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2017 弥生妄言

政権がむちゃくちゃ過ぎて恥ずかしすぎて・・・
国家公務員の「秘書」が4人もつく「普通の主婦(本人による)」に振り回され、
隠蔽と事実の糊塗に明け暮れる官僚たちが哀れすぎて・・・
忖度と付託の違いもでんでんわからない大阪府知事が痛すぎて・・・

北朝鮮のことをもっと語れ?
水道の民営化を語れ?
共謀罪のことを語れ?
沖縄のこと、福島のことを語れ?

答える方に信をおけないで、どう語りようがあるのか?

*

昨日書いた喜多方市岩月で計測されている高い線量ー
これで「風評被害」が拡大する?
そうであっても福島の産品は安全だという主張は私も信じる。
入念な出荷前の検査がされていることを。
かえって福島以外のところの産品より安全かもしれないことも。
しかし、事実は事実だ。「風評」ではない。

どうして私が故郷の産品を貶めようか!

そんな中で、首相や財務大臣や防衛大臣は、追及されてもヘラヘラ笑っている。
一番「エラそー」な財務大臣が小池議員に「エラそーに」と悪態をつく。
首相はまた外遊?
自分と自分の「普通の主婦」で「私人」の妻が関わることー
「公」のものを「私」する疑惑に誠実に答えぬまま?
福島はじめ大震災の被災者、熊本の被災者のところにも行きなさいよ。

アベぴょん支持の方々よ、
アベぴょん内閣ガタガタよ。

復古主義者が熱く説く「公」に奉仕する心は一体どこにあるんですか?

*

さて、今日はSUBTLYのリハです。
先週の今日「克己會」を催し、士気もまた高まった。

おかげさまで「蹉跌集め」も大人気、多くの方に読んでいただいております。

読まれた記事を参照していると、あるメッセージともとれる読み方をされているなあと
感じる時があります。

なにしろブログを始めて11年、私も歳をとりました。
どうあれ、右往左往する時間もそう多くはない。
なにが大事か、よくよくこれまでの確信を自分から揺るがすことなく、表現していく、
生きていくだけです。


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「アンダーコントロール」の事実

みなさん、

https://itunes.apple.com/jp/app/id1090864577

を知っていましたか。
福島の浜通り以外のところや関東ばっかりじゃないんですね、
0.05〜0.15μSv/hの地域。全国まんべんない!

そして、
https://news.whitefood.co.jp/radiationmap/?utm_source=twitter&utm_campaign=alert&utm_medium=social

おー、Kよ。
喜多方の岩月が赤ぇぞ。
空間線量が月平均の2倍だど。
こゴにきて、會津に降り注いだ核子が濃縮されつつあんだぞ。


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蹉跌集め -68- [小説]

68

「あたしねー」

悠奈が言った。

「ハリーポッターが好きじゃなかったの。」

「え?」

永が突然の話題に驚く。

「ハリーって生まれながらのエリート魔法使いでしょ。もちろん試練に遭うんだけど、
最初から特別の存在だった。貴種流離譚の一種よね。」

「貴種流離譚?」

「うん、折口信夫の用語だけれど。元々のエリートが他郷で試練を克服していって
超人的なヒーローになる物語のこと。」

「なるほど。それが嫌だったの?」

「『元々のエリート』っていうのがズルい気がして。」

「ああ、最初は普通であってほしいってことね。」

「そう。そのことをあたし意識してきたの。『元々悠奈は』って言われるのがとても
嫌で。百メートル競走で、最初から50メートル地点からスタートできていいね、
みたいなことを言われてるようで。」

「でも人間なんて平等には生まれつかないんだからね。」

「それってどうしてなんだろうね。」

「先祖、親の因果だね。」

「そうなのよ。因果律がこの世を支配しているのよね。」

「選ばれし者。」

「・・・永ちゃん、予定説って知ってる?」

「ああ、カルヴァン主義の?私ね、A学なのね、大学。藤熊さんの大後輩なの。
あそこはメソディストで、習ったわ、キリスト教学の授業で。
神が救う対象は予め決まっていて、どんなに善行を積んでも選ばれていない者は
救われないし、救われると決まっている者はどんなに悪行を積んでも救われるのよね。
救済は偏に神の恣意だって。学生はみんな引いてた。」

「資本主義はプロテスタンティズムによって興ったって。」

「Max Weberでしょう。『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』。
読まされたよ、社会学で。」

「こつこつ禁欲的に富を集め、放蕩せず、その富を資本とし、また稼ぐ。
選ばれし者は、商いで成功する者のはずだからって。」

「悠奈も恵まれた家に生まれたんだね。これも『元々』。」

「あたしは予定説を信じない。あたしはむしろなんでもご破算から始めたい。」

悠奈は自分でもバカなことを言っているのを知っていたが、そう言いたくなった。

「悠奈の生まれついての才能や美貌はどうなの?」

永は少し冷たく言った。

「ご破算の資質とか美貌って、そんなものあるの?」

悠奈は永が確かな反論をしてくれる頼もしい相棒であることをうれしく思っていた。
まもなく永は帰って行った。

悠奈は時計を見る。
随分と深夜になってしまった。
そしてもうそろそろ木野と多摩川の土手で出会った時刻になると気づいた。


<つづく>




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蹉跌集め -67- [小説]

67

トリのSUBTLYの40分間もさすがの年季に裏打ちされた演奏で充実したものだった。
出演者みな出口前に立って、オーディエンスを見送る。

男女を問わず、悠奈と握手して狂喜する者が続出する。
みんなは当然だと思っていた。

ある齢四十凸凹のサングラスをした女性が、悠奈と握手をするや、耳打ちをした。
悠奈の表情が俄然青ざめるー
その後も最後まで悠奈は客を見送ったが、その途端楽屋へ走って行ってしまった。

永がすぐにその異変に気づき、悠奈を追いかけて行った。

「どうしたの、悠奈。」

永が机に突っ伏す悠奈に声を掛けた。

「さっきの女性でしょ?何か言ったの?」

悠奈は無言だった。嗚咽しているようだ。

藤熊と薗畠も楽屋に入ってきた。

「どうしたの?」

永がボソボソと二人にこんなことがあったと話す。詳細は分からない、と。
SUBTLYもJAPPSも入ってくる。

「なに、なんかあったの?」

悠奈が何も語らぬ以上、どうにもできない。会場でそのまま打ち上げという手筈だったが、
悠奈を早く帰してあげようということになった。永が家まで付き添うことになった。
関係者はみな言葉少なになり、打ち上げは気まずいものになってしまった。

国道246号を悠奈と永が乗るタクシーが走っている。
悠奈は右側後部座席で頭を窓につけて黙りこくっている。
永は悠奈が話したくなるまでは何も言うまいと思っている。

和泉多摩川のマンションに着いた。
永は「私、帰った方がいい?」と訊くが、悠奈は首を振った。
二人は部屋に入る。
悠奈が紅茶を淹れる。
永は少し落ち着いたかと思う。

「おいしいね、Fauchonのキャラメル。」

永が言う。

悠奈も一口啜って、溜息を吐く。

「あの女性にねー」

悠奈がようやく言葉を発する。

「あなたこそnumbね、人の心に。いい気になるな、って言われたの。」

永は驚いて黙ってしまう。

「そうなのかな。」

悠奈がポツンと言った。

「あたし、いい気になっているかな。」

「知っている女性じゃないんでしょう?」

「知らない。」

「一見変装風だったよね、あの人。」

「・・・。」

「知らない人なら、勝手な難癖でしょ。」

「・・・でも、なんだかいろいろ知ってる風だった。そう感じた。」

「気にすることないよって言いたいけれど、そうもいかないよね、悠奈には。」

「あたし、いい気になっていたのかな・・・。」

永はキャラメルを一口飲んで、

「私は悠奈のこれまでは当然よく知らない」

と言った。

「ただ、あなたの生まれながらの資質・才能や容貌に惚れ込む人だらけだっただろう
なっていうのは容易に想像がつく。当然反発する者、嫉妬する者もいただろうね。」

悠奈はボンヤリとして聞いている。

「アーティストにとって、避けられないことかも。」

永は続ける。

「私も悠奈が羨ましいよ。藝術的に自己表現ができる人って、憧れよ、大抵のふつうの
人間にとってはね。その憧れが逸脱して、嫉妬に変わるっていうのも十分あり得る。
そういうのにも向き合っていかねばならないのがすぐれたアーティストなんだろうね。
特にミュージシャンは、山の中で焼き物一筋とかっていう仙人のような陶藝家
みたいには決してなれないからね。」

「いいなあ、陶藝家。あたしだって自然の中で歌を歌っていきたいよ。」

悠奈がほとんど涙声で言った。

「分かるよ。」

永がやさしく言う。

「私ね、東京生まれだけれど、父方はアイヌなのね。私がなんだかエキゾチックな容貌だ
なんて言われるのも、そういうことなんだと思う。別にその出自を隠したつもりは
なかったけれど、なにしろ聞きなれない名前でしょ。小学校の頃からアイヌって同級生に
言われた。きっと親御さんたちが気づくんだね。それが息子娘に伝わる。父の苦労が
結局娘に受け継がれてしまう。

こんなこと自分で言うのも嫌だけど、あの子日本人離れした容貌ね、きれいねって
言われて、アイヌらしいよって続いて、ああ、そうなんだ、なんだあ、だもんね。
そんなことばっかりよ、ずっと、高校の終わりまで。

ひどい男の子も複数いたよ。私に恋して、私が拒むと、このアイヌ女、北海道へ帰れとか、
狩猟採集しておとなしく片隅で生きてろ、イヨマンテの儀式でもやってろとか。
もう、なんていうか、なんでここまで言われなきゃいけないのかって、何度泣いたか
しれないよ。まあ、悠奈とは直接関係ない話だけれど。」

「そうだったのね。」

悠奈が涙を拭って言った。

「永(とこ)ちゃんも苦しかったね。あたしね、高3のときだったわ、特例だった
らしいけれど、福島から転校生が来てね。仲良かった子すら、放射能のことで陰で
その福島の子のことを揶揄したりしてね、本当に悲しくなったよ。あたしがそれに反発
したら、浮いちゃってね。初めてだった、大勢から浮いた存在になったの。
悠奈はいい子ぶってるってね。そして、かわいいと思って、頭いいと思って、いい気に
なるなってー」

「そうなんだ。」

永がしみじみと言った。

「それ以来なんだね、その同一の言葉を投げつけられたの。」

悠奈はまた涙を拭って頷いた。


<つづく>



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パン屋は非道徳的

教科書検定委員X:パン屋はまずいよ、え?

教科書会社社員Y:は?どういう点ですか。

X:日本人としての道徳観を教えるんだ、和菓子屋に改めなさい。

Y:おっしゃる意味が分かりませんが。

X:あったま悪いなあ!パンは日本固有の食べ物か?

Y:固有ではもちろんないですけれども。道徳と何の関係が?

X:わざわざパン屋にする意味が、こっちこそ分からん。

Y:??

X:どうとも書けるんだったら、日本固有のものを扱う店にするんだよ!

Y:それが道徳と何の関係があるんでしょうか。

X:日本固有のものを大事にしようという価値観につながるだろ!

Y:では、「Zちゃんは着物を着て、下駄で家を出て、家の近くの和菓子屋さんへ
  行きました」というようにですか?

X:いいじゃないか。分かったようだな。

Y:「パンを売っているお店、ケーキを売っているお店は非愛国的と素通りし、
  和物のたべものこそ一番だと、小遣いで母の誕生日を祝う大きなあんころ餅を買い、
  伝統の和蝋燭を母の歳の本数だけつけてもらおうとしましたが、そんな習慣は
  我が国にはないと店の人に言われたので、バースデー・ケーキとは道徳的に悪い習慣
  なのだと知りました、と、こうすればよろしいですか。」

X:合格!

Y:世界中から笑われますよ。

X:きさま、国家権力に逆らうのか!パトカー呼べ!

Y:警察車両、でしょう?



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2017 弥生短信 -3-

Under oath he says she handed him one million yen.
In her FB, she says he lied.
I trust HER?

