(と言いつつ、実際を知っているわけでもなかったのですが)。

監督のお住まいは成城、私の憩いの場である野川のほとりです。
何度かお姿を見たことがあります。
Simoちゃんの恩師ということで、びっくりです。
彼が大林監督の指導を受けている頃は私がまだ彼と知り合う前のことでした。
そのとき私は野川の近くに住んでいたのです。

Simoちゃんも私も、次の作品に懸けることでは一緒。
私は面識など一切ありませんが、平和への思いを作品にする情熱について
だけでも大林監督に近づきたい。

そのSimoちゃんも1日に誕生日を迎え、昨日2日は私の亡き父の誕生日でした。
存命なら94歳でした。父も軍隊に取られた口で、平和主義者でした。

「父よ、RAJOYの音楽活動に力を貸してください」と祈りました。



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蹉跌集め III-32 [小説]

32

「アカシックレコードって、MNEMOさんご存じです?」

加賀美が言った。

「ええ。宇宙開闢以来の事象や想念、感情が保存されているっていうんでしょう、
アストラル界の光に。」

「ないしはアーカーシャの光にですね。」

「おもしろいですよね。NHKのラジオでね、広島大学名誉教授の前田宗鳳という方が、
アカシックレコードという言葉は使わずに、同じことを論じているのを聴きました。」

「ほう。広島大学名誉教授が。」

「ええ。キリスト教会に通いながら、14歳で出家して、臨済禅の僧となり、
後30いくつかのときに渡米してプリンストン大学かで比較宗教学を教える立場になり、
そこで村上春樹とも出会い、話もする仲になったそうですよ。」

「春樹、ですか。」

「彼はプロットなしで書くんだそうですよ。」

「ほう。MNEMOさんもそうでしょう?」

「ハハ。大作家と同列にされても困るけど。粟田なんか酷い言い様でね、
思いつくまま、行き当たりばったりで書く、なんてね。」

加賀美は大笑いしながら、酒をめいめいのグラスに注いだ。

「村上さん、自分が実際に行き、そこで湧いてくるイメージ・・
彼は『ヴォイス』と言っているそうですけど、それに耳を傾けていけば物語が
紡んでいけるそうですよ。」

「おお。その<土地の>記憶ですね。」

「そういうこと。彼が前世でそこに何らかのゆかりがあるのかどうか知りませんがね。
きっとなくても聞こえるんでしょうね。」

「ううむ。」

「彼の小説の特徴は想像力の根を無意識にまで下ろしていることにあるんだ、と。」

「むむ。」

「『地下一階の下にはワケのわからない空間が広がっている』と。『地下一階』とは
潜在意識で、その下というのは無意識のことだと。さらに彼は、こうも言っているとー
自分にとって小説を書くというのは、自分が経験していないことの記憶を辿るという
ことなんだと。」

加賀美は前髪を垂らして胸に刻むこむようにその言葉を噛み締め、
やおらグイッと酒を呷った。

「深い、文字通り、深いですね。」

加賀美はそう唸るように言った。

「僕はね、根本さん。学生時代にインド・ネパール、そしてチベットへ旅したことが
あるんです。」

「おお。」

「そこでね、最終的にはチベットでね、アーカーシャ光の体験をしました。」

「なるほど。村上さんの言っていることがよく、よーく分かると。」

「ええ。きっと彼も知っていますよ、少なくとも、アーカーシャ光のこと。」

「町田さんが言うには、村上さんの文体が地域的特色に依らないのは、人類普遍の
無意識との対話から物語が生まれてくるからだと。」

加賀美は「ああ!」と言って泣きそうな顔をした。

「すごい、すごいですよ、根本さん!」

「だからねー」

MNEMOが置いたグラスを少しだけ手探りしてとらえ、一口酒を啜って言った。

「村上さんとの彼我の差は大きくとも、僕も同じだなって思いましたよ、ええ。
だから、僕の書くものも地上階にいる人たちには荒唐無稽でデタラメに響くのは
当たり前なんです。僕も実は地下一階より下に彷徨うことがあるんです。」

「ええ、ええ。そうですとも!根本さんがその町田さんのラジオの話に出会うこと
自体がそれを物語っていますとも!」

加賀美は感激してMNEMOの手を取ってそう言った。


<つづく>



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12.16 MNEMO to sing BEATLES

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12月16日(土曜日)に私、Beatlesを歌います。
場所はおなじみ渋谷ランタン(井の頭線神泉駅すぐ)です。

最初は功くんとKがいるRoatlesに混ざって、Johnパート。
他に2組のタイバンが演奏して、最後は私が中心で歌いたい曲を。

RAJOYの他のメンバーにはまだ告げていませんが、
可能なら彼らにも参加してもらって、例えばHenri君のピアノで以前やったように
The Long and Winding Roadとかもいいですよね。

ランタンのオーナーとチーフは、自分で言うのもナニですが、私の熱烈なファンで、
5歳からBeatlesを歌っている私のカヴァーを楽しみにしてくださっています。

忘年会みたいなパーティー・ライブ、よろしかったらおいでください。


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戦争前夜〜そうさせてはならぬ、断じて!

さきほど文春オンラインの記事ー
「アメリカは北朝鮮に先制攻撃するしかない」
を読みました。

北朝鮮が核弾頭搭載ICBM技術を完全に持つ前に、とのことでした。
韓国と日本への報復攻撃はあるが、北の砲撃は破壊力が乏しく、南側の建物にいればよい、
日本へのミサイルは迎撃可能だ、などと。

8月の「原爆・太平洋戦争。第二次世界大戦反省月間」が終わるや、
なんの反省もなかったのでしょうね。
少数の犠牲で大多数が助かるという理屈です。
そしてその「少数」が相対的少数であって、すさまじく多数なのが戦争なのです。

呆れてしまいましたが、こういう論調がこれから増えてくるのでしょうー
いやもう多くなっているのでしょうけれども。

「まさか」が現実になってしまう一歩前なのかもしれません。

そんなことにはさせない努力が必要です。



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誕生日を迎えました。

ひとつ歳をとりました。
Kと同い年だというより、治雄ちゃんと一緒になったと言いたいのです、
激しく!

*

昨日Mick師よりフライングのお祝いメール・・・
それでもうれしかったです。
先ほどMooさんからも、Kからも。

あ、他の皆様、催促しておりませんので・・・ ^^;)

*

Twitterでもフォロワー様より多くのメッセージと「いいね」を今現在いただいております。
メッセージをくださったのはいずれも宮城の男性二人とある南の島の血を引くやさしい女性。

男性のことだけ書くと(笑)、東北人同士の言葉で会話することが親愛の情を育んだのです。
宮城(仙台)弁は會津弁とはかなり違うものの、それでも共通項はいくつもあり、
スペイン語とポルトガル語よりは小さい差だろうと思います。

仙台弁で「ほでなし」という語があることも最近その方々との会話で知りました。
會津では「へでなし」。京ことばの「本地なし」が東北へ伝播し、訛ったものです。
仏教用語ですが、「根拠がない」ということから、「あやふやな(人間、言動)」を
言うのは共通でした。

この「へでなし」は亡き父も語源不明と言っていたのですが、私が突き止めたのです。

自慢かい。

ところで、体調がすぐれないのです。
困ったものですね、1歳齢を重ねたその日に。
幸先がいいの反対。
しかし、多くの方にお祝いいただき、気持ちは元気になりました!

ありがとうございます!!


*

9月3日RAJOYはHenri邸に集い、太鼓なしのリハーサルをします。
過日上げた功くん曲と、E2aTの練りを中心に。
RAJOYこそ私の自己実現の手段であり目的でもあると思っています。
また、個人としても音楽活動をしていきたいー
できれば貪欲なまでに。

まあ、私の行動力次第ですが。

*

新たな一年、みなさまにもどうぞ温かいご声援を頂戴できれば、
これにすぐる栄誉はありません。

よろしくお願い申しあげます。




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ガリアン・Digital Remaster版

夜明けがめっきり遅くなってきました。
当たり前ですね。お彼岸まで一ヶ月を切ってしまっているのですから。
那須高原で彼岸花開花とTwitterで知りましたが、狛江でも咲き出しました。
驚くべき早さ。
北東気流で低温の、曇りや雨がちの日が続いたからに相違ありません。

今朝は久しぶりの陽光。

*

「蹉跌」ばっかり書いていて、つまらない方には申し訳ないと思っております。

Mick師には「今までとまるで違う方向に話が」と笑われました。 ^^;)
「トーホグマン化している」とも。
Kなんかは「思いつきで書いてんだから」と。

*

https://twitter.com/sunrise_music_p

『機甲界ガリアン』サウンドトラック、初のデジタルリマスター、
未収録音源も初収録で、発売決定です!大変お待たせいたしました!
続報をお待ちください!