*

今日から春期講習です。
日曜はさすがに空けて、SUBTLYのリハです。
悠奈の見学はありません。

*

シラけきった<成熟>社会、それが日本ですね。
籠池旋風、吹いていても、多くの国民は劇として楽しむだけ。
それでは選挙(アンケート)で劇の登場人物とかに駄目出しするのかと云えば、
低投票率もいいところ。国民の2割だかの支持で超安定(?)政権。
安定してるわなあ。劣化した大臣だらけで、なんだかやってく政権。
民主党政権がダメすぎたからって私も思ってきたが、いやどうして、今の政権は
同等ないしはよりヒドいんじゃないか。

小室直樹さんは所有権こそ資本主義の根幹と言っておられました。
それを蔑ろにする日本は本当の資本主義国ではないですよ。
まして日本が民主主義国家なんて言うのは、なんだかどっかの独裁国家が民主主義を
国の名にしているみたいで、ほとんどブラックジョークですね。

こんなこと書いていると共謀罪で挙げられたり、あるいは証人喚問されたり?
ま、後者は大丈夫ですな。あっしはあの偉大な籠池さんよりもずっと小物、
微生物みたいなもんだから。あっしは逆に「ShowにCome on」と呼びかける方。

*

Mooさんのキャベツ畑に舞い込んだのは、はい、まちがいなくヒヨドリです。
掌中にあるヒヨドリは、2000年小日向において以来17年ぶりに見ました。
え〜〜〜〜、17年かい。
私の手の中にいたヒヨドリは、その後すぐに息絶えたと思います。
Mooさんの掌中のは、ハルちゃんの攻撃ありつつも助かったそうでよかった。


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蹉跌集め -66- [小説]

66

「総入れ歯、MCしなかったな、MNEMOちゃん。」

藤熊が言った。

「ええ、彼女には要りません。あの現れ方、no needですよ。」

「確かに。」

藤熊が見回すと、JAPPSたちが後方の楽屋手前に立っているのが見えた。
どういう表情をしているかまでは見えない。


I'm in love with love
So I'm causing you pain
I'm in love with love
I know I'm so vain

私は恋に恋してる
だからあなたを苦しませているのね
私は恋に恋してる
うぬぼれたことだと分かっているの


悠奈が2曲めを歌い出す。
MNEMOは「おお!」と静かに唸る。

光はすぐに「返歌」だと気づいた。
幸嗣はさほど英語が達者ではないが、分かり易い歌詞に釘付けになる。


I've been waiting for so long
For the time for me to grow
Wise enough to love someone somewhere

ずっと待っているのよ
私が賢くなって
どこかのだれかを愛するときを


男どもはみなその「someone」になりたいと嘆息を吐く。
藤熊や薗畠すらも!
女たちも溜息を吐(つ)く。
嫉妬などではない、ただただ羨望しかない。
これほどに男ばかりか女も引きつける悠奈の磁力。

光も幸嗣も十三もみな項垂れていた。
めいめいが思う、「someone」は明らかに自分ではないと。
しかし、「someone」になれる可能性はないのかとも思ってしまう。
芳樹が言った「疎外」された自分には、克服の時が来るのか。
とすれば、悠奈が歌うように、自分も「wise enough」というところまで「grow」
せねばならないのだろう。どうやって?

光は思った。
悠奈を守る竜となり、空から歌を悠奈に注ぐ虹になりたいと歌ったけれど、
前者はどうあれ、後者はまさに虹であり、儚い。
竜となっても、聖ゲオルギオスが現れてしまうのかもしれない。
救いはただ悠奈が「I've been waiting」と現在完了進行形で歌っていることだけだ。

幸嗣は思った。
トキが知足を言った。自分は得心したつもりだった。
しかし、こうして凄まじいほどの魅力を持つ女性と知り合ってしまった自分は、
完全にその女性から離れない限りずっとその磁界の中にいて、惹きつけられてしまう。
黒部に帰ってもそれは磁界の外ではないだろう。「地球の裏側」のブラジルに
行っても変わるまい。だから、<違う磁界>に自分は入るしかないのではないか。
しかしその磁力を発するものが、いつまで経っても近距離に在るからという相対的な
磁力の強さで悠奈に拮抗するぐらいでしかないのではないか。シリウスは全天一の
輝星だが、8.6光年しか離れていない。悠奈は北極星ポラリスのようだ。
2等星だが、432光年も離れている。しかも年がら年中見えている。
そしていつも自分の位置を知らせてくれている!

十三は思った。
欲が行間で透け透けになった衒学的メールを送った自分の浅薄さがつくづく恨めしいが、
そうまで情けない自分になってしまうほど悠奈に焦がれてしまったことは
<どうにもしようがなかった>と。そしてあの多摩川のお地蔵様に教えていただいた
欲に駆られたドス黒い自分の心、無明。光や幸嗣は若く、悠奈を愛する<資格>が
ある。自分は妻帯者ではないか。自分はもう思いとどまっている。
ただ悠奈のファンとして、今までの自分の生活を続けていこう、そう誓ったのだ。
それにしてもー。

ーそして悠奈のステージは数曲の後、Twelve Times a Yearで終わりを告げた。


<つづく>




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蹉跌集め -65- [小説]

65

「ハハ、僕にはドアが開くときよくその前にいる習性があるんだ、ハハ。」

十三は意外にも快活に言った。

「前回ドアと激突したのは左膝辺り、今回はお尻だ。」

悠奈は黙っている。

「大丈夫だよ、悠奈ちゃん。僕はファンとして来ただけだ。ギグの成功に
少しでも貢献できればって、学生も何人か連れてきた。ただ僕は遠慮してねー
君の視界に入ったらまずいと思って奥にいたら、なんだ、ここが楽屋だったんだね。」

悠奈は十三のことば、口調、態度を猛スピードで分析していた。

「『ファン』てね、もちろんJunoのファンということだけれど、MNEMOさんのファン
でもあるんだよ。彼の他に類を見ないブログをずっと読んできたんだ、このところ。
書いていることにも共感するところ多かったし、木野先生とのエピソードも感銘を
もって読んだよ。そしてYouTubeにある音源も聴いてきた。ファンになったよ。
そして今すばらしい演奏をしたJAPPSのファンにもなったよ。彼らとはドアに左膝を
ぶつけた時に出会った。そのときから見ても、JAPPSは短期間ですさまじい
進歩をしている。尊敬する。
・・だから、僕は、このギグの出演三者全員のファンなんだ。来たくなるのは当たり前
だと思ってください。」

自分の疑心暗鬼が急速にしぼんで、悠奈は気まずそうに頭を下げた。

「ほら、次でしょ。」

十三が「もう、僕を相手にしなくていいよ」と続けるかのように言った。

「期待してます。Good luck.」

十三の促しに従って、また一礼し、悠奈は楽屋に戻る。


永が入ってきて、そろそろだと告げる。

「JAPPS、野津田部長もすごい褒めてたよ。」

永が言う。

「最後の歌、すごかったね。悠奈への曲だって、キリキリ分かっちゃった。」

「キリキリって・・・。」

悠奈がふっと微笑んだ。

「悠奈の返歌の番だね。」

永のことばに悠奈は頷く。


JAPPSは悠奈が永にまだ着替え中だと聞かされても、不平を言わず、外の空気を吸いに
出た。インターミッションは30分、悠奈は支度を急ぐ。




「こんばんは、佐藤悠奈、Junoです。」

スポットライトに照らされるや、悠奈が挨拶をする。
客席から、いや、コヤ全体、立ち見の人からもどよめきが起こる。
なんという気品とさわやかな色香が匂い立つような女性だろう、と。
白を基調としたケルト女性の民族衣装で、しかも翡翠色の勾玉のネックレイス、
耳飾りも同色の小さな勾玉ー 髪は安田靫彦が描いた額田王のように結われている。

「Numbという名のコンサートへようこそお越しくださいました。」

遠くのカウンターの方からグラスが落ちて壊れる音がする。
またボックンが指を滑らしたのだ。ボックンは会場の雰囲気から、謝罪の声も
上げられないー これ以上の無粋、粗相は許さないという。

「Numb・・・そうですね、私たち、麻痺してしまっていることを本当に多く
抱えていますね。福島のこと、また各地の地震や津波の被災者のこと、
基地に苦しむ多くの沖縄の方々のこと、広島、長崎、そして先の大戦で犠牲に
なられた人々のこと。

最近『瑞穂の国』ということばが聞かれます。<みずみずしい稲穂>のことです。
私たちのふるさと、日本の異称です。<みずみずしい>って、もちろん水という
単語の繰り返しから成った語です。その水が、瑞穂の国の水が、苦しんでいます。
福島の水は汚染されている?ええ、でもそのセシウム汚染度と同等のところが
あります。どこでしょう。東京なのです。一番ひどい汚染は、茨城、次に栃木で
確認されているんです。三番目が東京と福島。宮城県はなぜかこのデータを公表
していません。」

客席が水を打ったように静まり返っている。

「私のふるさと瑞穂の国、私の祖先のふるさと福島と東京に捧げますー」


Born in Japan
naturally, I've become a child of trees
But nowadays
I feel anxious about what it will be
My country
The islands of trees

日本に生まれ
自然に、私は木々の子になりました
でも近頃は
どうなるか不安です
私のくにが
木の島々が

Mama,
is this the way it should be?
Papa,
can we no longer swim in the sea?

Don't keep them poisoning it
Don't leave them contaminating it
Don't let us be as we are
Now we've already gone too far

ママ、
こういうものなの?
パパ、
もう海では泳げないの?

汚すのをやめさせて
穢したままにさせないで
このままの私たちでいてはいけないわ
もうとっくに私たちはやり過ぎてしまったのよ



薗畠はただのオーディエンスのひとりになっていた。
そのオーディエンスはみな茫然自失している。
こんな歌姫がかつて日本に存在しただろうか。

MNEMOは二度目のこの歌にさらに感動して打ち震えていた。
シンガーとして、いろいろな要素から観て、悠奈には敵わないとつくづく思った。

「ありがとうございました。」

悠奈が挨拶して、聴衆は呪文が解かれたようになった。
そして割れんばかりの拍手。

「この歌は、MNEMOさんのブログを読ませていただいている裡に降りてきました。
『川は呼んでる』とか、『生きているみず』、『苦しんでいるみず』というタイトルの
記事から、そして『トーホグマン』というブログ連載小説からどれほどヒントを
得たかしれません。特に、Psychic NumbというMNEMOさんの詩を
読ませていただいて、シンガーとして決定的なinspirationsに満たされました。」

この言葉にMNEMOは泣きたくなった。
「inspirations」と複数形で悠奈が言ってくれたことも聞き逃さなかった。
藤熊がポンとMNEMOの肩を叩いて、ニッコリ微笑んだ。

「薗畠社長!」

MNEMOが声を掛けた。

「悠奈ちゃん、僕が事務所立ち上げてやりたいです!」

薗畠は苦笑する。


<つづく>




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蹉跌集め -64- [小説]

64

DSC02325.jpg


周平のドラム・ソロから始まるLove Analysisが1曲目、
9小節目から芳樹のベース・リフが入ってくる。オーディエンスはそのgrooveに
めいめい自然と体を動かし始める。17小節目にバンド・インだ。
広がりまくる音、若々しい。

Love analysis
What's my love made of?
Love analysis
What's my love all about?

光が歌い出す。

薗畠が藤熊に耳打ちする。

「なかなかいいね、この子たちね。」

「ええ。うまくやれば売れますよ。」

藤熊が応える。
聖古はファンたちと寸分変わらぬラブ光線をJAPPSたちに送っている。
曲が終わり、聖古は誇らしげに藤熊たちを見回した。

数曲あって、いよいよForget It Allが始まる。
シーケンサーでストリングスにオーボエが乗る、これまでとは打って変わっての
詩情あふれるバラードだ。8小節目、<例の>ケンスキーのピアノが入る。

「キャ〜〜〜ッツ!」

ケンスキーのファンの女の子がケンスキーの奏でるメロディーと、
その貴公子のような風情にたまらず悲鳴を上げる。

悠奈は楽屋で「とうとうあの曲ね」と緊張していた。
むろん鮮明には聞こえないが、光の歌う歌詞は聞き取れている。
いよいよ「fool」の連呼のところに来る。
幸嗣がハモる。
二人ともデモで歌ったような過度な気負いが取れているように悠奈には感じられた。
少し安堵する。

曲が終わって、オーディエンスは大喝采している。
「どうもありがとう!」
光は歌い切ったという満足感を込めて挨拶している。

「えーっと、ここで珍しくオイラがMCします。」

芳樹の声だ。
確かに芳樹はあまりギグで発言したりしない。
悠奈は耳をそばだてる。

「オレら、この間(かん)いろいろありました。ほんと、いろいろ。
・・・恋ってすてきっすよね。」

黄色い声がそこかしこで響く。

「疎外ってことば、あるじゃないすか。マルクスとかの用語っす。
なにも経済の話したいんじゃないっすよ、ええ。疎外って、こういうことっす。
オイラ、昔っすけど、すげぇ好きだった子に、あなたの思いは受け入れられないけど、
あたしのこと嫌いにならないでねって言われたことがあるんすよね。」

笑いが起こる。

「これが疎外っすよ。あるものが私とは無関係であるという場合、そのあるものに対して
私は無力なものとして疎外されていることになる・・・Wikipediaっすよ。
この疎外を克服することによって、人間はその本来の自己を取り戻し、その可能性を
自己実現できるものとされる・・・これもWikiっす。これ、オイラの話だと思ってたら、
信州読書会の宮澤って人がそっくり同じこと言ってたんすよ、YouTubeで。
笑ったっすよ。」

客席では笑いではなく、ざわめきが起こった。

「この疎外を克服するって・・・どうしたらいいんすかね。
Wikiは教えてくれないんすよ。なんでも書いてあると思ったけど。

それはその女の子に戻ってきてもらって、しかもオイラに恋してもらうしかないっしょ。
ね。でもミュージシャンはね、もうひとつ、方法あんすよ。曲にして、歌い、
奏でることっすよ。・・・ラスト・ナンバーっす。」

芳樹はそう言うや、周平に合図を送る。
歌詞が「全面改訂」された幸嗣作曲、光作詞のScales of Desireだ。
その夜のレパートリー中最速のテンポ、これぞハード・ロックというナンバーだ。

悠奈は芳樹が光と幸嗣の代弁をしたことにもちろん気づいていた。
集中して聴けば、サビにはやはりドロドロがあった。
ところがA-B-A-Bの繰り返しの構成から、曲の最終部近くでCパートがついていた。

I'm a dragon who can never be beat
I'm a rainbow arching just over you
The music's written on it, now you'll read
And soar in the sky so I can hear you
Singing in praise of my love for you
And touch me in praise of my love for you

俺は無敵の竜なんだ
俺はお前の真上に架かる虹なんだ
その虹の上にはメロディーがのっている、さあ読んでくれ
そして空へ舞い上がるんだ
僕が聞こえるように
君が僕の君への愛を讃えて歌うのを
そして僕の君への愛を讃えて僕に触れてくれ


最後の2行では幸嗣がハモった。
悠奈は熱くなった。
苦しいほど熱くなった。

たまらず外気を吸おうと楽屋を出ようとするなり、ドアが何かにぶつかった。
楽屋はオーディエンスの最後列になってスタンディングで聴いているファンに
ドアを塞がれたりするような位置にあった。悠奈は、「ごめんなさい!」と言って、
ゆっくりもう一度ドアを開ける。

「大丈夫です。」

そう言った客の顔を見るとー

十三だった。


<つづく>




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蹉跌集め -63- [小説]

63

DSC02326.jpg


「おはよう!」

とMNEMOが光と幸嗣に応え、Henryなどは「ウイーッス」などと応じた。
竹中さんやボックン以外はみな悠奈とこの二人の<曰く>を大体知っていた。
悠奈は「久しぶり」と挨拶をしたものの、そそくさと器材を片づけて永と一緒に
サンタンを出て行こうとしたが、JAPPSのさらなるメンバーたちとドアのところで
出くわす。

「お、悠奈、お久〜ッ!」

周平が努めていつものような明るさで挨拶をした。
芳樹とケンスキーと周平が「やあ」と言いながら後に続く。
殿(しんがり)は聖古だった。

「あっら〜、かわいいお嬢さんたちお二人!」

聖古は初めて見る悠奈たちの印象を素直・率直に口にした。
彼女らは自己紹介をし合って、悠奈と永は外へ出て行った。

「こんちはっす!」

周平たちはSUBTLYに挨拶をして、セッティングを始める。
ケンスキーはMNEMOのところへ行き、

「今日はよろしくお願いします」

とニコニコ笑みをたたえて言った。

「こちらこそ。」

MNEMOが笑みと言葉を返す。
そしてすぐに耳打ちをする。

「心配はしてないけど、不測の事態はないよね。」

ケンスキーは声を出して笑ってから、

「歌で想いを表すけれど、その他の言動はないそうですよ」

と耳打ちして、微笑んだ。

「それでこそミュージシャンだ。」

MNEMOが言った。
SUBTLYも「シーメ」ということで外へ出て行く。
JAPPSのリハが始まる。


店がOPENとなって、続々と客が入ってくる。
藤熊、薗畠はもちろん、懐かしくも高田も来た。彼の上司の野津田も現れた。
また薗畠の部下だった内舘もやってきて場が賑やかになった。内舘はMNEMOと
StickらがやっていたG Stringのマネージャーだった人だ。
聖古と永も加わり、「業界人テーブル」はまた賑やかになった。

一方楽屋には重苦しさがあった。
なにより光と幸嗣が押し黙ったままなのだ。
悠奈はSUBTLYのメンバーたちに話しかけられて時々話をするが、他愛ない会話と
なって、そのたび光と幸嗣は苛立つような雰囲気を撒き散らす。
ケンスキーがずっとMNEMOと話していて、光と幸嗣はそちらにも耳を傾けていた。
本当なら、MNEMOと話してみたいと二人は思う。
けれど、悠奈がいてはとてもそんな気分にはなれない。
本当はそんな態度をとりたくはないのだ。しかし、どうしていいか分からない。
本当に歌と演奏で悠奈に想いを伝えるしかないー
光と幸嗣はそう思っていたのだ。

そろそろという段になって、MNEMOは「じゃ」と言って楽屋を出て行く。
彼がこのギグのMCもやるのだった。

「え〜、世の中てぇものは、実に不思議なものでございましてなッー」

MNEMOが落語の枕のような口調でMCを始める。

「やめろ、似非噺家!」

Kと渾名されるMNEMOの友人がすぐにヤジを入れた。

「うっせ、この!」

MNEMOはそう言い返して、

「みなさま、本日はどうもNumbと題したこのギグにお越しいただき、
本当にありがとうございます!見れば立錐の余地もないわけで、
偏にハンサムボーイズ集団のJAPPS、そして新宿十二社の歌姫佐藤悠奈、
芸名Junoの人気のおかげでございます!」

「SUBTLYのファンがいねぇぞ!」

Kがまた茶々を入れる。

「うっせ、この!」

オーディエンスが笑う。JAPPSがライトが消えているステージへ上り始める。
女性ファンたちがザワつく。

「Why I named this gig 'Numb' must be a mystery to you all, right?
The musicians who are gonna appear tonight are all dying to make you
feel "comfortably numb"ー That's why. But that's not the only reason.」

MNEMOがオーディエンスにどれほど通じているのか自分でも確信が持てぬまま
英語のMCをする。

「やめろ!オラには全然わガんねッ!」

またKがツッコんだ。客がまた笑う。

「あー、この、黙ってろK!・・・え〜、では始めましょう。
シビれちゃった、シビれちゃった、シビれちゃったよーお、というギグのスタート。
インカレの軽音サークルが生んだ、世界を俯瞰する超有望なrock quintet、
JAPPSだあッ!」


<つづく>



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蹉跌集め -62- [小説]

62

SUBTLYの音合わせを悠奈と永はじっと聴いている。
Psychic Numbが始まった。
悠奈はブログで歌詞を見ていたが、初めて曲として聴く。

「ああ、すごい!」

そうとしか言えない。
自分が目指すべきことがいくつもあると思う。
このSUBTLYのメンバーひとりひとりのこれまでの来し方も慮る。
きっと彼らひとりひとりが自分の場におけるマグネットのような存在で、
数はどうあれ、他者を引きつけてきたのだ。
そして、その磁石は砂鉄ならぬ<蹉跌>を集めてきたに違いない。
その蹉跌が結局はこの音となって解放されているー
そう思った。

「ああ、そして今もー」


「悠奈ちゃん、お待たせしましたね。」

MNEMOが呼びかけた時、悠奈は沈思黙考の体だったから、ドキリとした。

「え、あ、はい!」

悠奈は12本の弦を再び慎重に調整して、ステージへ向かう。
永が甲斐甲斐しく悠奈の手助けをする。
SUBTLYのメンバーは「シーメ」にすぐには行かず、客席に座る。
悠奈は緊張する。
新宿南口の歩道でも、狛江の西河原公園でも、どんなに見知らぬ人ばかりの中で
あっても物怖じしない悠奈だが、たった4人に見つめられて、手が震える。

「悠奈、じゃあ、聴かせて!」

永がニッコリと笑って言う。永はもうすでに悠奈をファースト・ネームで呼んでいる。
永は悠奈の2つ上、同世代だ。悠奈の歌にもう惚れ込んでいる。

悠奈は12弦ギターではむずかしいアルペッジオでイントロを弾く。

「お、Twelve Times a Yearではない歌だ。」

SUBTLYのメンバーはみなそう思った。
竹中さんとボックンも仕事の手を止めて注目している。
相変わらずボックンは顔を紅潮させている。

Born in Japan
naturally, I've become a child of trees
But nowadays
I feel anxious about what it will be
My country
The islands of trees

日本に生まれ
自然に、私は木々の子になりました
でも近頃は
どうなるか不安です
私のくにが
木の島々が

[i:]という長母音が森に差し込む陽の光のように聞こえるー
MNEMOはそう思った。

Mama,
is this the way it should be?
Papa,
can we no longer swim in the sea?

Don't keep them poisoning it
Don't leave them contaminating it
Don't let us be as we are
Now we've already gone too far

ママ、
こういうものなの?
パパ、
もう海では泳げないの?

汚すのをやめさせて
穢したままにさせないで
このままの私たちでいてはいけないわ
もうとっくに私たちはやり過ぎてしまったのよ


悠奈の歌が終わって、男たちはみな「余韻よ、減衰しないでくれ」と願っていた。
悠奈は目を閉じている。
白いTシャツとブルージーンズといういでたちだが、陳腐な形容ながら、
まるで森の妖精のようだ。

「ガシャッ!」

静寂は破られた。
ボックンが聴き惚れ見蕩れて、持っていた皿を落としそうになり、慌ててつかんで
シンクの縁にぶつけたのだった。

「す、すいませんッ!」

ボックンは泣きそうな声で謝罪する。
SUBTLYのみんなは眉を顰めるどころか、一斉に笑った。
自分ももしボックンだったら同じことをしたろうと思えたからだ。

ーそのときだ、自動ドアが開いた。

「おはようございます。」

光と幸嗣が相次いで入ってきた。


<つづく>



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Daughter of Love, Princess of Love

愛子さまの愛らしいお姿に接し感無量。
皇室の、当たり前だが<気高さ>に、感動しない日本人がゐるだらうか。
愛子さまの卒業文集での一文も拝読、その知性・感性に舌を巻いてしまつた。
当たり前だ、あのご両親の子、あのご祖父母の孫でゐらつしやるのだから。
こゝでいふ「感性」とは、いつくしみの心、やさしさと同義だ。
そしてそれが感性といふものゝすべてではないか。

それに比べ、「日本のこゝろ」などと声高に言ひながら、
おぞましい言動しかしないやうな輩は、今の只々気高くやさしい天皇皇后両陛下の
麗しいお姿を拝見して恥じることはないのだらうか。

弥栄なれ、愛子さま。



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What would the imaginary number mean in the 11 dimensional world?

授業終了。ふー。
報道ステーションやってない。やってもWBCのことがトップ?
じゃあ、見ない。

ってなワケで、Mooさんの日記にあった「複素数」の話。
虚数「i」、すばらしい発想ですよね。
「iを掛けるということは、座標の原点を中心に反時計回りで90度移動すること」って。
だから「i*i= -1」なんですね。「i*i*i*i」で「元の世界(領域)」へ戻って来る!
これを平面座標でなく空間座標で応用すると・・・
いやあ、なんだかうれしくなってしまう。
「空間座標」に時間軸、そしてさらには<なくなった>7次元を足した座標があったと
して、それにこのimaginary numberを応用したら?

何を言っているんでしょうか。

寝ようかなあ。




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蹉跌集め -61- [小説]

61

5月の「Numb」コンサートの日となった。

いわゆる「逆リハ」で、SUBTLYが先に渋谷・神泉のサンタンに入る。

「サンタン」という名は、オーナーの中川三治さんが年がら年じゅう日焼けしていて、
仲間から「さんちゃん」をもじって「サンタン」と愛称されていることで付いた。
小麦色の肌の彼が笑うと白い歯がいっそう輝いて見えて、彼に会った人はみな
印象的に彼のことを記憶する。

MNEMOが店のマネージャーの竹中さんに懇ろに挨拶する。

「いやあ〜、MNEMOっちゃん、待ってましたよ〜!!」

竹中さんはいつも心底MNEMOがサンタンで歌うことを楽しみにしてくれる。

「今日はSUBTLYで?DDじゃないの?あ、 G Stringか?」

彼は悪い冗談を言う。

「EUROYですよ!」

MNEMOも悪い冗談を返す。
竹中はガハハッと笑って、

「いや、どういうバンドであっても、MNEMOっちゃんの歌が楽しみで!」

MNEMOはメンバーに気を遣って、チラッと彼らを見て、

「竹中さんはほんとに歌好きで、僕の理解者だから!」

と取り繕った。

すると自動ドアが開いて、早くも悠奈がコヤ入りする。

「おー、悠奈ちゃん!早いね、また。」

MNEMOが声を掛ける。悠奈は丁寧にみんなにお辞儀して、

「すみません。ご迷惑でないでしょうか」

と言った。

「そんなわけないじゃないですか!」

Stickがうれしそうに応える。

「あれ、お連れさん?」

MNEMOが訊く。

「初めまして。ホムラー・レコードの音吏部永(おとりぶ・とこしえ)です。」

「すごい名前だね!」

Henryがヴァイオリンの弓の毛の張りを調整するためアジャスターを回しながら言った。

「おとりぶ・とこしえ、ですか?」

「はい。みんな忘れられない名前だって言いつつ、忘れる名前です。」

一同が笑った。
笑いつつも、この「とこしえ」ちゃんが悠奈に劣らぬ美貌を持つことに密かに
賛嘆していた。

「なんかフランス語的な響きだね。特に『とこしえ』なんてトルシエみたいで。」

Henryが言った。

「僕もほんとはHenriであって、フランス表記が正しいんだ。」

「Hを読まないんだよな。で、eは長母音で[ɑː]って読む。riはいわゆる『うがい音』ー」

MNEMOが知識をひけらかす。

「で、Hを読まないって、なんか真面目な読書家みたいだけど。」

みんながまた笑う。

「もうこの歳だしな。」

Henryが言う。

「団塊の世代の村上春樹さんは衰えずすごい描写するけどな。」

Halがボソッと言う。

悠奈も永もタジタジになっている。

「それでですねー」

永が話題を変えようとする。

「私、佐藤悠奈のA&R担当になりましたので、よろしくお願いします。」

竹中さんとキッチン担当のサンタン・スタッフ最年少「ボックン」が二人の美形に
見蕩れている。

悠奈はその二人の視線に気づき、永と共にカウンターへ行って、挨拶をする。
竹中さんはデレデレになって歓迎の言葉を贈った。ボックンは赤い顔をしてお辞儀した。

Stickがドラムスのチェックを始めて、それがまるで呼び込み太鼓の如く響いて、
メンバーたちの作業を急がせた。


<つづく>



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蹉跌集め -60- [小説]