よろしくお願いします!



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蹉跌集め III-31 [小説]

31

「まあ、でも、こういう話はロマンということでね。」

MNEMOは笑って言った。

「そんなふうに解釈できたらおもしろいっていうことでしかない。
それがインスピレーションでしょう。」

「実におっしゃるとおりですね!」

加賀美は強く同意した。

「ただねー」

MNEMOは酒を飲み干し、加賀美がすぐにそれを満たしていく。

「霊は存在するからね。」

「ええ。」

「僕は粟田と共に18の時、しっかりと幽霊を見てしまっている。
これはもうどうにもならない。私と粟田と、そのとき一緒に見た他の4人はー
当時の高校の担任、日本史の教師で唯物論者も入っていたのですがねー
自分らだけの事実・真実であっても、そうなんですよ。」

「よく分かります。長岡藩士の霊ですね。」

「と僕は解釈しているんですけどね。」

「その霊も当然自分の悲運を理解してほしい、さらに戦争の空しさをも訴えていると。」

「そのとおりです。僕に託された使命なんですよ。
だから、太平記に強い興味を持っていた頃に、多摩丘陵、新百合の丘で吹き込まれた
霊感はその延長線上での出来事だと思うんです。」

「ええ。」

「そして幸夫ちゃんにとっても、僕にとっても、ひいては粟田やSomoちゃんにとってもー
出羽の国での霊感ならさらに棒もエカ君にも、つながっていくー 悠奈ちゃんを中心に。」

「いや、MNEMOさん中心なんじゃないんですかね。」

「ハハハ!」

MNEMOは大笑いした。

「悠奈ちゃんが中心とした方が美しい!」

今度は加賀美が大笑いした。

「藤熊さんはどうなるんですかね。」

「ああ。師は坂東の人だよね。桐生の人だ。藤熊という姓はね、會津坂下(ばんげ)という
ところのー」

「『トーホグマン』で読みました。元々蘆名一族で、金上氏と同じ、戦国時代會津領だった
今の新潟県阿賀町津川の麒麟山城城主だったんですね。伊達政宗に敗れて、
決して追っ手のかからない山深いところを関東方面へ逃げて、たどり着いたのが桐生と。」

「いやあ、よく読んでくださっているなあ!」

「そしてそこで創建したのが<根本>神社なんですものね!」

「どうしてなんでしょうね。會津で縁を持ったとしか思えない。
母方の祖先は近江蒲生氏郷についてきたというのですけれどもね、もちろん、それより
以前に違う系統の母方の先祖がいたのは当然で、もしかすると、藤熊氏とつながるのかも
しれません。ただ、『根本』神社ですからね。父方との縁なのでしょうかね。
これについては、まだ霊感が降りてこない。」

二人は笑った。

「ただね。悠奈ちゃんの母方のご実家が近江だというんですよ。
唯一出てくる非東日本でね。ここでも僕につながるのかと思ってしまうんです。
あと、木野先生ね。長州生まれで、広島原爆の惨禍でご家族を失っていらっしゃる。
長州は戊辰戦争、広島はむろん核のことで私につながってくる。
さらに『きの』は『紀』でしょう?古代の紀の国の豪族ですよ。
和歌のこころを最初に説いた紀貫之を後に生み出す一族ですよ。
歌、歌です。これで決定的に木野先生とつながっていると私は信じている!

ま、僕のことはともかく、悠奈ちゃんをぜひ平和の歌姫にしたいですよね。」

「はい。静謐な月の夜のイメージで。」

「うん。」

二人はそれからも四方山話に耽るのだった。


<つづく>



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蹉跌集め III-30 [小説]

30

「夜分にすみません。」

加賀美がMNEMOに玄関先で謝った。

「いや、いいんです、どうぞどうぞ。」

MNEMOが娘の発見(ほつみ)に手を引かれながら居間に入っていく。

「どうぞ。」

発見が加賀美を招き入れる。
お茶を出して発見は家に帰ると言った。

「ああ、ありがとう。いつもすまないね。」

清が會津若松の病院へ戻ってからは発見が通ってMNEMOの世話をしているが、
なにしろ主婦の身であって、そうそう長くもいられない。
MNEMOは盲目ながらも部屋に在るものの位置関係をよく把握していたが、
さすがに食事を作ることはできなかった。

「大変ですね。」

加賀美が切なそうに言った。

「娘に迷惑かけちゃっているのがね、一番つらいね。」

MNEMOが応えた。

「で、どうしました。なんだか興奮の気色を声に感じたけれど。」

「ええ、それなんですがー」

加賀美は多摩自慢という酒の一升瓶をテーブルに置いた。

「多摩の地酒です。やりませんか。これを飲みながらお話ししたいんです。」

「ほう。多摩自慢のことかな?」

「はい。すみません、勝手にコップを持ってきます。冷やでいいですかね。」

「ああ、構いません。」

加賀美はめいめいのコップに七分ほど注いで、MNEMOの分を手渡した。
加賀美は自分のコップを持ち、MNEMOのに慎重に近づけて、

「では、今年もよろしくお願いします!」

と言い、MNEMOのコップに軽く当てた。「キン」という音がした。

「おお、久しぶりの乾杯の音だ。」

MNEMOは顔をほころばせた。
加賀美はグッと呷った。

「多摩の酒にしたのには理由がありましてね。」

そう言ってから、加賀美は微に入り細に入り悠奈との話を再現した。

MNEMOはチビリチビリやりながらじっと聴いていたが、加賀美の話が終わると、

「そうだったんですか」

と言って、居ずまいを正すようにした。

「幸夫ちゃん(加賀美のこと)が月山と象潟こそ悠奈ちゃんにふさわしい
シューティングの場所だと思ったのは、どうだろうね、偶然だろうかね。
ただ、偶然というのはない、摂理と言えと言われてしまえばそうなんだけど。」

「Providence、ですか。」

「そう。Providenceはprovideの名詞形のひとつ、天の配剤のことです。
幸夫ちゃんの自由な発想というより、悠奈ちゃんがそうイメージせしめたというか。
そしてその悠奈ちゃんの発想せしめた力がプロヴィデンスなんだろうね。」

「なるほど。」

「悠奈ちゃんは信夫佐藤の血を引くというよね。福島の県北です。山形にも程近い。
ご先祖で出羽三山巡礼をした人は多かろうと思いますよ。」

「ええ、ええ。」

「さらにね、聞くところでは、悠奈ちゃんの母方だったか、姓が市川というと。
市川は千葉にもあるけれど、どうも聞いていると甲州の市川なんですね。
市川ないしは市河は、武田冠者・源義清が常陸から配流されてきたところです。」

「義清って、新羅三郎義光の次男ないし三男で、加賀美遠光の父ですね!」

「そうなんです。歌舞伎の市川家も、ここの出身です。ただし堀越姓だけれど。
市河氏というのは義清の弟が祖になるんですね。」

「なんと・・・。私の遠い遠い親戚筋なんですね、もしかすると。」

「そうなりますね。しかもおもしろいのは、市河氏は新田義貞に呼応して北条を
攻めているんですよ。ところが後に足利方につくんです。」

「ええ?じゃあ、芳樹くんに語りかけた多摩丘陵の加賀美某と同じですね!」

「悠奈ちゃんに、幸夫ちゃんのイメージを豊かにする力があるのも当然かな。」

「実は私の母は、山形の上山の出なんです。」

「おお、蔵王の麓のね。信夫佐藤は平泉の奥州藤原氏の一族でまた陪臣だから、
勢力は広く、上山にもその子孫は多いんじゃないのかな。」

「お笑いください。ズバリ、母の旧姓は佐藤です。上山にも佐藤さんがいっぱいです。」

「やっぱりねぇ。」

MNEMOは愉快そうに多摩自慢を呷った。

「いや、見事なprovidenceじゃないですか。」

「でね、この配剤ですがー」

加賀美が身を乗り出すようにした。

「つまり、甲斐源氏と信夫佐藤・奥州藤原氏の合従連衡と言っていいのですか。」

「うまいなあ。連衡には『衡(ひら)』の字が入っている。藤原氏らしい。
因みにね、悠奈ちゃん、ある折に、新宿のどこだったか、父方の祖母の姉妹が蕎麦屋をやって
いるって言ってね。聞いたら、その祖母の家は藤原姓なんだよ。」