60

十三はまったく悠奈のことが忘れられないままだった。
大学が始まって、中野坂上の悠奈のマンションの前まで行ってはそそくさと帰った。
もはや悠奈は住んでいないようだと悟り始め、それほどまで自分は嫌われたか、
それとも誰かの近くへと行ったのかと思うようになった。

「そうならばきっと狛江だろう。」

十三はほとんど確信していた。

「そして狛江なら、多摩川べりの方ー きっと和泉多摩川駅周辺だ。」

妻・花乃里が娘と里帰りした四月の9日昼過ぎ、十三は和泉多摩川へクルマを走らせた。
カーナビ通りに行き、駅前のロータリーに到着した。目の前は交番で、そう長くは
停めていられない。ナビをスクロールして、川沿いの住宅地を見つけ、
適当にその辺りを目的地にセットして出発する。

右折左折を何度か繰り返して、土手下の比較的開けた道に出た。
いい道だが、路上駐車ができるほどの広さはない。近くのコインパークを探し出し、
今来た道を今度は歩き出す。悠奈に会えるはずなどないのは知っている。
しかし、彼女に近づいているということだけである程度の満足感があった。

「俺はストーカーだな、まったく。」

十三は今度は屈辱を感じた。
自分は今までに一度としてフラれたことなどなかった。順風満帆の人生ー
悠奈と出くわすまでは。

土手道に上がって、いずれの方向へ歩き出すべきかを考える。
悠奈は駅近くに住んでいるはずだと推定し、川上方向を選ぶ。
その道を自動車教習所に通う若者が何人か歩いてくる。悠奈と年恰好が同じ女性も
たまに歩いてくる。遠くでそういう女性を認めると、十三はドキドキしてしまう。
髪が比較的長く、165センチほどの背格好だったりすると心臓の高鳴りは聞こえるほどに
なった。しかし、悠奈ではなかった。

そんな風に歩いていると、多摩水道橋のたもとにまで来てしまった。そのまま行っても
狛江市内であるのは分かっている。駅からそう遠くないところまで行ってみようと思う。
右手に都立高校があって、校庭では野球部の休日練習が行われている。その校庭の
西側の端まで来て、北へ行く道へ入る。

その道は少し下り坂になっている。
まもなく十三は何か不気味な感じがして立ち止まった。
空気が違うのだ。目を瞑る。十三は何かを感じ取ろうとする。
子どもの頃からこうした空気の異なるところでは、十三は目を瞑ると幻視とは云え
何かが見えた。思えば小日向の切支丹坂での幻視もそういうことだった。

見えたのは男女のカップルが道の左手からどんどんと出てくる様だった。
幸せそうな表情の対はない。男も女も仮面をかぶったように表情を変えない。
そしてその仮面の表情は、まさに仏頂面なのだが、さもしさが滲んでいた。

「ああ、ここにはいわゆる連れ込み宿が在ったのだな。」

十三はそう思った。この空間で、夥しい数のカップルが来ては後ろめたく欲望を
満たしたのだと思うと、自分が今していることの卑しさに戦慄が走った。

十三はその場を逃げ出す。逃げ出すや否や、右手に小さな地蔵堂が在るのが
ぎりぎり視野に入った。途端に十三はグッと踏み止まって、急ブレーキをかけたクルマの
ように慣性力で前のめった。

「お地蔵様が泣いていらっしゃる!」

十三はそう思った。なぜかそう思った。
手を合わせて何十秒も祈りを捧げて、歩き出す。すると追いかけてくる老婦人がいた。

「あのぅ、ごめんなさい、突然話しかけたりしてー」

老婦人は言った。

「今あなたさまはあのお地蔵さまに懇ろに手を合わせていらっしゃったでしょう。」

十三は老婦人の表情を見て、その穏やかさにホッとしながら、

「ええ。」

と答えた。

「なぜあそこにお地蔵様がいらっしゃるかご存じ?」

「あ、いいえ。存じ上げません。」

「そうですか。あのお地蔵様は、そう、もうあれから50年に近いかしら、
ある日すぐ近くの多摩川岸に少女の水死体が上がりましてね。
身元が不明のままで・・・。
あの小さな地蔵堂を造り、供養したのですよ、あの地蔵堂がくっついているお家の方が。」

「そうなんですか。」

老婦人はお辞儀して去っていく。十三は彼女のした話を噛みしめていた。

「泣いていらっしゃるはずだ。」

十三は独りごちた。

「その少女は、無念の死を遂げ、地蔵となった。そしてそのすぐ目の前で、
夥しい数のカップルの逢瀬を見てきたのだ。そのカップルが幸せならばそれはお地蔵様も
心安かったろうが・・・。」

十三は地蔵堂に戻って、再び心からの祈りを捧げた。
ソメイヨシノの、散って土手の方から雨で流された無数の花びらが、
小さな川のようになって地蔵堂に導かれている。

十三は泣けた。
そして心に決める。もう二度と悠奈をこんな風に追ってはならない、と。


<つづく>




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おはながまがった〜 いとおしいよ

春眠暁を覚えず、どころか、眠ってばっかりです。
春は本当に僕にはsleepyな季節で、暇があれば眠ってしまいます。
しょーもねぇヤツです。

そんなんで、もうとっくに起きてて、『蹉跌集め』を読み返したりしていました。
「佐藤忠信」話が重複していて、冷や汗。
第55回に加筆し、辻褄を合わせました。(プ)

栗田(K)による表紙には笑いました。
彼はなぜか「族」の漢字遣いが好きで、そんなヤツでは決してないのに不思議です。
「克己會」でも言ったのですが、彼には偽悪的なところがある。

彼が裏表紙に引用している本文の中の一節とかは、きっとどこでもよかったんでしょう。
適当にコピペしただけのことと思います。
けれど、英文の方は「Psychic Numb」の詩を採っていて、どうせ偶々であれ、
ちょいと感心してしまいました。私自身も好きな詩なので、ひょっとしてあいつにも
詩心があるのかって。(笑)

Mick師が「會」で、何回となく「藤熊です」って名乗られて笑ってしまいました。
世古さんは「MNEMOさんは他のところで書いてからブログにそれを貼っているの?」
と訊いてくださいましたが、「いいえ、ブログ画面で出たとこ勝負で書いてます」と
答えたら、大いに驚いておられました。

この3人以外の出席者からは我が小説への言及はありませんでした。(プ)
それでも、HalさんやStickは<本当に暇な時>読んでくれていると信じています。
Henriくんもゼシ読んでくだされ、よかったら。

Simoちゃんと幸夫くんという「加賀美一党」が来られなかったのはなんとも残念でした。
NYのやすさんもいたらとてもおもしろかったのに。
純粋に我が戯作を論じる飲み会もやってください、いつか。

どうかSUBTLYの未来(そういっぱいはない)にみなさまの夢も託してください。

*

「記事管理」で読まれた記事を見たら、まだ訪問者が少ない中なのに、
「おはながわらった」という2013年の記事が4人の方に読まれていて驚きました。

http://mnemosyneoforion.blog.so-net.ne.jp/2013-06-27

どうしてなんでしょうね。
「同志社(どうししゃ)ったの?」と独りシャレを言って笑いました。
「立命(<せ>つめい)がつかない」なんて。

お彼岸に供えた花ももう草臥れてしまっています。
「おはながまがった」になってしまっています。

Paul DavisがCool Nightで歌っています。

I sometimes wonder why
all the flowers have to die
I dream about you

この3行目が「転」ですね。
唐突なのですけれど、深い。

1981年リリースで、日本では1982-83年に売上のピークを迎えた曲です。
私がEUROXをTAOの3人と結成する頃です。
私はその頃高円寺に暮らしていました。
大好きなこの歌の、先ほど述べた「I dream about you」の「転」に気づくような
詩的洞察力はなかった。ロクでもない若者でした。(今はロクでもない壮年です。)

でも、花に感じるいとおしさはロク倍くらいになっているなあ。

なんじゃ、そりゃ。


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蹉跌集め -59- [小説]

59

ケンスキーにMNEMOからまたメールが届いた。

「ケンスキー君、ごめんね、君をまずはゲストでSUBTLYにとお招きしながら、
Henryの正式加入でその話が反古になってしまって。僕のブログで『上モノ募集』とか
『virtuoso募集』みたいなことを書いて、Henryが僕らと一緒にやりたいって
言ってくれてたんだけれど、なにしろいろいろとあって、どうなるか分からなかったんだ。
HalもStickも歓迎っていうことになって、一応話が整ったのはつい昨日のことだったんだ。

ケンスキー君とやりたいっていうのは何も変わらないよ。そのチャンスはきっとあると
思っています。とは云え、JAPPSがメイジャーになるのは間もなくと僕は思っている。
2バンドに跨る活動はできなくなるだろうけれど、それはそれでめでたいことだね。

さて、聖古さんからメールが来て、なんとJAPPSをプロデュースするって言うでは
ないですか!なんていうsmall worldなんでしょうな。まさか光君のお母様が
探真の参与とは思わなかった。聖古さんは探真じゃ大変な<顔>だから、
いずれつながってしまう縁だったんだね。

さて、5月13日渋谷・神泉サンタンでのギグだけれど、既報通り悠奈ちゃんがソロで
真ん中でやります。JAPPSがスターターで。SUBTLYがトリですが、それは年の功で
許してください。

ギグのトータルなテーマは『Numb』とします。いろんな意味でのnumbです。
オーディエンスには痺れてほしいし、麻痺して欲しくないこともあります。
幸嗣くんなら『南無』に聞こえてしまうかも。(笑)

各バンド・アーティスト40分が演奏時間です。また詳細は連絡します。」

ケンスキーはMNEMOの配慮に感謝した。
そして「藤熊組」とも言えるSUBTLYの連帯を羨ましく思った。
彼らはそれを「克己會」と言っているそうだ。族みたいだ。

MNEMOの前のメールをケンスキーは読みたくなった。

「バンドはなによりモチーフをひとつにしなくてはならない。その前提に、無論
メンバー相互の技術的信頼がなくてはならない。その技術は日々の努力でしか絶対に
手に入らない。その努力をこそ実は尊敬するんだ、共にね。

技術とは、単にある楽器がうまいとか、歌がうまいとかだけのことではない。
そのプレイヤーのセンスそのものでもある。バンド内でそのセンスを巡る議論が
あってもいい。けれども、あくまでプレイヤーのセンスをまずは大事にする姿勢が
なければ議論ではなく、単なる非難合戦や諍いにしかならない。4人なら4人、
5人なら5人の現在のそれぞれの感覚世界の地平をまず相互にできるだけ理解して、
そして<俺たちの地平>を見る。メンバー分の奥行きが、perspectivesが、
ピタリと重なった時、他のどんなバンドも真似できないharmonyが生まれるんだと
僕は確信している。」

正に年の功だ、とケンスキーはあらためて思う。
JAPPSはいつも団結する時にルサンチマンが伴っている。
それではいけないなとケンスキーは思うのだった。



4月中旬のある日、JAPPSは聖古と横浜みなとみらいに在る高級なcaféで会った。
聖古はいかにもいわゆる「ミッション・スクール」の同窓会会長然としていたが、
とても気さくな女性だったのでメンバーたちはひと安堵していた。

「さてー」

と聖古はひとしきりの自己紹介や雑談を終えて、「Let's get down to businnes」と
いう風情で、革のカヴァーのビジネス・ダイアリーを開いた。

「まずね、JAPPSっていうバンド名、変えられないかな。」

メンバーに一瞬にして緊張が走る。

「すごい思い入れあるの、このバンド名。」

「そ、それは、それなりに。」

芳樹が答えた。

「そう。変えたらもう自分らじゃなくなっちゃうくらいバンドidentityに関わる?」

「そ、そこまで言われてしまうと・・・。」

「ね。やっぱりPが1個多くたって、『ジャップス』は『ジャップス』でしょ。
まあ、黒人の中でもわざと自分たちをニガーって言ったり、黒人同士でそう呼び
合ったりっていうのがあるのは私も知っているのよ。なにしろ私Baptistだから、
アメリカ南部のことに詳しいし、黒人の友だちもいっぱいいるの。
でもさすがにその言葉をバンド名にする黒人はいないと思うわ。」

「・・・。」

「いや、あのね、別にあなたたちのidentityに強く関わる名前ならいいのよ。
でも、確かこの名前ってアクロニムでしょ。その主張はいいんだけれど、
もっと前向きっていうか、positiveな名前にしない?」