「出来過ぎですね。」

「本当にね。驚くばかりだ。まあ、甲斐源氏の加賀美氏については、どうだろうね、
一族の秋山光朝が頼朝に殺され、その子下山光重などは侍を捨て、子孫は寺社大工に
なっていくのだけれど、重要なのは、後に身延山に日蓮宗の本山久遠寺ができて、
下山の者は早々と帰依しているんだね。むろん加賀美遠光からは小笠原や南部という
名門武家も出ているのだけれど、長男の秋山光朝とその子下山光重の系統は、
厳しい立場になっていったとは言えるだろうね。

自分が厳しい立場だから信心するというのもあるけれど、他の幸いのためにと
信仰することもある。法華経はそういうお経でしょう?多摩丘陵の加賀美さんも、
きっと信心深い人だったんじゃないかな。厭戦なんていうのもその表れかも。
悠奈ちゃんが、顕本法華宗の寺の息子だった木野先生に惹かれるのも、
そして逆に木野先生も悠奈ちゃんに惹かれたのも、そういうことかもね。

そして信夫佐藤ですけれど、実は私にもその血は流れています。母の父は佐藤でね。
頼朝に殺された義経さんのお供をしたのも信夫佐藤ですからね。鈴木=亀井という
熊野神社神官の血筋の人もそうだったけれど。奥州藤原氏は仏国土を夢見た。
こちらは浄土信仰、阿弥陀信仰です。
できれば戦はしたくないとずっと隠忍自重してきたわけです。

まあ、結局、甲斐源氏と信夫佐藤・奥州藤原氏の合従連衡が、悠奈ちゃんを
中心に今の世に実現したということですかね。目的は厭戦を超えて、
ズバリ、反戦ということでしょう!」

「ははあッ!」

加賀美はなぜか深く頭を下げるのだった。


<つづく>



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蹉跌集め III-29 [小説]

29

「MNEMOさんは昔新百合ケ丘で英語を教えていたことがあるんだそうです。
ちょうど再デビューが決まる1年前だったそうです。」

「ほう、そうでしたか。下山と何度も一緒にMNEMOさんとは飲んだことがあるんですが、
初耳です。」

「ほんの少し前のことです。お加減はいかがっていうのもあって、ご年賀にMNEMOさんを
お訪ねしたら、散歩に連れて行ってくれないかとおっしゃって。」

「ええ。」

「多摩川の土手道を調布の方へと。途中のお地蔵様や、戦没者慰霊碑、そして水神様などに
新年のご挨拶をまだしていないから、と。」

「MNEMOさんらしいですね。」

「ええ。お参りを済ませて、もう少し歩きたいとおっしゃるので、そのまま川上の方へ。
目が見えなくても正確にご自分がどこを歩いているかお分かりになるんですよ。」

「そうですか。」

「そして、よみうりランドが対岸の向こうに見えるところまで来て、なんと指を差して、
『悠奈ちゃんはあそこに行ったことがあるかい』って訊かれたんです。
私はいいえと言いました。MNEMOさんはこう言われました。

『あのランドの丘はずっと新百合の方まで連なっていてね、小田急の登戸駅から
ロンパリの方向に来ているようだから意外なようだけど、そんなに離れていないんだ。
僕は再デビューが決まる1年前、新百合で英語を教えていてね、昼ごはん、
マックかなんかをテイクアウトで買って、新百合の駅から北の方向へ
歩いて行ったんだ、食べるところを探しながらね。

気持ちの良い風が吹く七月の下旬、でも食べるところがなくて。
その頃はまだ駅周辺は再開発整備中だったんだね。
どんどん丘の上の方へ歩いて行くことになったんだ。

木立があって、その根元のところに腰を下ろすことにして、マックの袋を切って広げて
敷いてね。食べてると、爽快な一陣の風が吹いた。
そのときね、メロディーが口をついて出てきた。
ところがね、爽快な気分にふさわしくない、マイナーのメロディーなんだね。

歌詞をはめてみると、

Too tired to go on living this way
I don't wanna fight, no more

って。
どうしてなんだろう、どうしてこんな詞がって、思ったよ。

僕はね、ちょうどその頃、大河ドラマで足利尊氏のことをやってて、興味を持ってね。
府中の郷土の森にある歴史資料の常設展示フロアに何度も通っていたんだ。
そこで新田義興とその家来由良兵庫助のことを知るきっかけを得るんだ』と。」

加賀美は唸る。

「つまり、つまりー 悠奈さんは芳樹さんに今日連れ出される前に、太平記関連のことを
MNEMOさんから聞いたばかりだったっていうことですか。」

「そうなんです。そして、昨夜加賀美さんとお会いしたんです。」

「MNEMOさんの、遠い昔に多摩丘陵で口をついて出てきた歌は、加賀美の、
戦争を忌避した者の心情、ということですか!」

「はい。そう確信しました、今日のことで。」

加賀美は顔の火照りを感じて、おしぼりを頬に当てる。

「そして高石神社のことですー」

悠奈が続ける。

「MNEMOさんは、自分の相棒の棒さん、川口エカさん、そしてSomoさんの
親御さんが秋田出身ということで、表敬訪問だと言って数年前に行っておられるんです。
同じ東北なのに一度も行ったことがないからとも。
そのとき、月山にも行き、さらに象潟にも行って!

そして、そしてです!
芭蕉は月山で西施のことを強く思い、恋い焦がれたと。
月と西施は芭蕉のそのときの恋人の<なぞらえ>だと、ブログに書いてらっしゃるんです!」

「ええッ!」

加賀美は仰け反った。

「僕もMNEMOさんのブログはたまに覗きますが、そんなことが?」

「まるで、まるで、今日のことをほぼすべて予言していたようじゃありません?」

「本当に!いや驚きました、心底。」

加賀美は、「これは今晩飲まずにはいられない」と言い、MNEMOのところへ話に
行くと言うのだった。


<つづく>




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蹉跌集め III-28 [小説]

28

新百合ケ丘の駅で悠奈が加賀美に電話すると、すぐに加賀美が現れた。

「いやあ、どうも突然にご足労をかけました。」

加賀美が言う。

「いいえ、早速構想を練っていただいてありがとうございます!」

悠奈がお辞儀をする。

加賀美が先導して、エルミロード内の珈琲屋に入る。
おしぼりで手を拭きながら、

「ちょっと混んでいますが、ここのコーヒー、うまいんで」

と加賀美が言った。
悠奈は疲れもあって、甘味を求め、ラテを頼む。
加賀美は当然のようにブレンドのブラックだ。

「早速ですが、百合丘にいらしたんですよね。なぜまたそこに?」

悠奈はラテをひと口飲んで、フーッと息を吐いた。

「加賀美さん、本当に、想像を絶する顛末なんです。」

悠奈が太平記戦跡・史跡巡りの話をする。
大学で歴史を学んだ加賀美は、熱心に聴き、最後の自分の電話とその内容がいかに
奇跡的かということを理解した。

「悠奈さん、それはー」

加賀美が一呼吸置いて、コーヒーを啜った。

「凄まじいです、ええ。これはもう、なんというか、<ついてます>ね。」

「『ついている』?」

「ええ。宛てる漢字はいくつかありますが、そのどれもいいっていう・・・。」

「<にすいにうま・したごころ>の『つく』、つまり憑依ですか、まず。」

「う〜ん、寄り添っているって感じですけれどね。」

「<にんべんにすん>も。」

「ええ。これは月という語も太陽と付きものということから来たという説がありますね。
どなたかが、太陽のような存在が、悠奈さんと共に在る。」

「あとは<着>ですか。」

「うん。着は俗字ですね。著が本字です。<集まる>という意味があります。」

悠奈は加賀美の話に再びクラクラとするようだった。
あまりにもinspirationalだからだった。

「私の先祖についてはー」

加賀美が続ける。

「出は甲斐だと聞いています。今の南アルプス市辺りだと。
加賀美遠光についても、ちょっと調べたことがありましたが、いやあ、その子孫が
矢口での義興謀殺に厭気がさして多摩丘陵の方へ敵前逃亡したっていうのは・・・
芳樹さんが聞いたんですって。」

「ええ。」

「細山に住んでいる、ちょうど大学で太平記のことを講義で聴いた・・・か。
ちなみに芳樹さんの姓は?」

「津田です。」

「んんん。斯波氏系の津田かな。斯波は足利の流れです。」

「そうなんですか。」

「それ以上紐解くのはやめておきますがね。」

加賀美はコーヒーを口に含んだ。

「僕が神奈川に住むのも、それも新百合に住むのも、お導きかな。
そして何にしても、潮音寺・高石神社の芭蕉句碑!
どういうことなんでしょう、私の発想とのつながり!」

「本当に!」

「僕はねー
そもそもSomogumiの社長Somoと、とある大手建設会社で知り合いましてね。
Somoは本名下山聡といいまして、本来ならSimoなんでしょうけれど、
『そう』や『そうちゃん』って呼ばれることも多くてSomoになったんです。
彼が、そう、2年前かな、下山のルーツは甲斐の身延町で、下山大工の末裔なんだと
言って、一緒にそこを訪ねたことがあるんですよ。

そのとき、なんですよね。加賀美遠光のことをちょっと調べたのも。
と云うのは、下山氏は加賀美遠光の長男秋山光朝の子で分家なんですね。
この秋山光朝は平重盛の娘を娶って、頼朝に睨まれ、結局殺されてしまうんです。」

「平重盛って、清盛の長男?平家の当主ですか。」

「ええ。敵将の娘をもらった裏切り者ということになってしまった。」

悠奈は一瞬気が遠くなって、その刹那に多くのことを想像した。

「下山大工というのは手練れの建築家集団で、僕が下山くんと建設会社で出会うのも
なんだか当たり前な気もしてきます。」

悠奈は目を閉じたままになった。

「僕はね、悠奈さん。その月山と象潟の撮影はSomogumiに頼もうと思っているんです。」

悠奈にはすでに月山が見えるようだった。未だに行ってはいない出羽の地。
象潟も、芭蕉も、西施も見えるようだった。

「加賀美さん、あたし、MNEMOさんからお聞きしたんです、実はー」

悠奈はそう言って、水をひと口飲んだ。


<つづく>



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蹉跌集め III-27 [小説]

27

そのとき悠奈のスマートフォンが鳴った。

「は、はい。」

予期せぬ着信とはもちろんいつも唐突なものだが、そのときは本当に悠奈の度肝を抜いた。
なんとかけてきたのが加賀美だったからだ。

「悠奈さん、すいません、突然に。」

「いいえ。」

「例のコンサートの構成についてなんですがねー」

「はい。」

「どうですか、月を全体にイメージした構成で、悠奈さんは西施になるっていうのは。」

悠奈は絶句する。
一同も悠奈のただならぬ動揺ぶりに色めき立つ。

「もしもし。失礼な質問ながら、西施ってご存じですか?」

悠奈はまだ衝撃の余波で返事ができない。

「できればね、月山を巡ってヴィデオを撮って、そしてですね、にかほ市の象潟でも、
陸に浮かぶ島々というような珍しいランドスケープで撮影してですね、
芭蕉ゆかりのところなんですがー もしもし、悠奈さん、聞こえていますか?」

「は、はい。聞こえています。」

ようやく悠奈は返事をする。

「まだ仮の話なんですが、ちょっと構想を藤熊さんにお話ししたら興味を示されて、
MUZIK、ホムラーからも仮の了解を取りつけてくださって、すでに。
僕のイメージやコンセプトについてできれば早めにお話ししたいんですよ。
悠奈さんがOKなら本決まりということでー」

「そうなんですか。ありがとうございます。」

「ついては、いかがですか、今からでも。」

「は、はい。どちらに伺えば・・・。」

「僕は新百合ケ丘に住んでいるんですよ。小田急で一本です。
和泉多摩川に僕が伺います。確か305っていうカフェがありましたよね、近くに。」

「つぶれました。」

「ありゃ。じゃあ、どうしようかな・・・。」

「私今百合丘にいるんです。」

「え!百合丘?隣じゃないですか。」

「はい。」

「じゃあー」

「私が新百合に行きます。」

「そうですか。じゃあ、駅に着いたらお電話ください。僕も今から出ます。
5分くらいで着きますので。」

「はい。了解しました。お電話ありがとうございました。」


悠奈が加賀美からの電話の内容を話すと、RAJOYのメンバーたちは慄然とした。

「来た、来たな・・・。」

芳樹が震える声で言った。

「太平記史跡巡りからこの結末。なんということだ。」

「これはどういうことなんだろう。」

ケンスキーがポツリと言う。

「まずは楽器車に戻ろう。」

幸嗣が言った。


「ヤバイよ、おい。通行の邪魔んなって、もう周回何回めか分かんねぇくらいだ。」

周平がクルマをスタートさせてからすぐに不平を言った。

「ごめんね、周平くん。」

悠奈が謝る。

「そんなに収穫があったん?」

「空恐ろしいほど。」

悠奈が呟いた。

周平はチラリと悠奈を見て、下り坂のカーブを曲がった。

「津久井街道に出たら右折な。」

芳樹が言う。

「え?まだ戦跡巡りするとこあんの?」

「いや、悠奈が新百合に行く用ができたんだ。」

「そうなの?俺たちは?」

「今日はそこでお開きにしよう。」

冬の西日が悠奈とRAJOYたちの顔を茜に染めている。


<つづく>



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蹉跌集め III-26 [小説]

26

周平楽器車は鶴川街道から高石交差点にまで続く県道へと左折した。
1キロほど行くと、多摩丘陵を登っていくカーブの多い道になった。

「周平、そうスピード出すなよ!」

幸嗣が言う。

「わり。俺こういうヘヤピンとかんなると燃えて。」

「お前、ハイエースだぞ、これ。それも6人も乗ってんだ!」

「わり。そうだったな。」

坂を登りきって、よみうりランドの入り口が左手に見える。
今度は下り坂になり、途中で芳樹が、

「この右手の藪がそうさ。<かがみ>さんが俺に話しかけてきたところ。」

津久井街道に入って、百合ヶ丘方面へ。
まもなく高石神社の看板が見え、右折して狭い坂道へと入っていく。
駐車するところを見つけるのに難渋したが、短い「取材」を条件に周平がクルマに乗った
まま待機することにしてくれて、他の者は神社へ向かった。

境内には芭蕉(桃青)や石田波郷の句碑が在る。

「雲の峰いくつ崩れて月の山、か。」

ケンスキーが読む。

「うん、芭蕉が月山で詠んだ句だな。どうしてこれがあるのか、分からないんだ。」

芳樹が言う。

「月山神社とか湯殿山神社とかとアフィリエイトっていうことじゃないの?」

「そんなことはどこにも書いてないんだよ。」

悠奈が熊野様の祠を見つけて、佇んでいた。

「どうだ、悠奈。」

芳樹が言う。

「神仏習合の潮音寺は臨済宗ね。やはり武家だわ、加賀美さんは。
ご神体に『加賀美』と書いてあるそうよ。表記もゆうべお会いした加賀美さんと同じ
だったわ。」

「ふ〜ん。で、熊野様からなにかお告げは?」

「そなたは月じゃ、って。」

「え?」

「私は月なんですって。月で西施なのだ、と。」

「西施?」

ケンスキーが言った。

「あの中国四大美人の?『沈魚美人』西施?」

「お前、ほんと詳しいな。」

芳樹が呆れて言う。

「西施が裾をまくり、脚を露わにして川で洗濯をしていると、魚たちが見惚れて
溺れちゃったんだよな、確か。」

「湯殿山で芭蕉が見たのはきっと蛤(はまぐり)なのね。」

悠奈が言った。

「熊野様もはっきり言わないの?」

芳樹が訊く。

「ええ。湯殿山神社で見たものを口外してはいけないという掟は神様同士でも守るのね。
重要なのは、芭蕉が月山、羽黒山、湯殿山と出羽三山を巡り、後に秋田・象潟で詠んだ
『象潟や雨に西施が合歓の花』という句になることよ。」

「蛤っていうのは?」

「西施は呉王が滅びる原因になった、つまり傾城の美女なのよ。敵で彼女を献上した
越王勾践の妻も西施の美貌を恐れ、呉の人も魔女扱いして彼女を長江に皮袋に入れて
捨てた。後に不思議とその辺りで蛤がよく獲れるようになったというのよ。」

「その蛤って、西施の象徴になった・・・。」

悠奈は黙った。

「湯殿山には誰も行ってないから、これ、口外にはならないよな。」

幸嗣が心配して言った。

「想像だもんな!」

「加賀美さんと西施がどう結びつくんだよ!」

光が皮肉を込めた口調で言った。

「お前、悠奈が月だっていう言葉、一番響くんじゃねぇの?」

ケンスキーがこれまた皮肉を込めて言った。
光は無言でケンスキーに殴りかかった。

「やめてッ!」

悠奈が鋭い声を発した。

「こんな場所で、よくもそんな真似ができるわね!」

光はケンスキーの胸ぐらを掴んだ手を徐々に緩めて、うな垂れた。

「この句碑自体は加賀美さんと直接関係があるわけじゃないわ。
石田波郷さんっていう昭和の俳人の句碑もあることだし。
大切なのは、インスピレーションでしょ?
ここの宮司さんであれ、氏子や信徒さんであれ、芭蕉の数ある句の中で月山の句を
選んだのもインスピレーションよ。もちろん、まずは芭蕉の句こそインスピレーション
じゃないの?あたしたち、歌のインスピレーションを得るためにここに来たんでしょ?