「考えさせてください。」

光が少し悄然として言った。

「みんなで話し合ってみます。」

「うん、そうして。もし浮かばなかったら私が考えてもいいんだけど。」

「いや、それは僕らに任せてください。」

芳樹が憤りを押し殺して言った。

「なにしろ僕らまだ聖古さんのお世話になるかも決定していませんし。」

「そうよね。」

聖古がそう言ってiced teaをストローで飲んだ。

「私ね、あなた方を売り出すイメージはしっかり掴んでいるつもり。ほんとよ。
あなた方、なかなかの高学歴じゃない。例えばケンスキー君のピアノなんて
すぐにclassicsをみっちりやってた人だわって分かる。デモも聴いたわ。
ライブでやっていた曲より断然好き。リリカルよねぇ。そういうところー
あのね、今有閑階級のおばさまたちが待望しているのに、
若い男性ミュージシャンたちが、知的さやクラシックの香りを漂わせるコンサートを
やってくれるっていうのがあるのよ。ね、あなた方ならやれるって思うの。」

幸嗣があからさまに顔を顰める。

「そういう要素もありつつね、社会貢献もしていくの。私は福島の人たちへの
支援もやっていて、それでMNEMOさんとも知り合ったんだけれど、今後も関わって
いきたいの。どうかしら、みんなもその点も賛同してくれればうれしいわ。」

「俺、ロッカーです。」

幸嗣がたまらず言った。

「社会貢献はむろん喜んでやります。でも前段はいけません。俺らロックバンドです。
あのデモの1曲はたまたまバラードになっただけです。今バリバリロックの
カップリング曲を制作中です。」

「あのね、おばさまって言ったのは悪かったけれど、そういうニーズは確実にあるのよ。
もちろん若い子たちにも照準を合わせるわよ。でもできれば老若男女ー
この際男は外すけれど、老若女に幅広く支持されるのって悪くないでしょ?
知的なロックって、きっと若い子にはウケないと思うんだけれどな、そのままじゃ。」

「そんなことはないと思います。」

光が決然と反論する。

「若者を見くびらないでください。僕ら、知的な、そして詩の深みがわかる若い子も
確実にいるって分かってます。それも日本人の子ばかりじゃなく、世界中にー。」

「そうなの。まあ、それはそれなりいるわよね。
・・・私はインターナショナルな活躍は大歓迎よ。そういう実績ももうあるの。」

「聖古さん。なにしろ考えさせて下さい。」

ケンスキーが言った。

「僕にクラシックの素養があるのは本当です。でも僕のヒーローはジョン・ロード
ですよ。ご存知ですか?」

「いいえ。」

「Deep Purpleのキーボードです。もちろん『明日にかける橋』のラリー・ネクテルの
ようなリリカルなピアノも弾きたいです。
でもこの二人、僕の中では全く相克しないんです。
どっちのようでもありたいんです、僕。もちろん猿真似したいっていうんじゃありません。
僕は僕です。どうか僕らのセンスを信じられるようになる迄、できれば僕らを追って
くださいませんか。性急に事を進めるべきではないですし。」

このケンスキーの言葉に一番驚いていたのはJAPPSのメンバーたちだった。

「すごい<見識>だ!」

周平がおどけた。

「ケンスキー君、よく分かるわ。ありがとう、思いを述べてくださって。
私もプロデューサーとしては駆け出しだから、これからいっぱい学んでいくわ。
きっとJAPPS、追っていくからね。デモのカップリング曲も、できたらすぐに
送ってちょうだいね。」

JAPPSのメンバーはみな、齟齬はあったが、いい人と巡り合えたと感じていた。


<つづく>




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SUBTLY becomes a quintet on March 19, 2017

昨日の「克己會」のご報告ー

克己とはMick師のご本名で、師は本当に終始その会でも己に克たれておりました。
どういう意味かは書きませんが。

我がSUBTLYのHal & Stickにあの関根安里が加わった3-shotを後で公開します。

SUBTLYこれより、

Hal ・・bass
Stick ・・drums
Simo ・・visual enhancement
Henri ・・keyboard & violin
MNEMO ・・vocal & rhythm guitar

というquintetになります。

なお、

EMI ・・visual design
Yukio ・・literary advisory
Mick ・・supervision

ということで、ここで委嘱させていただきます。


以後よろしくお願い申しあげます!

昨日は大安吉日でした。
その日を狙ってよかった!
そしてもちろん克己會會長のご人徳です。

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蹉跌集め -58- [小説]

58

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「ここご(の)ふぁーぼはふ(麻婆茄子)がふ(好)きあ(な)んだ。」

光が熱々トロトロの茄子を口に入れながら言った。

「ハハ。光、なんか吹っ切れてんな。」

周平が言った。

嚥下して烏龍茶を飲み、光が言うー

「ウチの母さん、クリスチャンなんだけど、バプティストでな。
横浜にQuest for Truth学園っていうところの参与をやってるんだ。」

「ああ、探真学園のことか。」

芳樹が言った。

「ウチの姉ちゃんが入ろうか迷って、結局横浜協立に行ったけど。」

芳樹は生粋の神奈川県人だ。津田芳樹の実家は横浜の戸塚区に在り、代々そこで
暮らして来た。「戸塚区は横浜とは言い難し」などと揶揄されるが、先祖は東海道
沿いで旅籠を営んでいた。「おりゃあ、ちゃきちゃきの戸塚っ子だ」とよく言う。
「横浜港なんぞ、江戸の末期までなかったんだ。ま、神奈川湊っていうのは
あったけれどな。だから神奈川区、それから金沢区は許す、昔っからあっから、
戸塚と同じで」などと。

「そこの元同窓会会長で聖古(せこ)さんていう人がいて、この人が俺らの
ライブの映像を見てくれたんだ。そしたらな、ぜひプロデュースさせてほしいって
母さんに言ったんだって。去年辺りからプロデューサー業を始めて、タレントを
探していたっていうんだ。」

「へえ。じゃあ、藤熊さんがレコード会社を橋渡ししてくださったら、
もうバッチリじゃん。」

芳樹が<横浜弁>で言った。

「聖古さんが言うには、JAPPSは男前だし、演奏力も確かだって。」

みな笑いを押し殺すようにする。

「ただなー」

光が言い淀む。

「何。」

周平が促す。

「聖古さん、なんと、なんとだよ、SUBTLYとやったことがあるんだって。」

「ええッ!また出来過ぎのストーリー展開かよ!」

周平が仰天して叫ぶ。

「勘弁してよ。」

「SUBTLYとは契約していないのか。」

芳樹が訊いた。

「トウが立っている男のバンドはやれないって。」

「は?」

「いやさ、SUBTLYはもうそういうの超越しちゃってるからって。」

「なるほど。」

「バプティストつながりで、そういう音楽求められたりってのは?」

幸嗣が訊いた。

「それはない。ただ聖古さんは福島原発被災者救済に力を入れてるよ。」

みんなは反対する理由がなく、いい話だと言い合って、光に対応を一任した。

「それで、SUBTLYとのジョイントだけれど、聖古さんぜひ見たいって。」

「あ、それだけどー」

ケンスキーが言った。

「MNEMOさんによると悠奈も出るって。」

光と幸嗣が固まってしまう。

「悠奈は事務所が決まって、そこの社長も観に来るとか。
それから、SUBTLYには新メンバーでHenryさんが加わるようだよ。
EUROYのヴァイオリン、キーボード担当の。すげぇグレードアップするぜ。」

「ち、ちっくしょう!」

幸嗣がたまらず叫んだ。

「負けてたまるかよ、JAPPS!聖古さんに見せつけようぜ、俺らの力!」

「悠奈にもな。藤熊さんにも、その悠奈の事務所の社長にも。」

光が言った。

「もちろんSUBTLYにも!」

Henry加入で自分のSUBTLY加入がなくなったケンスキーが言った。

「オオッ!」

みんなが気勢を上げた。
姑娘がお盆を抱えて目を丸くしていた。


<つづく>




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蹉跌集め -57- [小説]

57

光がJAPPSのメンバーに集合をかけた。
いつもとは違って、直接登戸にみなを呼んだ。
昼食を安くてうまい中華屋でとりながら話そう、と。
前日SUBTLY Mark IIが悠奈と食事をしたところだ。そのことは誰も知らない。

「またも来ました、多摩川べり。」

千葉九十九里出身で、今は下総中山に住み、遠くからやって来た周平が言った。

「わりぃ。なんかこの話は俺のホームグラウンドでしたかったんだ。」

「え?地の神さまのご加護とか?光、クリスチャンじゃん。」

「気を重視したいんだよ。」

「ああ。」

ケンスキーが頷いた。

「悠奈=藤熊=MNEMO=木野パワーに横溢する対岸の東京側ー
多摩川を挟んで、神奈川側でそれに負けんとする気を発したいってこと?」

「・・・。」

「そんなことで気張んなくてもいいと思うけど。まあ、いいや。それで?」

「まず、Scales of Desireの詞は改めた。」

光が歌詞を配る。


Scales of Desire
I'm not gonna let them come off
Scales of Desire
Gon' protect you with this armor of love
From every wicked guy
Who says he's just dropped by
To ask you how you've been
But beware, he's simply green

欲望の鱗
俺は剥がさない
欲望の鱗
この愛の鎧で
邪なヤツから
お前を守る
ヤツはちょっと立ち寄ったと言う
どうしているか訊こうかと
でも気をつけろ、ヤツはただ嫉妬しているんだ


「おいおい、結局ドロドロじゃん!」

周平が呆れたように声を上げる。

「コーラス見ろよ!」

光が苛立って言った。


I'm a dragon who can never be beat
I'm a rainbow arching just over you
The music's written on it, now you'll read
And soar in the sky so I can hear you
Singing in praise of my love for you
And touch me in praise of my love for you

俺は無敵の竜なんだ
俺はお前の真上に架かる虹なんだ
その虹の上にはメロディーがのっている、さあ読んでくれ
そして空へ舞い上がるんだ
僕が聞こえるように
君が僕の君への愛を讃えて歌うのを
そして僕の君への愛を讃えて僕に触れてくれ


「う〜ん。」

周平が唸った。

「愛の鱗から、竜ときたか。なるほど。」

ケンスキーが感心する。

「前向きな歌んなったな。」

芳樹が言う。

「ちょっと前向きすぎて、youが引くかもしれないけど。」

周平が忌憚なく言う。

「最後には気づいてくれるんだ、youが。」

光が言った。

「you<な>じゃないの?」

周平がまた諧謔をカマす。

「いいよ、光!ありがとう。いい歌詞をつけてくれた。」

とうとう口を開いた作曲者の幸嗣は感激のことばを吐く。

「さすがは光だ。俺の心境そのものだ。」

「<俺の>心境そのものなんだよ。」

光が笑って反論する。

「幸嗣もwicked guyなんだぞ。」

幸嗣も笑う。

「なにを!お前こそだ!」

JAPPSのみんなが笑う。
中国東北部から来たという女性店員がニコニコと彼らを見ていた。


<つづく>




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酒なんか飲んでいる場合か!〜でも飲みます。

Tillerson国務長官が来日し、また訪韓したけれど、北朝鮮の挑発および東アジアの
不安定化を止めるのに「あらゆる手段を排除しない」というトランプ政権の方針が
ある中、

The diplomatic and other efforts of the past 20 years to bring North Korea
to a point of denuclearization have failed.

と東京で言ったわけです。

「過去20年にわたる、北朝鮮を非核の段階へと持っていこうとする外交的および
他の努力は失敗したのであります。」

これは北への恐ろしい警告です。
トランプ政権がそう言うのですから、もう外交的努力はしないというのはそのままの
意味であると取った方がいいのは疑いないのです。
特殊部隊投入、最新鋭ステルス戦闘機でのピンポイント爆撃、サイバー攻撃などなど
さまざまな選択肢がありうるわけです。

「3代目」は相当深刻にこのことを受け取っていると思います。
この人が理性的な人ならば、ふつうは軟化するはずです。
けれどそうは思えない。「死なば諸共」という選択をしかねない人です。

アメリカが先制してすべての反撃を封じ込めることができれば大成功なのでしょう。
そううまくやられてたまるかということであちらは研究に研究を重ねてきた。
「コスト」としての、北による反撃がもたらす災禍は、誰が被るのでしょう。

日米韓の情勢分析をしている「3代目」がおそらく北叟笑んでいる事実があります。

朴槿恵の失脚でガタガタになっている韓国は、「少女像」問題で日本ともまたぞろ
ギクシャクし、THAAD配備で中国から事実上の経済制裁を受け、ボロボロ。
そして我が国はー
言うのもおぞましい状況です。

これで日米韓の連携がmaximumまで効果的になることはない、と。

ただし、韓国大統領選では、親北朝鮮とも言える候補が今のところ当選しそうです。
その新大統領の登場まで待ちの姿勢になるかもしれません。
そしてだからこそ<今>叩こうとトランプは思うのかも知れません。

日本が巻き込まれる戦争はすぐそこまで来ているのかもしれません。
それは誰も否定しようがない。
トランプの胸先三寸です。
怖いことです。とても。

安倍ぴょんも岸田さんも、あの頼もしい稲田さんも、Tillersonさんからありうる
すさまじい計画を聞かされたはずです。その3人のうちの2人が・・・。

なんということでしょう。



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蹉跌集め -56- [小説]

56

MNEMOは翌日SUBTLYの8月に向けた反核・反原発の歌のリハーサルに臨んだ。
スタジオはまたまた宿河原と言っていい場所に在る。

「おはよう。」

いつも定刻10分前には必ず来ているHalに挨拶する。

「ども。」

HalはいつものようにMNEMOをチラッと見て、そう挨拶し、もうセッティングして
あるベースを弾き続けようとした。しかし今回そうはいかなかった。
若く美しい女性がMNEMOと一緒に入って来たのだから。

「初めまして。佐藤悠奈と申します。」

呆気にとられているHal。
そこにドラムスのStickもスタジオに入って来た。彼も驚く。悠奈は再び挨拶する。

「ごめん、どうしてもSUBTLYのリハを観たいって・・・。」

MNEMOが謝る。そして悠奈のことを手短に紹介する。
トリオのスタジオは狭く、悠奈は使われないギターアンプの上に腰掛けた。

I don't blame you for being ignorant
How could I blame you, I'd be so arrogant
But Mr. T
You should never have done that
To a T

MNEMOが歌う。「Mr. T」とはトルーマンだし、トランプでもある。

On August 6, 1945
On August 9, 1945
As planned, hundreds of thousands of people could not survive
Women and children were burned alive
No!