感じようよ、いろいろ!」

遠くでクラクションの音が聞こえた。

「周平が困ってるぞ、戻ろう。」

幸嗣が言った。


<つづく>




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蹉跌集め III-25 [小説]

25

「義興殿も後醍醐天皇から名を戴いたのじゃ。この子は義貞の家を興隆させる、と。
源氏の名門で、しかも天皇が直々に名付け親になるんだぞ。これほどの権威があるか。
儂もまだ幼さが残る義興殿を見知っていたから、尚更、嘘で籠絡し、矢口で待ち伏せて
射かけるという卑怯に堪えられなくなったんじゃ。」

芳樹のここまでの話にケンスキーが反応するー

「その甲斐の侍、姓は何と言うのじゃ。」

「かがみ、と申しはべり。」

「やっぱな。芳樹の説は相当に確度が高いよ。八幡太郎義家の弟、新羅三郎義光の
孫ないしは曾孫の加賀美遠光だろ、ご先祖は。」

「詳しいな。」

「MNEMOさんのトーホグマンで読んだよ。」

「いやあ、MNEMOさんもタダもんじゃないな。」

「いや、タダのまんじゅうだ。」

「あ?」

「いや、シャレ。義家も義光も多田(源)満仲の子孫だから。漱石も自分は多田満仲の
子孫だって書いている。夏目というのは甲斐ではないが、その北、信州の地名だ。
満仲の子孫は甲信地方にいっぱいいるんだろうな。」

「なるほど。それもMNEMOさん?」

「ああ。漱石のより近い先祖は加賀美と親戚の武田家に仕え、一説には武田最後の当主
勝頼が討ち死にする前に徳川側に寝返った、と。それを幼い頃に元旗本の家の
同級生にからかわれるのを極度に、病的に、嫌ったというぞ。」

「それもMNEMOさんから。」

「うん。」

「お前はほんと熱心なMNEMOさんファンだな。」

芳樹は半ば呆れて言った。

「芳樹、続きがあるんだろ、話してくれよ。」

幸嗣が言った。

「ああ。それでな、俺はそれからどのくらい後だったか忘れたけど、近所の高石という
ところに在る正に高石神社で流鏑馬があるっていうのをチラシかなんかで知って、
見に行ったんだ。流鏑馬って言っても、一般の人が的に矢を当てるっていうのなんだが。」

「流鏑馬とかって、小笠原流が有名じゃん。小笠原初代は加賀美の子だ。」

すぐにケンスキーが解説を加えた。

「・・・で、高石神社の縁起をそこで読んで驚いた。さっき言った、加々美という地頭の
名前が出てくるんだからな。」

「字は微妙に違うけど、表記っていうのは曖昧なもんだからな。」

ケンスキーが言う。

「MNEMOさんが言ってたよ、昔英語を登戸で教えた生徒に<鏡>という姓の男の子が
いたって。優秀な男子だったそうだ。きっとその男の子もつながるんじゃない。」

「牽強付会だな。」

光が言う。

「なんでもかんでも縁にしたがるMNEMOさんってちょっとおかしいんじゃないか。」

「彼はロマンだってちゃんと言ってる。ロマンが実証主義でなければいけなかったら、
世のフィクションはみんな死んじまうだろ!」

ケンスキーが気色ばんで反論する。

「やっぱりそうだったのね。」

悠奈がポツリと言った。

「加々美っていう名をさっき聞いた時からそうじゃないかって思ってたの。
あたしもね、トーホグマンを読んでたから。それにねー」

悠奈のポーズに男どもも静まり返った。

「ゆうべね、藤熊さんがある方を紹介してくださったの。お名前が・・・加賀美さん。」

「え〜〜〜〜ッ!」

周平が絶叫する。

「出来すぎだろ、それぇ!」

「ねぇ、その高石神社って、主祭神は?」

悠奈が芳樹に訊く。

「神明社って言われてたくらいだから、天照だよ。」

「八幡様が合祀されていない?」

「うん。されてる。さすが悠奈。俺もそこに注目した。」

「どういうこと?」

周平が訊いた。

「八幡神は源氏の守り神なんだよ。」

「なるほど。」

「熊野様も合祀されてるよ、悠奈。」

悠奈はにっこり笑った。

「行ってみたい!」

「うん、行こう。」

一同は川に向かい一礼して、ハイエースに乗り込んだ。


<つづく>




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蹉跌集め III-24 [小説]

24

一同はハイエースを降りて、多摩川沿線道路を横断して川の土手に立った。
川原までは相当下流方向へ歩かないと行けそうにない。
みな路肩に立って、矢野口の渡しを見つめていた。

「およそ七百年前、ここで義興さんと兵庫助さんが自刃、ないしは矢に貫かれた。」

芳樹がしみじみと言った。

「見えるようだろう。」

「そうかあ?」

周平が言った。

「まあ、なにしろ南無妙法蓮華経だ。」

幸嗣が合掌した。

「俺は南無阿弥陀だ。」

周平が言い、合掌し、他の者も従った。

「俺なー さっきの話の続きだけど」

と芳樹が言った。

「あーあ。」

周平が不平の声を上げる。

「その藪から声がするような気がしたのさ。」

芳樹が振り返ってよみうりランドが在る多摩丘陵を見つめながら言った。

「呼びかけられたっつうか。軽音の打ち上げの後だったから、だいぶ夜も更けててな。」

「飲んでたんだろ、どうせ。よくないぞ、自転車でも。」

周平が非難する。

「ちょっとな。でもしっかり覚醒してたよ。
その声だけどー 『臆病といふのは情けないことぢや』ってな。
そう聞こえたんだ。」

「え?どういふことだらうな。」

ケンスキーが言う。

「お前まで歴史的仮名遣いをしなくていい!」

芳樹がピシャリと言った。

「俺な、ピンと来たんだわ。これは太平記の時代の人の声だって。
そんとき俺、大学でちょうど鎌倉末期と室町・南北朝時代の特講受けてたのな。
輪講でさ。『太平記と多摩』っていう回の教授がおもしろい人で、細山の隣の多摩美って
いうところに自身も住んでて、相当に詳しく多摩の太平記戦跡を巡って研究したと。
その講義で新田義興のことも話して、そのとき、義興らのことをハメた側、
つまり足利基氏や畠山国清側の侍で、その計略を潔しとせず、さらに人殺しに倦んで
しまった者がいたはずだ、って言うんだな。」

「なんで?」

ケンスキーが訊く。

「感じるんだー ってよ。」

「はあ?」

「散歩なんかしていると、その侍の魂を感じるんだって。戦争忌避者の走りだろって。
むろんそれ以前にもいただろうけれど、義興らを矢で射る前に、
戦や謀殺などにいよいよ辟易した者が、密かにあの丘を登って逃げて行ったって。」

「その教授、霊感つえーんだな。」

幸嗣が言った。

「分かるよ、その感覚。」

「その侍な、俺は当時金程と呼ばれたそこら一帯の江戸前期の地頭
加々美金右衛門正吉につながるんじゃないかって思ってるのさ。」

芳樹が続けた。

「え?」

悠奈が驚きの声を上げる。

「地頭の加々美さん?」

「うん。彼は息子が室町中期創建の潮音寺の住職をしていた関係で、
息子が逆縁で早くに亡くなって、寺の名を改め再興したというんだ。
その寺を創建した日峯法朝こそ<その侍>の子孫だと。」

「お前の推測でしかないだろ。」

周平が言う。

「もちろんだ。でも、否定はできない。大体ー
俺はそう聞いたんだよ、その藪から声を発する者からな。」

「はっきりか?」

「もちろん正確ではないけれど、こう言ったー
『儂は戦にほとほと嫌気がさしての、矢野口から逃げ出したのじゃ。
戦はいかんな、本当にいかん。逃げて、すぐに剃髪した。僧の格好をしたのよ。
とは云え、きれいには剃れなんだ。がしかし、当時ぼろぼろという破戒僧がうんと
いてな、多摩川にも多くいたんじゃ。だから怪しまれることはなかった。
眉も剃ってみれば、儂が誰だかは分からなくなったしな。追手も来なかった。

儂は元々甲斐の者で、甲斐源氏の端くれだ。しかし我が先祖の長男は頼朝に討たれてな。
また次男以下も霜月騒動で次第に衰退していった。儂は百姓になって細々と暮らして
いたが、同じ清和源氏の足利公や新田公が挙兵され、我が家の再興をと儂も馳せ参じた。
足利公は六波羅探題攻めで京都にいたから、儂は新田公の鎌倉攻めに従った。
しかし後に尊氏様に心酔し、足利方に回った。その時はまだ尊氏様が新田義貞公と
敵対することになるとは思っておらなかったのじゃ。』」

一同は多摩丘陵を見つめながら芳樹の話に聴き入る。


<つづく>



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蹉跌集め III-23 [小説]

23

悠奈を和泉多摩川駅のロータリーで乗せて、ハイエースは多摩川を渡らず、
東京都の多摩川沿いを走ることにした。光の提案だった。

「そっちの方が殺風景じゃなくていい。」

光は悠奈が乗ってから、できるだけ饒舌に話そうとした。

「川崎側の多摩川沿線道路は、右側の視界は開けて気持ちいいんだけど、
左側のビルや建物が迫っていて、窮屈な感じなんだよ。」

「そうなのよね。」

悠奈が呼応する。

「藤熊さんとどっちも歩いたことがあるの。」

「そ。」

光があくまで進行方向を見る目を外さずに相槌を打った。

「ここの桜並木は春んなるとすごいんだ。」

「そうらしいわね。楽しみ。」

「周平、ひたすら<まっつぐ>で。」

光が言う。

「ほいよ。左が多摩川の土手?」

「そう。右側、圧迫感ないでしょ。並木があって、余裕がある。」

「うん。お、日活撮影所?」

「そうなんだ。裕次郎だよ。赤木圭一郎とか。」

「赤木さんの方は知んね。」

「ここでゴーカート事故を起こして亡くなったんだ。」

「よせやい!」

周平が3度目の「よせやい」を言う。

「昼だからまだいいけどさ。」

「もう少し行くと大映の撮影所もある。」

「多摩川って映画産業の密集するところなのね。」

悠奈が言う。

「東宝の砧撮影所だって、多摩川の河岸段丘に在るわけだし。」

「円谷プロも砧に在ったしな。」

ケンスキーが言う。

「三船プロだって、石原プロだって、成城だし。」

「あ、そこ左折。」

光が言う。

300メートルほど行くと、一気に視界が開けた。

「ああ、左多摩川、右が京王閣ね。」

芳樹が言う。

「ほら、見えるだろ、よみうりランドの丘。左正面さ。学生時代、ちょっとだけ
あそこにアパート借りたんだ。すぐに親に仕送りストップされて引き払ったけど。」

「何しでかした。」

ケンスキーが訊く。

「まあまあ。レイディーがいることだし。」

芳樹が笑って言った。

「自転車で通ったんだ、生田の大学まで。」

「ふ〜ん。」

クルマは鶴川街道に左折して入る。東京側の矢野口の渡しにはもう着いている。

「橋渡り切ったら左折して、で、ちょっと行ったら右に入って。
クルマ、少しなら駐められるから。」

光が言う。

「おいよ。」

周平が返事をする。

「俺なー」

芳樹が続ける。

「ありゃいつだったかな、大学からの帰り道、津久井街道を高石の交差点で右折して、
アパートの在る細山っていうところへえっちらえっちら坂登ってたの。
左の方に藪みたいなところがあんだけど、そこでさー」

「よせやい!」

周平が信号待ちをしつつ言った。

「どうせまた怪談噺なんだろ。」

「怪談だけでいいんだよ、噺は要らない。」

ケンスキーが茶々を入れる。

「うっせ。」

「まあ、いいや。河原で話すよ。」

芳樹が言う。

「いいよ、別にぃ。」

周平がハンドルを切りながら言った。


<つづく>



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蹉跌集め III-22 [小説]

22

新田神社に詣でて、何事もなく義興の冥福を祈り、RAJOYのメンバーは多摩市の
矢野口へ行くことで一致した。神奈川県側には渡らず、ずっと東京都側を走行し、
田園調布で多摩堤通りに入り西進する。

「このまま行けば狛江じゃん。」

芳樹が言った。
光と幸嗣は黙っている。

「永さん、今悠奈と一緒に暮らしてんだろ。」

周平がハンドルを軽やかに操りながら言った。

「うん。」

ケンスキーがケレン味なく返事をした。

「誘ってみる?」

「当てつけかよ!」

光が憤りを隠さず言った。

「違うよ。」

ケンスキーは言下に否定した。

「特に悠奈はこの太平記戦跡巡りに興味を示すだろうと思うからさ。
彼女だってモチーフはいくつあってもいいだろ。」

光は黙った。

「まあ、彼女もいろをし房さんや白梵字さんと<知り合い>だしな。」

芳樹が付け足す。

「なにしろ木野先生のご加護があるから、悪霊とかにもし俺たちが憑かれそうに
なったら、きっと退散させてくれるんじゃないか。」

「ふん。そんなのは俺の霊力でなんとかできる!」

幸嗣が抗議するように言った。

「とりあえず電話してみるよ。」

ケンスキーが呆気にとられる光と幸嗣を尻目に悠奈を呼び出す。

「あ、悠奈。うん、あの、突然だけれどさ、今暇かな。
ん?あ、そう。今ね、矢野口ってとこにバンドのメンバー全員で行くとこなの。
太平記って知ってる?知ってる。さすが。そこに記されている新田義興たちの
憤死事件でね、それが矢野口で起こったんだよ、およそ七百年前に。
なんかさ、歌できそうだなって。うん、取材。一緒に来ない?
うん・・・うん・・・うん。そりゃいいよな。じゃあ、あと30分くらいかな。
はい、はーい。じゃね。」

光と幸嗣は怒り心頭に発していた。

「降りるよ、俺!」

光が言う。

「俺も!」

幸嗣が追随する。

「待てよ!」

芳樹が押しとどめる。

「もういいじゃないか、悠奈と永のことは。悠奈が乗ってきたことが尚更許せないんだろ、
もうお前たちとのことは眼中にないっていうか、それが悔しんだろ。」

「んな!そんなんじゃない!」

幸嗣が強く否定する。

「克服したんじゃなかったのか、お前ら。だらしねぇな。
悠奈の歌に懸ける気持ち、立派じゃないか。彼女も取材したいんだよ。
お前らはどうであれ、俺もケンスキーも周平も悠奈は友達だと思っている。
いいじゃないか、彼女も太平記のことを知りたいって思うことって。」

光も幸嗣もシュンとしてしまう。正に青菜に塩だ。

「ここ左折だよな。」

周平が我関せずで言う。

「ナビはそう言ってないけど、光が狛江に住んでた時、ここがショートカットだって
言ってたよな、確か。」

そう言って不二家レストランのところを左折した。

「いいんだろ?」

「う、うん。」

光が返事をした。

周平の楽器車は狛江市に入って行く。


<つづく>



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蹉跌集め III-21 [小説]

21

「怖い話か?」

周平が少し怖気づいたような声で訊いた。

「いや、そうでもない。」

芳樹がほほ笑んで言った。

「矢口のことなんだ。『やのくち』とも『やぐち』とも読めるし、
実際『やぐち』の方はこの下流の大田区にあるんだ。そして『やのくち』はー」

「多摩市だろ、上流だ。」

光が言った。

「俺の住む宿河原から南武線で立川方向へ一本だ。表記は『矢野口』で、
『の』が入ってfieldの『野』だ。」

「そう。」

芳樹が応える。

「太平記に書かれた『矢口の戦い』はそのどっちであったのか、というのさ。」

「え?」

周平が怪訝そうな顔をした。

「そんなのその多摩市の方に決まっているじゃん。上流なんだから。
兵庫助さんの遺体が流れてきたんだろ。」

「常識はそうさ。でもな、大田区の矢口には新田神社が在るんだ。
義興が祭神でな。なぜ祀ったかというと、義興や兵庫助を謀殺した側の江戸遠江守が
後にその矢口の渡しに来ると俄かに雷雲が湧き上がり、舟は転覆するわ、
落雷で火事は起こるわで、慌てて逃げたのだが落馬、その後狂死したからと。
だから当然そこが矢口の戦跡だっていうんだな。」

「あんだよぉ。話、やっぱしこえーでねぇの。」

周平が千葉弁で不平を言う。

「さらに謀殺を指図した関東管領畠山氏の埼玉は入間川の領地の家や寺社も落雷による
火災で焼失したっつうんだな。またさらに、矢口では夜な夜な『光り物』が出たと。
ま、人魂だな。」

「みんな恐れて新田神社を創建して鎮魂したと。」

ケンスキーが言った。

「そういうこと。」

「じゃあ、なに、兵庫助の遺体は下流から流れ着いたっつうの?
それも超自然現象かや。」

周平が納得できないという表情で言った。

「鶴川街道っていうのが多摩市の矢野口を通るんだ。」

光が言った。

「今は町田で終点になるけれど、きっと多数ある『鎌倉みち』のひとつだったはずだよ。
義興は本拠の新田、今の群馬県太田市にいたんだろ。だとすれば、多摩市の矢野口の方が
断然合理的なルートだよ、鎌倉に行くなら。なんで大田区の、東に寄り過ぎのルートを
使う必要があるのか、解せないじゃないか。」