MNEMOの詩はみごとな脚韻を完璧に踏み、歌は鬼気迫る。
Halのうねるベースは、弾く者のクールさに反比例して灼熱を音にする。
Stickのドラミングは原爆を投下され、灼かれた人の鼓動のようだ。

悠奈は強く強く動かされる。

リハ時間が半分経ったとき、<がたい>のいい男性が入って来た。

「おお、どうもHenry、忙しいところご苦労様です。」

MNEMOが言った。
悠奈はこのEUROYのキーボードとヴァイオリンのプレイヤーが途中参加するのを
知らされていた。しかし、「この人がAthenaの作曲者か」と思い、
しばし注目した。

「ども。」

「ども。」

HalとStick、そしてHenryは互いに挨拶した。心なしか皆緊張しているようだった。
MNEMOは悠奈という「藤熊組の後輩」をHenryに紹介した。
Henryは「そうなんだ。よろしくです」と言って微笑んだ。

HenryはSUBTLYの8月プロジェクトに賛同し、協力したいと申し出ていたのだった。
EUROYの活動は長期にわたってなされていない中での話だ。
SUBTLYはどうしてもHenryの上モノ(キーボードやリード楽器など)プレイヤーとしての
力量、編曲能力を必要としていた。もう一緒にやるだけじゃないか、ということだった。
悠奈は固唾を呑む想いだった。

Henryはまずキーボード・アプローチを披露した。
厚みを加えるアプローチというより、音の空間を生かすものだった。
それをシーケンサーに録音して、次にヴァイオリン・ソロを弾いた。
断末魔の人の絶叫の表現として解釈していいのだが、哀しみがあった。
その哀切は、生へのもの、そして人類の愚かさへのものだった。

曲が終わって、SUBTLYのメンバーはみな黙っていた。
すばらしい手応えにみな感動していたから、余計な「音」を出したくなかったのだ。

悠奈も押し黙っていた。
これがバンド音楽というものなのだ、と圧倒されていた。
JAPPSもいいバンドだ。けれども、これが年季、経験というものの差かと思った。
もちろん若々しいからこそのすばらしい音もある。けれども、こうしたシリアスな
音楽では、どうしても音楽のであれ人生のであれ経験を積まねば出ない音がある、
と思い知った。

それは落語に似ていると悠奈は思った。
悠奈は祖父に連れられて新宿末廣亭へ何度も通ったことがある。
若手の落語は元気が良くて、チビだった頃悠奈には十分おもしろかった。
けれど老齢の大御所たちの噺にはついていけなかった。
齢を重ねなければとてもできない演目があることを悠奈が知ったのは15歳くらいに
なってからだった。いわゆる人情噺というのは、才能ある若手でも、逆立ちしたって
並みの老齢落語家には敵わない、と。

リハが終わって、食事をしようということになった。
登戸駅近くの安くてうまい中華料理屋に5人は入った。
ひとしきりSUBTLY & Henryの話が終わって、悠奈の話になり、初老たちはそれなり
デレデレになって盛り上がった。

「あのー、SUBTLYのギグに私、どうしてもジョイントで参加したいです。」

悠奈が決然と言った。

「そのお話はすでにMNEMOさんとさせていただいてましたけれど、
今日はっきりそうしたい、そうすべきだって思いました。」

「いいんじゃないですか!」

Stickが言った。

「僕はまだ悠奈さんの歌は聴いてないけれど、なにしろ藤熊組でしょ。
さらに僕もお世話になったMuzikの後輩でもある。薗畠社長に見初められたんなら、
もう鬼に金棒だもんね。」

悠奈はTwelve Times a Yearをひとりひとりに聴かせる。
HalもStickもHenryも、ひとりひとりパッと表情が明るくなり、
まるで灯火が次々と点るようだった。

「いやあ、いいんじゃないですか!」

同じセリフをStickが繰り返した。むろんトーンはより高めになっていた。

「悠奈ちゃん、それはつまり、JAPPSともタイバンになるのを了承ってことね。」

MNEMOが言った。

「はい。構いません。」

「JAPPSって?」

Stickが訊いた。MNEMOはいろいろと説明をした。

「JAPPSとやるともれなく若い女性オーディエンスがついてくるらしいよ。」

MNEMOが笑って言った。

「悠奈ちゃんが出たら、若い男性ばかりか中年壮年老年の男性ももれなく
ついてくんじゃないの?」

Halがボソッと言った。

みんな大笑いした。


<つづく>




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蹉跌集め -55- [小説]

55

「そうやって強引かもしれない縁故の解釈、それによって自分を動かす動機に
することって、たとえ解釈が間違っていてもすてきなことだと思います。」

悠奈が言った。

「考えてみれば、七十億を超える人類のひとりひとりも元を辿ればみな親戚に
なってしまうんですものね。もちろんその血縁は常識的には薄いー
血縁と呼べるほどの濃さはほとんどないのでしょうけれど、
宇宙の歴史が138億年、人類の誕生は700万年前というのが最新の学説だと言います。
13,800,000,000 : 7,000,000、13,800 : 7、つまり大体2,000 : 1ですよね。
これを大変な差ととるか、そうとはとらないかは個々の勝手ですけれど、
宇宙の2,000分の1の歴史の中で人類はここまで来た。私にはたった7百万年です。
現生人類、つまりホモ・サピエンスに限れば、たかだかその歴史は25万年です。
70億人相互の縁は、それぐらいの歴史しかないのなら、濃厚と言っても過言では
ないのではないかって思います。」

「そうだね。そしてこの日本列島に限ってしまえば、さらに濃厚だ。」

「ええ。先日『阿弖流為』でもお話しましたけど、私の遠い祖先は、源義経に従った
信夫佐藤の忠信なんだそうです。たかだか800年くらい前の話です。生々しいです。」

「うん、安倍ぴょんと同じだったね。」

「驚きました、それをお聞きして。」

「ブログにも書いたし、この前も言ったけれど、彼の母方の祖父、その弟は長州の
佐藤家の出なんだ。家伝として忠信の末裔だと言うよ。それぞれ岸信介、
佐藤栄作という総理大臣さ。父方の安倍家は安倍貞任の子孫だって。
蝦夷の族長の家柄さ。祖父の安倍寛はリベラルな保守政治家だった。」

「じゃあ、首相は両親の遠祖がいずれも東北なんですか。」

「そういうことなんだ。ご自分はそれより維新の志士につながる者と思いたんだろう
けれどもね。」

「震災と原発事故被災者への住宅支援は先月打ち切られましたね。」

「ひどいもんだよね。みんな安倍ぴょんの歴史観と同じです、尊敬してます、
名前を冠した小学校を建てますって言えば、官僚に便宜を図ってもらえるかもね。」

悠奈は笑えなかった。

「悠奈ちゃん、実は僕の母方の祖父も佐藤姓なんだ。石川家に婿入りしたんだ。」

「それもお話しになりました。」

「あれ?それも話した?やばいなあ、なんとか防衛大臣、あるいはなんとか元東京都知事
みたいだな・・・面目無い。

「やはり信夫佐藤の血筋ですか。」

「そうみたいだよ。庄屋の次男坊で、近衛兵になった。母の自慢でね。
根本っていうのも藤原秀郷に遡れるらしい。」

「ああ、『トーホグマン』でありましたね、霞ヶ浦が本貫だって。」

「いやあ、ほんとによく読んでくれているね。そして信夫佐藤も秀郷流だね。
だから秀郷の末裔では最も栄えた奥州藤原氏の家臣だった。」

「その縁ですね、MNEMOさんと私の出会いは。」

「うん。そう思うと得心できちゃうのがおもしろいよね。」

「そして鈴木九郎さん、木野先生という紀州人とのご縁、熊野様のご縁・・・。」

「祖先たちの縁が今に生きているなんていうのも荒唐無稽だとする向きもあるだろう
けれども、そこは僕、漱石のことばを引きたいな。『世の中には片付くなんてものは
殆んどありやしない。一遍起つた事は何時までも続くのさ。ただ色々な形に変るから
他(ひと)にも自分にも解らなくなるだけの事さ』と。」

「あたし、漱石好きです。でも、私は『虞美人草』の藤尾なのかもー 漱石に葬られて
しまった。」

「そうなの?JAPPSのみんなには<マドンナ>なのに。」

二人はクスクスと笑った。

その後二人は河原に出てぼろぼろ二人の冥福を祈り、狛江に戻って行った。


<つづく>



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蹉跌集め -54- [小説]

54

悠奈は薗畠・藤熊との会談の翌日、多摩川・二ヶ領堰の東京側の端で歌を唄っていた。
四月上旬、天気は快晴だった。対岸の宿河原を見つめながら歌うことになるのだが、
視線を川下の方へ移すと、ソメイヨシノとは違う、なにやら奥床しい花色の桜が
見えるのだった。

「MNEMOさんが言ってらした、山桜ね。」

新宿っ子の悠奈は山桜がどんなものかは分からない。しかし、ソメイヨシノなどなかった
古代から、歌詠みたちが愛でたサクラとは山桜のことだと知っていた。たまらなくなって
悠奈はギターを自宅へ置いて、対岸の川崎へと歩いて行った。

土手道を船島神社を下に見ながら過ぎて、木立のあるところへ下りていく小径を見つけた。
木漏れ日差すきれいな木立だ。その真ん中を通る小径を進んでいくと、右側、
つまり多摩川側に山桜が数本咲いていた。

「うわあッ!」

悠奈は感嘆の声を上げた。なんという清楚な佇まいの桜だろう、と。
うつくしく透き通るような若葉がしっかり出て、白にピンクがほんの少しだけ混じった
花が、手毬のように丸く、ふんわりと集まって咲いている。
若葉の色との対象がみごとだ。ソメイヨシノとは趣がはっきり異なっている。

「ソメイヨシノはクローンなのよね。サクランボような実が小さくできるけれど、
それは決して結実ではない。それに比べ、ヤマザクラは個体変異が著しいって。
いろんなサクラと交雑してきたとも。ソメイヨシノのように一斉に咲いて、
一斉に散るということもないんだわ。」

悠奈は節をつけて本居宣長の有名な歌を歌う。

敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花

勇ましいことを言って、大和魂などと言って騒ぐ人たちは、この宣長の歌をどう解釈して
いるのだろうか。悠奈はこの山桜のたたずまいは確かに日本人にとってその心の象徴と
したい花だと思う。

「悠奈ちゃん。」

突然の呼びかけに悠奈は振り向く。

「ああ、MNEMOさん!」

「奇遇だね、と言いたいけれど、今やご近所さんだしね。」

MNEMOが笑って言った。

「それでも奇遇ですよ。」

「そうだね。・・・山桜、見に来たの?」

「ええ。あっちの、ほらあの手すりがあるところで歌の練習をしていたら、
この桜が見えて、たまらず来ちゃいました。」

「そうなんだ。僕はね、今日来なかったら山桜の最高の輝きが見られないなって。
なんだか明日からは花曇りが続くらしいよ。」

「そうなんですよね。」

悠奈はスマートフォンのカメラで山桜を撮影しだした。

「そうだ、どうだったの、薗畠社長との会見は。」

悠奈は撮影をパッとやめて、

「あ、はい、すばらしい会談になりました。ありがとうございます!」

と言った。

「いや、僕が感謝されるようなことではないよ。」

「いいえ、プロデューサーも、事務所もあたしがMNEMOさんの後輩になるんですよ!
すべてはあそこで、あの川原でMNEMOさんと偶然お会いしたからです。」

「うん、でも、ケンスキー君が僕の小説の名前を言ってくれてなかったら、
何にも起こってなかったね。もちろんその前に、いや随分前に、徒然草が吉田兼好さんに
よって書かれていなかったらなかったし、同時代にぼろぼろのお二人があそこで決闘を
されてなかったら、なかったことだったね。」

悠奈はしみじみとした表情で深く頷いた。

「ケンスキー君・・・彼が大きいよ、ほんとに。彼とはね、ずっとメールのやり取り
してるんだ。彼はThe Realm of Athenaのファンになってくれて僕を知った。
だから付け加えれば、あのアニメがなかったら悠奈ちゃんとこうして話していない。」

「本当に不思議ですね、縁て。」

「そのアニメが主題歌を求めていることを知ったのはSomoちゃんていうアニメ監督の
おかげで、そのSomoちゃんと知り合ったのは1984年発売のアニメ主題歌のおかげ、
そしてその主題歌を担当させていただいたのは藤熊さんのおかげなんだよね。」

「遡っていくとすごいことになってしまいますね。その藤熊さんとは、會津の蘆名氏
時代にまで遡るんでしょう?」

MNEMOが笑う。悠奈も笑う。

「ねぇ、MNEMOさん。MNEMOさんは『トーホグマン』で小笹さんのことを書かれて
いますよね。そして実は小笹さんに娘がいて、ささゑっていう竜女で。」

「あらら、悠奈ちゃんも読んだの?」

「ええ。諏訪湖ではすごいことが起こりますね。そして仁科王の謎解き・・・。」

「そこまで読んでた?」

「ささゑってMNEMOさんにとってどんなイメージなんですか。」

「う〜ん。もうだいぶ前のことだからなあ、書いたの。」

「そもそもなぜ鈴木九郎さんに、十二社に関心を持たれたのですか?」

「竜女、蛇女に関心があったからです。あの物語でも書いたけれど、僕は中学生の頃
田舎の山寺の天井に棲んでいたヤマカガシを友人たちと殺めてしまってね。
その負い目っていうのが凄かったんです。祟られる、祟られているって思うと怖くてね。
そして中沢新一さんの『アースダイバー』に出会う。

中沢さんは山梨市の人で、叔父さんは網野史学の網野善彦さんでね。
こちらは同県笛吹の人なんだ。山梨はね、あそこで書いたように、Mooさんていう
安曇野に終の住処を建てた畏友がいて、その方の口利きで大町市へ英語を教えに行き、
さらには松本市に週一回通ってね。山梨、何度通ったかわからんくらいで。
そのたびに、富士や南アルプスに何度も睥睨されて、なんだか縁があるところだ
なあっていう感覚が育っていったのさ。そして源義光、甲斐源氏との縁を知るんだ。

そして途中には諏訪があるでしょう。天竜川は諏訪湖が水源です。
諏訪はすさまじい歴史を有するところでね。縄文人と弥生人が交わり、かつ互いに
最終的には折り合った地です。なぜ分かるか。それは諏訪大社の上社、下社という
分かれ方で判然とするんです。

『天竜』川ですよ。ね。竜神信仰です。諏訪湖の湖底にいる竜神です。
諏訪湖はね、中央構造線と糸魚川静岡構造線が交わるところなのですよ。

竜、竜なんだよ。僕は竜に惹かれてしまうんだ。
俳句は竜胆子って名でだいぶ昔からやっていてね。これは清和源氏の笹竜胆の家紋に
因んでつけたんだ。母方の石川家の家紋でね。

仏教なら龍樹の『空』の理論に惹かれ、小説は根本龍樹で書いているんだ。

だからね、私が唯一好きな東京の繁華街新宿で大蛇となった小笹さんのことを
無視できなかった。僕の田舎ではね、熊野さまが地区の鎮守、そしてお諏訪さまが
町の鎮守なのね。東京新宿に在る熊野様に惹かれないはずがない・・・
こともないか。」

MNEMOがつながりがあるのかないのかわからないような話を大長広舌し終えて、
ハハッと笑った。

悠奈は深く感動していた。


<つづく>



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2017 弥生短信 3

Mooさんがホームページのフロントに私の小説ふたつの入り口を設けて
くださいました。感謝に堪えません。

*

明日は仲間たちと「克己會」発足記念大会です。
大袈裟な言い方ですが、要するに飲み会です。
都心とは逆方向のあるところで、秋田料理をいただきます。
ここは福島県川内村の蕎麦を使って二本松の酒造会社がそれをビールにした「蕎」
というものが飲める首都圏唯一の酒場なのです。二本松は我が根本家発祥の地です。
それが何より私にはうれしくてここを選んだのです。
治雄ちゃんやKは埼玉からわざわざ来てくれます。
すばらしい会になると確信しております。


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蹉跌集め -53- [小説]

53

「平和も歌ってほしいよ、悠奈ちゃん。」

薗畠が続けた。

「僕は長崎の人間だ。終戦時僕は4歳くらいだったけれど、佐世保っていう軍港に
育ったろう、すでに軍国少年だった。戦艦ごっこをすでにやってた。
ある日母が泣いている。どうしたのって訊くと、長崎のじいちゃんばあちゃんたちが爆弾で
やられてしまった、もう長崎には行けなくなったって言うんだね。よく憶えている。
母が泣くのを見るのは初めてだったからね。

戦後、少年になってからは反動でアメリカ音楽にのめり込んでいった。ジャズだね。
そしてプレスリーだ。僕もリーゼントをキメて、W大の頃は勉強そっちのけ、
東京のジャズ喫茶やライブハウスの草創期に関わった。ビートルズが出てきた頃だ。

ポップスはね、本当に平和と一体だ。その平和が失われそうになった時、僕らや少し下の
団塊の世代たちで団結して平和の歌を歌った。僕はゲバんなかったよ、もちろん。
東京の音楽にのめり込む不良学生たちは不良なりに平和を希求したんだ。」

「MNEMOさんが言っておられました。自分は反戦・反核・反原発をそのものズバリで
歌う気はないと。詩歌はプロパガンダじゃないと。」

悠奈が言った。

「そうだね。」

薗畠が首肯した。

「Read between the linesっていうのに堪えられてこそ詩歌だ。」

悠奈は光のForget It Allを思い出した。

「その行間にあるのが、ナルシシズムや性欲や功名心とかだったら最悪ですね。」

悠奈のことばに薗畠も藤熊もドッキリする。

「それでは詩歌とは言えません。」

悠奈は虚空を凝視しながら言った。




JAPPSは幸嗣書き下ろしのScales of Desireのリハに入っていた。

Scales of desire
Come off one by one
Scales of desire
Oh, what have you done?

My inside hurts
So badly I can't stand it
My inside hurts
But you don't care a bit

光が自分でつけた詞を歌う。

「ごめん。」

曲が終わってすぐにケンスキーが言った。

「怨念がこもってていいとは思うんだけどさ、なんか失恋組曲だよね、
前のと合わせて。」

光と幸嗣が憮然とした表情になる。

「いや、それ狙うっていうんならそれはそれなんだけどさ。音楽ジャンル的な対照って
いうことなら、そうなっているんだけど、詩の世界としてもコントラストがあったら
いいんじゃねぇって思ってさ。」

「例えば?」

光が憮然としたまま訊く。

「いや、それを示すのは俺にはむずかしんだけど。失恋の歌2連発って、JAPPSとして
それでいいのかっていうのはあるよ。むろんアルバム単位とかなら大アリだと思うけど。
デモの2曲でしょ。どっちも失恋の歌っていうのは・・・。」

「そうだな、考えてみれば。」

芳樹が言った。

「俺らのバンドとしてのモチーフは恋ばかりじゃないだろう。」

「あのさー」

周平が声を上げた。

「なんか、JAPPSってEagles化してねぇ?」

「え?」

みんながキョトンとする。

「Eaglesってさ、リンダ・ロンシュタットっていう女性シンガーのバックやってたの。
んで、みんなそのリンダに恋しちまってさ。Witchy WomanだのNightingaleだのって
歌作ってさ、みんなでリンダのこと思いながら演奏したんだよね〜。」

みんなは黙ったままだ。

「どこまで彼らのひとりひとりがリンダと発展したか知らないけど、
みんなリンダに気に入られようって必死だったはずだよ。
まるで極楽鳥のオスの求愛ダンスみたいなもんさ。でもリンダは結局カリフォルニア州
選出だったかの民主党上院議員と恋するんだな、これが。」

沈黙がいっそう深くなる。

「俺もさ、悠奈のこと嫌いなはずないよ。あんな才能があってかわいくてきれいな子が
そばにいたら誰だって意識するし、恋もするよな。JAPPSでの存在感を競って、
悠奈にアピールしたいっていう気持ちは誰にもあったでしょ?あったでしょ?」

芳樹とケンスキーが素直に頷く。

「それってバンドの技量発展にはいいことだよ、確かに。でもさ、悠奈に囚われ過ぎては
いけないってことだよな、ケンスキーが言いたいのは。」

周平はそう言って、スティックをクルクルクルッと回した。

「悠奈にアピールすんのやめようよって言うんじゃないんだ。」

ケンスキーが言った。

「でも悠奈モチーフっていうの、ベタ過ぎてさ。2曲カップリングすることもないよ。
幸嗣の曲なら、それこそ宮澤賢治世界を翻案した歌詞とかさ、あるじゃん。」

「トキちゃんそのものの歌でもいいんでないかい?」

周平がおどけて言った。

「古希のトキ ときめくとき 過ぎ去りてー なんてな。」

幸嗣がムッとして、

「だからそのトキちゃんの『欲望の鱗』ってのをもらったんじゃないか!」

「でも、それってトキちゃんの老いの境地でしょ?」

ケンスキーが言った。

「知足のことなんでしょ。なにも悠奈の歌にしなくたって。」

光が下を向いてしまう。

「な。違うこと歌おうよ。世界を目指すんだろ、俺ら。恋の歌もいいよ、もちろん。
でもさ、それだけじゃないじゃん。MNEMOさんらSUBTLYとジョイントすんだろ。
別にMNEMOさんらの反戦・反核・反原発に合わせようとかじゃなくて、
俺らなりの平和のメッセージってありうるんじゃないの?」

JAPPSはその日のリハをその後早々に切り上げて、互いに2曲めをどうするか考えて
くることを「宿題」にした。


<つづく>




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蹉跌集め -52-

52

「既存の売り出し方はしないよ、悠奈ちゃん。」

薗畠が言った。

「あなたの言語フリーな姿勢をも理解してウチはあなたをやるってこと。
このインターネット時代に日本語に固執するのはかえって愚かな選択肢になりうる。
CDとかのメディアの時代ではもはやないのはとっくのとうに分かっている。
いかにネットで視聴してもらうか、ということだ。そうなれば、世界を相手にするのは、
ネットがそうなのだから当たり前、そのときmultilingualismが武器になる。」

悠奈は大学の大先輩の言に胸が躍った。

「ヴィジュアルが音楽に劣らず大事になる。まずあなたは美しい。大変なメリットだ。
ただきれいなだけでなく、感性と知性の奥深さが伴った美だ。本当の音楽を求める
層には、まずシンガーのたたずまいからそれを嗅ぎ取る。あなたは十分その芳香を
放っている。そして、声、詩の外面を裏切らない深さ、叙情性。これもあなたには
しっかりある。楽曲的なインパクトー 12弦ギター1本というシンプルさが基本というのも
大きな売りになりうる。もちろんすべての楽曲で12弦ギター1本ということではないに
せよ、悠奈=12弦ギターというのは、今までにないtrademarkになる。」

藤熊がしきりに頷いている。にこやかだ。薗畠と事前に話し合っていたのだろう。

「そして、何を歌うかだ。恋の歌は欠かせない。僕が1音楽ファンとしてなら、
偏見とか差別とかではなく、女性シンガーには恋をまずは歌ってほしい。恋は人間の
本質部分のことだ。恋は人間が声を出せるようになって以来の歌の源泉だ。
君の恋の歌にファンたちがあるときは吐息で、あるときは涙で、あるときは笑顔で
反応する。君が現にしている、あるいはしてきた恋そのものを想像するんだ。」

悠奈は唾を嚥下する。

「今の世、ヴァーチャルな女性シンガーでも同じようなことができてしまう。
ヴァーチャルな女性に恋焦がれてしまう者など今や珍しくない。
制作者側の大フィクションに喜んでノセられる。ヴァーチャルがリアルと境界を
なくしてしまうようなことだ。しかし、ヴァーチャルは絶対にリアルには敵わない。
感覚というのは視覚と聴覚だけではない。その他の嗅覚や味覚、そして触覚を
視覚聴覚で想像するしかない。その図式自体は、リアルなシンガーについても同じだ
けれど、しかし、生身のシンガーが日々どこかで暮らし、誰かと付き合い、
だれかに恋をし、笑ったり泣いたり、何かに憤ったり、心打たれたりしているという
事実は決定的だ。ヴァーチャル歌手には絶対にないことだ。そのリアルな生活の中、
そのシンガーはファンのfive sensesにリアルに訴えるんだ。」

薗畠は長広舌になったと詫びながら、焼酎のお湯割りをお代わりした。

「悠奈ちゃんの生身・・・いやらしいことを言うようだけれど、3次元の悠奈ちゃんが
ファンたちにそのres extensa(延長)を常に感じさせていくんだよ。」

「Descarte(デカルト)ですね。」

悠奈が言った。

「そう。あなたというres extensaがいつも動き、いつも<人間している>ことを。
それはまず恋だろう。恋している悠奈を感じさせる音楽とヴィジュアルが欲しいんだ。
いや、手に入れるんだ。」

「私は恋に恋している段階です。」

悠奈があっさり言った。

「まだ子どもなんです。私は恋多き女だって、ある人に言われました。でもそれはいつも
幻想なんです。恋は今までいつも幻想でした。私のTwelve Times a Yearも、想像です。
触発される出来事はありました。けれど、恋に恋する女の歌にとどまっています。」