「そのとおりなんだよ。」

芳樹が応える。

「だからミステリーだって言うんだ。」

「きっとさー」

幸嗣が口を開いた。

「義興の遺体がその大田区の方に流れ着いたんじゃないか。ここ二子を越してさ。
それでその矢口の土地の人々が義興を葬り、さらに神にまでしたんじゃないの?
多摩市の矢野口で合戦があったのは疑いないと思うな。逆流もありうるとかって
説があるかもしれないけれど、なにしろ群馬の太田と鎌倉を結ぶ合理的な線は
やっぱり埼玉を通って多摩の矢野口を通るルートだし、無理がありすぎる。」

「だよな。」

周平が納得する。

「じゃあ、次は新田神社に行ってみるか?お告げがあるかも。」

ケンスキーが笑って言う。

「よせやい。」

周平がしかめ面をして応える。

「いや、俺はすでに兵庫助さんの霊気を感じてる。」

幸嗣が言った。

「さっきの説は俺が言ったんじゃない。」

一同は黙った。

「よせやい!」

周平がたまらず大きな声で言った。

「みんな合掌しろ。」

幸嗣が率先してお題目を唱え始める。


<つづく>



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蹉跌集め III-20 [小説]

20

2月初旬、RAJOYのメンバーは周平の「楽器車」であるハイエースに乗って
二子玉川の兵庫島を訪れた。

早咲きの梅がよい香りを放っている。
5人は芳樹の先導で「島」というより古墳のような小山を登っていく。

「これは、由良兵庫助という新田義貞の遺児で次男の義興の家来が矢口の戦いで
戦死、遺体が流れ着き、ここの土地の人が弔った場所なんだ。」

芳樹が説明する。

「いつ頃の話だ?」

周平が訊く。

「1358年だな。」

「さすがは史学学士。」

ケンスキーが褒める。

「それって・・・。」

周平が顎を撫でながら言った。

「室町初期さ。南北朝時代と言ってもいいけどな。」

「新田義貞っていうのは後醍醐天皇の忠臣だろ。」

光が言う。

「そうだ。」

芳樹が答える。

「後醍醐天皇は鎌倉幕府に実権を握られていることに反発して、何度か幕府転覆を
画策しては見つかり、島流しにもあった。そしてその隠岐の島から脱出、
とうとう倒幕の狼煙を上げ、呼応したのが足利高氏、新田義貞などの下野や上野に
勢力を張っていた清和源氏の末裔だったんだ。」

「清和源氏の嫡流は源頼朝の流れだったが、三代で滅びたからな。」

ケンスキーが言う。

「源義家、八幡太郎義家四男の義国のそれまた次男義康が足利家の祖だ。」

「長男は?」

「義重で、これが新田氏の祖だ。」

「ケンスキーもよく知ってるよな、理系のくせに。」

芳樹が舌を巻く。

「俺、好きなんだよね、氏姓関係の話。」

ケンスキーが笑って言う。

「MNEMOさんのトーホグマンの影響だな。」

「で、その後醍醐天皇の倒幕の話は?」

周平が急かした。

「うん。鎌倉幕府の有力な御家人で、名家清和源氏の末裔である新田と足利が
反旗を翻すようでは、鎌倉幕府、つまり北条氏の命運は決まってしまったな。
鎌倉には新田義貞が攻め入り、それは凄惨な戦いになったそうだ。
高氏は六波羅探題を滅ぼして、北条家と幕府は滅亡さ。北条の最後の執権は高時で、
その一字をもらって『高氏』としていたのに、裏切ったことになるな。」

「そして高氏は後醍醐天皇の諱(いみな)『尊治』から一字もらって、以降尊氏とするん
だからなかなかの変わり身の早さだ。」

ケンスキーが付け足す。

「で?」

周平が兵庫島にいる理由に早くたどり着きたがる。

「その後尊氏は後醍醐天皇の建武の新政に反旗を翻すんだ。」

「え?また裏切るの?」

「そして同祖を持つ親戚筋の新田義貞も滅ぼすのさ。そしてまあ、室町幕府が成立し、
いろいろあって尊氏が死ぬと、好機到来と義貞の次男義興が鎌倉へ攻め入ろうと
するんだな。ところが、鎌倉公方足利基氏や関東管領畠山国清らの命令で江戸氏や
蒲田氏などに多摩川の矢口の渡しで船に工作されて一網打尽にされてしまう。」

「その義興と一緒に殺された家来が由良兵庫助なんだな。」

周平が納得する。

「しかしな、これにはミステリーがあるんだ。」

芳樹が意味ありげな表情で言った。


<つづく>




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次のリハ対象曲です

The Savior
Lyrics by King Reguyth

Under the yellowish blue sky
Between the broken car and truck
Someone is moving now
He's so thirty and about to die
Can you see?

黄色みかかった青空の下
壊れたクルマとトラックの間に
誰かが今動いているぞ
喉が渇き切って今にも死にそうだ
見えるか

Radioactive dust is everywhere
Not a soul is to be seen except that guy
I've seen him once before
Isn't he the one who's made the Earth this way?
Can you see?

いたるところに放射性の塵が舞い
彼以外に人は見えない
前に一度あの男、見たことあるぞ
地球をこんなふうにした張本人じゃないのか、彼
見えるか

There's a can of coke near him
But he can't find it
'Cause he's totally blind
Can you see?

やつの近くに缶コーラが落ちてるけど
見つけられない
完全に視力を失っているんだから
見えるか

"He's the man who pushed the button!"
"No mercy on him!"
"Thirst will soon get him."
"No mercy on him!"

「やつがボタンを押したんだぞ!」
「情け無用!」
「渇きでまもなく死ぬさ」
「情け無用!」

NO MERCY ON HIM!
「情け無用!」


Then the purple rain has started
falling down on the hell he created

そのとき紫色の雨が
彼がつくった地獄の上に落ち始める

It's not the kind of rain
that fell down on Hiroshima
Nor is it the kind of wind
that blew across Fukushima

広島に降った雨とは違う
福島に吹いた風とも違う

God
Are you really sure?
Is this your will?

神よ
本気でいらっしゃいますか
これはあなたの意思ですか

The rain from a blue sky is your tears
Oh, God
You've saved his life
The only human

青空からの雨はあなたの涙ですね
おお、神よ
彼の命をお救いなされた
唯一の人間を

Are you going to make an Eve from his broken rib?
Are you really sure humans won't do it again?

彼の折れた肋骨からイヴをお創りになるのですか
人間が同じ事をしないとお思いですか

Look
He has stood up
He didn't give up

見て
彼が立ち上がった
あきらめなかった



*

1985年、川口功くんのメロディーに私が詞をつけてThe Saviorが一応の完成を
みましたが、実は作詞能力が今よりも数段劣る私には手に負えなかったのです。
それでも、当時Reagan大統領が対ソ強硬論=Star Wars計画などを言い出し、
核戦争はソ連のゴルバチョフ書記長次第で現実になる可能性もあった頃で、
冗談ではないと上の詞のようなストーリーで歌詞をつけたのです。

E2aTを青山で聴いてくださった方々は、あの曲が、凄絶な事を凄絶に歌うものだと
お分かりいただいたと思うです。そしてこのThe Saviorは、温かい曲調で反核を歌うー
カップリング、ですね。



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蹉跌集め III-19 [小説]

19

「太平記を基にしたアルバムってどうだ。」

芳樹が言った。

「太平記?」

周平が少しウンザリした口調で言った。

「そう。鎌倉末期から建武新政、南北朝、室町幕府の始まり辺りまでの軍記物さ。」

「モチーフいっぱいあんのか?」

光が訊く。

「すさまじくあるよ。」

芳樹が答える。

「恋のことも?」

「尊氏はともかく、高師直がおもしろい。人妻に横恋慕して、拒絶され、怒りまくって
その夫の塩冶判官高貞に謀反の罪を着せて一族を滅ぼしてしまう。」

「ひでぇな。」

「実は師直の恋文を代筆したのが吉田兼好なんだ。」

「え!徒然草の?」

幸嗣が仰天する。

「じゃあ、正に白梵字さんやいろをし房さんの時代じゃないか!」

「ああ。」

「お二人は宿河原で潔く決闘して共に殺され合った。一方で都では勝手に人妻に恋して、
拒まれ、夫と一族もろとも殺してしまう?なんていう時代なんだ。
その二つとも直接間接兼好さんが絡んでいる。」