「それはそれでいんだよ。」

藤熊が言う。

「その恋がリアルになる時をシンガーが焦がれ、歌い、男のファンは悠奈ワールドに
自分こそその恋の相手になるんだと<排他的に>没入する。女性ファンは共感する。」

「そうそう。」

薗畠が頷く。

「悠奈が本当の恋をする日を、悠奈が焦がれ、ファンたちも待望するー
いい図式だよね。」

「結局そんな恋は訪れなかったってなってもいいですね、ずっと売れる。」

藤熊がふざけて言った。

「ひどい、藤熊さん!」

悠奈が笑いながら藤熊の脇腹を押した。
三人の哄笑の声が響いた。


<つづく>






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蹉跌集め -51- [小説]

51

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悠奈は藤熊と共に赤坂に在るMUZIKにいる。
日本では斯界歌唱力ナンバーワンのベテラン女性シンガーを抱える事務所だ。

社長の薗畠が応接室にやって来る。

「いやあ、藤熊ちゃん、元気?ご足労だったね、悠奈ちゃん。」

悠奈は立ち上がり、深々と礼をした。

薗畠はしばらく藤熊と業界内の話などをした。その話の節目節目で悠奈をチラッと見た。
ある話で笑えるオチとなったところで、悠奈に向き合って、

「ね、悠奈ちゃん、こういうことがあるんだよ、この業界はね」

と言った。悠奈は「はい・・・」と言って、愛想笑いをした。美しい笑みだった。

「悠奈ちゃんねー」

薗畠は一転表情を硬くし、真剣な眼差しで呼びかけた。

「ウチはね、高遠遙香の事務所でね、当たり前だけれども、新人なら歌唱力の有る者を
とらないと事務所としての自己否定になっちゃうのね。」

「はい。」

「あのデモ、一発録りだったって?」

「はい、そうでした。」

「・・・すごいじゃない。」

「ありがとうございます。」

「ウチはね、女性ヴォーカリストの事務所でしょ。
その辺りのノウハウは積み上げてるのね。
ま、ヒロシ(MNEMOのこと)とか男性ヴォーカルもやったんだけど、あいつの場合は
アンラッキーなこともあったし、結局うまくいかなかったんだけど、本音を言うとね、
事務所の得手としてはやっぱり女性シンガーなんだよね。」

藤熊が軽く笑う。

「で、悠奈ちゃんはそのMNEMOとも偶然知り合ったんだって?」

「はい。多摩川で本当に偶然に・・・。一緒にいた男の子が、MNEMOさんが
書いたブログ小説の名を言ったことで、MNEMOさんが話しかけてきて。
その後藤熊さんと同様に多摩川の反対岸で全くの偶然に。それもその男の子が
MNEMOさんの小説の題名を口にしたのを藤熊さんがお聞きになってー。」

「そういうことってあるんだね。ヒロシは小説なんか書いてんだねぇ。」

薗畠は感慨深げにコーヒーを啜って言った。

「ヒロシも悠奈ちゃんになんか言った?僕のこととか。」

「きっと最高の選択肢になると。」

薗畠は「ハハ!」と笑って、

「あいつには持ち出しばっかりになったけれど、こうして悠奈ちゃんとの縁をくれて、
ようやく恩返ししてくれたよ。」

藤熊が大笑いする。悠奈は戸惑う。

「ぜひ、やらせてほしい。ホムラーと早速交渉に入るから。」

悠奈はただただ勿体ない話だと思い、頭を下げた。
この縁の始まりをどこから辿ればいいか分からなかったが、あまりにも運命的な出来事が
続いて、それらがみな自分を飛躍させてくれている実感があった。だから、その一連の
ことの今の帰結として、MUZIKとの縁を大切にしたいと心から思っていた。

「ど、藤熊ちゃん、これからうまい蕎麦を出す飲み屋で一杯。」

「あ、いいですねッ!どう、悠奈ちゃん。」

「はい、もちろん、お供させてください。」



赤坂のとある裏通りにその店は在った。
薗畠は焼酎を飲み、機嫌よくいろいろなことを話した。

「僕はね、悠奈ちゃん、長崎の出身なのね。」

「そうですか。九州は薗や園の字が入る姓の方が多い気がしましたが、やはり。」

「ああ、知ってた?僕の家は長崎で、佐世保なんだけれどね。親戚に長崎市内に住む
者がいて、原爆でやられてしまってね。母の実家なんだけれども。」

悠奈は悲痛な表情で応えた。

「さらにね、僕の家は遠い先祖からクリスチャンでね。ま、僕はそうはなら
なかったんだけれど。聞くところによれば、殉教したり、酷い拷問を受けて<転んだり>
したんだそうだよ。それでもこうして僕がいるんだから、死に絶えなかったけれどね。」

悠奈は光のことを思い出していた。

「僕の家は有馬家の家臣だったらしい。家臣って言ったって、どのくらいの身分かは
知らないけれどね。クリスチャン大名のね、あの有馬。晴信は転ばなかったけれど、
二代目以降はもう転んじゃって、ウチの先祖はもう右往左往だったって。」

悠奈は「有馬」という名が出てきてしまっては、また運命の糸が自分を新たに何処へか
引っ張ろうとしているとしか思えなくなった。

「有馬って、あらま、光君の姓だよね。」

藤熊がおどけて言ったが、今回は悠奈をお追従でも笑わせられなかった。

「誰?」

薗畠が訊いた。

「悠奈ちゃんの知り合いでして。その有馬光くんのことで悠奈ちゃんたちは多摩川へ行き、
そこでMNEMOと全く偶然に会うんですよ。」

「ふ〜ん、なるほどね〜。」

薗畠がいつものように「なるほど」の「な」を強めに発音して言った。

「その人が有馬姓なんだ。」

「はい。悠奈ちゃん、驚いちゃってますね。」

「ねえ、悠奈ちゃんー」

薗畠がやさしく呼びかけた。

「縁ておもしろいものだね。僕はもちろんその有馬くんとなんかつながるかどうかは
知らないんだけど、つながるであれ、そうでないであれ、おもしろい。
九州の北西部や西部のある人間たちにとっては、信仰や原爆の問題は重い。
僕は音楽には政治を持ち込まない主義だけれど、でもね、恋の歌や自然賛歌は、
自動的に平和や反戦、反原発を歌うことになると思っているよ。

僕らの商売は、それこそ平和がなくては成り立たない。昭和天皇が崩御された時、
歌舞音曲は慎むべきものとされちゃったでしょう?・・・あ、まだ生まれてないか、
悠奈ちゃんは。そのことを今上天皇はいかがなものかって思われていて、
実にすばらしいと思うんだがーそれからJohn Lennonね。Imagineがフォークランド
戦争の時、放送禁止になったじゃない?あ、また全然生まれてない頃の話か。
まあ、とにかく、逆に音楽が、歌が、戦争で使われてしまったらそれは音楽の自殺だよ。

讃美歌に勇ましいものなどない。歌えば心の安息につながるものばかりだ。
なにも悠奈ちゃんに神を讃えてほしいなんて言っていないよ。僕だってもはや
クリスチャンではないのだし。僕は強いて言えばagnosticだ。不可知論者だ。
けれども不思議はあるし、大事だと思っている。それが歌の、藝術の源泉だから。」

悠奈は薗畠のことばに感動し、涙腺が緩むのを感じている。

「不思議を歌おうよ、ね、悠奈ちゃん。恋だって不思議だ。いろんな恋の歌が
今まで歌われてきたけれど、悠奈ちゃんの恋の歌、Twelve Times a Year
悠奈ちゃんしか作れなかった、人類史上初の恋の歌だ。
僕はそれを高く高く評価する。」

悠奈はやはりハッキリ泣いてしまった。
薗畠はその姿をしみじみ可愛いと思いながら、ぬるくなった焼酎を飲んだ。


<つづく>




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あんぐりー(腹は立ち、口は開く)

なんだかすごい図でしたね、
ウルトラ・アナクロ国家主義者の籠池さんが真ん中で、共産党の小池さん、
バリバリ護憲の福島さんがにこやかに向かって左脇を固めているなんて。
正に敵の敵は味方。しかし、互いが蛇蝎のような存在同士の集合を見ていると、
呉越同舟なんていう言葉ではちょいと、いや、大いに不足ですな。
しかしまあ、このことも含めて、ほんとにあべぴょん政権では極めて稀なことが
次々と起こるものです。

Twitterを読んでいると(と言っても私がチョイスしたtweetersのですが)、
「総理を侮辱したから証人喚問する」っていう自民党の理屈ってなんだって。
ほんとだね。自分が支持した学校の寄付金をしたって理事長に言われるのが
そもそもなんで「侮辱」?ことばの遣い方めちゃくちゃ。
そいからさ、あべぴょんを侮辱すると呼ばれるの?
そんなことより、タダ同然、補助金まみれのあの事件を解明するため、
血税の私物化があったかどうかを解明するためだろうが。

いやはや。
こんなことを言う国対委員長がそのまままたまた看過される日本て、すばらしい国だね。
もちろん反知性の人々にとって。
ということはおいらにもおこぼれがあるかな。
要らねーけどよ。


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蹉跌集め -50- [小説]

50

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ケンスキーは理科大の電子工学科を出ているエンジニアだ。
家も理科大に近い牛込矢来町に在る。
MNEMOとバンド内では一番の親交を持つようになっているのも、トーホグマンを
おもしろおかしく読んだことに併せて、MNEMOが矢来町の隣町である牛込箪笥町や
その南隣りと言っていい市ヶ谷砂土原町に住んでいたことを
ブログで知って、一層の親近感を覚えたからだった。

ケンスキーは、光から電話を受ける前に以下のメールをMNEMOに送っていた。

「MNEMOさん、こんにちは。JAPPSのデモが完成し、藤熊さんにデータを送り
ました。よい返事が来るといいなと思っています。さて、バンドですが、いろいろな
事が起こって一時はどうなるかと思いましたが、今は雨降って地固まるというような
感じになっています。ところで、僕は生粋の理系人間ですが、霊魂の不滅は
ソクラテスのように信じています。宇宙生成時11次元であったものが7次元も減って
しまっているようですが、私はその7次元はまるで折り紙のようにこの4次元宇宙に
折りたたまれていると信じているのです。その7次元を<行き来>できる存在こそ
霊魂だと。人間は肉体を持つがゆえ、そうはできない。しかし、それでもイマジ
ネーションでどこへも行けことはみな知っているではないですか。John Lennonは、
intuitionと言っていますが、takes me anywhereだと。だから、MNEMOさんの
トーホグマンの荒唐無稽さは僕にはなんらそうではない。そして悠奈が木野先生に
出会ったというのも、全く不思議なことではないのです。変な理系人間ですが、
だから音楽なんかやっています(笑)。そして音楽は、11次元の宇宙でも響き
渡るものです。空気とかがなかったら振動する媒体がないではないかって?
魂に響くのですよ。魂はどこにおいてもその媒体なんです。」

MNEMOはこのメールを読んですぐ返信した。

「ケンスキー君、すばらしいメールをありがとう!君の言う通り過ぎて、
心踊って、君が女性だったら一発で恋に落ちていましたよ。(笑)
Forget It Allは藤熊氏を通じて聴かせてもらいました。
僕の趣味に非常に適うもので、JAPPSのファンになりました。
みなすばらしいアプローチぶりで、若いのに、君たちはすごいね!
特にケンスキー君のイントロ8小節終わりから入ってくるピアノの
秀逸な叙情あるいは叙景に涙が滲みました。北の丸公園の朝の
ようでね・・・。あそこの、千鳥ヶ淵に面する西の端は、
赤坂や麹町のビル群が見えるけれど、なにより美しい夕陽が見える。
夕方にばかり行ったけれど、ある日早朝に行ったことがあってね。
鬱蒼たる木立に朝日は遮られるけれども、その暗がりの中、
君が弾いたあのピアノのメロディーを僕は聞いた気がするんだ。
きっと11次元を僕の魂が自由に行き来して、<前以って>君の
ピアノを聞いていたんだと思うよ。(笑)僕が砂土原町にいた時の話さ。

ねえ、ケンスキー君、ぜひJAPPSとSUBTLYのジョイント・ギグやろう!
SUBTLYには今キーボードもリードギターもいない。
どうだい、特別友情参加で、弾いてくれないかい?」

ケンスキーはこのやりとりがあって、北の丸のMNEMOの言った場所へ無性に行きたく
なった。神楽坂をずっと下って、牛込橋を渡り、早稲田通りをまた緩やかに上って行く。
靖国通りに出て公園へ。武道館を左手に見ながら、少し行って右に曲がり、
ひたすら行き止まりまで行くと、柵の下、千鳥ヶ淵が見えた。桜を観る人々が
夥しい。こちらはクスノキが樹冠の方で新葉を吹いている。美しい。

ケンスキーはMNEMOが絶賛してくれた自分のピアノ・プレイを聴いた。
目を閉じた。
そのときケンスキーに、すばらしい未来が見えた。

Immortal are our souls!
(我らが魂は不滅なり!)

ケンスキーは西の空に向かって叫んだ。


<つづく>





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