幸嗣はブルブルと震える。

「観応の擾乱っていうのもあってな。」

芳樹が続ける。

「かんのうのじょうらん?なんだか悩ましいことか?」

周平が興味をみせる。

「いや、尊氏・直義兄弟の確執、殺し合いだ。」

「ええ?なんつー話だ、いったいぜんたい。」

「な、モチーフだらけだろ。」

芳樹が得意そうに言う。

「これをロック・オペラにしてー」

「ちょっと、ちょっと。」

ケンスキーが口を挟んだ。

「それはおもしろそうだけれど、現代の、ロック・グループのRAJOYとどう折り合うの?」

「戦争、恋、嫉妬、骨肉の争い、教養人の諂(へつら)い・・・」

「最後のは兼好さんのこと?坂東武者、非教養人の権力者へのお追従?」

「そうだよ。すべて現代にもあるだろ、ひとつも変わらず。」

ケンスキーは頷く。

「モチーフにする価値あるかも。」

「だろ?」

芳樹はうれしそうに言った。

「だとしたら、宿河原行って、報告しなきゃな。」

幸嗣が言った。

「なんで?」

芳樹が訊く。

「いや、なんとなく。いろをし房さんや白拍子さんの同時代のことだからー」

「そういうことなら、太平記の舞台は全国ながらも関東、特に武蔵・多摩や相模が
大きな部分を占めるんだぜ。お参りに行くか?」

「そうしたほうがいいような気がする。」

幸嗣が不安そうな面持ちで言う。

「じゃあ、そうすっか。今度の土日、史跡巡りすっか。」

周平が元気良く言った。


<つづく>




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蹉跌集め III-18 [小説]

18

RAJOYはMNEMOをゲストに迎えてのギグを成功させた。
彼らは「愛と平和」ではなく「恋と平和」をLove & Peaceの訳として打ち出し、
スタンディングで200を超える聴衆を集めたのだった。

余勢を駆って、光は大胆な構想をギグ後の打ち上げで語った。

「なあ、アメリカでギグやろうよ。トランプ以降、アメリカは怪しくなってしまった。
公然たる白人至上主義やネオナチ、KKKが台頭しつつあるんだ。
それを阻もうとする心あるアメリカ国民と連帯してー」

「それもいいけれど、まず自分の国なんじゃね?」

ケンスキーが口を挟んだ。

「よその国のことなんか言えるような状態じゃないっしょ、ここも。」

光は黙ってしまう。

「MNEMOさんや悠奈が『愛と平和』を押し出してるからなあ。」

芳樹が言う。

「俺たちが連帯するのは当然としても、俺らは『恋』だろ。それを確認し合ったことは
忘れないで行こうぜ。俺たちは恋の歌で平和を間接的に唱えていくんだろ。」

「俺はよく分かんねぇけどー」

周平が言う。

「MNEMOさんや悠奈の路線で俺たちが敵うはずはないんじゃねぇか。」

「別に彼らに抵抗していくわけじゃないんだからー」

幸嗣が言った。

「ただ、俺らはロックだろ。カマしたろうぜ、光だって英語バッチリだし、
世界進出だって全然無理じゃないんだから。」

「ああ。」

芳樹が応える。

「それでも俺は、国内をまず固めることを優先したいな。日本のロックを追求したい。
その追求の過程で、世界的なものが生まれてくる気がするんだ。」

「それってどんなのだ?」

ケンスキーが訊く。

「日本の古典文学から発想を得るんだよ。あのアニメの新海監督みたいに。」

芳樹が答える。

「物語性も、むろん和歌のエッセンスも。」

「MNEMOさんはだいぶ昔に『Haiku Rock』っていうのを提唱して1曲作ったんだ。
ディストーションをバリバリ効かせたギターで、歌詞を省きに省き、
そのモチーフは良寛の偈だった。」

「げ?」

周平がキョトンととする。

「仏の教えを詩にしたものさ。」

芳樹が解説する。

「それで、うまくいったの?」

「失敗ではなかったって。日本文学の古典からロックをっていうのは、だから、
MNEMOさんは発想していたんだ。それでも結論としては、歴史文化的な固有性から
全世界的な普遍性へ到達するのは容易なことではなく、周辺的なエイドがないと
やはりむずかしいってことだったと。」

「はあ?」

周平がたまらず声を上げた。

「つまり、アニメとか映画とか、そういう視覚的な助けがあって、ということさ。」

「なるほど。」

芳樹が納得する。

「じゃあ、そういうアニメや映画を作る人と巡り会えばいい。」

「簡単に言うな。」

光が窘める。

「そんな意欲的で、制作費も捻出できる作家と簡単につながれるはずもない。」

「MNEMOさんて、Somogumiっていうアニメ制作会社と親しいんだろ?」

芳樹が言う。

「ああ。」

ケンスキーが答える。

「でもその夢は今のところ夢のままだって。」

RAJOYたちはこの後もバンドの今後の方針を語り合うのだった。


<つづく>




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蹉跌集め III-17 [小説]

17

粟田も加賀美も「魂を醸す」に移行していた。
大の日本酒党の加賀美は殊更に喜んで呑んだ。

「悠奈ちゃんと実はさっきのNo-Oneの話してたんだよ。」

藤熊が言った。

「そうですか。」

加賀美は大きく頷いて応えた。

「ニューヨークでそれを歌ってほしいっていうオファーがあったって。」

「ほう。どんな団体の主催なんですか。」

「SNSのフォロワーさんなんです。New York Peace Lovers Associationの
メンバーだと聞いています。」

悠奈が答えた。

「歴とした団体?」

「ええ。そのホーム・ページも見ました。John Lennonのストロベリーフィールズでも
彼の命日とかに集会をする団体です。」

「そうですか。スィキュリティは?」」

「よく分かりません。ただ、国連の軍縮担当の上級代表と話をつけると言っています。」

「なるほど。で、その辺り、ホムラーやMUZIKがどう言うかを話し合った?」

「そうなんだよ。」

藤熊が言った。

「デビュー間もないシンガーが、早々にいわゆる色がついちゃうってのがね。
でも、反戦・反核っていうのは、政治的じゃなくて、倫理的なことだって。」

「ええ、ええ。」

加賀美は何度も頷いた。

「昔のジョーン・バエズみたいなね、立ち位置で。」

「そうそう。」

「こんな時代だからこそ、そういう歌姫が必要なんじゃないんですかね。」

粟田が言った。

「なにしろ唯一の戦争被爆国の日本が核兵器禁止条約の交渉のテーブルにさえつかない
なんていう情けない状況ですよ。核保有国が賛成しない条約には意味がない?
そんな。地球村で、銃を持つ10世帯とかがあって、その十倍もの世帯が銃は持たない、
使わないと取り決めをした。そのことに意味がないはずないじゃないスカ、ねぇ!
暴力追放運動を市民が始めた。しかし市長は、暴力団がその運動にはいってくれなきゃ
意味がないって言っているようなもんですよ。」

「いい喩えですね。」

悠奈が言った。
粟田は大いに照れる。

「でね、悠奈ちゃんー」

藤熊が言った。

「加賀美君を呼んだのは、悠奈ちゃんの数々の歌を元に、ドラマタイズしたステージを
作れないかって思ってね。その物語構成を加賀美君にって。」

「そうなんですか!」

悠奈は驚きながらも、実にうれしそうな表情で言った。

「ある若い女性の1日、ないしは1週間とかなんですよ。」

加賀美が言った。

「ふつうの、と言ったら語弊があるかもしれないけれど、一人の女性が、朝、陽の光に
微笑み、野原に出て花を愛で、鳥の声を楽しみ、自分も歌を歌う。恋への期待や不安を
抱え、そのことも歌い、進行する自分の生の営みー
しかしそれが突然人為的なmalice、そう悪意によって遮断されてしまう。」

悠奈は顔をこわばらせる。

「死ぬことはなかったけれど、すさまじいほどの孤独と絶望に陥ってしまう。
けれども、結局は、結局は、自分の愛するものたちによって立ち直っていこうとするー
そんな一人の女性のめまぐるしい命の展開を表現できたらいいな、と。」

悠奈は涙していた。
加賀美のストーリーに完全に自分を重ねていたのだ。

「加賀美さん、ぜひやらせてください。」

悠奈はなんとか発話した。

「それを、全編でなくても、ニューヨークでもやれたらいいなって望みます。」

「うん!」

藤熊も粟田も大きく頷いた。
加賀美は我が意を得たりという充実した表情で、

「改めて乾杯しましょう!」

と言った。


<つづく>



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